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2006年10月

『ほしのこえ』この映画を見て!

第123回『ほしのこえ』
Hosinokoe  今回紹介する作品は携帯メールをモチーフとした、宇宙で異星人と戦う少女と地球に残った少年の超遠距離恋愛を描いたフルCGアニメ『ほしのこえ』です。この作品は新海誠監督がほぼ一人で、作画から動画、背景に至るまで全て手がけた自主制作アニメということで大変話題になりました。
 
 ストーリー:「2046年、埼玉の中学校に通う長峰美加子と寺尾昇は部活が同じで、とても仲が良かった。しかし、長峰が国連宇宙軍のロボットパイロットのメンバーに選抜され、寺尾を残して宇宙に旅立ってしまう。2人は携帯のメールを使ってやり取りをする。だが長峰が地球から離れれば離れるほどメールのやり取りに時間がかかるようになる。2人の距離が離れるにつれて、時間のズレがどんどん広がっていく。しかし、どんなに距離が離れても、お互いの思いは決して離れることはなかった・・・。」
 
 この作品は25分の短編の作品ですが、とても密度の濃い作品です。ストーリーはとても切ないものですが、人間の絆の強さを感じることができます。遠く離ればなれになった恋人同士のお互いに寄せる思い。それを携帯メールという現代的なツールを使って見事に描いています。人が人に寄せる思いというものは信頼という絆があれば、時空を超えて結びつくことができるものだということをこの映画は教えてくれます。
 映像も自主制作とは思えないほどクオリティが高いです。特に背景の美しさは特筆もので、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。また戦闘シーンもエヴァンゲリオンの影響を強く感じますが、迫力満点で見応えがあります。
 ただキャラクターデザインに関してはもうひとつ魅力に欠けていたような気がしました。
 
 この作品は見ていて、『エヴァンゲリオン』や『トップをねらえ』などGAINAX作品の影響を強く感じました。止め絵の多さや戦闘シーンの描き方、主人公とヒロインの人間関係だけに焦点を当てたセカイ系のストーリーなどはエヴァを思い出させました。また少女がロボットのパイロットになって異星人と戦うところやウラシマ効果を活かしたストーリーなどは『トップをねらえ』を思い出させました。この作品は過去のGAINAX作品へのオマージュを強く感じました。

 この作品はMac一台で個人が制作したアニメとは思えないほど見応えのある作品です。粗も多く見られますが、アニメ好きなら一度は見て損はないと思いますよ。

製作年度 2002年 
製作国・地域 日本
上映時間 25分
監督 新海誠 
脚本 新海誠 
音楽 天門 
出演 篠原美香 、新海誠 、武藤寿美 、鈴木千尋

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永遠の嘘をついてくれ~つま恋コンサート2006~

 9月23日に静岡県掛川市で行われた「吉田拓郎&かぐや姫コンサートinつま恋2006」に中島みゆきがゲスト出演し大変話題になりました。私もBSで放映されていたコンサートをたまたま見ていて、中島みゆきが登場したときはびっくりしました。まさか中島みゆき本人が他の人のコンサートに出るとは思いもしませんでした。中島みゆきが登場したのはコンサートの後半、吉田拓郎が「永遠の嘘をついてくれ」を歌い始めたときでした。この歌は中島みゆきが吉田拓郎のために作詞・作曲した曲です。中島みゆきはデビュー前に吉田拓郎の歌に傾倒していたそうです。そんな吉田拓郎から「夢のない中年男だから夢のない歌を作ってくれ」と頼まれた中島みゆきが提供した曲が「永遠の嘘をついてくれ」です。この曲は吉田拓郎に嘘でもいいから夢を追ったふりをして生きてくれという中島みゆきの思いが込められた歌です。この歌は中島みゆきから吉田拓郎に熱いエールを送った曲でもあり、憧れのシンガー吉田拓郎に中島みゆきが送ったラブレターでものです。
 つま恋で「永遠の嘘をついてくれ」を吉田拓郎と中島みゆきが2人でデュエットした時は胸が熱くなりました。吉田拓郎が緊張したのも頷けます。一曲だけ歌い、颯爽と去ってゆく中島みゆきの姿はとても格好良かったです。 
Paradaisu_1  ちなみに「永遠の嘘をついてくれ」は中島みゆき自身もセルフカバーしており、アルバム『パラダイスカフェ』に収録されています。

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エニグマのCD

Enigma1  今回はヒーリング・ミュージックの先駆けとなったエニグマのCDを紹介したいと思います。エニグマは1991年にヴァージン・レコードからアルバム「サッドネス(永遠の謎).」をリリースしてデビューしました。はグレゴリオ聖歌とクラブやストリートから生まれたグランドビートを大胆に融合した音楽でヨーロッパの音楽に衝撃を与え、一躍大ヒットとなりました。その後も「2~ザ・クロス・オブ・チェンジ」(94年)・「エニグマⅢ」(96年)「ザ・スクリーン・ビハインド・ザ・ミラー 」(00年)「ボヤジュール」(03年)「ア・ポウステリオーリ 」(06年)と6枚のアルバムをコンスタントに発表しています。彼らの作品は当初はヒーリングミュージックとして人気を呼んでいましたが、近年の作品は単なるヒーリング・ミュージックの枠を超えたものとなっており、プログレッシブ・ロックやテクノの色が非常に強くなっています。
 
 デビュー当初はエニグマというプロジェクト名以外明らかにされず、数多くの憶測を生みました。しかし、アルバム発売から1ヶ月後にドイツで活動するキーボード奏者にして、音楽プロデューサーのマイケル・クレトゥが中心となったプロジェクトであることが発覚しました。マイケル・クレトゥはハンガリー生まれで、若いときはクラッシックのピアニストを目指していたそうです。しかし、挫折し、ポップミュージックの世界に転身したそうです。彼の創り出す音楽の大きな特徴として、ヨーロッパでブームとなっていたプログレッシブ・ロックやグランドビート、テクノなど様々なジャンルの要素を巧みに融合したサウンドがあります。特にエニグマでのクレトゥが創り出すサウンドはその特徴が顕著です。
  
 私がエニグマを初めて知ったのは大学の時で、当時ブームとなっていたヒーリング・ミュージックのコンピレーションCDを買った際にエニグマの曲「リターン・トゥ・イノセンス 」が入っていました。その曲を初めて聴いたときはあまりにも素晴らしい曲で聴いていて鳥肌が立ってしまいました。それからエニグマの虜になってしまい、CDを購入しては何回も聴きまくっています。
 エニグマの魅力は聴いていて心地の良いビート、官能的で哀愁漂うサウンド、民族音楽を取り入れたスピリチュアルな雰囲気にあります。エニグマのサウンドやメッセージは決して明るいものではなくどちらかというと切なくてダークな感じのものが多いのですが、聴く者の心を落ち着かせる力があります。
 エニグマのCDをずうと聴いていると、日常から非日常の世界にトリップしたような浮遊感覚に陥ります。その心地よさは一度はまると病みつきになります。
 
