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2006年2月19日 - 2006年2月25日

『JOE HISAISHI MEETS KITANO FILMS』

お気に入りのCD.NO6 『JOE HISAISHI MEETS KITANO FILMS』 久石譲
joe_meet_takesi  今回紹介するCDは 北野武が監督した映画に使用された久石譲のサントラ曲を集めたベストアルバムです。 久石譲は宮崎駿映画の全音楽を担当していることで有名な映画音楽家です。宮崎駿の映画において久石譲の音楽はとてもはまっており、毎回印象的な曲を提供していますが、北野武の映画でも『あの夏、一番静かな海。』から『ドールズ』までの7作品で音楽を手がけています。
 北野作品においても、彼の音楽は映像にとてもはまっており、印象的な曲を数々提供しています。北野監督は削ぎ落としを意識して、映画を作っているようで、音楽家にも同じことを要求するそうです。そんな監督の要求に応えて作られた曲の数々は、北野監督の作り出す映像の力をさらにもう一段高いところまで引き上げます。
 北野作品はセリフが少なく、静かな場面が多いです。彼は映像で全てを語ろうとする監督です。そんな彼の作品において、音楽は単なる添え物でなく、重要な役割を持っています。
 まず久石譲の音楽は北野監督の映像の雰囲気や魅力をより前面に押し出します。『あの夏、一番静かな海』でラストに流れる「
Silent Love」は恋人たちの思い出シーンを一気に盛り上げますし、『ソナチネ』の印象的なミニマムミュージックによるメインテーマは美しくもどこか狂気じみていて、映像が持つ美しさや狂気をさらに増幅させます。
 また音楽がセリフで語られない主人公たちの感情や映画が語ろうとするテーマを観客に伝えてきます。HANA-BI』の哀切と感傷漂う曲が主人公の哀しみを表現し、『キッズ・リターン』の青春のほろ苦さと躍動感を表現した曲は主人公の若者たちの行き場のないエネルギーや苛立ちを伝えてきます。また『菊次郎の夏』の爽やかでノスタルジックな曲は夏休みの思い出というテーマをずばり曲で語っています。
 映画を見た人はこのアルバムを聴くと、映像が頭に浮かんでくると思います。そして、また映画が見たくなると思います。
 また映画を見ていなくても、聴いていて楽しめるアルバムです。久石譲の繊細で美しいメロディーライン、ピアノやストリングス・シンセを多用した音の心地よさ。このアルバムはヒーリングミュージックとしても満足のいくものです。
 北野映画ファンもヒーリングミュージックファンも買って損はしないアルバムとなっています。ぜひ聴いてみてください!

1.INTRO-Office KITANO Sound Logo(original)
2.Summer(菊次郎の夏)
3.The Rain(菊次郎の夏)
4.Drifter…in Lax(BROTHER)
5.Raging men(BROTHER)
6.Ballade(BROTHER)
7.BROTHER(BROTHER)
8.Silent Love(Main Theme)(あの夏,いちばん静かな海。)
9.Clifside Waltz 3(あの夏,いちばん静かな海。)
10.Bus Stop(あの夏,いちばん静かな海。)
11.Sonatine 1~act of violence(Sonatine)
12.Play on the sands(Sonatine)
13.KIDS RETURN(KIDS RETURN)
14.NO WAY OUT(KIDS RETURN)
15.Thank You,…for Everything(HANA-BI)
16.HANA-BI(HANA-BI)

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『ドールズ』この映画を見て!

第52回『ドールズ』 北野武特集4
見所:「美しい日本の四季の風景。斬新な衣裳デザイン。純粋で残酷な愛の物語。」
Dolls [ドールズ]
 今回紹介する『ドールズ』は、北野武監督が描く究極の愛の形を描いた映画です。近松門左衛門の『冥途の飛脚』の主人公、梅川と忠兵衛をモチーフにした構成で作られており、残酷で純粋な愛の物語が展開していきます。
 この映画はまた映像もいつものキタノブルーと呼ばれる青が基調のモノトーンの映像から、赤や黄など色彩豊かで幻想的な映像が展開されます。特にこの映画では日本の四季をとても綺麗に撮影しており、観客はその美しさに息を呑むと思います。衣装も『BROTHER』かファッション界の鬼才、山本耀司が斬新なデザイン・色遣いの衣裳を提供して、観客を魅了します。そして音楽は久石譲。繊細に研ぎ澄まされた最小限の音楽が、幻想的な映像をさらに際だたせます。
 ストーリーは3つの話しから構成されています。どの話しもどこか非現実的で幻想的でおとぎ話のようです。その反面、とても生々しく残酷でもあり、愛ゆえの孤独や哀しみが痛切に伝わってくる話しでもあります。
 ストーリー:「1本の赤い紐に結ばれ、あてもなくさまよう男と女がいた。女は男に振られて気が狂い、病院に入院していた。男は全てを捨てて彼女を連れ出し、当てもない旅に出ていた。迫り来る死期を悟った老境のヤクザと彼を長年待ち続ける女。女は若いときに男と出会い、弁当を食べてもらっていた。しかし、突然姿を消した男。女は弁当を持って男が来るのをずっと待っていた。事故で人気の絶頂から転落したアイドルと、そんな彼女を慕い続ける孤独な青年。青年は転落したアイドルへの愛ゆえに狂気に走る。
 北野監督は「愛とは主観的であり、暴力的なものである」という価値観の基、この映画を作ったそうです。それ故に描かれる登場人物たちの行動はどれも他人から見れば理解しがいものです。自分の人生も全て相手の為に投げ出そうとする登場人物たち。その姿は狂気としか言いようがありません。愛するが故に常軌を逸した行動をとる主人公たちの姿を通して、純粋な愛の本質を描きます。この映画が非現実的でおとぎ話のような作りになっているのは、愛とは主観的な思いこみであり、純粋であればあろうとするほど、現実から逸脱してしまうという愛の本質を伝えるためです。この映画は好きな人とくっつく、くっつかないなどの決して甘いラブストーリーではありません。とても辛口で残酷で、それでいて究極の愛の形を描いています。
 この映画は北野映画らしく、たくさんの死が扱われます。この映画で描かれる死は愛の成就です。純粋に愛しすぎた故に現実から逸脱した彼らが、その愛を全うしようと思うと、もはや死という永遠に時の止まった世界に身を置くしかないという哀しみが描かれます。そういう意味でこの映画における死はある意味ハッピーエンドです。死によって彼らは永遠に愛の中に身を置くことが出来るのですから・・。
 美しく幻想的な映像と音楽の中で展開される残酷なほど美しい愛の姿。ぜひ見てみてください!

製作年度 2002年
製作国・地域 日本
上映時間 113分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 菅野美穂 、西島秀俊 、三橋達也 、松原智恵子 、深田恭子 

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『HANA-BI』この映画を見て!

