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2006年1月15日 - 2006年1月21日

この映画を見て!「コックと泥棒、その妻と愛人」

第26回「コックと泥棒、その妻と愛人」
見所:徹底した美の中で描かれる醜い人間の欲望。そして衝撃のラスト!コックと泥棒、その妻と愛人
 今回紹介する映画は、私がここ数年見た映画で一番の衝撃作かつ問題作でした。色彩にこだわった壮麗な美術やゴルチエがデザインした豪華な衣装、一度聞いたら耳に残るバロック調の現代音楽と見るものを圧倒します。その美の中で人間の欲望の醜さや滑稽について語られるドラマは見る者を虜にします。(但し、受いれらない人は全く受けいれられないと思います。)
 ストーリー:「高級フランス料理店“ル・オランデーズ”、そこに毎晩訪れる泥棒のアルバートと妻のジョジーナ、そしてアルバートの手下。アルバートは自分ではグルメで美意識を持っていると思っているが、下品で野蛮で強欲な男だった。彼はこのレストランで我が者のように振る舞い、レストランのシェフ・リチャードに無理難題を言って困らせていた。ジョジーナは夫の暴力による支配から彼の下を離れることができなかった。そんなある日、ジョジーナはレストランで一人本を読んで食事をしていたマイケルに恋をする。夫の目を盗み、レストランのトイレや厨房で愛し合う二人。しかし、夫にばれてしまい、マイケルは殺されてしまう。怒ったジョジーナ、リチャードと手を組み、夫に世にもおぞましい復讐を実行する。」
 この映画の最大の見所は監督の徹底した美意識です。まず主な舞台となるレストランは部屋ごとに色彩が違っています。調理場は緑、トイレは白、店内は赤、外は紫と色彩が各場所ごとにはっきり分かれています。その色彩の違う各場所の様子を横移動のカメラが滑らかに追っていきます。そして場所が変わるごとにマイケル・ナイマンの壮麗な音楽が流れてくるようになっています。また衣装もゴルチエが担当しており、印象的なデザインの服が数多く登場します。特にジョージナが着る服はエロチックであり、華麗であり、洗練されています。映画全編まるで絵画を見ているかと思うほど、構図も色彩も完璧です。音楽も仰々しいほど壮麗で美しく、耳に残ります。そして、その音楽の使い方も巧みで、ラストは音楽の高揚感もあって、見ている側も気持ちが高ぶります。この映画は監督の美への追究が隅々まで行き届いています。
 またストーリーもとても刺激的かつ挑発的な映画です。圧倒する美の中で展開される反倫理的ストーリーは人間の美や欲望の本質を見事に抉りだしていきます。この映画は人間の欲望のオンパレードです。レストランという人間の一番大きな欲望である食欲を満たす場で展開される性欲や支配欲に関する物語は見ていて生々しく、不快であり、滑稽でもあり、見ている側の倫理観を激しく揺さぶります。人間は社会で生きていくために、生々しい欲望を押し込めています。この映画の主人公であるアルバートは欲望をストレートに周囲に要求します。その欲望丸出しの姿はある意味、潔いよいくらいです。しかしそんなアルバートがどこか上品ぶろうとする姿は見ていて滑稽です。また夫の目を盗んで愛欲に耽る妻ジョジーナと愛人マイケルの姿も見ていてどこか滑稽です。また食欲に関する調理場で性欲を満たしたり、排泄に関するトイレで性欲を満たす姿は印象的です。また二人が裸で街をさまようシーンは文化という服をまとった人間も一皮むけば欲望と肉の塊に過ぎないという監督の皮肉なメッセージが伝わってきます。人間食欲と性欲、そして排泄、この3つの関係性を示唆した構図となっています。具体的に述べると、欲望を満たすことは、ある意味欲望をはき出す排泄行為であるということが示唆されているように私は思います。
 この映画のラストはとても衝撃的です。欲望丸出しの人間アルバートに仕掛けられたおぞましい復讐劇は、衝撃的であり、また痛快でもあります。私は不覚にもこのラストにカタルシスを感じてしまいました。ラストを見ると人間は肉の塊に過ぎないということを痛感すると思います。そして、人間の欲望を満たすために、直接的であれ、間接的であれ人間は他の人間を食って生きているという事実を見せつけます。
 華やかな美の奥潜む人間の欲望の闇というものを見せつけてくれる傑作映画です。ぜひ、興味のある方はご覧ください。

製作年度 1989年
製作国・地域 イギリス/フランス
上映時間 124分
監督 ピーター・グリーナウェイ 
衣装  ジャン=ポール・ゴルチエ 
脚本 ピーター・グリーナウェイ 
音楽 マイケル・ナイマン 
出演もしくは声の出演 リシャール・ボーランジェ 、マイケル・ガンボン 、ヘレン・ミレン 、アラン・ハワード 、ティム・ロス 

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