 ヒーリング・ミュージックが好きな人、プログレやテクノが好きな人、トランスやダンスミュージックが好きな人、ぜひ一度エニグマを聴いてみてください。

 ちなみに私のお薦めアルバムは「サッドネス(永遠の謎).」(91年)・「2~ザ・クロス・オブ・チェンジ」(94年)・「ボヤジュール」(03年)の3枚です。
Enigma1_1  「サッドネス(永遠の謎).」はエニグマを語る上で外せないアルバムですし、グレゴリアン聖歌とグランドビートの融合した独自の音楽世界は聴く者を別世界に誘います。この作品は荘厳でありながら、官能的であり、叙情的でもあり、聴いていて心が落ち着きます。

Enigma2  「2~ザ・クロス・オブ・チェンジ」は、1作目よりポップな作品が多く聴きやすいです。中でもアフリカのアミ族の声をフューチャーした「リターン・トゥ・イノセンス」がとても素晴らしい曲で、スピリチュアルな世界に浸れます。

                                          
Enigma3  「ボヤジュール」はエニグマの新境地を見せたアルバムで、ヒーリング・ミュージックの枠を大きく超えた作品となっています。どちらかというとプログレの要素が強い作品です。

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『大猟奇』街を捨て書を読もう!

『大猟奇』 著:唐沢俊一(作)、ソルボンヌK子(画)  幻冬舎文庫
Ryouki  今回紹介する本は心臓の弱い方にはお勧めできない世界各地のエログロな話題を集めた悪趣味漫画エッセイ『大猟奇』です。
 この本の作者の唐沢俊一はフジテレビの『トリビアの泉』のスーパーバイザーを務めた雑学王です。この本はそんな作者のエロ・グロ・猟奇的殺人に関する知識を披露した素晴らしく悪趣味な本です。寄生虫、ゲテモノ食い、ハードSM、屍姦、猟奇殺人と紹介される実話のエピソードはどれも鳥肌が立つほど気持ち悪く、嫌悪感を抱くものばかりです。この本を読んでいると、人間のアンダーグラウンドな一面にただただ驚愕すると同時に、人間っていう生き物の奥深さを改めて認識させられます。
この本は最初読んだときは怖いもの見たさで読んでいたのですが、何回か読み返す内に人間の哀しい性みたいなものすら感じるようになりました。登場する変態さんや殺人者の行動はどれも反倫理的・反道徳的であり、決して社会的に共感されるものではありません。しかし、彼らの行為はまたとても人間臭いものをを感じます。彼らの一般的には愚かとされる行為や理解されない行為に人間の切なさや滑稽さ、そして愛おしさすら感じました。
 この本は誰でも読んで楽しめるようなものではありませんが、好奇心旺盛な人や人間の奥深さについて知りたい人には是非読んで欲しいです。
*内容
F脳天気
ウワサの真相
悲しい死体
王様のレストラン
イカレたハートで
万病に効く死体
戦中戦後紙芝居集成
青春人生相談
潔癖症
日本屍姦史〔ほか〕

Ryouki2  ちなみにこの本には続編『世界の猟奇ショー 』(幻冬舎文庫)があり、そちらも併せて読むことをお薦めします。
 

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『夜会の軌跡』

『夜会の軌跡』
Yakai_kiseki  今回紹介するDVDは89年から行われてきた中島みゆきの「夜会」の第1回目から「夜会VOL.12ウィンター・ガーデン」までの名曲&名場面を収録した『夜会の軌跡』です。
 夜会は言葉の実験劇場として、コンサートでも演劇でもミュージカルでもない、中島みゆき独自のパフォーマンスとして発表されてきました。第10回目までは毎年的にシアターコクーンで行われていたのですが、第11回目からは不定期になり、今年公開された第14回目から場所もシアターコクーン以外の会場で行われるようになりました。夜会のチケットは高価な上にとても入手が困難なプラチナチケットとなっており、生のステージを見に行くのはとても困難な状況になっています。そのような状況でDVDにより夜会のステージを鑑賞できる機会がもてるのは嬉しい限りです。(もちろん生のステージの方が100倍素晴らしいですよ。)
 さて今回のDVDですが今までの夜会のベストDVDということで、各夜会の名場面が収録されています。第1回目から第10回目までの夜会はすでに映像化された作品がDVDで発売されており、各作品から1曲ずつ名場面が収録されています。曲の選択や各映像の切り方などはファンからすると微妙ではありますが、初めて夜会を見る人には夜会の雰囲気がどういうものか少しではありますが感じることができると思います。もし、このDVDを見て各作品に興味をもったなら、各作品単体のDVDを購入してください!
 このDVDの一番の見所は今まで映像未公開だった夜会vol11&vol12の「ウィンターガーデン」が収録されている所です。私はこの映像が見たいが為だけにDVDを購入したようなものでした。私は「夜会vol11 ウィンターガーデン」をシアターコクーンに見に行っており、とても素晴らしい作品だったので映像化をずっと希望していたものでした。そんな「ウィンターガーデン」の映像がほんの少しとはいえ収録されているのは嬉しい限りでした。ただあまりに収録時間が短いので出来れば全編収録されたDVDも発売して欲しいです!
 「ウィンターガーデン」は北海道の湿原に立つ家を舞台に、女と犬と槲の木というお互いに言葉が通じない3者を主人公に、全編を詩の朗読と歌だけで綴るという異色のステージでした。輪廻転生をテーマにしたストーリーは難解ではありましたが、生きることの切なさや孤独感、哀しみ、そしてめくるめくる命の尊さが伝わってくる素晴らしい作品でした。特に私が見に行ったvol11では谷山浩子が共演しており、中島みゆきに勝るとも劣らない歌唱力を披露し、とても豪華なステージでした。
 今回のDVDではウィンターガーデンの中でも特に印象的な曲『六花』と『記憶』が収録されており、あのステージの感動が甦ってきました。(できれば『天使の階段』も収録して欲しかったですが・・。)このシーンが見られただけでもDVDを購入してよかったと思いました。
 あとこのDVDは全曲5.1CH化されている点が素晴らしく、音の迫力が今までのDVDよりも改善されています。もしかしたら近いうちに全DVD5.1CH化されるのかもしれません。
 このDVDは今まで夜会のDVDを持っている人も、夜会を知らない人にもお奨めできるDVDです。

1. 二隻の舟  (95年「夜会展」より)
2. ふたりは  (「夜会1990」より)
3. キツネ狩りの歌 - わかれうた - ひとり上手 (「夜会vol3 KAN 邯鄲 TAN」より)
4. 砂の船 (夜会vol4 金環蝕」より)
5. まつりばやし  (夜会vol5 「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に」より)
6. 黄砂に吹かれて - 思い出させてあげる (夜会vol6 「シャングリラ」より)
7. 紅い河  (夜会vol7 「2/2」より)
8. あなたの言葉がわからない  ((夜会vol8 「問う女」より)
9. 白菊  (夜会vol10 「海嘯」より)
10. ツンドラ・バード - 陽紡ぎ唄 - 朱色の花を抱きしめて (夜会vol11「ウィンターガーデン」より)
11. 六花  (夜会vol11「ウィンターガーデン」より)
12. 街路樹  (夜会vol12「ウィンターガーデン」より)
13. 氷脈  (夜会vol12「ウィンターガーデン」より)
14. 記憶  (夜会vol12「ウィンターガーデン」より)

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『ルパン三世 カリオストロの城』この映画を見て!