第51回『HANA-BI』 北野武特集3
見所:「キタノブルーの美しい画像、久石譲の哀しく美しい音楽、孤独な男の美学」
HANA-BI
 今回紹介する映画『HANA-BI』は北野映画の集大成です。キタノブルーと言われる青が際だった画像、孤独な主人公、死と愛に満ちたストーリー、久石譲の叙情的な音楽と北野映画ならではの魅力が詰まっています。それでいて、今までの北野映画にはないウエットさや愛が描かれています。この映画は海外でも高く評価され、ヴェネチア映画祭でも金獅子賞を獲得しました。また日本でも金獅子賞受賞ということで、一気に北野映画に注目が集まり始めました、
 私は『ソナチネ』の次にこの映画が好きなのですが、いつもラストシーンを見るたびに涙が出ます。浜辺で寄り添う夫婦、久石譲の哀切極まる音楽、そして妻のセリフ。とても静かなシーンなのですが、行き場のなくなった2人の孤独や哀しみ、そして愛が描かれ、激しく感情が揺さぶられます。このラストシーンが見たいが為に、何回もDVDで鑑賞しています。
 ストーリー:「刑事として寡黙に働く西。彼は子どもを突然失い、妻も不治の病に侵されていた。同情した仲間の好意で張り込み捜査の合間を縫って見舞いにいく。だが、発砲事件が発生。快く送り出してくれた部下・西が下半身不随の身になってしまう。その後、追いつめた犯人によって部下の田中も殉職してしまう。そして西は激情のあまり犯人を殺して警察を辞めてしまう。その後、自分のせいで人生を狂わしてしまった部下やその家族に償いをしていく。しかし、その金を工面するためにヤクザに借金を重ね、やがて首が回らない状況へと陥っていく…。そして西は残された時間の少ない妻と旅に出る。
 この映画は北野映画らしく死の匂いが立ちこめると同時に、生き残った者がどう残された時間を過ごしていくかというテーマを扱っています。次々と仲間や家族を失い、孤独になっていく主人公が自分に残された役割は何かを考え、自分のせいで犠牲になった者たちの為に償いをしていきます。主人公の不器用で誠実な人柄は見ていてとても切なくなります。
 またこの映画で描かれる夫婦の愛も奥ゆかしく、とても美しいです。ほとんど言葉を交わさない2人であるのですが、何気ない仕草や表情が夫婦の人生や愛を描き出し、胸にぐっと来ます。北野監督は映像でストーリーや感情を語っていく姿勢を常に取っています。彼にとって映像が言葉そのものなんでしょう。彼の映画では暴力シーンがとても多いですが、それは孤独で不器用なな主人公にとっての言葉であり、感情表現なのかもしれません。彼の映画では言葉はほとんど削ぎ落とされます。しかし、時折、はっとする言葉が挿入され、観客に印象づけます。この映画のラスト、妻が言う二言の何気ない言葉。今まで映像によって積み重ねられた2人の姿を見てきた者には、その何気ない言葉に涙せずにはいられません。
 この映画で特に印象的なのが音楽です。北野監督とは4度目のコンビになる久石譲が手がけているのですが、冷たく淡々とした映像やストーリーに感情を付けています。ストリングス中心の繊細で叙情的な音楽は、この映画が持つ哀切や孤独、愛情といったものを雄弁に物語っています。特にラストシーンは久石譲のあのメロディーが映像をぐっと盛り上げて、観客の涙を誘います。2人のコラボレーションの真骨頂がここに見られます。
 また北野武監督自ら描いた挿入画もとても印象的です。色鮮やかでありながら、どこか寂しさを感じさせる彼の絵はこの映画の雰囲気によくあっています。
 この映画は暴力と死に満ちていながら、暖かさと優しさを感じる映画です。ラストシーンは涙なしでは見られないと思います。あとエンドロールの後にも印象的なシーンがあるのでお見逃しなく!泣ける北野映画が見たいという方はぜひ『HANA-BI』をご覧ください!

製作年度 1997年
製作国・地域 日本
上映時間 118分
監督 北野武   
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 ビートたけし 、岸本加世子 、大杉漣 、寺島進 、白竜 

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『ソナチネ』この映画を見て!

第50回『ソナチネ』 北野武特集2
見所:「沖縄の海辺で戯れるヤクザたちのはかない姿、狂気と死の匂いが漂う映像と音楽」
sonatine  今回紹介する映画『ソナチネ』は北野監督作品の中でも評価・人気共に非常に高い作品です。本作は公開当時の日本ではあまり注目されませんでしたが、イギリスで大反響を呼び、ヨーロッパで北野映画ブームを生むことになりました。
 私も北野監督の作品の中で一番好きな作品は『ソナチネ』です。DVDを購入しては、半年に1回は見直しています。この映画の魅力は語ると尽きることがないのですが、静かさの中に狂気と死の匂いが漂う映像と音楽にあります。ストーリー自体はとてもシンプルで、ヤクザが抗争に巻き込まれて、破滅していく姿を描いています。ただその描き方が北野監督らしく、静かにユーモアを交えながら、淡々と無常観を感じさせる演出となっており、普通のヤクザ映画とはひと味違う作りになっています。
 ストーリー:「組長から沖縄の中松組への加勢を頼まれ、手下を引き連れて現地へ赴いた。しかし、東京から助っ人が来たということで、かえって相手の組を刺激することになってしまい、状況は悪化する。かろうじて生き延びた村川らは、沖縄の人気のない海辺の家に実を隠す。しかし殺し屋が送り込まれ、手下を失う村川。そして、彼はついに破滅への道と向かうことになる。
 北野監督の映画はどれも死の匂いが漂いますが、この映画は特に死の匂いが濃厚です。映画の冒頭から「あんまり死ぬことを怖がっていると死にたくなるんだよ」というセリフが出てきます。このセリフは今回の映画のテーマを見事に表現しています。この映画は淡々とした日常の中での死の突発性や不条理を描きます。死は日常のすぐ側に横たわっていることをこの映画は浮き彫りにします。その死の描き方はある意味、とても怖いものを感じます。
 また、この映画は北野作品の中でも暴力描写が過激です。その描き方はどこまでもリアルで痛みを感じるものです。日常の中で突然降りかかる暴力。ある時は暴力を振るい、ある時は暴力を振るわれる中で見えてくる日常の中の非日常。人間の闇、支配欲、死への恐怖と誘惑。彼の描く暴力は観客の抑圧されたエネルギーを発散させる目的で描かれているのでなく、あくまで非日常へ観客を誘うために描かれます。
 この映画はストーリーそのものを楽しむというより、映像と音楽のコラージュを楽しむ映画です。沖縄の青い海辺で無邪気に戯れるヤクザたちの姿、そこに流れる久石譲の静かでありながら、どこか狂気を秘めた反復音楽。それは観客を静かなる死と狂気の世界に導きます。
 この映画は何の意味もない映画です。あらゆる意味は否定され、不条理さと狂気だけが残る映画です。
 誰でも見て楽しめる映画ではありませんが、はまると何度でも楽しめる映画です。

製作年度 1993年
製作国・地域 日本
上映時間 93分
監督 北野武 
脚本 北野武
編集 北野武
音楽 久石譲
出演 ビートたけし 、国舞亜矢 、渡辺哲 、勝村政信 、寺島進 

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『あの夏、一番静かな海。』この映画を見て!

