『エイリアン』この映画を見て!
第116回『エイリアン』
「宇宙での悲鳴は誰にも聞こえない・・・」 今回紹介する映画はSFホラーの古典的名作『エイリアン』です。この作品はシリーズ化され4作制作され、『エイリアンvsプレデター』という番外編まで制作されました。エイリアンシリーズの特徴は作品ごとに監督が交代しており、どの作品も監督の個性が反映されたものになっています。そんなエイリアンシリーズでも一番評価の高いのはやはり1作目です。1作目は当時まだ新人だったリドリー・スコットが監督を務め、独特な映像美と緊張感溢れる演出が好評を呼びました。この映画の後にカルト的人気を誇る近未来SF映画『ブレード・ランナー』の監督も務め、光と影を巧みに操る映像の魔術師と呼ばれるようになりました。
私がこの映画を初めて見たのは小学1年生の時だったのですが、あまりの怖さにまともに見られませんでした。当時はホラー映画など全く見たことがなかったので、顔にへばり付いたり、腹を突き破って出てくるエイリアンに大変衝撃を受けたものでした。またロボットが人間を襲うシーンも強烈で、当時は給食で牛乳が出るたびにあのシーンを思い出していました。
この作品の一番の魅力はエイリアンというクリーチャーにあります。生物の体内に一定期間寄生して成長すると同時に、強酸の体液とあらゆる環境に適応する強靭な肉体を持つという完全無欠な生命体として設定されたエイリアン。そんなエイリアンの凶暴さと人間の無防備さが1作目は一番よく描かれています。
映画の中では成体となったエイリアンの姿は一瞬だけ頭部や口元、尻尾などが映る程度です。なかなか姿を見せないエイリアンによって人が襲われるシーンは、見えない敵ゆえの恐怖を感じさせます。
当時鬼才のデザイナーであったH.R.ギーガーによって創造されたエイリアンの姿は無機質な昆虫といった感じで生理的嫌悪感を見る者に与えます。それと同時に男性のペニスをイメージしてデザインされた頭部は何とも言えないエロティシズムを感じさせます。監督はこの映画で性の恐怖を描いたそうです。エイリアンによって人間が襲われるシーンは男性による女性へのレイプをイメージしているそうです。映画のラストの下着姿のリプリーにエイリアンが襲われるシーンは特に性の恐怖を想起させるシーンです。
この映画のストーリー自体はとてもありふれたものであり、人間が閉鎖された空間で怪物に襲われるというホラー映画の王道のようなストーリーです。しかし、この映画が他の映画とひと味違うところはヒロインを守るヒーローが不在で、ヒロインが自ら闘って生き残るというところにあります。今ではそのような映画はありふれていますが、おそらくこの映画がそのようなヒロイン像を初めて打ち出した作品だと思います。この映画は女性の男性の理不尽な暴力に対する恐怖を描くと共に、女性が男性を打ち負かすという女性の時代の台頭を描いた作品となっています。
映画の演出は前半は船内での機関士の様子が淡々と描かれ少し退屈なのですが、後半のエイリアンが機関士を襲撃するシーンからラストにかけては恐怖と緊張の連続で終始手に汗握ります。
美術も大変素晴らしく、他のSF映画にはない芸術性があります。宇宙船のセットは生活感に溢れており、今見ても嘘くさくありません。逆にエイリアンの宇宙船は不気味でありながら幻想的な雰囲気を感じさせます。
この映画は娯楽作品としても芸術作品としても一級の作品です。この作品を超えるSFホラーは未だ現れていないと思います。
製作年度 1979年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 118分
監督 リドリー・スコット
製作総指揮 ロナルド・シャセット
脚本 ダン・オバノン
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 トム・スケリット 、シガーニー・ウィーヴァー 、ジョン・ハート 、ヤフェット・コットー 、ハリー・ディーン・スタントン
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コメント
こんわんわ。この映画はSFホラーを芸術にまで高めた作品ですよね。リドリー・スコットはこの頃が一番脂がのっていたと思います。
投稿: アシタカ | 2006年10月 9日 (月) 22時05分
こんばんは。
TVでやっていたのをチラっと見たことがあるくらいだったので、改めて見直してしまいました。
「見えているのに、その恐怖の正体がわからない」というのがこれほどまでに怖いのかと恐ろしくなりました。
SF映画としても素晴しいと思いますが、ホラーとしても充分通用しそう。
投稿: chibisaru | 2006年10月 4日 (水) 04時15分
はじめまして。TBありがとうございました。
こちらからもTBさせていただこうかと思ったのですが、TBいただいた私どものエントリは、作品の感想というよりもDVDツインパックの話になっていますので、今回は控えさせていただきます。
『エイリアン』『エイリアン2』ともに私も今でも大好きな大好きな作品です。
『エイリアン』の芸術性、『エイリアン2』のエンターテーメント性、どちらも甲乙つけがたいのですが、リプリーのキャラが『2』の方が好きなので、私の中では『2』が少し上をいっております。
そして、『3』『4』は単体ではまずまずの作品かと思いますが、私の中では「エイリアン」シリーズには入れておりません(笑)
投稿: けろにあ | 2006年10月 2日 (月) 18時21分