第122回『ルパン三世 カリオストロの城』
Kariosutoro  今回紹介する映画は宮崎駿監督の初の劇場公開作品であり、今なお絶大な人気を誇る傑作アクション映画『ルパン三世 カリオストロの城』です。この作品は当時人気のあったアニメ『ルパン三世』シリーズの劇場第2作目として制作されました。1作目の『ルパンVS複製人間』は10億円を超える大ヒットをしたのですが、意外にも『カリオストロの城』は公開当時は興行的には不振に終わりました。しかし、評論家からは絶賛され、海外で公開されたときは絶大な人気を誇りました。スピルバーグ監督やキャメロン監督などハリウッドのヒットメーカーもこの作品を高く評価しています。(キャメロン監督の『トゥルーライズ』のオープニングはこの映画の影響が強いです。)
 私はこの映画をテレビで放映されたときに見たのですが、あまりの面白さに画面に釘付けになったものでした。何と言ってもアニメならではの表現を活かしたアクションシーンが素晴らしいです。前半のカーチェイスシーンのダイナミックさとスピード感、中盤の城内潜入シーンの緊張感と躍動感、そして後半の時計台での伯爵との激しい攻防戦とアクションの見せ方がとても巧みです。この映画を見て、アニメという表現の素晴らしさというものを実感したものでした。
 ストーリーもお城に囚われたお姫様を救出するという冒険活劇映画では王道な展開ですが、見せ方の上手さとテンポの良さで一瞬たりとも飽きさせません。愛とロマンとスリルに満ち溢れたストーリーを時にコミカルに、時にシリアスに描く手腕はさすが宮崎監督です。
 映画のルパンは原作のルパンの性格を改変して善人として描いています。宮崎監督はルパンを善人として描くために、原作よりも年齢を高めに設定して描いたそうです。原作ファンからは不評ですが、私はこの映画の年を取り、丸くなったルパンが大好きです。中年の男性の渋い魅力が見事に描かれています。
 またルパンを始めとして次元・五右衛門・不二子・銭形警部と各キャラクターに見せ場があり活き活きと活躍しているのも嬉しい限りです。特に銭形警部は脇役ながら、誰しもが知っている有名なラストのセリフのおかげで強烈な印象を残します。この映画のヒロインであるクラリスも宮崎アニメのヒロインらしく可憐さと気丈さを兼ね備えた印象的なキャラクターです。
 この映画は今見ても一級の娯楽作品であり、宮崎監督の映画の中でも最高に面白い作品だと思います。 
 
製作年度 1979年 
製作国・地域 日本
上映時間 100分
監督 宮崎駿 
原作 モンキー・パンチ 
脚本 宮崎駿 、山崎晴哉 
音楽 大野雄二 
出演 山田康雄 、小林清志 、増山江威子 、井上真樹夫 、納谷悟郎 、島本須美 、石田太郎 、宮内幸平 、永井一郎 、山岡葉子 、常泉忠通 、寺島幹夫 、野島昭生 、阪脩 

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宮崎学の本

 私の尊敬する作家に宮崎学がいます。彼は自分のことをアウトロー作家と呼び、国家権力や戦後民主主義に鋭い批判を投げかける一方、ヤクザなどのアウトローへ親近感を寄せる文章を数多く発表しています。
 彼は1945年京都のヤクザの組長の下に生まれ、早稲田大学時代は共産党に入り、ゲバルト体調として数々の活動を指揮するも、共産党に幻滅し脱退。『週刊現代』の記者として何年か過ごした後に、実家の解体業を継ぎ、バブル時代は地上げ屋などもしていたそうです。しかし、解体業が上手くいかず倒産し、莫大な借金を抱えたそうです。森永・グリコ事件の時は重要参考人として警察にマークされた時期やヤクザに銃で腹を撃たれる等数々の修羅場をくぐり抜け、自伝的作品『突破者』でデビューして、ベストセラー作家になります。その後は、裏社会の実態や国家権力に対する批判を書いたノンフィクションや伝説的アウトローを描いた小説を数多く発表しています。近年、『近代の奈落』という被差別部落解放運動を追ったルポにて自らが被差別部落出身であることを発表し話題になりました。
 私が彼の作品と初めて出会ったのは大学生の時でした。その当時は左翼に傾倒しており、マルクス主義の本や国家権力を批判する本をいくつも読んでいました。その当時は革命を起こして国家が変われば、日本という国家は変わるのでないかと真剣に思っていた時期であり、左翼の運動にも積極的に関わっていました。しかし、左翼の運動家の人たちの組織的(レーニン的)な運動の仕方に疑問を感じてもおり、自分がしていることが本当に正しいことか迷っていた時期でもありました。そんな時期にたまたま彼の本を手に取る機会があり目から鱗が落ちたものでした。彼は元共産党党員でありながら「市民」や「党派性」へ批判的であり、組織的な運動の限界について語っており、まさしく当時の自分が疑問に思っていたことへの答えを得ることが出来て救われたものでした。それ以降、私はあくまでも個を出発点として、アウトロー的に闘っていこうと決めたものでした。
 現在、私は彼の本が出るたびに欠かさず買って読ませてもらっています。彼の本はどれも国家や市民社会に対して厳しい批判を投げかけてる一方、そんな混沌とした時代の中で個人がどう生きていくべきか読者に問いかけます。彼は現代に蔓延する合理主義やクリーンな全体主義を否定すると同時に、どこまでも個を貫き、個として闘うことを読者に訴えます。そんな彼の主張は私にとって大きな励ましです。
  
 私のお薦め作品Best3
 3位『叛乱者グラフィティ 』
Manabu1  60年代の学生・若者による運動は何を意味していたのか? 当時活躍していた運動家たちを招き、当時の様子や現代の社会について熱く語り合います。巻末には中核派にスパイとして疑われた作者の反論も掲載されています。

