『トンマッコルへようこそ』この映画を見て!
第131回『トンマッコルへようこそ』
今回紹介する作品は昨年に韓国で800万人という記録的観客を動員した反戦ファンタジー映画『トンマッコルへようこそ』です。この作品は元々舞台劇として発表されていたものを映画化したものです。
ストーリー:「朝鮮戦争の最中、『トンマッコル』という桃源郷のような村に迷い込んだ3組6人の兵士たち。北の人民兵3人に、南の韓国軍兵士2人、そしてアメリカの連合国軍兵士1人。最初は村の中で敵同士憎みあっていた北と南の兵士たち。しかし、戦争など知らないトンマッコルの純粋な村人たちの姿に影響を受け、いつしかお互いに憎みあうことを止め心の絆を結ぶまでになる。村での牧歌的な生活は戦闘で疲れ果てた兵士たちの心と体を癒し、失われていた人間性を回復させる。しかし、村にも次第に朝鮮戦争の危機が迫ってきていた。そのことを知った6人の兵士たちは村を守るために力を合わせて大きな敵と戦うことを決める。」
この作品に関しては私の好きな久石譲が音楽を担当していると言うことで、昨年からずっと注目をしていました。日本での公開を楽しみにしながら、韓国で先行発売されたサントラだけは事前に購入して聞いていたものでした。(このサントラは音が悪いです。買うなら今発売されている日本版を買ってくださいね。)久石さんの音楽はまるで宮崎作品を彷彿させるような音楽で、幻想的で心温まる旋律が耳に心地よく、何度も聴いたものでした。音楽を聞けば聞くほど一体この音楽がどのような映像に付いているのかとても気になったものでした。
韓国公開から1年後、やっと日本でも公開され、私もすぐに劇場に駆けつけ鑑賞しました。最初見たときは久石さんの音楽がどのように使われているかに目が行ってしまったのですが、ファンタジックな映像に久石さんのファンタジックな音楽が見事に融合されていました。なぜ監督が久石さんに音楽を頼んだのかよく分かりました。(監督は昔から久石さんのファンだったようで、自分の作品で久石さんに音楽を担当してもらうのが夢だったようです。)
私がこの作品で一番印象的なシーンは、農作業や狩りを通していがみ合う兵士たちが仲良くなっていくところです。特に猪の肉を食べるうちに険しい表情だった兵士たちの顔に笑みがこぼれるシーンは、人間の幸せとは何かをハッと気付かされました。美味しいものを食べるという当たり前のことが人間を幸せにしてくれるということをこの映画は教えてくれます。
また私がこの映画で一番ほろっと泣いたシーンは北と南の兵士たちが村の中で初めて出会い、雨の中でいがみ合っているところに村の少女ヨイルが現れ、兵士の顔を布でそっと拭うところです。なぜか見ていて、切なさで胸がいっぱいになってしまいました。
前半の銃や爆弾など戦争を知らないトンマッコルの村人と兵士たちのちぐはぐなやり取りは、見ていてとても可笑しく、それでいて戦争の愚かさがよく伝わってくる名シーンでした。
この作品は心温まるファンタジー映画のように宣伝されていますが、実際はかなり強いメッセージ性を持った反戦・反米映画です。私も途中まではほのぼのとした癒し系の作品だと思って見ていたのですが、後半から徐々にシリアスな展開となっていきます。あまりにも辛い展開に私も胸が何度も締めつけられました。
ラストもある意味とても哀しい結末なのですが、なぜか清々しく希望に満ちた仕上がりになっています。兵士たちのラストシーンの笑顔。それは未来への希望が託されていると思います。
この映画は朝鮮戦争による南北分断の悲劇と南北統合への祈りが込められています。この作品を見ると、大国の思惑や思想に翻弄され、同じ民族が憎みあい、武器を持ち殺し合うことの滑稽さや哀しみが身にしみて分かります。この映画が韓国でなぜ大ヒットしたのか、そこには韓国の人たちの平和と民族統一の願いが背景にあるのでしょう。それに関しては日本人にはピンとこないところがありますが、南北分断には日本の戦前の植民地政策も影響していたりして、決して関係ないわけではありません。それに日本の経済復興は朝鮮戦争のおかげでもあるわけで、日本人も間接的にあの戦争には関わっています。そう考えるとこの映画は日本人にとっても胸の痛む映画です。
私の中でこの映画は今年の映画Best5に入るほど傑作だと思っています。笑って、泣いて、いろいろ考えさせてくれる作品『トンマッコルへようこそ』。ぜひ多くの人に見て欲しいです。
製作年度 2005年
製作国・地域 韓国
上映時間 132分
監督 パク・クァンヒョン
原作 チャン・ジン
脚本 チャン・ジン 、パク・クァンヒョン 、キム・ジュン
音楽 久石譲
出演 シン・ハギュン 、チョン・ジェヨン 、カン・ヘジョン 、イム・ハリョン 、ソ・ジェギョン 、スティーヴ・テシュラー 、リュ・ドックァン 、チョン・ジェジン 、チョ・ドッキョン 、クォン・オミン
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