第49回『あの夏、一番静かな海。』 北野武特集1
見所:「どこまでも静かなラブストーリー、どこまでも青く美しい海、波の音と久石譲による音楽の心地よさ」
a_scene_at_the_sea  今回紹介する映画は、北野武が始めて手がけたラブストーリーです。この映画は有名な映画評論家・淀川長治さんが「一番の傑作」と賞賛した作品です。この映画からキタノブルーといわれる映像、極端に少ないセリフ、間を大切にした編集など、北野武の映画スタイルが確立され始めます。またこの作品から久石譲が音楽を担当し始め、彼の作品で次々と印象に残る音楽を発表していきます。
 ストーリー:「主人公は聴覚障害者のカップル。ごみ収集車のアルバイトをする茂は、ごみ集積所で偶然サーフィンボードを拾ったことをきっかけに、サーフィンを始める。彼の練習する砂浜には、彼を見守る聴覚障害者のガールフレンド貴子の姿があった。茂は毎日練習を重ねて、サーフィン大会に出場するほどに上達する。
 最初、この映画を見たときは、映像・ストーリーとも徹底的に無駄なものが削ぎ落とされた演出に驚きました。この映画は最初から最後まで全て静かに進んでいきます。聞こえてくるのは波の音と久石譲の静かな音楽だけ。この静けさに最初は戸惑いますが、慣れてくるととても心地よく映像に集中できます。セリフも主人公のカップルは聾唖者なので一切なく、サーフィンに打ち込み始めた彼氏とそんな彼を浜辺でじっと見つめる彼女の姿が淡々と描かれていきます。その代わりに、主人公たちの仕草や表情がセリフの代わりになり、2人の感情や関係を伝えてきます。その繊細な表現はセリフでは伝えられない微妙な心の動きを感じることが出来ます。
 このどこまでも静かな映画は、久石譲の音楽がとても重要な役割を担っており、削ぎ落とされた映像・ストーリーに情感を与えてくれます。どこまでも透明で美しい反復音楽の調べは聞いていて心地よく、画面やストーリーの静けさを際だたせます。そしてラストシーンでメインテーマの音楽が流れた時はパブロフの条件反射のように涙が出てきます。
 この映画、北野監督らしい、コメディシーンがあります。主人公の何気ない失敗、周囲の者たちの滑稽な姿。静かな場面が続くこの映画の中で、くすっと観客を笑わかせる場面は、心を和ませてくれます。
 私はこの映画を見て、サイレント時代のチャップリンの映画に似ているなと思いました。全てを主人公の仕草や表情、周囲の状況で伝えようとするサイレント時代の映画。『あの夏、一番静かな海』の演出はサイレント映画の演出に似ており、観客をくすっと笑わかせながら、ドラマが展開していく手法はチャップリンの映画に似ていると思います。
 また私がこの映画の好きなところの一つとして、聾唖者という障害を持つ人を主人公にしながら、そのことを強調することなく、さりげなく描いているところがあります。普通の映画だと障害を持っている人を主人公にすると、その障害に焦点を当てて映画を撮るのですが、この映画は主人公の一つの属性としてしか扱いません。映画に出てくる周囲の人物たちも主人公たちの障害を特に気にすることなく接しています。このようにごく自然に障害を持った人の日常を描いた映画は少ないと思います。
 映画のラストはとても切ない終わり方をします。北野監督らしい終わり方であるのですが、人生の不条理さを見事に語っています。映画のラスト5分は映像の切なさに久石譲の音楽の効果も相まって、とても感情を揺さぶられます。私はいつもラストシーンを見るたびに自然に涙がこみ上げてきます。
 この映画はどこまでも静かで、どこまでも美しい映画です。ぜひ、この心地よい静けさに浸ってみてください。

製作年度 1991年
製作国・地域 日本
上映時間 101分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 真木蔵人 、大島弘子 、河原さぶ 、藤原稔三 、寺島進 

 

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「北野武」私の愛する映画監督4

第4回「北野武」
TAKESHIS' 今回紹介する映画監督は日本映画を代表する監督となった北野武です。私は『HANA-BI』が一番最初に見た北野監督作品でした。この映画は私にとって、北野監督の力量を見せつけられた作品でした。アウトローな男の美学を感じさせるストーリー、突発的に起こるバイオレンスのリアルな迫力、北野監督の独特な映像美や編集、久石譲の情感たっぷりの音楽。この監督の才能に惚れ込み、過去に撮った作品をDVDで片っ端から見ていきました。
 北野武の映画の魅力は人によっていろいろあると思うのですが、私は次の5つだと思います。
①独特な映像美
 彼の映画はストーリーを楽しむというより、彼の生み出した映像を楽しむという要素が強いです。どの作品もストーリー自体は大して意味がなく(良い意味で)、ストーリーを下に監督がイメージした映像の一瞬の美しさや面白さを味わうことの方に意味があります。彼の作り出す映像はどこまでも意味を否定し、夢のような感触を持っています。彼にとってストーリーよりもどんな映像をとるかに関心があるのでしょう。
 彼の映像はとてもクール(かっこよく、そして冷たい)です。彼独特の青が強調された画面は「キタノブルー」と言われ、世界中の映画人を虜にしました。私も彼の青みがかった画面がとても好きです。彼は青を再生の色として捉えているようです。もしそうだとしたら、いつも主人公たちの追いつめられた生き方を描いていますが、青みがかった画面に主人公たちの人生の再生を託しているのかもしれません。ちなみに『HANAーBI』や『ソナチネ』がキタノブルーを一番堪能できる映画です。ここ最近は青以外にも赤や黄などのカラフルな色彩を強調した画作りをしており、『ドールズ』や『TAKESHIS’』など最近の作品を見ると今までの「キタノブルー」とは違う画が見られます。

②間を大切にした編集
 彼の映画の編集は独特です。間を大切にした編集というか、主人公たちの何かしらのドラマが起こる前後の静かな様子もじっくりと見せてくれます。この前後の様子を見せることで、北野映画独特の静けさが生まれ、観客に不思議な余韻を与えてくれます。
 また主人公たちのストーリーの途中に脈略もない断片的な話し(ギャグシーンが多いです)がよく挿入されます。主人公たちのドラマを追っていた観客は、途中で急に関係ない話しが入ってくることで、戸惑いつつも、そこでニヤリと笑ってしまいます。
 
③死と暴力というテーマ
 彼の映画は常に死の匂いが漂います。主人公たちはどこか死にあこがれ、破滅に向かいます。彼の映画には生きることの無常観を感じてしまいます。「この世は一瞬の夢のようなもの」であると彼の映画は観客に語りかけてきます。彼にとって映画を撮るということはどこか自分の死と向き合い、生きている自分を再確認する行為なのでしょう。
 また彼の映画には暴力的な描写が多いです。静けさを突然打ち破る暴力、そしてまた静けさ。彼の描く暴力はどこまでも冷たく、無機質です。彼が描く暴力とはどこもまでも突発的で不条理なものです。それは死の突発性や不条理さであり、生きることの無常さや不条理さでもあります。
 
④芸人ビートたけしとのギャップ
 彼の映画の特徴としてテレビで見るタレントとしてのビートたけしとのギャップがあります。変なかぶり物をまとって、饒舌にしゃべりまくり、おどけて人を笑わせるビートたけし。どこまでも無口で、クールで、死と暴力を描く北野武。このギャップそのものが面白く、ビートたけし=北野武はどういう人間で何を考えているのか観客に興味を抱かせます。

⑤北野武のプライベートな側面が反映された内容
 彼の映画はプライベートな側面がいろいろな所に反映されています。例えば、バイク事故後に撮られた『キッズ・リータン』に込められた北野武の思い。それは事故で死の淵を漂いながらも、生き残ってしまった彼の思いがとても反映されています。また最新作『TAKESHIS’』にはビートたけしと北野武という二つの顔を持つ彼の人生観が投影されています。
 また映画の随所に彼のプライベートな趣味が反映されています。HANABIや菊次郎の夏に挿入される絵も自分で描いていますし、ここ最近の映画に登場するタップダンスのシーンも彼自身が最近タップを習っているおり、それが映画の中に反映されているそうです。
 さらに役者もたけし軍団や彼がお世話になった人の息子を起用するなど、身内を大切にしています。
 
 彼の映画は独特なスタイルを持っており、好きな人と嫌いな人に分かれるかもしれません。しかし彼の映画は一度はまると癖になり、何度でも見たくなります。もしこれから北野映画を見てみようという人がいるなら、私は『キッズ・リターン』から入ることをお奨めします。この映画はキタノブルーな映像を楽しめると同時に、ストーリーもほろ苦い青春を描き感動的です。ぜひ見てみてください。
武がたけしを殺す理由

ちなみに北野武監督が好きな人にお奨めする本が『武がたけしを殺す理由』です。この本は1991年から2003年の12年間にわたって行われた映画監督・北野武に対するインタビューをまとめており、彼がどういう思いで映画を撮っているのかよく分かります。絶対お買い得な本です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4860520262/qid=1140685827/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/250-2216638-9096228

*北野武監督作品
TAKESHIS’(2004)
座頭市(2003)
Dolls(2002)
BROTHER(2000)
菊次郎の夏(1999)
HANA-BI(1998)
キッズ・リターン(1996)
みんな~やってるか!(1995)
ソナチネ(1993)
あの夏、いちばん静かな海。(1991)
3-4x10月(1990)
その男、凶暴につき(1989)

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『アイズ・ワイド・シャット』この映画を見て!