 2位『近代の奈落』
Manabu3  全国各地の部落を訪ね、運動家に会い、かつてその地で激しく闘いつつ悩み葛藤した、姿をいきいきと描いたルポタージュ。部落問題を通して近代日本とは、部落解放運動とはなんだったのかを読者に問いかけます。

1位『突破者―戦後史の陰を駆け抜けた50年』
Manabu2  ヤクザの組長の息子として生まれ、学生運動に身を投じ、雑誌記者を経て全国指名手配。グリコ・森永事件で犯人「キツネ目の男」に擬された男・宮崎学の自伝的作品。この本を読めば宮崎学が分かります。

宮崎学公式サイト http://miyazakimanabu.com/

宮崎学が責任編集しているサイト『直言』http://web.chokugen.jp/miyazaki/cat69319/index.html


  

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私の映画遍歴8「ゾンビ映画」

Zombie  私の映画遍歴を語る上で外せないジャンルとしてゾンビ映画があります。ゾンビ映画というとB級感が漂い、良識的な映画ファンからは見向きもされないジャンルでありますが、一度はまると病みつきになる魅力があります。
 私が初めてゾンビ映画と出会ったのは小学生の時にテレビで見た『バタリアン』でした。この映画はゾンビ映画の名作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編という形で制作された映画でした。この映画はコメディタッチで描かれており、今見ると大して怖くないのですが、当時は死人が襲ってくる状況が怖くて震え上がったものでした。この映画を見て初めてゾンビ映画というものを意識したものでした。
 そして中学生の時に私をゾンビ映画の虜にしてしまったゾンビ映画の最高傑作『ゾンビ』にめぐりあいました。初めてこの映画に出会ったときは非常に衝撃を受けました。過激なゴアシーン、現代社会を風刺したストーリー、サバイバルアクションとしての面白さ、そして終末観に満ちた雰囲気。今まで見たホラー映画にはない風格といったものを感じ、ビデオを購入して何回も見直したものでした。(恐らく今までに50回以上は見ていると思います。)ショッピングセンターでの人間とゾンビの攻防戦と生き残った人間たちがショッピングモールを占拠する場面はこの映画最大の見所であり、魅力でもあります。私自身この映画を見るたびに自分がショッピングモールに立て籠もったらどう行動すべきかシュミレーションしたものでした。この映画を見ずしてゾンビ映画を語ることはできないと思います。
 『ゾンビ』を見た後、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』・『死霊のえじき』とジョージ・A・ロメロのゾンビ映画を見まくったものでした。ロメロのゾンビ映画は基本的にゾンビが襲う恐怖よりも人間の愚かさや醜さに焦点をあてて描いており、他のゾンビ映画にはない奥の深さがあります。昨年20年ぶりの新作『ランド・オブ・ザ・デッド』が公開されロメロファンを喜ばせした。映画の完成度はもう一つでしたが、ロメロらしい社会風刺が見られ、他のゾンビ映画にはない風格がありました。
 ロメロのゾンビにはまってから、他の監督のゾンビ映画も片っ端からレンタルビデオで借りて見たのですが、『サンゲリア』や『ブレインデッド』など少数の作品を除いては、シナリオがちゃちかったり、ゴアシーンが手抜きだったり外れの作品が多かったものでした。ゾンビ映画で面白いと思える作品はグログロなゴアシーンと大量のゾンビが人間を襲うシーン、そして終末観漂う雰囲気がきちんと描かれています。
 『バイオハザード』や『ドーン・オブ・ザ・デッド』など近年ゾンビ映画が再びブームとなり劇場公開されており、ゾンビ映画ファンとしては嬉しい限りです。特にジョージ・A・ロメロの作品をリスペクトしたコメディタッチのゾンビ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』は久々の傑作でした。
 ゾンビ映画には人間の死に対する恐怖や人間の本来持つ暴力性・残酷さといった面を刺激し、人間の歪んだ欲望を満たしてくれます。
 

 私のお気に入りゾンビ映画 Best5

5位 『バタリアン』
バタリアン
見所:ユニークなゾンビの面々たち。そして衝撃の結末

4位  『サンゲリア』 
サンゲリア
見所:海中でのサメ対ゾンビの対決、目玉串刺しシーン。

3位 『ショーン・オブ・ザ・デッド』
ショーン・オブ・ザ・デッド

見所:イギリスらしいウエットとブラックに富んだユーモアの数々。

2位 『ブレインデッド』
ブレインデッド
見所:プール一杯の血糊を使ったラスト30分の展開の怒濤の展開。

1位 『ゾンビ』 
ゾンビ 米国劇場公開版 GEORGE A ROMERO’S DAWN OF THE DEAD ZOMBIE
見所:この映画を見ずゾンビ映画は語れません!全て見所です。

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『子連れ狼 三途の川の乳母車』この映画を見て!

第121回『子連れ狼 三途の川の乳母車』
The_river_styx  今回紹介する映画はカルト的人気を誇る時代劇『子連れ狼 三途の川の乳母車』です。この映画はタランティーノ監督も大絶賛をしており、『キル・ビル vol1』のラストの青葉屋のチャンバラシーンはこの映画の影響を強く受けています。
 若山富三郎主演による『子連れ狼』シリーズは6本制作されており、今回紹介する映画『三途の川の乳母車』は3作目に当たります。ストーリーは乳母車を押しながら旅する拝一刀と彼の命を狙う柳生一族との激しい闘い、そして阿波藩から依頼された公儀護送役<弁・天・来>の三兄弟の抹殺の任務を描きます。ストーリーは全く無駄がなく、スピーディーに展開していきます。
 この映画の最大の見所はスプラッター映画顔負けの残酷描写です。血が噴き出すのは当たり前で、手足が飛び、頭が二つに割れるなど過激なシーンの連続です。そのあまりの過激さにはもはやギャグと言ってもよく、見ていて嫌な感じはほとんどしません。また大五郎がのる乳母車が様々な仕掛けが装備されており、笑ってしまいます。
 また松尾嘉代がヌードになるシーンがあるのですが、そのシーンがものすごく艶めかしく、目が釘付けになります。
 若山富三郎の刀さばきも格好いいですし、彼の渋さがとても魅力的です。
 この映画は現在日本版DVDは発売されておらず、私も台湾版DVDを購入して鑑賞しました。レンタルビデオで貸し出している所もあるようなので、もし見つけたら借りて見てください。お薦めのカルト時代劇です。

制作年度 1972年 
製作国・地域 日本
上映時間 85分
監督 三隅研次 
製作総指揮 - 
原作 小池一雄 、小島剛夕 
脚本 小池一雄 
音楽 桜井英顕 
出演 若山富三郎 、富川晶宏 、松尾嘉代 、岸田森 、新田昌玄 、鮎川いづみ 、大木実 

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『スピード』この映画を見て!

