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2006年5月7日 - 2006年5月13日

『ゲド戦記Ⅲ さいはての島へ』街を捨て書を読もう! 

『ゲド戦記Ⅲ さいはての島へ』 著:ル=グウィン 訳:清水真砂子 岩波書店
さいはての島へ―ゲド戦記 3 今回紹介する本はスタジオジブリが今年の夏に公開する新作映画『ゲト戦記』の原作『ゲド戦記Ⅲ さいはての島へ』です。
 ゲド戦記はアースシーという架空の世界を舞台に、魔法使いゲドの人生とゲドと出会い運命が変わっていった人たちの姿を描いた傑作ファンタジーです。1作目『影との戦い』はゲドが魔法使いとなり、自らが闇の世界から呼び出したと影と対決をするまでの冒険と己を見つめ成長していく姿が描かれて、2作目『こわれた腕輪』では少女テナーが主人公となり魔法使いゲドと出会い、自らに課せられた宿命を乗り越え自由を手に入れるまでが描かれました。そして今回紹介する3作目『さいはての島』では年を取り大賢人となったゲドと若き王アレンが失われてきた世界の均衡を回復するために世界の果てまで旅をする姿が描かれます。
 第3作目は若き王であるアレンが主人公であり、彼が大賢人となったゲドと過酷な旅をする中で人間として成長していく姿が克明に描かれる作品となっています。世間知らずで純粋な心を持つアレンが過酷な冒険をしていく中で葛藤し苦悩していく中で、多くのことを学び、真の勇気を身につけていく姿はとても感動的です。旅の途中でアレンはゲドに対して信頼と不信、共感と反発という相反する感情の中で激しく葛藤します。しかし、そんなアレンが葛藤を乗り越えるごとに、ゲドに対してより深い信頼を寄せ、そしてゲドと対等な関係を結んでいきます。この作品はアレンとゲドの交流を通して、人間同士の絆がどうやって結ばれていくかということが説得力を持って語られています。

「最初の頃の、あのほとばしるような、熱烈で、甘美な敬愛の情ではなかった。それよりももっと深いところにひそんでいた両者の結びつきが、今しも引き出されて、ゆるぎない、強靭なきずなに鍛え直されようとしているかのようだった。アレンはそれにじっと耐えていた。ゲドの痛みをともに分かちあっていた。それなしには、どんな愛ももろく、不完全で、長続きはしない。」

 またこの作品はアレンの成長物語としてだけでなく、老年期を迎えたゲドの死に対する意識を描いた作品としても読むことが出来ます。生きている限り、誰しもが必ず迎えなければならない死。死というものをどのように受け止め、自らの限りある生を歩んでいくか、この映画はゲドの姿を通して語っていきます。この作品では、死を闇雲に恐れるのでなく、生の大切な一部分として受容していくことの大切さが語られます。

「ここにいたって、わしにはわかるのだ。本当に力といえるもので、持つに値するものは、たったひとつしかないことが。それは、何かを獲得する力ではなくて、受け容れる力だ。」

 『さいはての島』はアースシーのさまざまな場所を舞台に物語が繰り広げられていくのですが、物語自体は決して明るく楽しい冒険物語ではありません。どちらかというと暗く重苦しい雰囲気に包まれた作品です。魔法の力が失われ、世界は混沌とし、人々の心が荒んだ時代。そんな時代の中で、その原因が何なのかを探し出そうとするゲドとアレンの孤独な旅。死を予感し、未来に希望を託そうとするゲドとこれから未来を築いていくアレンの2人の姿を通して、この世界はどういうものか、生きるとは何か、死ぬとは何かについて、深い考察がなされた作品です。物語のラストは希望の到来と一つの時代の終焉が描かれます。読者は読み終わったあと、きっと深い感動に心が満たされると思います。 

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