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2006年11月5日 - 2006年11月11日

『ファイトクラブ』この映画を見て!

第126回『ファイトクラブ』
「ファイトしたことなくて、どれだけ自分の事が分かるっていうんだ?」
Figtclub  今回紹介する映画は暴力と狂気に満ちた世界をスタイリッシュに描いた『ファイトクラブ』です。この映画は公開当時、過激な暴力シーンやメッセージ性、そして予想外のストーリー展開が大変話題になりました。監督は『セブン』や『ゲーム』など独特な映像センスと人間のダークサイドを描くことで定評のデビットフィンチャーが担当。今回もダークでスタイリッシュな映像を創り出しています。また主役にはハリウッドきっての有名スターであるブラッド・ピットと実力俳優として評価の高いエドワード・ノートンを起用。ブラット・ピットのそれまでのイメージを覆すような演技は大変話題を呼びました。またエドワード・ノートンの演技は現代の脆弱な男を見事に表現しており素晴らしいの一言です。
 私は劇場公開当時にこの映画を見たのですが、映像センスの素晴らしさはさることながら、消費文明と物質主義によって心と体を抑圧された現代人を皮肉り、嘲り、覚醒させる内容に私の心は激しく揺さぶられました。
 物質的に充たされた生活を送っても、心が充たされないまま生きている主人公のナレーター。物質に囲まれた空虚な現実によってリアルな生を奪われた主人公がファイトクラブでの男同士が殴り合う中で見つける痛みを伴ったリアルな生の手応え。しかしリアルさを求めれば求めるほど、またリアルさから遠ざかり、狂気と妄想の世界に陥っていくという皮肉。映画の後半にファイトクラブのメンバーたちが過激なテロ行為に走り始めるのは、せっかく暴力を通して個としての生のリアルさを体感した男たちが、再び組織化される中で個を埋没させてしまうアイロニーを見事に描いています。この映画は前半は消費文明と物質主義を皮肉り、後半はそういう現代社会から解放されたいと願う人たちの脆弱さを皮肉る構成の作品となっています。
 また監督はこの映画を「去勢と狂気に関する考察」と語っています。現代を生きる男性が去勢されるまでの姿を描いています。経済的発展と共に多様化複雑化した社会の中でどう生きていったらいいか分からない男たち。女性の社会的進出は男性が今まで持っていた役割を奪われ、会社では組織の歯車として働くことばかりに追われる男たち。そんな男たちが自らの存在を確認するために暴力という名の去勢を行っていく。この映画は男たちの自分探しを描いた作品とも言えます。
 映画の後半は予想外のどんでん返しがあり、初めて見たときはそんなオチだったとは思わず大変衝撃を受けました。映画の前半をよく見てみると、きちんと後半への伏線が貼られています。この映画は1回目見たときと2回目以降見るときでは印象がだいぶ変わると思います。
 あと映画のラストシーン、公開当時は大変衝撃を受け、カタルシスも感じました。しかしこの映画公開から2年後にあのラストシーンが現実になるとは見ていたときは予想もしませんでした。
  この映画は消費社会の中で果てしなく欲望を刺激され続けストレスがたまった現代人の閉塞した状況を一時的に解放させてくれます。ぜひ生き方に迷っている男性はこの映画を見て、自分を解放し、去勢してください。

製作年度 1999年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 139分
監督 デヴィッド・フィンチャー 
原作 チャック・パラニューク 
脚本 ジム・ウールス 
音楽 ザ・ダスト・ブラザーズ 
出演 エドワード・ノートン 、ブラッド・ピット 、ヘレナ・ボナム=カーター 、ミート・ローフ・アディ 、ジャレッド・レトー 、ザック・グルニエ 、ピーター・イアカンジェロ 、デヴィッド・アンドリュース 、リッチモンド・アークエット 、アイオン・ベイリー 

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『父親たちの星条旗』この映画を見て!

第125回『父親たちの星条旗』
「戦争を終わらせた一枚の写真。その真実。」
Flags_of_our_fathers  今回紹介する映画は太平洋戦争においてアメリカにとって最大の激戦地だった硫黄島の戦いを描いた『父親たちの星条旗』です。この映画はハリウッドの戦争映画にはしては珍しく日米双方の視点から硫黄島の戦いを描く2部構成の作品となっており、その第一部として公開されました。第一部はアメリカ軍の兵士の視点から描いています。硫黄島の擂鉢山に星条旗を掲げる6名の兵士を写した有名な戦争写真。その裏側に秘められた無名の兵士たちの人間ドラマと硫黄島の激戦の様子が生々しく描かれます。
 
 この映画の大きな特徴として、他のハリウッドの戦争映画のように戦争を単なる美談として扱っていないところがあります。この映画は戦争で生き残り、国家に英雄として祭り上げられた兵士たちの苦悩や戸惑いといったものを淡々と描き出します。そして国家や戦争という大きな舞台の中で翻弄される兵士たちの哀しみや虚しさといったものを観客に訴えかけます。監督であるクリント・イーストウッドは硫黄島2部作を撮るに当たって次のようなコメントを発表しています。
「自分がこれまで観てきた戦争映画はどちらかが正義でどちらかが悪だと描いていた。しかし、人生も戦争もそういうものではないのだ。」
 このコメントが表すとおり、この映画は戦争が如何に兵士たちの人生に影響を与えるかを淡々と綴った作品です。