第120回『スピード』
Speed  今回紹介する映画はノンストップアクション映画の傑作『スピード』です。この映画は次々と危機が訪れる息つく暇のない展開の面白さと主演のキアヌ・リーヴスのかっこよさが受けて大ヒットしました。
 監督はヤン・デ・ボンという人で、この映画が初監督作品でした。彼は『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』等のアクション映画の撮影を数多く手がけており、以前からアクション映画に関するノウハウをたくさん持っていました。この映画ではそんな彼の経験が最大限活かされています。(しかし、この映画以降の監督作品はどれもパットしませんが・・・)無駄の一切ない緊張感溢れる展開やアクションシーンの見せ方の上手さなどはさすが数多くのアクション映画の撮影を手がけてきただけのことがあります。 
 脚本も新人の脚本家グラハム・ヨスト が担当しているのですが、邦画の影響を強く受けています。彼は黒澤明監督が映画化する予定で書いていた『暴走機関車』の脚本や高倉健が出演していた日本映画『新幹線大爆発』を見て、この映画のアイデアを思いついたそうです。次々と主人公を襲う危機また危機。多少強引な展開がありますが、ここまで盛り上げられたら大したものです。
 この映画は何も考えずに勢いにのって見ると楽しい映画です。突っ込もうと思ったらいくらでも突っ込みどころがある映画ですが、それは目をつむって見てください。次々と襲う危機をどう乗り越えるかを楽しむ映画です。
 あと私がこの映画を評価する点として、無駄な死人がいないところにあります。ハリウッドのアクション映画は無駄に死人が多い映画多いのですが、この映画は必要最低限の人しか死にません。そこが非常に好感が持てるところです。
 スカッとしたいとき、派手なアクションが見たいときは是非この映画をご覧ください。

製作年度 1994年 
製作国・地域 アメリカ
上映時間 115分
監督 ヤン・デ・ボン 
製作総指揮 イアン・ブライス 
脚本 グラハム・ヨスト 
音楽 マーク・マンシーナ 
出演 キアヌ・リーヴス 、デニス・ホッパー 、サンドラ・ブロック 、ジョー・モートン 、ジェフ・ダニエルズ 、アラン・ラック 、グレン・プラマー 、リチャード・ラインバック 

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『千と千尋の神隠し』この映画を見て!

第119回『千と千尋の神隠し』
「トンネルの向こうは、不思議の町でした。」
Spirited_away  今回紹介する映画は国内映画興行記録を全て塗り替える大ヒットとなった宮崎アニメ『千と千尋の神隠し』です。この映画は興行記録だけでなく、世界中で大変高い評価を受け、2002年のベルリン国際映画祭でグランプリである金熊賞をアニメ作品としてはじめて受賞しました。また日本アニメで初のアカデミー長編アニメ賞を受賞して、宮崎アニメを世界中に知らしめました。
私は『もののけ姫』という大変密度の濃い作品を創り上げた宮崎監督の次回作と言うことで公開されるまでは大変期待したものでした。予告編で木村弓が歌う『いつでも何度でも』が流れたときは歌のあまりの美しさに鳥肌が立つほど感動したものでした。また予告編で説明される異世界の温泉街に迷い込んだ10歳の少女の成長を描くという物語にも大変興味を持ち、どんな映画になるのか公開までとても楽しみにしていたものでした。
 公開当時は初日に立ち見が出るほどの満員状態の映画館で見たものでした。映画の内容はさすが宮崎監督らしく2時間という上映時間があっという間に感じられる作品でした。宮崎作品だけあって映像や音楽の美しさはさすがです。飛翔シーンや高低差や上下の動きを活かしたアクションシーンも宮崎作品ならではです。しかし、今までの宮崎作品に比べると、どこかあっさりとしているような印象も受け、インパクトが弱いような気もしました。

 この映画の一番の見所はイマジネーション溢れる映像の数々です。温泉街の奇抜でカラフルな街並み、温泉街に集まる八百万の神々たち、海の上を走る電車、空を飛ぶ白い竜・・・。この作品はストーリーがどうこうと言うより、宮崎駿のイマジネーションが創り出す摩訶不思議な世界を楽しむ作品です。
 特に湯屋の赤を基調にした派手で個性的な外観や内装は観客を圧倒します。監督は日本近代の和洋折衷された建築文化を反映させ、異世界でありながらも、どこか懐かしさが感じらるような美術を目指したそうです。その甲斐あって、観客はまるで夢の世界を彷徨っているような感覚になります。
 また湯屋を取り囲む海の描写も美しく、建物の派手で賑やかな色調と対照的に、どこまで静謐で透きとおるような青は観客の心を落ち着かせます。
 
 久石さんの音楽もカラフルで美しいメロディーが多く、映像の雰囲気とよくあっています。今回はフルオーケストラとエスニックな音を融合させることにこだわったそうです。フルオケで演奏されているのにどこかアジアンテイストな雰囲気が漂う曲の数々は千と千尋の世界観をよく表しています。それと対照的に千尋の心情を語る場面ではピアノをメインにした静かな曲が流れており、印象に残りました。特におにぎりを食べるシーンと海の上を走る電車のシーンで流れるピアノをメインとした曲は、千尋の不安や切なさが伝わってくる名スコアーだと思います。

 ストーリーに関しては宮沢賢治の作品の影響を強く感じました。ストーリーの随所に見られるブラックユーモアの数々は賢治の作品にも見られますし、後半の電車に乗るシーンは宮崎駿版銀河鉄道の夜」といった感じを受けました。また宮沢賢治の作品以外にも「ゲド戦記」や「クラバート」「不思議の国のアリス」など様々な児童文学に影響を受けている場面や設定が多く見られました。
 宮崎監督はこの作品のストーリーを考えるに当たって電車に乗るシーンをクライマックスに持ってきたかったそうです。千尋が異世界で成長することを描くより、異世界で自分の意志で電車に乗って、幻想の世界と現実の世界を全部自分の世界として引き受けていくことを描きたかったそうです。この映画は千尋が変わっていく姿を追った作品でなく、自分の力を信じて一歩踏み出すまでの姿を描いた作品です。
 監督は現代社会に対する様々な風刺やメッセージを映画の随所に込めています。お金で何でも解決しようとする滑稽さ、小さな自我と欲望にこだわり身動きの取れない現代人の悲哀、自然破壊に対する怒り・・・・。この映画はファンタジーでありならが極めてリアルな面を持ち合わせています。カオナシは現代の日本人そのものであり、見ていて胸が痛くなります。
 あと私がこの映画を見て面白いと思ったのは、映画の舞台となる湯屋がどうみてもソープランドであるところです。宮崎監督自身もこの映画の舞台は神様のソープランドであることを認めています。10歳の少女がソープランドという性風俗で働かされるファンタジー映画なんて世界広しといえどもないと思います。宮崎監督はこの映画で現代の少女を取り巻く性風俗の現状を描きたかったとインタビューで答えています。
 (千と千尋の神隠しと性風俗の関係を詳細に解説した記事が下記のサイトで読めます。)
 http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040314