第48回『アイズ・ワイド・シャット』 スタンリー・キューブリック特集6
見所「ニューヨークの街を悶々と彷徨うウブで間抜けなトム・クルーズの姿。ラスト、ニコール・キッドマン演じる妻が夫に放つ一言。」
eyes_wide_shut  今回紹介する映画はスタンリー・キューブリック監督の遺作であり、異色作である『アイズ・ワイド・シャット』です。
 この映画は制作開始当時から大変話題になった映画でした。まず寡作で知られるキューブリック監督が11年ぶりに放つ新作であるということ。次にトム・クルーズとニコール・キッドマンという当時実際に夫婦だった2人が映画の中でも夫婦役を演じると言うこと。さらに内容が「性」を扱ったものであるということ。これら話題性に富んだ映画であったにも関わらず、キューブリックの秘密主義もあって、制作中には映画に関する何の情報も提供されませんでした。今まで様々なジャンルの映画を斬新な映像と深いテーマ性を持って制作してきたキューブリックだけに、「今度の映画も過激な性描写があるのでは」とか「性に対してどのような価値観を提示してくるのか」などあれこれと憶測が飛び交ったものでした。そして、始めて予告編が公開されたときは、ニコール・キッドマンとトム・クルーズが鏡の前で裸で抱き合うシーンだけの映像が公開されて巷で大反響を呼びました。この予告編は見た観客に「これは本編はもっと過激なシーンがあるのでは」と想像させる力がある映像でした。公開への期待が高まる中、キューブリック自身が映画完成直後に心臓発作で亡くなってしまい、遺作となった『アイズ・ワイド・シャット』には多くの映画ファンが注目したものでした。
 しかし実際に映画が公開されると、多くの映画ファンが困惑したものでした。もちろんキューブリックらしい映像美や音楽センスの巧みさは感じられるのですが、他のキューブリック作品に比べてインパクトに欠ける作品でした。私も映画初日にこの映画を見たのですが、見終わった後、「えっ、これだけ」と言った感じで困惑しました。キューブリック監督の映画にしては平凡な出来で、過激な性描写もほとんどなく、ストーリーも退屈なものでした。監督はなぜ今この映画を撮ろうとしたのか、そして観客に何を伝えようとしたのか?、私は見終わった後にとても考え込みました。
 ストーリー:「ニューヨークに暮らす開業医のビルは、美しい妻アリスとなに不自由なく幸せな生活を送っていた。ある夜、知人のパーティーに招待され帰宅した彼は、妻からセックスにまつわる衝撃の告白を受ける。夫は妻の一言に動揺しながら、妻に対して激しい嫉妬と妄想を抱くようになる。そして妻への嫉妬と自らの性的欲望を満たそうと夜の街を彷徨う。そんな彼の前に昔の友人が現れ、秘密結社が開く乱交パーティーの存在を教えてくれる。興味本意から彼は倒錯した性の世界へと足を踏み入れていくが・・・。
 この映画は夫婦の性生活の問題を扱った生々しい作品であり、また現実と虚構の世界が入り乱れる不思議な作品でもあります。
 まず前者の夫婦の性生活に関する部分ですが、この映画は「家庭が大切だ」「もっと夫婦でコミュニケーション(セックス)しよう」という道徳的な価値観を提示します。自分の妻は自分以外の男に興味はないものだろうと思いこみ安心仕切っている夫。それに対して、「自分も女であり、他の男に性欲を感じてしまうときがある」ことを伝える妻。妻の一言にうろたえる夫の間抜けな姿。その姿が結婚した男が妻という女に対して如何に鈍感であり、安心しきっているかが露呈します。動揺した夫は妻に嫉妬して、家庭の外で自分も性欲を満たそうとします。しかし、逆に危険な目に遭い、やっぱり家庭が一番いいと最後は妻の下に戻ってきます。この映画では夫になった男の妻に対する鈍感さに警鐘を促し、女性に男という生き物の幼稚さと脆さを提示します。映画のラストは危機を逃れた夫が妻と和解して、「良い家庭を作っていこう」と妻に対して声をかけるのですが、それに対して妻が痛烈な一言を夫に放ち映画は幕を閉じます。その一言はこの映画のテーマを見事に表現しており、見終わった後、強烈な印象を残すと思います。
 次に後者の現実と虚構の世界に関する部分ですが、この映画は途中どこまでが現実でどこからが虚構か曖昧な展開になります。夫が妻に嫉妬して家を飛び出した夜に参加した秘密パーティー。そこで恐ろしい目に遭うのですが、これは偶然その場にいて起こった出来事なのか、誰かが裏で計画して意図的に起こさせた出来事なのかが曖昧です。見方によっては、これは最初から仕組まれた出来事であり、夫が上流階級の人間たちに弄ばれていただけなのではないかと捉えることも可能です。(ここからネタバレになります)映画の最初に上流階級のパーティに夫婦で行くシーンがあるのですが、そこで妻が「なぜ自分たちが呼ばれるのか」というセリフを言います。それがこの映画の大きな伏線となっていて、あのパーティーに出ていた上流階級の人間たちが秘密結社のメンバーでもあり、中流階級の夫婦を弄ぼうと仕組んだ罠ではなかったのかとも受け取れます。この映画は一度見終わった後に、夫が巻き込まれた事件自体があのパーティーの時から仕組まれていたのではと思って、もう一度見てみると、全く違う印象を持って映画を見ることが出来ます。
 この映画は全体を通して、曖昧さが残る作品です。夫は今まで信じていた妻がどういう人間か分からなくなり、妄想の世界に陥りますし、秘密結社で起きた出来事自体もどこまでが現実でどこからが虚構なのか曖昧です。この映画は曖昧な現実の中で理解しがたい他者と共に生きていくにはどうしたらいいかを示したキューブリックの遺言なのかもしれません。
 
製作年度 1999年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 159分
監督 スタンリー・キューブリック 
製作総指揮 ヤン・ハーラン 
原作 アルトゥール・シュニッツラー 
脚本 スタンリー・キューブリック 、フレデリック・ラファエル 
音楽 ジョスリン・プーク 
出演 トム・クルーズ 、ニコール・キッドマン 、シドニー・ポラック 、トッド・フィールド 、マリー・リチャードソン 

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『六月の蛇』この映画を見て!

