『タンポポ』この映画を見て!
第130回『タンポポ』 今回紹介する作品は見た後に無性にラーメンが食べたくなる『タンポポ』です。初監督作品「お葬式」で高い評価を受けた伊丹十三の監督の第2作目に当たるこの作品。伊丹監督は食べ物を素材にすれば実に官能的な映画ができるのではないかと考え、この作品を制作したそうです。伊丹監督はこの作品で100種類以上の食べ物を登場させ、食に関する人間の様々な姿をコミカルに描いていきます。
伊丹監督はこの作品の脚本を書くとき、様々な食に関するエピソードをどういう風に展開させていけばいいのか悩んだそうです。悩んだあげく、ふと思いついたのが西部劇をベースに話しを展開させることだったそうです。その為、この作品では『シェーン』や『怒りの葡萄』の影響がとても強く感じられる仕上がりになっています。
ストーリー:「タンクローリーの運転手ゴローとガンは、来々軒というさびれたラーメン屋に偶然立ち寄る。その店はタンポポという女主人が一人で経営していたがラーメンの味は今ひとつだった。タンポポは彼らにラーメンの味がまずいと指摘されてから、街一番のラーメン屋を目指し、ゴローと彼らの仲間の協力を経てラーメン作りに没頭することになる。」
この映画はラーメン作りの話しをメインにしながらも、それとは無関係な食に関する13の短いエピソードが挿入されています。どれも食に関する人間のこだわりが描かれているのですが、どれも強烈な印象を残すエピソードばかりです。
私がこの映画を初めて見たのは小学生の時でしたが、ラーメンの美味しそうなシーンもさることながら、役所広司のエピソードに釘付けになったのを覚えています。卵黄を口移ししたり、乳房に生クリームをつけてしゃぶったり、生きたエビをお腹に当てて遊んだり、大人の世界の奥深さを小学生ながらに強く感じたものでした。
また役所広司が生牡蠣を海女の手からほおばるシーンは子どもの時にはその意味がよく分からなかったのですが、大人になって見返して、そのシーンの意味することがようやく分かりました。少女の手から血の付いた牡蠣をほおばる男の意味するところはロストバージンを描いていたのですね。私の中でこの映画以上にエロティシズムを感じさせる映画に未だであったことはありません。
後、私がこの映画を見て強く影響されたのが、ラーメンの食べ方とオムライスの作り方です。
映画の冒頭で紹介される正しいラーメンの食べ方を見てから、私はラーメンを食べるとき、チャーシューを右後方においてしまします。(見た人は分かると思います)
またチキンライスの上にふかふかのオムレツを載せ、ナイフを入れると半熟の黄色い卵がどろりと流れ出すオムライスの作り方はとても印象に残り、自分でも何回かその作り方でオムライスを作ったものでした。しかし、どうしてもあのシーンのように上手くできないんですよね。ちなみに、あの映画でオムライスを作るシーンは伊丹監督自らが作っていたそうです!伊丹監督恐るべき才能です。
この映画、最近DVDを買って久しぶりに見返してみたのですが、出演している役者の豪華さにびっくりしました。山崎努に役所広司に渡辺謙という現在の日本映画を代表する顔ぶれが一つの映画で登場するなど今見るとすごい取り合わせです。また脇役も個性派揃いです。特に歯痛の男を演じる藤田敏八、餅を喉につまらせ掃除機を口に突っ込まれる大滝秀治、死にそうな妻に夕食を作らせる井川比佐志、この3人の演技は脇役ながら強い印象が残りました。
映画のラストが母乳を飲む赤ん坊で終わるのも、人間が初めて口にするのは母親のおっぱいであるという当たり前のことにハッと気付かされます。
この映画を超える食を扱った映画は世界広といえどもないと思います。子どもにはあまりお勧めできませんが、大人の方にはぜひ見て欲しいグルメ映画です。きっと見終わるとラーメンが食べたくなるでしょう。
製作年度 1985年
製作国・地域 日本
上映時間 115分
監督 伊丹十三
脚本 伊丹十三
音楽 村井邦彦
出演もしくは声の出演 山崎努 、宮本信子 、役所広司 、渡辺謙 、安岡力也 、桜金造 、池内万作 、加藤嘉 、大滝秀治 、黒田福美 、篠井世津子 、洞口依子 、津川雅彦 、村井邦彦 、松本明子 、榎木兵衛 、粟津潔 、大屋隆俊 、瀬山修 、野口元夫 、嵯峨善兵 、成田次穂 、田中明夫 、高橋長英 、加藤賢崇 、橋爪功 、アンドレ・ルコント 、久保晶 、兼松隆 、大島宇三郎 、川島祐介 、都家歌六 、MARIO ABE 、高木均 、二見忠男 、横山あきお 、辻村真人 、高見映 、ギリヤーク尼ヶ崎 、松井範雄 、佐藤昇 、日本合唱協会 、福原秀雄 、北見唯一 、柴田美保子 、南麻衣子 、鈴木美江 、小熊恭子 、伊藤公子 、上田耕一 、大月ウルフ 、大沢健 、藤田敏八 、原泉 、井川比佐志 、三田和代 、中村伸郎 、田武謙三 、林成年 、大友柳太朗 、岡田茉莉子
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コメント
コメントいつもありがとうございます。
確かにこの映画のオムライスは美味しそうですよね。私も家でこのレシピ通りに作るのですが、あの半熟加減がなかなか上手くいきません。
またこの映画の濃厚なエロスは食と性の共通点を分かりやすく表現していると思います。
こういうしゃれた映画ってなかなかないですよね。
投稿: アシタカ | 2006年12月24日 (日) 21時25分
TB、感謝です♪
「食べちゃいたいほど愛してる」という言辞がありますが、
舐めたり噛んだり啜ったりと、
愛が昂ぶると本当に食べちゃいそうな勢いで、
これは確かに男性的な衝動なのかなぁぁ・・・。
ま、女性でも、
「んもぉ、食べちゃいたい!パクパクパク」
とか言って、赤ん坊をあやしたりもするんで、
やっぱり人類共通の始源的本能なのかなぁ(笑)?
>大人の世界の奥深さを小学生ながらに強く感じたものでした。
おぅ?! マセてましたなぁぁ(笑)。
>出演している役者の豪華さにびっくりしました。
もうね、二度とない程に豪儀ですよね。
観てないと損であります。
投稿: カゴメ | 2006年12月 1日 (金) 17時17分
こんばんは。
この作品を見て、ラーメンよりもオムライスが無性に食べたくなりました(笑)
あのトロリン玉子には憧れますよね。
中を半熟状態でまわりだけ固めるにはフライパンを忙しく動かしてトロリン部分をくるんでいくようにしないといけないのでかなり難しいです(笑)
食の中にエロティシズムを感じられたのは、やはり男性の視点だからなのかなぁ。確かに若干のエロティシズムは感じたのだけれどそこまでではなかったんです(^o^;
食べる喜びよりも、今は作る喜びを感じているからかもしれませんけど(笑)
投稿: chibisaru | 2006年11月25日 (土) 02時34分