 この映画のストーリーは省略されているところや説明不足な所が多く、観客の想像に任す部分が大きくなっています。監督は意図的にこのようなストーリーにしたそうです。千尋から見た世界を千尋自身が変えていくことを描くために、千尋が知らなくて良いことは全て省略したそうです。
 ストーリーの流れは起承転結の起承に当たる部分は丁寧に描かれているのに反して、転結はとても駆け足で唐突な展開になっています。(これは『ハウルの動く城』に関してもですが・・・)この映画は監督の当初の構想では3時間くらいの上映時間になるような話しを考えていたようで、それを無理に2時間で収めたそうです。そのためにストーリーの展開が後半強引なものになってしまそうです。カオナシを登場させたのも映画を2時間で収めるために急遽考えついた設定で、本来は湯婆婆と銭婆がもっと登場する作品になっていたようです。
 またそのような制作の裏事情とは別に監督はこの映画やハウルなど最近の宮崎作品はストーリーを語ることよりも自分のイマジネーションをどう表現するかに力点を置いて制作しているような気がします。その為、最近の宮崎映画はストーリーを楽しむというより、夢の世界のような映像そのものを楽しむことが正しい見方だと思います。

製作年度 2001年 
製作国・地域 日本
上映時間 125分
監督 宮崎駿 
製作総指揮 徳間康快 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 柊瑠美 、入野自由 、夏木マリ 、内藤剛志 、沢口靖子 、上條恒彦 、小野武彦 、我修院達也 、はやしこば 、神木隆之介 、玉井夕海 、大泉洋 、菅原文太 

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『感動をつくれますか?』街を捨て書を読もう!

『感動をつくれますか?』 著:久石譲 角川ONEテーマ21
Hisaisi_joe_book  今回紹介する本は宮崎駿監督や北野武監督の映画音楽を手がけた日本一有名な映画音楽家・久石譲が自らの仕事の仕方や音楽に対する考え方を語った『感動をつくれますか?』です。
 久石譲は若い頃はミニマルミュージックの作曲家として活躍し、『風の谷のナウシカ』で映画音楽家としてデビューしました。その後は数多くの映画音楽やCM曲を手がけ、日本を代表する作曲家になりました。
 この本では久石さんの映画音楽家、作曲家としての仕事の仕方が明快に書かれています。著者はこの本の中で自分を自己満足の芸術家としてでなく、多くの人に楽しんでもらうことで生計を立てる街中の音楽家だと言います。そしてプロの音楽家として、どういう姿勢が必要かを説きます。
 「優れたプロは継続して自分の表現をしていける人」
 「気分の波に揺るがされないような環境作り」
 「第一印象を大切にする」
 「質より量で自分を広げる」
 「95%の論理的思考と5%の感覚的ひらめきが大切である」
 この本で書かれていることは作曲家としてだけでなく、他の業界の仕事においても大切な姿勢であり、誰が読んでも非常に参考になります。
 
 また著者の映画音楽制作の裏話や映画音楽の魅力なども書かれており、映画音楽の解説書としても楽しめます。宮崎監督や北野監督の音楽への姿勢や中国・韓国の映画制作の裏話はとても映画好きにはとても面白かったです。
 
 さらに後半はアジアを舞台に活躍する著者が感じた日本人の課題が述べられており、今日本人に必要な姿勢が提言されています。

 この本はとても読みやすく、多くの人にとって参考になることが書かれています。久石譲を知っている人も知らない人も、ぜひ読んでみてください。

 

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『ブッタとシッタカブッタ』 街を捨て書を読もう!

『ブッタとシッタカブッタ』 著:小泉吉宏 メディアファクトリー21
Butta1_1  今回紹介する本は仏教思想や認知心理学の要素を取り入れ、人間の心とは何か?人生とは何か?幸福になるとはどういうことかを説く4コマ漫画『ブッタとシッタカブッタ』シリーズです。この本は悩み多きブタ・シッタカブッタの姿を通して、幸福や不幸や悩みの正体を探っていきます。シッタカブッタを導く師としてブッタ様が登場するのですが、ブッタ様は仏教の思想に基づき、幸せに生きるための物事の見方や考え方などを教えてくれます。
 私がこの本に出会ったのは10年前ですが、読んでいてハッと気付かせられるところが多い本でした。現在のあるがままを受け入れることの大切さ、人間の思いこみが生み出す苦しみ、欲望やこだわりが生む悲劇・・・。この本は穏やかに生きていくためにヒントがたくさんつまっています。
 物事はどう捉えるかによって全く変わってきます。自分の人生をどう捉えていくか、自分の人生をどう歩んでいくか、自分の人生の悩みに対する答えは自分自身の中にある。そんな当たり前のことに気付かせてくれます。
 この本は3作目までシリーズ化され、姉妹編である『ブタのいどころ』や『ブタのふところ』も発売されています。 気軽に読めて、心が軽くなるこのシリーズ。ぜひ多くの方に読んで欲しいです。

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『Asian X.T.C.』

お気に入りのCD NO.16『Asian X.T.C.』 久石譲
Asian_xtc  今回紹介するCDは久石譲が美しく官能的でポップなASIAをテーマにしたソロ・アルバム『Asian X.T.C』です。
ここ最近の久石さんはオーケストラを使ったクラシカルな作品が多かったのですが、久しぶりに久石さんの原点とも言えるミニマルな作品に仕上がっています。また楽器の編成も久石作品に欠かせないピアノとストリングスに加えて、今回はサックスやマリンバ、アジアの民族楽器を多用し、色鮮やかで心地よい音色を生み出しています。
  久石さんは今回のアルバムを作成するに当たって、自分の音楽の原点であるミニマルミュージックを意識したそうです。久石さんはメロディメーカーとして有名ですが、もともとミニマルミュージックの作曲家して活躍していました。80年代のソロアルバムは最近のクラシカルでメロディーの美しさが特徴的なアルバムと違い、シンセを多用した前衛的なミニマルミュージックのアルバムを発表していました。
 ミニマルミュージックは音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる音楽です。ミニマルミュージックは最初聴いていると退屈なのですが、次第に反復されるメロディに陶酔感を感じるようになります。
 今回のアルバムは陽サイドと陰サイドと2部構成になっており、前半の6曲はメロディメーカーとしての久石さんの美しいメロディーが堪能できます。そして後半の4曲はミニマルミュージックの作曲家としての久石さんの才能が堪能できます。また全体的にアジアンテイストな雰囲気でまとまっており、聴いていて心落ち着くものがあります。
 私の一番のお薦めは2曲目の 「Welcome to Dongmakgol 」です。この曲は韓国映画「トンマッコルへようこそ」のテーマ曲なのですがギターデュオのDEPAPEPEが参加しており、ギターの響きが郷愁を誘います。また3曲目の「Venuses」はカネボウ「いち髪」CM曲なのですが、子どものコーラスが印象的でした。
 仕事から帰ってくつろぎたい時にお薦めのアルバムです。
 