第47回『六月の蛇』
見所:「美しい青みがかったモノクロ映像。都会の中で繰り広げられる男女の愛と倒錯の世界。」
snake_of_june  今回紹介する映画は第59回ベネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞した日本映画の傑作です。監督は『鉄男』で衝撃的な映画レビューを果たし,肉体をテーマに都会における人間性を問うてきた塚本晋也。彼は、世界中の映画関係者・映画ファンにカルト的人気を誇っています。そんな彼が都会における男女の愛と肉体について考察した映画が『六月の蛇』です。
 この映画は上映時間80分ほどの短い映画ですが、その中身はとても濃く、見応えのある作品に仕上がっています。
映画は青いトーンのモノクロ映像で統一されており、寒々した雰囲気ながらも美しい印象を与えます。この独特な映像は無機質な都会に閉じこめられた人間の孤独感や閉塞感を見る者に与えます。それと同時に映像は人間の肉体の艶めかしい美しさやエロティシズムをしっかりと捉え、見る者を釘付けにします。また映画の後半は塚本晋也らしい異様な狂気の世界が展開されていきます。洗濯機の中に閉じこめられる男女、男の下半身から延びている長くヌメヌメしたホース、不思議な仮面を付けた同じ顔の男たちと悪夢のような映像世界が次々と出てきます。
 ストーリー:「心の電話相談室に務めるりん子。彼女は潔癖症の夫・重彦がいるが、彼は彼女と決してセックスをしようとしなかった。満たされない彼女の肉体と心。ある日、彼女はかつて自殺予告の電話をしてきた男に、自慰行為を隠し撮りされる。それをネタに脅迫を受ける。彼女は写真を取り戻そうと男の要求を次々と呑んでいく。写真は何とか取り戻した彼女は次第に自分の抑圧されていた性的欲望に目覚め始める。そんなある日、夫が男が撮った写真を見てしまう。無機質な都会の中で狂気と倒錯の世界が展開されていく。」
 この映画のストーリーは人間がもつ生々しいエロティシズムと孤独、そして愛について語られていきます。
 他人の悩み事を聞く仕事をしている主人公が抱える孤独や抑圧された欲望。会話もなく、一緒に寝ることもなく、セックスレスな夫との関係に対する不満や抑圧された性欲。そんな彼女の抑圧や欲望が非日常的出来事の乱入により、一気に目覚めてしまう。そんな彼女の姿を通して、前半は無機質な都会に生きる人間の生々しい欲望が示されていきます。しかし、映画は彼女が人間性を取り戻しかけた不幸が襲います。その不幸は夫と肉体的関係を失った妻の悲劇を感じさせます。
 映画の後半は潔癖症の夫に視点が当てられます。家中の汚れた排水溝の掃除ばかりし、自分の体臭を消そうとする夫。そこには生々しい人間の欲望を否定しようとする現代人の姿が描かれます。自分の肉体を意識しなくても生きていける都会、その中で喪失される欲望という名の人間性。この映画は人間性の喪失と復権という現代的課題をテーマとした作品です。
 この映画は塚本監督らしく暴力的な表現が随所に出てきます。主人公りん子を見る男たちの目線による暴力。夫の妻に対する精神的暴力。男の夫に対する痛々しい暴力。この映画は暴力によって、主人公たちが見失いかけた自分の生を取り戻していきます。危機に遭遇することで始めて気付く人間の本質。この映画は暴力を人間性を取り戻す一つの媒体として取りあげています。
 ラストはとても生々しく美しいシーンで終わります。そのシーンでは妻と夫の肉体関係の復活と人間性の復権が描かれます。また、それと同時に無機質な都会に生きる現代人に対して肉体が持つ欲望にアクセスし、生命の歓喜を味わうことの素晴らしさを示してくれます。
  この映画は万人受けする映画ではありませんが、完成度の高い映画です。ぜひ『六月の蛇』を見て抑圧された自分が抱える欲望と向き合い、愛とは何か、肉体とは何か考えてみてください。

製作年度 2002年
製作国・地域 日本
上映時間 77分
監督 塚本晋也 
脚本 塚本晋也 
音楽 石川忠 
出演 黒沢あすか 、神足裕司 、塚本晋也 、寺島進 、田口トモロヲ 

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『Symphonic Suite AKIRA』芸能山城組

お気に入りのCD.NO5 『Symphonic Suite AKIRA』 芸能山城組
akira2  今回紹介するCDは当ブログでも紹介した映画『AKIRA』のサントラです。『AKIRA』は音楽がとても印象的で、ハリウッド映画でよくあるようなオーケストラを使った壮大で感動的な劇判的音楽は一切使われていません。その代わりに世界各地の民族音楽をモチーフにして、人間の声や民族楽器を巧みに取り入れて、独特な音楽を作り上げています。日本の能やお経、東南アジアのケチャ、ジェゴグ、ピグミー族のポリフォニー、西洋音楽のレクイエムなど古今東西の様々な音楽手法が取り入れられており、ワールドワイドな音楽が楽しめます。特にねぶた祭りの「ラッセラ・ラッセラ」というかけ声を取り入れた曲は印象的で、若者たちのエネルギーとお祭り騒ぎの様子を音楽で巧みに表現しています。
 監督はAKIRAの音楽を次のように考えていたようです。「リアルな存在としての音楽を検討をしました。たとえば、ネオ東京の喧噪の中からふと聞こえる音楽であったり、人々の話し声自体が音楽であったり等々、現実音との差がきわめて少ない音楽が『AKIRA』の音楽として相応しい。そしてらラストシーンの無音の世界に聞こえてくる音楽は、人の本来の声が生かされた、美しさと力強さをもつ合唱曲であって欲しいと考えていました」(CDのライナーノートより)
 そんな監督の思いに応えたのが芸能山城組だったそうです。芸能山城組というと何者と思う人も多いかもしれせん。芸能山城組は芸能山城組は山城祥二さんという代表の人をのぞいてプロの集団ではなく他に職業を持っている人や学生の集まりで構成されている民族音楽探求の集団です。70年代から80年代にかけて、民族音楽のレコードを発売して、注目を浴びていたようです。山城祥二さんは世界を飛び回り、民族音楽の取材、録音などのフィールドワークをしてきたそうです。そんな山城さんとその集団にとって、本作は集大成の作品となっています。
 『AKIRA』の映画音楽は映画の場面場面にあわせて作曲していくのではなく、映画の内容をイメージして芸能山城組が自由に音楽を作り、それを映画で使えるように曲を編集して使用したそうです。その為、今回紹介するアルバムも、映画のサントラと言うよりは芸能山城組のアルバムとして聴くことができます。
 『Symphonic Suite AKIRA』は『AKIRA』のサントラとしても楽しめますし、世界各地の民族音楽の持つ魅力を知る作品としても楽しめます。『AKIRA』が好きな人、民族音楽が好きな人はぜひ聴いてみてください。

1.KANEDA
2.バトル・アゲインスト・クラウン
3.ウィンズ・オーヴァー・ザ・ネオ-トウキョウ
4.TETSUO
5.ドールズ・ポリフォニー
6.SHOHMYOH
7.ミューテイション
8.イクスダス・フロム・ザ・アンダーグラウンド・フォートレス
9.イリュージョン
10.レクイエム

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『AKIRA』この映画を見て!

