灰谷健次郎の本
昨日テレビを見ていたら、作家の灰谷健次郎さんが亡くなったという報道があり大変驚いたものでした。灰谷さんは私が中学生から高校生にかけて大変好きだった作家であり、ほととんどの作品を買いそろえていたほどでした。特に『兎の目』と『太陽の子』の2作品は私の人生に大きな影響を与えた作品であり、今までに何十回と読み返しているほどです。
灰谷さんは1934年に神戸で生まれ、若い頃は貧乏で大変苦労をされたそうです。定時制高校から大阪教育大学に行き、小学校の教師を17年間勤めたものの突然退職してしばらく放浪の旅を続けていました。そして、1974年に『兎の目』で文壇デビューをしました。若い先生と子どもたちの交流する姿を活き活きと描いた『兎の目』は大変話題になりミリオンセラーとなりました。その後も沖縄戦をテーマにした児童文学『太陽の子』を発表。一人の少女の目線から沖縄戦の爪痕を描いた『太陽の子』は前作以上に反響を呼びました。その後も子どもの目線に立った児童文学を数多く手がけると共に、自然破壊や教育問題等にも積極的に発言を行っていました。特に97年の神戸市で起きた連続児童殺傷事件の容疑者少年の顔写真を新潮社刊行の写真週刊誌「フォーカス」が掲載したことを批判し、新潮社から発刊していた自分の全作品の出版契約を解消したことも大変話題になりました。最近ではライフワークとも言える天真爛漫な倫太郎という男の幼年期から青年期までを描く大河小説『天の瞳』を執筆していました。
灰谷さんの作品の大きな特徴は、読んだ後に優しい気持ちになれるところにあります。彼の作品に登場する人物はほとんどみんな善人ばかりで、読んでいて人間を信じようという気持ちにさせてくれます。(それが文学作品としては深みに欠け、大人なると物足りないところもありますが。)
また子どもたちの目線に立った作品が多いことも彼の作品の特徴です。子どもたちを決して上から見下さず、同じ人間として対等に向き合おうとする彼の姿勢がどの作品にも反映されており、読者を彼が描く子どもたちの世界にうまく引き込んでくれます。
教育基本法の改正や子どもたちのイジメ・自殺が問題になっている時期に灰谷さんが亡くなるとは日本にとって大きな痛手です。子どもと教育をテーマにした作品を数多く発表していた灰谷さんは、ここ最近の日本の子どもと教育を取り巻く現状をきっと苦々しく思っていたことだと思います。
灰谷さんが亡くなったことは大変残念ですが、灰谷作品は今だからこそ多くの子どもや親そして教師たちに読んで欲しいと思います。
*私のお薦め灰谷作品ベスト3
3位 『太陽の子』
神戸の下町を舞台にふうちゃんという一人の女の子の目線から沖縄戦の悲劇を描いたこの作品。沖縄の人たちの苦渋の人生が胸に迫ります。
2位 『私の出会った子どもたち』
灰谷さんが自らの少年時代・青年時代、そして教師時代の出会いを語るエッセイ。この本を読むと彼の作品がどのようにして生まれたのかが分かります。
1位 『兎の目』
この作品を読まずに灰谷さんは語れません。子どもたちの躍動感溢れる姿、新米先生の奮闘する姿は教育とは何か、子どもとはどういう存在か深く考えさせられます。
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