*今回のアルバムに関する久石さんのコメントが下のサイトに掲載されています。http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/cnt_interview_20060912.htm

・陽 side (Pop Side)
01. Asian X.T.C.
02. Welcome to Dongmakgol
( オリジナル・バージョン:韓国映画「トンマッコルへようこそ」主題曲)
03. Venuses (カネボウ「いち髪」CMソング)
04. The Post Modern Life
(オリジナル・バージョン:中国映画「叔母さんのポストモダン生活」主題曲)
05. A Chinese Tall Story  
(オリジナル・バージョン:香港映画「A Chinese Tall Story」主題曲)
06. Zai-Jian
・陰 side (Minimal Side)
07. Asian Crisis (NHK「名曲の旅・世界遺産コンサート」書き下ろし曲)
08. Hurly-Burly
09. Monkey Forest
10. Dawn of Asia
Bonus Track
11. Woman ~Next Stage~ (レリアンCMソング)

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『時をかける少女』(2006年版)この映画を見て!

第118回『時をかける少女』(2006年版)
「待ってられない 未来がある」
Time_wait_for_no_one  今回紹介する映画は『ゲド戦記』を抜いて2006年夏一番面白いアニメ映画として評判の高い『時をかける少女』です。『時をかける少女』は最初ミニシアター系の公開でほとんど話題になっていませんでした。しかし公開されると同時に多くの観客や批評家の支持を受け、またたく間に全国拡大公開になりました。
 筒井康隆原作の『時をかける少女』は今までにも映画化やドラマ化を何度もされている有名な作品です。特に大林宣彦監督が原田知世を主演にして制作した1983年公開された『時をかける少女』は知名度・人気共に高く、主題歌も大ヒットしました。今回のアニメは何と8回目の映像化になります。
 今回この原作をアニメ映画化したのは細田守というアニメ監督であり、ポスト宮崎駿とも言われており、アニメ業界の中で現在一番注目されています。細田監督はスタジオジブリの『ハウルの動く城』の監督を当初手がける予定であったほどの実力派です。細田監督は原作のファンで自ら映画化を熱望したそうです。脚本は『学校の怪談シリーズ』の脚本家・奥寺佐渡子を招き、9ヶ月かけて練り上げたそうです。またスタッフもスタジオジブリの美術を担当してきた山本二三や『エヴァンゲリオン』のキャラクターデザインで有名な貞本義行など実力派が結集しています。
 
 私がこの映画の存在を知ったのは公開されて時間が経ってからでした。ネット上で多くの人がこの映画をこの夏一番の映画と絶賛する感想を書いているのを読み、どんな映画なのかとても気になっていました。私の住んでいる地区では公開がすでに終わっており、DVDが出るまでは無理かなと諦めていていました。しかし、たまたま実家のある愛媛に用事があって帰ってみると、何とこの映画が劇場公開中であり、早速鑑賞してきました。
 
 映画を見終わっての感想ですが、さわやかで、ほろ苦く、大人が見ると懐かしさで胸がいっぱいになる素晴らしい青春映画でした。映画のラストは切なさのあまり不覚にも泣いてしまいました。タイムトラベルものとしては少し矛盾や説明不足な点もありますが、青春恋愛ものしては共感できる点の多い作品で、もう一度見たいと思わせる魅力があります。一見地味な作品ではありますが、中身のしっかりとした作品です。多くの人がこの映画を支持する理由がよく分かりました。

 この映画のストーリーは時間を超える能力を身につけた少女・紺野真琴の一夏の恋と成長を描きます。真琴はふとしたことから時間を超える能力・タイムリープを身につけます。最初は時間を戻せる力を使って、自らの都合の良いように過去を変えようしまう。しかし過去を変えれば変えるほど、周囲に迷惑がかかることに気付く真琴。何とかしようと過去をいじくればいじくるほど事態は悪化していきます。そして、真琴はタイムリープの秘密を知り、かけがえのない今という一瞬の大切さ、そして未来向かって進むことの大切さに気付きます。
 この映画のテーマはとてもストレートなものです。二度とやり直せないからこそかけがえのない今という時間。移り変わる時の流れの中で、どんなに今のままでいたいと思っても自分も周囲も変わっていってしまうという切なさ。この映画はやり直しのきかない人生だからこそ、一つ一つの選択がかけがえのないものだということ当たり前のことに改めて気付かせてくれます。

 最初は笑わせながら、後半徐々にシリアスな展開になり、気付いたら切なさで涙が溢れてくるというストーリーの流れも素晴らしいです。また映像も素晴らしく、学校や街、空の何気ない背景描写の丁寧さには感心しました。特に夏の青空の清々しさや夕暮れの川辺のシーンの切なさは印象的でした。またピアノをメインにした音楽も映像とマッチしており美しく、映画の挿入歌や主題歌も映画の内容にあっており主人公・真琴の気持ちがよく伝わってきます。映画のクライマックスシーンに流れる挿入歌『変わらないもの』は観客の涙腺を刺激しますし、映画のラストに流れる主題歌『ガーネット』は映画の余韻を味あわせてくれます。
 
 ここまで自然に涙が出てくる作品ってあまりないと思います。笑って、どきどきハラハラして、最後は切なさとさわやかさで胸がいっぱいになる『時をかける少女』。私は今年一番の作品だと思います。ぜひ多くの人に見て欲しいです。

 公式サイト:http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/

製作年度 2006年 
製作国・地域 日本
上映時間 98分
監督 細田守 
原作 筒井康隆 
脚本 奥寺佐渡子 
音楽 吉田潔 
出演 仲里依紗 、石田卓也 、板倉光隆 、原沙知絵 、谷村美月 、垣内彩未 、関戸優希 

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『エイリアン2(完全版)』この映画を見て!