第46回『AKIRA』
見所:「2019年の近未来東京の緻密な映像、芸能山城組による音楽、健康不良少年たちの壮絶なバトルと友情物語。」
akira  今回紹介する映画は日本アニメの素晴らしさを世界中に広めた傑作『AKIRA』です。この映画は10億円の巨費を投じて3年という日数をかけて制作された超大作です。監督は原作も手がけた大友克洋。音楽は世界各地に伝わる伝統的合唱を研究する芸能山城組。アニメーターは日本アニメを支える超一流のメンバー。この映画はストーリー・映像・音楽どれをとっても20年前の映画とは思えないほどクオリティが高く、今見ても強烈なインパクトとパワーを持っています。
ストーリー:「第3次世界大戦から31年後の2019年。日本の首都・東京は先の大戦で謎の崩壊をして、新都市ネオ東京が作られ、経済的に復興を遂げて繁栄の絶頂にいた。しかしその反面、新都市ネオ東京では少年たちによる暴走行為や、政府に対する若者たちによるデモ行為、反政府ゲリラによるテロ活動などが頻発して治安は不安定になっていた。そんなある日、反政府ゲリラによって軍の極秘研究所から少年が連れ出される。少年の行方を必死に追う軍。その頃、不良少年金田のバイク集団が街に繰り出し、他のグループと抗争をしていた。その途中、金田の親友・鉄雄が少年と接触事故を起こしてしまう。事故現場にかけつけた軍は少年を連行。鉄雄も一緒に連行されてしまう。そして金田のバイク集団も警察に連行される。金田は警察所で反政府ゲリラ組織のケイという少女に出会う。そして政府がひた隠しにする極秘プロジェクト「AKIRA」の存在を知る。その頃、軍のラボに収用された鉄雄は自分の中で新たなる力(超能力)が覚醒したことに気付く。彼は自分が手に入れた超能力を使い、AKIRAの秘密を暴き、東京を支配しようとする。金田は鉄雄の暴走を食い止めようと、対決を挑むが・・・。
 この映画のストーリーはSF・友情・科学・哲学などさまざまな要素が込められています。人類の進化や世界の終末を描いたスケールの大きい話しでもあれば、若者の友情を描いた青春ドラマでもあります。同名の原作もあるのですが、映画よりも遙かにスケールが大きく、ストーリーも面白いです。(原作はまた後日紹介します。)映画は原作をとてもコンパクトにまとめたダイジェスト版といった感じであります。その為、映画は説明不足な所があり、物語の背景が分かりにくいところがあります。しかし、あの原作をストーリーが大きく破綻することなく2時間にまとめあげたのは大したものだと思います。
 映画のストーリーは金田と鉄雄という2人の若者の友情と対決をメインに描いています。いつも鉄雄をかばって兄貴的存在だった金田。彼の兄貴ぶった態度に不満を持ち、いつか彼を追い越したいと思っている鉄雄。この2人の微妙な関係をしっかり描き、ラストの対決シーンは見ている者を熱くさせます。そして映画のラストは終末後の世界に生き残った若者たちへの希望が描かれ、重々しいラストでありながらも清々しい余韻を感じさせます。
 この映画はストーリーもさることながら、映像・音楽の魅力が大きいです。まず映像ですが、終始インパクトのあるシーンの連続です。ネオ東京の闇を疾走するバイクシーンの圧倒的迫力、若者によるデモシーンなどのモブシーンの躍動感、鉄雄対金田の想像を絶するバトルシーン、力を制御できなくなった鉄雄の肉体の変容シーンの圧倒的迫力、ラストのなぎ倒されていく超高層ビル。どのシーンもダイナミックさと緻密さが同居しており、動く絵としての魅力に溢れています。
 また映画の舞台であるネオ東京の風景は緻密に描き込まれており、リアリティに満ちた近未来東京の姿を見せてくれます。ネオ東京の風景は60年代安保の時代を思わせるような人々のエネルギーに満ちており、またブレードランナーで描かれる都市のような退廃的魅力さもあります。
 さらにこの映画は音楽がとてもインパクトがあります。世界各地の民族の合唱法を研究し、再現する集団「芸能山城組」が手がけているのですが、世界各地の民族音楽・伝統音楽の手法を映画音楽に取り入れており、無国籍都市ネオ東京の雰囲気やストーリーや主人公がもっている躍動感を音楽で伝えようとしています。独特なリズムにメロディーは一度聴いたら耳から離れません。特にオープニングのバイクシーンで流れるねぶた祭りの掛け声が流れてくる音楽は若者たちがもつエネルギッシュさを音楽で巧みに表現しています。
 この映画はストーリーに粗もありますが、とても勢いのある映画です。緻密でダイナミックな映像や民族音楽を多用した独特なリズムにメロディー。この映画は映像と音楽に酔いしれる映画です。この映画はジブリ映画しか見たことない人にとってはとても強烈な印象を残すと思います。ぜひ見てみてください!

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『妖怪大戦争』この映画を見て!

第45回『妖怪大戦争』
見所:「実写で甦る数々の妖怪たち。豪華なキャスト。」
youkai 今回紹介する映画は昨年の夏に『宇宙戦争』や『スターウォーズ』などのハリウッド超大作を相手に公開された日本映画の超大作?『妖怪大戦争』です。私はこの映画をDVDで見たのですが、思った以上に面白く楽しめる作品となっていました。
 この映画を見てまず驚いたのはスタッフとキャストの豪華さです。まず水木しげる・荒俣宏・京極夏彦・宮部みゆきという日本を代表する妖怪に詳しい作家が集まりプロデュースチーム「怪」を結成し、原案を執筆。(彼らは映画のキャストとしても特別出演しています。)
 監督は現在日本一忙しい監督であり、カルト的人気を誇る三池崇史。彼の代表作としては『殺し屋1』『ゼブラーマン』『着信アリ』などがあり、ヤクザ映画からホラー、ミュージカル、コメディとあらゆるジャンルの映画を撮りまくっています。彼の映画は時々暴走するときがあり、見ている側を唖然とさせる描写や展開をするときがあります。この映画でも三池監督ならではの子どもが見るにはブラックなシーンがあったり、悪ふざけするシーンなどがあります。しかし、三池色は適度に押さえられているので、子どもが見ても手に汗握る冒険活劇となっています。
 次にキャスト。これは日本を代表する大物俳優から個性派俳優、テレビでよく見るタレントまで総出演です。主人公は今人気の子役、神木隆之介。適役の加藤保憲に豊川悦司、鳥刺し妖女・アギに『キル・ビル』に出ていた栗山千明。この2人は悪役をとても楽しそうに演じています。他にも菅原文太、ナイナイの岡村、雨上がり決死隊の2人、竹中直人、佐野史郎と知っている顔が次から次へ登場します。妖怪役をしている役者は、特殊メイクで誰が誰を演じているのか分かりにくいですが、最後のエンドロールのキャストであの人がこの役をしていると知ったらびっくりすると思います。
 ストーリー:「10歳の少年タダシは、両親の離婚で田舎で母と祖父と暮らしていた。まだ田舎にとけ込めないタダシは神社のお祭りで世界に平和をもたらすといわれる伝説的存在=“麒麟送子”に選ばれる。その頃、世界を滅亡させようとする魔人・加藤保憲の悪霊軍団が妖怪を誘拐していた。“麒麟送子”に選ばれたタダシの所に妖怪が助けを求めてくる。そいてタダシは妖怪と共に魔人・加藤保憲の悪霊軍団に立ち向かっていく。アクションあり、笑いあり、涙ありの大冒険ファンタジー」
 この映画はとにかくハリウッド映画も顔負けのスケールで話しが展開していきます。『帝都物語』の魔人・加藤保憲が悪役で登場するのは笑いますが、ストーリーは少年の目線で終始描かれ、とても良くできています。途中から世界の存亡をかけた戦争に展開するというスケールの大きさはハリウッドも顔負けです。ラストもとても爽やかな余韻を残します。
 映像もテレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』に登場してきた妖怪たちが実写で出てきて妖怪好きにはたまらない映像のオンパレードです。しかし実写にするとしょぼい妖怪たちもいましたが・・・。CG映像は完成度がもう一つで日本映画の限界を感じてしまいます。あのスケールの大きさを緻密に表現しようと思うと予算や人材がもっと必要なのでしょうね。ここはとても残念な所です。
 この映画にハリウッド大作にはない独特な味わいがあります。懐かしい日本の夏の田舎の風景。ハリウッドのモンスターにはない愛嬌のある妖怪たち。また子どもが見たらゾクッとするようなお色気シーンに結構迫力のある戦闘シーン。確かにB級映画のようなチープさやストーリーが子ども向けで気恥ずかいセリフがあったり、説教臭いところもあります。しかし、『ゲゲゲの鬼太郎』を見た世代はきっと楽しめると思います。

製作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 124分
監督 三池崇史 
製作総指揮 角川歴彦 
原案 水木しげる、荒俣宏、京極夏彦、宮部みゆき
脚本 三池崇史 、沢村光彦 、板倉剛彦 
出演 神木隆之介 、、南果歩 、成海璃子 、佐野史郎  宮迫博之(雨上がり決死隊)、豊川悦司、栗山千明、菅原文太

 

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『女に選ばれる男たち 男社会を変える』街を捨て書を読もう!

