『父親たちの星条旗』この映画を見て!
第125回『父親たちの星条旗』
「戦争を終わらせた一枚の写真。その真実。」
今回紹介する映画は太平洋戦争においてアメリカにとって最大の激戦地だった硫黄島の戦いを描いた『父親たちの星条旗』です。この映画はハリウッドの戦争映画にはしては珍しく日米双方の視点から硫黄島の戦いを描く2部構成の作品となっており、その第一部として公開されました。第一部はアメリカ軍の兵士の視点から描いています。硫黄島の擂鉢山に星条旗を掲げる6名の兵士を写した有名な戦争写真。その裏側に秘められた無名の兵士たちの人間ドラマと硫黄島の激戦の様子が生々しく描かれます。
この映画の大きな特徴として、他のハリウッドの戦争映画のように戦争を単なる美談として扱っていないところがあります。この映画は戦争で生き残り、国家に英雄として祭り上げられた兵士たちの苦悩や戸惑いといったものを淡々と描き出します。そして国家や戦争という大きな舞台の中で翻弄される兵士たちの哀しみや虚しさといったものを観客に訴えかけます。監督であるクリント・イーストウッドは硫黄島2部作を撮るに当たって次のようなコメントを発表しています。
「自分がこれまで観てきた戦争映画はどちらかが正義でどちらかが悪だと描いていた。しかし、人生も戦争もそういうものではないのだ。」
このコメントが表すとおり、この映画は戦争が如何に兵士たちの人生に影響を与えるかを淡々と綴った作品です。
イーストウッド監督は無駄のない簡潔さと感情を押さえた演出に定評があります。この映画でもテーマを前面に押し出したり、変に感情に流されることなく、淡々とした語り口が非常に印象的です。
話しの展開も巧みで、現在のアメリカ、激戦の硫黄島、戦中戦後のアメリカの3つの時代を縦横無尽に往き来する展開なのですが、時代が移り変わっても兵士たちの心の傷は癒えないということを見事に表現していています。
また彼の映画は現実の嫌な面を真正面から描いたものが多いのです。この映画でもネイティブアメリカンへの差別や戦場で味方によって撃たれる兵士、兵士たちを利用する政治家や経営者、彼氏が英雄となったことで自分もセレブ気取りになった恋人の登場など見たくないシビアな現実がこれでもかと描かれて、気が滅入ってしまいました。
この映画は制作にスピルバーグが関わっており、戦闘シーンは『プライベートライアン』並に生々しく迫力に満ちた仕上がりになっています。湾を埋めつくす何百もの艦船シーンは見ていて壮観ですし、硫黄島に向けて何千発もの砲弾が打ち込まれる場面はその迫力に圧倒されてしまいます。また目も背けたくなるほど結構エグイ描写も多いのですが、その描写が戦争の虚しさや悲しさというものを際だたせていました。どこからともなく飛んでくる銃弾や砲弾。さっきまで喋っていた仲間が次の瞬間には死体となってしまうあっけなさ。死と隣り合わせの兵士の緊張感や恐怖といったものが見ているだけで伝わってきます。この映画を見ると戦争というものが如何に悲惨なものかよく分かると思います。
私はこの映画を見て、一番印象に残ったのはネイティブアメリカンであるヘイズの人生がとても印象的でした。かつて自分たちを征服した白人の為に兵士として戦いながらも、本国では白人に差別される彼の姿を見るとつらくて胸が締めつけられそうでした。
映画のラストは涙なしでは見られないほど感動的で美しい場面です。またエンドロールも席を立たずじっつ見ていて欲しいです。この映画は戦争で死んでいった兵士たちへの哀悼の意を讃えた鎮魂歌です。
12月には硫黄島2部作目の日本側から描いた『硫黄島からの手紙』が公開されます。イーストウッド監督がどのように日本兵を描くのか今から楽しみです。
製作年度 2006年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 132分
監督 クリント・イーストウッド
原作 ジェームズ・ブラッドリー 、ロン・パワーズ
脚本 ポール・ハギス 、ウィリアム・ブロイルズ・Jr
音楽 クリント・イーストウッド
出演 ライアン・フィリップ 、ジェシー・ブラッドフォード 、アダム・ビーチ 、ジェイミー・ベル 、バリー・ペッパー 、ポール・ウォーカー 、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー 、ジョン・スラッテリー 、ロバート・パトリック
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» 「父親たちの星条旗」見てきました [よしなしごと]
今年90本目(映画館のみカウント)は父親たちの星条旗を見てきました。 [続きを読む]
受信: 2006年11月 7日 (火) 22時52分
» 温度差がすごい 「父親たちの星条旗」 [平気の平左]
評価:85点 [続きを読む]
受信: 2006年11月 7日 (火) 23時05分
» 父親たちの星条旗・・・・・評価額1700円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
一枚の有名な写真がある。
太平洋戦争の激戦地、硫黄島の擂鉢山の山頂に、星条旗を突き立てる6人のアメリカ兵を写したものだ。
1945年2月23日にAP通信のジョー・ローゼンタールによって撮影され、ピューリッツァー賞を受賞... [続きを読む]
受信: 2006年11月 7日 (火) 23時14分
» 父親たちの星条旗 [ネタバレ映画館]
迫力ある硫黄島上陸シーン。血圧が上がって倒れるかと心配したけど、正常値だったようだ。 [続きを読む]
受信: 2006年11月 7日 (火) 23時15分
» 父親たちの星条旗 [ゆっくり、長く走るには...]