第117回『エイリアン2』(完全版)
「今度は戦争だ!」
Aliens  今回紹介する作品は前作のSFホラーからアクション映画へと作風をがらりと変えて制作し、続編として大成功を収めた『エイリアン2』です。この作品は『タイタニック』や『ターミネーター2』など数々の大ヒット作を手がけたジェームス・キャメロンが監督を務めています。彼の作品の大きな特徴として派手なアクションシーンとヒューマニズム溢れる人間ドラマの巧みな融合と女性の力強い活躍があるのですが、『エイリアン2』でも彼のそんな特徴が非常に活かされています。
 
 私はこの映画を初めて見たときは、アクションシーンの圧倒的な迫力とリプリーの格好良さにしびれました。1作目にあったエイリアンの圧倒的な恐怖はあまり感じられませんでしたが、エイリアンVS人間の激しい闘いはアクション映画としての面白さに満ちていました。特に映画のラストのこれでもかと畳み掛ける展開は手に汗握るものがありました。

 この映画は非常に人間にしろ、エイリアンにしろ女性が力強く描かれています。1作目でもヒロインであるリプリーだけが生き残るという結末で女性の台頭が描かれていましたが、2作目は1作目にまして女性の存在感が大きい映画です。映画の後半のリプリーvsエイリアンクイーンの闘いなどは子どもをかけた母親同士の対決といった感じです。この映画を見ると母は強しの印象を受けます。

 映像的には1作目にあるような芸術性はないのですが、さまざまな兵器や乗り物が登場や大群で襲ってくるエイリアンなど迫力と興奮に満ちたスペクタクルなシーンが次から次へと展開して見る者を飽きさせません。CGのない時代にこれだけの迫力ある映像が作れたことに驚嘆します。映画は作り手の情熱とこだわりが大切なのだと改めて思います。
 またシナリオもしっかりしており、無駄なシーンが一つもありません。映画の前半で状況説明をしっかり行うことで、後半のアクションシーンがとても活きています。またリプリーだけでなく脇役も丁寧に描かれており、どのキャラにも感情移入できます。特にリプリーに思いを寄せるヒックス伍長や1作目とはうって変わって頼りになるロボットのビショップなどは強い印象を残します。また頼りなかった中尉が傷を負った部下と共に自爆するシーンもぐっと来るものがあります。

続編でありながら切り口を変えることで見事に成功した希有な作品だと思います。また映像の派手さだけでなくシナリオがしっかりしているので、何回見ても楽しめる娯楽作品となっています。

 現在DVDで発売されているのは劇場公開時のバージョンとは違い、18分長いバージョンです。リプリーに娘がいたことが分かるシーンやリプリーとヒックスの関係が深まるシーンなどが追加されています。話しのテンポ的には劇場版より悪いですが、人間描写や状況説明がより細かく行われているので、個人的には完全版の方が好きです。  

製作年度 1986年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 137分 (完全版154分)
監督 ジェームズ・キャメロン 
製作総指揮 ゴードン・キャロル 、デヴィッド・ガイラー 、ウォルター・ヒル 
脚本 ジェームズ・キャメロン 
音楽 ジェームズ・ホーナー 
出演 シガーニー・ウィーヴァー 、マイケル・ビーン 、キャリー・ヘン 、ランス・ヘンリクセン 、ポール・ライザー 

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『エイリアン』この映画を見て!

第116回『エイリアン』
「宇宙での悲鳴は誰にも聞こえない・・・」
Alien  今回紹介する映画はSFホラーの古典的名作『エイリアン』です。この作品はシリーズ化され4作制作され、『エイリアンvsプレデター』という番外編まで制作されました。エイリアンシリーズの特徴は作品ごとに監督が交代しており、どの作品も監督の個性が反映されたものになっています。そんなエイリアンシリーズでも一番評価の高いのはやはり1作目です。1作目は当時まだ新人だったリドリー・スコットが監督を務め、独特な映像美と緊張感溢れる演出が好評を呼びました。この映画の後にカルト的人気を誇る近未来SF映画『ブレード・ランナー』の監督も務め、光と影を巧みに操る映像の魔術師と呼ばれるようになりました。
 
 私がこの映画を初めて見たのは小学1年生の時だったのですが、あまりの怖さにまともに見られませんでした。当時はホラー映画など全く見たことがなかったので、顔にへばり付いたり、腹を突き破って出てくるエイリアンに大変衝撃を受けたものでした。またロボットが人間を襲うシーンも強烈で、当時は給食で牛乳が出るたびにあのシーンを思い出していました。

 この作品の一番の魅力はエイリアンというクリーチャーにあります。生物の体内に一定期間寄生して成長すると同時に、強酸の体液とあらゆる環境に適応する強靭な肉体を持つという完全無欠な生命体として設定されたエイリアン。そんなエイリアンの凶暴さと人間の無防備さが1作目は一番よく描かれています。
 映画の中では成体となったエイリアンの姿は一瞬だけ頭部や口元、尻尾などが映る程度です。なかなか姿を見せないエイリアンによって人が襲われるシーンは、見えない敵ゆえの恐怖を感じさせます。
 当時鬼才のデザイナーであったH.R.ギーガーによって創造されたエイリアンの姿は無機質な昆虫といった感じで生理的嫌悪感を見る者に与えます。それと同時に男性のペニスをイメージしてデザインされた頭部は何とも言えないエロティシズムを感じさせます。監督はこの映画で性の恐怖を描いたそうです。エイリアンによって人間が襲われるシーンは男性による女性へのレイプをイメージしているそうです。映画のラストの下着姿のリプリーにエイリアンが襲われるシーンは特に性の恐怖を想起させるシーンです。
  
 この映画のストーリー自体はとてもありふれたものであり、人間が閉鎖された空間で怪物に襲われるというホラー映画の王道のようなストーリーです。しかし、この映画が他の映画とひと味違うところはヒロインを守るヒーローが不在で、ヒロインが自ら闘って生き残るというところにあります。今ではそのような映画はありふれていますが、おそらくこの映画がそのようなヒロイン像を初めて打ち出した作品だと思います。この映画は女性の男性の理不尽な暴力に対する恐怖を描くと共に、女性が男性を打ち負かすという女性の時代の台頭を描いた作品となっています。

 映画の演出は前半は船内での機関士の様子が淡々と描かれ少し退屈なのですが、後半のエイリアンが機関士を襲撃するシーンからラストにかけては恐怖と緊張の連続で終始手に汗握ります。
 美術も大変素晴らしく、他のSF映画にはない芸術性があります。宇宙船のセットは生活感に溢れており、今見ても嘘くさくありません。逆にエイリアンの宇宙船は不気味でありながら幻想的な雰囲気を感じさせます。

 この映画は娯楽作品としても芸術作品としても一級の作品です。この作品を超えるSFホラーは未だ現れていないと思います。

製作年度 1979年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 118分
監督 リドリー・スコット 
製作総指揮 ロナルド・シャセット 
脚本 ダン・オバノン 
音楽 ジェリー・ゴールドスミス 
出演 トム・スケリット 、シガーニー・ウィーヴァー 、ジョン・ハート 、ヤフェット・コットー 、ハリー・ディーン・スタントン 

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