『女に選ばれる男たち 男社会を変える』 著:安積 遊歩、辛 淑玉  太郎次郎社
女に選ばれる男たち―男社会を変える 今回紹介する本はマイノリティが日本社会で生きるとはどういうことか考えさせられる本です。著者は身体障害者であり、一児の母親である安積 遊歩さんと在日コリアン三世で日本人の男性と結婚した辛 淑玉さんです。2人とも障害者、在日、女性というマイノリティとして生きる中で体験した差別や抑圧について語ります。障害があるが故に一段低い人間と差別され、日本国籍ではないということで差別され、女性であるが故に家庭に縛り付けられる。著者たちはそんな日本の中にある差別や抑圧の構造やその背景を分析していきます。
 2人が語る差別や抑圧の体験を語った文章はとても強烈です。病院や学校、地域生活の中での安積さんの受けた差別はこの社会が障害者を対等な人間として扱ってこなかった事実を突きつけます。そして障害者が健全者がイメージする障害者像から離れたことをしようとすると、激しくバッシングにあうか、変に美談として取りあげられる今の社会に対して怒りを訴えます。また辛さんも在日として生まれ、国籍が違うというだけで就職や結婚、選挙権などで差別され、国家からもまるで犯罪者予備軍のように扱われる日本社会の排他性への怒りを訴えます。
 さらに著者たちは日本社会の女性への抑圧や差別についても激しい怒りをぶつけます。女性というだけで、子どもを生むことを強制され、家事や育児を男性から任され、社会進出も制限される日本社会。今の日本人が抱く男性・女性それぞれがもつ役割像を一度解体する必要性を2人は説きます。
 著者は最後に日本のマイノリティに対する差別や抑圧の問題はマジョリティ側の問題であり、マイノリティがマイノリティであるが故に「がんばらなくても」生きていける社会になるように「一緒に」考えて欲しいと訴えます。そして2人は政治や社会に翻弄されないために、自分たちが政治的な存在として生きることを宣言します。
 私は男性であり、日本人であり、今のところ障害は持っていませんが、この本は自分の生き方を反省させられました。そして、思いこんでいた役割から解放され、自分の生き方がすごく楽にもなりました。
 この本はぜひ多くの人に読んでもらい、日本社会が抱える差別や抑圧の問題と向き合ってもらえればと思います。

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『バットマン・リターンズ』この映画を見て!

第44回『バットマン・リターンズ』
この映画の見所!「バットマンとペンギン、キャットウーマン三つ巴の闘い、社会からはみ出した者たちの悲哀」
batman  『チャーリーとチョコレート工場』を前回紹介しましたが、今回はティム・バートン監督の傑作『バットマン・リターンズ』を紹介したいと思います。バットマンはハリウッドで今まで5作品制作されております。1作目と2作目はティム・バートン監督、マイケル・キートン主演で制作され、根強い人気があります。3作目以降は監督・主演も毎回変わっており、作風も1、2作目と大きく変わっています。一番最新の作品が昨年公開された『バットマン・ビギンズ』です。この最新作『バットマン・ビギンズ』はクリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベール主演で制作されました。この映画はリアリティ重視の作風で興行収入も評価も高く、同じ監督・主演での続編が予定されています。そんなバットマンシリーズの中で一押しの作品はどれかというと今回紹介する『バットマン・リターンズ』です。
 この映画は画面・ストーリーともダークですが、ティム・バートン監督の魅力が詰まった映画です。表と裏の顔を持つ孤独と寂しさを抱えた主人公たち。暗いおとぎ話の世界のようなキッチュでダークでシュールな美術。ダニーエルフマンによる重厚でありなあがらどこかもの悲しい美しさを感じる音楽。見た目の明るさとは裏腹に主人交たちの暗い内面に切り込んだストーリー。登場人物・映像・音楽・ストーリーどれをとっても、ティム・バートンのダークさが前面に出ている映画です。
 ストーリー:「正義と悪が表裏一体の街、ゴッサム・シティ。そこで一人の赤ん坊が生まれる。しかし、生まれた赤ん坊は普通の姿ではなかった。街の下水道に赤ん坊を捨てる両親。それから33年後のクリスマス、ゴッサムシティではペンギンという謎の怪人が出没するという噂で持ちきりになっていた。その頃、ゴッサムシティの実力者シュレックは会社の秘密を知った女性秘書セリーナをビルから突き落とし殺そうとしていた。しかしセリーナは猫から9つの命を与えられ、キャットウーマンとして蘇っていた。ゴッサムシティはペンギンとキャットウーマンの出没で恐怖と不安に陥っていた。街を守るためにバットマンが再び立ち上がる。しかし、ペンギンはシュレックと新たに手を組み、街を裏から支配しようと企んでいた。ペンギンの罠により、窮地に追い込まれるバットマン。バットマン、キャットウーマン、そしてペンギンとの三つ巴の闘いが今始まる。」
 この映画のストーリーはオープニングからエンディングまでとても暗いです。そしてヒーロー者の映画にも関わらず、バットマンよりも敵役の方が目立っており、また感情移入できます。ティム・バートンはこの映画ではバットマンよりも適役のペンギンやキャットウーマンをに興味があったのか、敵役の2人がとても魅力的に描かれています。
 特にペンギンは小さいときに奇形児だった故に、親に捨てられるという哀しい過去を持っており、悪役であるにも関わらず、どこか観客の共感と涙を誘ってしまいます。ペンギンはもちろん悪役ですのでひどいことを数多くするのですが、その裏に潜む哀しみや孤独もしっかり描いているので、ラストにバットマンによって倒されても、観客はスカッとした感情を抱けません。むしろどこかペンギンに対して同情の気持ちを持ってしまいます。
 またキャットウーマンもバットマンの前に現れて、邪魔をするのですが、どこか哀しい存在です。キャットウーマンはもともとセリーナという不器用で孤独な女性が一度死んで生まれ変わった姿なのですが、セリーナという女性とキャットウーマンという怪人の二つの顔の間で苦しみます。
 さらにバットマンも表の顔ブルース・ウェインと裏の顔バットマンの間で揺れ動きます。特にこの映画ではお互い正体を知らないまま、ブルース・ウェインとセリーナが恋に落ちるのですが、2人がバットマンとキャットウーマンというお互いの正体を知ったときの2人の衝撃と葛藤は見ていて胸が苦しくなります。そして映画のラストにバットマンが仮面を引き裂き、表の顔ブルース・ウェインをキャットウーマンに見せる場面は、バットマンの彼女に対する愛情が観客の胸に伝わってくる名場面です。
 この映画は登場人物たちが表の顔と裏の顔を持っており、その二つの顔の間で苦しむ姿が描かれています。引き裂かれた感情の中で揺れ動いて生きる人間の葛藤や哀しみが観客の心に残る作品です。
 ティム・バートンは社会からはみ出した者や社会の中を上手く渡っていけない人間やモンスターたちの孤独や哀しみを愛情たっぷりに描く作品が初期の頃は多かったのですが、この作品はそんな彼の持ち味が前面に押し出されています。
 映像もティム・バートンのダークでキッチュな持ち味が活かされいます。1920年代のニューヨークを彷彿させるゴッサムシティ、おとぎ話の世界のような動物園、ゴシックホラー調のバットマンの館と見応えがあります。またティム・バートンならではの残酷なシーンや毒のあるユーモアなシーンもたくさんあります。
 役者たちもいい演技をしており、特にペンギンを演じたダニー・デビートとキャットウーマンを演じたミシェル・ファイファーは悪役を楽しそうに演じています。またクリストファー・ウォーケンも悪役ですが、いい味を出してました。
 この映画は勧善懲悪もののヒーロー中心の映画とはひと味違った魅力のある映画です。二つの顔の中で苦しむ主人公たちの姿や社会からはみ出した者たちの悲哀を描いた重厚な人間ドラマの映画です。ぜひ見てみてください。

製作年度 1992年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 128分
監督 ティム・バートン 
製作総指揮 ジョン・ピーターズ 、ピーター・グーバー 、ベンジャミン・メルニカー 、マイケル・ウスラン 
脚本 ダニエル・ウォーターズ 
音楽 ダニー・エルフマン 
出演 マイケル・キートン 、ダニー・デヴィート 、ミシェル・ファイファー 、クリストファー・ウォーケン 、マイケル・ガフ 

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『チャーリーとチョコレート工場』この映画を見て!