 イーストウッド監督は無駄のない簡潔さと感情を押さえた演出に定評があります。この映画でもテーマを前面に押し出したり、変に感情に流されることなく、淡々とした語り口が非常に印象的です。
 話しの展開も巧みで、現在のアメリカ、激戦の硫黄島、戦中戦後のアメリカの3つの時代を縦横無尽に往き来する展開なのですが、時代が移り変わっても兵士たちの心の傷は癒えないということを見事に表現していています。
 
 また彼の映画は現実の嫌な面を真正面から描いたものが多いのです。この映画でもネイティブアメリカンへの差別や戦場で味方によって撃たれる兵士、兵士たちを利用する政治家や経営者、彼氏が英雄となったことで自分もセレブ気取りになった恋人の登場など見たくないシビアな現実がこれでもかと描かれて、気が滅入ってしまいました。
 
 この映画は制作にスピルバーグが関わっており、戦闘シーンは『プライベートライアン』並に生々しく迫力に満ちた仕上がりになっています。湾を埋めつくす何百もの艦船シーンは見ていて壮観ですし、硫黄島に向けて何千発もの砲弾が打ち込まれる場面はその迫力に圧倒されてしまいます。また目も背けたくなるほど結構エグイ描写も多いのですが、その描写が戦争の虚しさや悲しさというものを際だたせていました。どこからともなく飛んでくる銃弾や砲弾。さっきまで喋っていた仲間が次の瞬間には死体となってしまうあっけなさ。死と隣り合わせの兵士の緊張感や恐怖といったものが見ているだけで伝わってきます。この映画を見ると戦争というものが如何に悲惨なものかよく分かると思います。

 私はこの映画を見て、一番印象に残ったのはネイティブアメリカンであるヘイズの人生がとても印象的でした。かつて自分たちを征服した白人の為に兵士として戦いながらも、本国では白人に差別される彼の姿を見るとつらくて胸が締めつけられそうでした。

 映画のラストは涙なしでは見られないほど感動的で美しい場面です。またエンドロールも席を立たずじっつ見ていて欲しいです。この映画は戦争で死んでいった兵士たちへの哀悼の意を讃えた鎮魂歌です。

 12月には硫黄島2部作目の日本側から描いた『硫黄島からの手紙』が公開されます。イーストウッド監督がどのように日本兵を描くのか今から楽しみです。

製作年度 2006年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 132分
監督 クリント・イーストウッド 
原作 ジェームズ・ブラッドリー 、ロン・パワーズ 
脚本 ポール・ハギス 、ウィリアム・ブロイルズ・Jr 
音楽 クリント・イーストウッド 
出演 ライアン・フィリップ 、ジェシー・ブラッドフォード 、アダム・ビーチ 、ジェイミー・ベル 、バリー・ペッパー 、ポール・ウォーカー 、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー 、ジョン・スラッテリー 、ロバート・パトリック

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『人生の教科書 よのなかのルール』街を捨て書を読もう!

『人生の教科書 よのなかのルール』 著:宮台真司・藤原和博 ちくま文庫
Rule  今回紹介する本はブルセラから天皇まで語る気鋭の社会学者・宮台真司とリクルート退社後に民間人初の公立中学校長となり注目を集めた藤原和博が手がけた全く新しい社会の教科書『人生の教科書 よのなかのルール』です。
 この本は「自殺」「少年犯罪」「受託」「仕事と給料」「結婚と離婚」「クローニング」「ドラッグ」等、学校の授業では習うことの出来ない社会のルールがわかりやすく書かれています。この本で語られるテーマ自体は世の中の当たり前のことが多いのですが、知っているようで意外に知らないことが多いことを気付かせてくれます。なぜ人を殺してははいけないのか?なぜドラッグは禁止されているのか?など常識の裏側にある理由をこの本は明快に説明してくれるので読んでいて目から鱗が落ちます。もしこの本を中学生の時に読んでいたら人生大きく変わっていただろうなと思いました。
 著者2人は成熟した社会を支える市民を育成するために作成したそうです。高度経済成長期のように豊かになることが多くの国民にとって目標となっていた時代は終わり、多くの人が社会の中で生きる目標を見失った時代。豊かさの代償として家族や地域という共同体が崩壊した時代。日本の社会は「皆同じ仲間」という横並びの社会から、「皆違う他人」という個別化多様化した社会に変わってきました。そんな多様化・複雑化した社会の中でどう個人としてとして生き抜いていくか、その重要なヒントがこの本には書かれています。 
 最近、教育基本法の改正や高校の履修不足など教育に関する話題が大きく注目されています。この本を読むと現在の日本の教育に足りない部分が何なのかよく分かると思います。
 この本は中学生から大人まで、成熟した社会で生きる多くの人にぜひ読んでほしい人生の教科書です。

*目次
・なぜ人を殺してはいけないのか
・第1部 大人と子どものルール
大人、子ども、その境目はどこに?
少年をとりまく犯罪とルールの関係
あなた自身と犯罪の危ない関係)
・第2部 お金と仕事のルール(大人はなぜ「接待」をするのか
1個のハンバーガーから世界が見える
自分の家から日本が見える
仕事とキャリアを考えると人生が見えてくる)
・第3部 男と女と自殺のルール(性転換をめぐる、男と女としあわせのルール
結婚と離婚と子どもをめぐるルール
自殺から見える社会―ある監察医のつぶやき)
意味なき世界をどう生きるか?

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