一枚の写真に秘められた真実を描いた「父親たちの星条旗」を観るまで、この写真は米 [続きを読む]
受信: 2006年11月 7日 (火) 23時44分
» 映画「父親たちの星条旗」 [しょうちゃんの映画ブログ]
2006年60本目の劇場鑑賞です。公開当日レイトショーで観ました。「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」のクリント・イーストウッド監督作品。太平洋戦争で壮絶を極めた硫黄島での戦いを、アメリカ側、日本側それぞれの視点から描く2部作の第1弾。硫黄島の...... [続きを読む]
受信: 2006年11月 7日 (火) 23時48分
» ★「父親たちの星条旗」 [ひらりん的映画ブログ]
クリント・イーストウッド監督の「硫黄島二部作」の第一弾。
日米決戦の激戦地・硫黄島を日米両方から撮るという趣向。
[続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 00時27分
» 父親たちの星条旗/Flags of Our Fathers [我想一個人映画美的女人blog]
クリントイーストウッド監督×ポールハギス脚本!
と言えば、アカデミー賞作品賞『ミリオンダラー・ベイビー』コンビ。
+スティーヴンスピルバーグが製作に加わって2部作として描いた話題作{/star/}
ということで、意識してなくてもちょっと期待しちゃっていたかもしれない。
イーストウッド、1971年に初監督した『恐怖のメロディ』から、
これで27本目!となる監督作品{/face_sup/}... [続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 01時00分
» 父親たちの星条旗 [タクシードライバー耕作のDVD映画日誌]
製作年度 2006年
製作国 アメリカ
上映時間 132分
監督 クリント・イーストウッド
原作 ジェームズ・ブラッドリー 、ロン・パワーズ
脚本 ポール・ハギス 、ウィリアム・ブロイルズ・Jr
音楽 クリント・イーストウッド
出演 ライアン・フィリップ 、ジェ....... [続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 05時17分
» 「父親たちの星条旗」 Flags of Our Fathers [俺の明日はどっちだ]
残酷なまでにリアルでスケール感のある戦闘シーンがたびたび描かれながら、そこから伝わってくるのはとても静かでクールにすら感じられる問いかけ。「戦争とは」「英雄とは」そして「誰のために戦い、死ぬのか」。
太平洋戦争における最も象徴的な写真のひとつとして知られる「硫黄島の星条旗」にまつわる実話の映画化であるこの作品、ここには戦争映画にありがちの声高な主張もヒステリックなメッセージも一切見受けられない。
あ�... [続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 11時01分
» JR [JR]
JR [続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 18時37分
» 勝っても負けても戦争に英雄などいない!【父親たちの星条旗】(2006年15本目) [ON THE ROAD]
映像技術の進化とともに映画が変わりつつあるような気がする。
いや歴史の語り部として新しい力が生まれつつあるというべきかも。
この前観た『ワールド・トレードセンター』に続き、
今回も観終わった後にそんな印象を受けた。
あらすじなどは、
こちらの『父親たちの星条旗』公式HPや
goo映画の『あらすじと解説』をご参照ください。
この映画には原作がある。
第二次世界大戦の日米の戦い【太平洋戦争】の中で最大の激戦の一つ... [続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 20時18分
» ■〔映画鑑賞メモVol.14〕『父親たちの星条旗』(2006/イーストウッド)& more... [太陽がくれた季節]
1.『サラバンド』(2003/ベルイマン)鑑賞プチ・メモ≪→こちら≫
2.『父親たちの星条旗』(2006/イーストウッド)鑑賞メモ≪→こちら≫
3.『百年恋歌』(2005/ホウ・シャオシェン)鑑賞前メモ≪→こちら≫
おはようございます、ダーリン/Oh-Wellです。
11月4日の朝を迎えました。^^
11月3日の「文化の日」を含むこの3連休、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
さて、この3連休を使って、紅葉見物〔◆全国紅葉名所カタログ2006~Walkerplus〕に出かけら... [続きを読む]
受信: 2006年11月 8日 (水) 23時35分
» 「父親たちの星条旗」は言っている。 [やまたくの音吐朗々Diary]
2日連続でクリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」を観賞。脚本はポール・ハギス、ウィリアム・ブロイルズJr. 。出演はライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチほか。クリント・イーストウッドといえば、「許されざる者」「ミスティック・... [続きを読む]
受信: 2006年11月 9日 (木) 00時03分
» 嵐・二宮くん世界制覇に向けての●●● [芸能界最近注目の●●●]
米俳優のクリント・イーストウッドがメガホンを取った「硫黄島からの手紙」(12月9日公開)に日本兵役でハリウッドデビューした「嵐」の二宮和也くん [続きを読む]
受信: 2006年11月17日 (金) 16時32分
» 「父親たちの星条旗」 [ば○こう○ちの納得いかないコーナー]
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太平洋戦争の末期、アメリカ軍は日本攻略の為に、首都・東京から南に約1,200km離れた或る島の制圧が不可欠との結論に達する。東西8km、南北4kmのこの島は、到る所で地熱が発生し、温泉も湧き出す火山島で、硫黄島と呼ばれていた。
当時のアメリカ軍は連日マリアナ諸島から爆撃機を発進させ、日本本土への攻撃を行っていたのだが、その経路に在り日本の領土で在った硫黄島はアメリカ軍の襲撃を本土に�... [続きを読む]
受信: 2006年11月19日 (日) 03時07分
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