第43回『チャーリーとチョコレート工場』
こんな人にお奨め!「ちょっとブラックなチョコレートが好きな人。」
チャーリーとチョコレート工場 特別版  今回紹介する作品は昨年公開され大ヒットした『チャーリーとチョコレート工場』です。私はこの映画を劇場で見逃してしまい、DVDでの鑑賞となってしまったのですが、映画館で見れば良かったと後悔しています。
 この映画はハリウッドでも異端児として知られるティム・バートンが監督をしています。彼の映画の特徴は、お茶目で残酷でシュールな映像・ブラックユーモアとヒューマニズムを織り交ぜたストーリー・どこか影のあるキャラクターです。彼の代表作としては『バットマンリターンズ』・『シザーハンズ』などがありますが、どの作品も見た目の派手な映像の割にどこか暗い雰囲気が漂います。
 私は高校、大学の時は彼の映画の大ファンでよく見たものでした。彼の作品の映像のキッチュでシュールな映像、シニカルでダークなストーリーは私のお気に入りでした。ちなみに私が一番好きな作品は『バットマン・リターンズ』です。
 さて、久しぶりに見た彼の新作『チャーリーとチョコレート工場』ですが思った以上にティム・バートン節全開な映像とストーリーに見入ってしまいました。
 まず映像はおとぎ話の世界を見事に表現しています。ここら辺りはさすが『バットマン』や『スリーピー・ホロウ』を手がけたティム・バートンならではです。オープニングに出てくるチャーリーが住む傾きかけた家はゴシック調のデフォルメされた作りで見る者をおとぎ話の世界に一気に引き込みます。そしてメインのチョコレート工場。そのカラフルでキッチュでシュールな美術は見ていてとても楽しいです。特にウンパ・ルンパによるミュージカルシーンは彼ならではの毒のあるユーモア全開の映像と歌で最高でした。また映画マニアの監督ならではのお遊びシーンがあり、『2001年宇宙の旅』や『サイコ』のパロディシーンは見ていて笑ってしまいました。
 次にストーリーですが原作を基に脚色されているのでどうかなと思ったのですが、ティム・バートン監督の持ち味が活かされたものになっていました。そこはティム・バートン監督。ストーリー中盤の工場の経営者ウォンカ氏と憎たらしい子どもたちのやり取りは監督の茶目っ気と皮肉、毒のあるユーモアがみごとに活かされたストーリー展開で笑いっぱなしでした。それでいて、ラストは家族の愛を描き、ほろりとさせる展開は素晴らしかったです。私は不覚にも最後の父と子の和解場面でべたに感動してしまいました
 ティム・バートン監督というと以前は世の中から取り残された主人公たちの愛されない孤独や哀しみの姿を描いていました。それがここ最近は作風が変わって、『ビッグ・フィッシュ』など家族との和解をテーマにした映画を撮っており、この映画も前作に引き続いて家族愛を前面に押し出しています。
 またこの映画はティム・バートン作品の中で一番道徳的な作品でもあります。家族を愛し、欲のない、謙虚な人間が報われる道徳的な話しは児童小説の影響からかと思います。しかし、今までどちらかというと社会からはみ出した主人公たちの姿を通して人間の本質を描いてきた作品を多く作ってきたティム・バートンなので、そこが私にはちょっと不満でもありました。
 またこの映画は音楽が素晴らしいです。担当しているのは彼の映画音楽に欠かせないダニー・エルフマン。彼のコーラスを交えたフルオーケストラによる壮大なスコアーはおとぎ話の世界を見事に音楽で表現しています。またウンパ・ルンパによるミュージカルシーンの歌はシニカルでブラックな歌詞をリズミカルなメロディーにのせて唄っており、聴いていてとても楽しいです。
 出演者も映画の雰囲気に合っておりました。ウォンカ氏を演じたジョニー・ディップは妖しい姿で登場し、少し笑ってしまいました。子どもっぽい面もあれば、皮肉屋でもあり、どこか影のあるウォンカ氏をとても楽しそうに演じていましたね。ティムバートンとジョニー・ティップのコンビは今回で4作品目でありますが、この2人がタッグを組むと面白いですね。またここ最近ファンタジー映画に出まくりの、私の好きな俳優クリストファー・リーがこの映画でも思いがけない形で出演していたところも嬉しかったです。
 この映画、児童小説を原作にしていますが、一癖ある映画です。誰でも素直に楽しめる映画ではないかもしれません。しかし、ちょっとほろ苦く、見終わった後に幸せになれるこの映画。一度見てみる価値はあると思います。

製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ/イギリス
上映時間 115分
監督 ティム・バートン 
製作総指揮 マイケル・シーゲル 
原作 ロアルド・ダール 
脚本 ジョン・オーガスト 
音楽 ダニー・エルフマン 
出演 ジョニー・デップ 、フレディ・ハイモア 、デヴィッド・ケリー 、ヘレナ・ボナム=カーター 、ノア・テイラー 

 

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『窓の日』矢野絢子

お気に入りのCD.NO4 『窓の日』 矢野絢子 

窓の日 今回紹介するCDは高知県出身の矢野絢子というアーティストのアルバムです。
 私が矢野絢子を知ったのは職場の先輩からでした。その先輩がぜひ私に聴かせたいCDがあると言って聴かせてくれたのが『窓の日』というアルバムでした。始めて聴いた時は歌唱力の高さと内省的で繊細な歌詞の鋭さと美しさ、ピアノを中心としたアコースティック音の心地よさがとても印象的でした。
 その後、先輩が誘ってくれて大阪のライヴにも連れて行ってもらいました。生で聴く彼女の歌声はとても心地よく、人間の悲しさやさびしさ、暖かさを唄った歌詞が胸に響きわたり、とても素敵なライブでした。
 私が彼女の歌で一番惹かれるのは歌詞です。彼女が紡ぎ出す言葉はどれもガラス細工のように繊細で美しく、それでいて野に咲く花のような暖かさと力強さを持っています。歌詞の内容は内省的なものや自分の経験や思いを投影したものが多いですが、多くの人が共感できる普遍性をもっています。特に私は「一人の歌」と「ふたつのプレゼント」がお気に入りです。「一人の歌」は生きることの孤独と哀しみを見事に歌詞にしています。また「ふたつのプレゼント」はピアノによる明るいメロディーと裏腹にある家族の崩壊と再生が唄われており、聴いた後まるで良質な短編小説を読んだかのような満足感が得られます。
 また全編ピアノを中心としたアコースティックなサウンドなのも、聴いていて心地よいです。『窓の日』には何曲かピアノやバイオリンによるインスト曲が収録されいるのですが、哀愁漂うメロディーと音は聴いていて、心を落ち着かせます。
 『窓の日』はシンプルで繊細で美しくとても素敵なアルバムです。派手さはありませんが何回も聴けるだけの力が歌に宿っています。ぜひ皆さんも聴いてみてください。ライブに行きたくなると思います。

1. 明るい方へ
2. ひとつふたつ
3. 一人の歌
4. 九月の高原
5. 幻の光(インストゥルメンタル)
6. 雨のレストラン
7. 手のひらに十二月(インストゥルメンタル)
8. つめたい手
9. ふたつのプレゼント
10. サンタの家
11. 音の無いフィルム(インストゥルメンタル)
12. 吉野桜
13. 窓
14. 瞬き

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