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辺見庸の本

 今日9月11日は丁度5年前にアメリカで同時多発テロが起きた日です。あの日を境に世界は大きく変わりました。戦争、テロ、差別、国家による個人の管理と監視の強化・・・。正義と自由と民主主義の名の下に多くの人が殺され、傷つき、自由を奪われました。日本も911以降、自衛隊をイラクに派遣し、有事法制を可決させ、集団的自衛権を行使するために憲法させ改正しようとしています。戦争の20世紀を終え、21世紀は平和の世界に向かって進むと思いきや、どんどん混迷した状況に陥っています。そんなきな臭い時代、私は辺見庸の本を読んでは、現代の社会状況に押し流されることなくどう向き合うかを自問自答しています。
 辺見庸は1944年宮城県生まれで、共同通信の記者を経て作家になりました。91年に「自動起床装置」で第105回芥川賞受賞し、「食」をキーワードに、世界の貧困地域・問題地域を取材したルポルタージュ「もの喰う人々」で大反響を巻き起こしました。その後も、ブッシュ政権やとコイズミ政権の醜い本質を暴き、ジャーナリズムの堕落を鋭く粘り強い文章で告発してきました。2004年に脳出血で倒れ、癌に見舞われるなど再帰が危ぶまれましたが、見事に復帰され、新しい論考を発表されています。
 彼の文章の最大の魅力は特定の組織や思想に頼ることなく一個人として真摯に暗い時代と向き合い発言している所にあります。彼の文章は時に過激だったり、青臭かったり、回りくどかったりしますが、自分の思いを自分なりの言葉で書き記そうとします。彼の文章は論理的には飛躍しすぎたり、破綻していたりしますが、新聞のきれい事のような社説にはない迫力と熱意が感じられます。私は彼の文章を読むと背筋がピンと伸びるような感覚を覚えます。彼の文章は時代に押し流されることなく立ち止まり、そして自分で考えて立ち向かう力を与えてくれます。
 また彼の文章は単なる社会批評の枠にとどまらない奥深さがあります。人間という生き物が持つドロドロとした闇や宿業といったものすら感じさせます。 彼は他の批評家と違い、社会のあらゆる問題を自分に引きつけて考えようとします。そして、自分の中にある弱さや愚かさにも目を向け、自分自身を厳しく問いつめていきます。自分との激しい葛藤や格闘が文章の隅々から滲みだしており、他の批評家の文章にはない生々しさがあります。
 彼の本は現代という社会の影を丹念に描くと同時に、人間という存在の闇を描いています。きな臭く不安が蔓延する時代、ぜひ彼の本を読み、自分や社会と向き合ってみてください。

 私のお薦め作品ベスト3

3位 抵抗の3部作『永遠の不服従のために』『いま、抗暴のときに』『抵抗論―国家からの自由へ』 3冊とも講談社文庫より刊行
 9.11テロ以降の自衛隊派兵、憲法破壊、メディアと戦争の共犯、自由への抑圧に対する作者なりの抵抗のあり方を綴る。
抵抗論―国家からの自由へ いま、抗暴のときに 永遠の不服従のために
2位 『いまここに在ることの恥』 毎日新聞社
 退院後の辺見庸が語る、憲法・マスメディア・国家・自分自身。
いまここに在ることの恥

1位 『もの喰う人々』角川文庫
 「食」を通して、世界の貧困地域・問題地域を取材した衝撃のルポ。
もの食う人びと

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コメント

辺見氏の発言はどれも肉感的であり、何とも言えない重さがありますよね。集団に依らず個として発言する彼の姿に自分の生きる姿勢が問われているような気がします。

投稿: アシタカ | 2006年9月18日 (月) 23時01分

TBありがとうございました。
辺見庸さんの本は、血の通った本だなぁと、私は思っています。世の中のよきも悪きも、同等に見つめ、自分の中に取り込もうとしておられるような、そんな姿勢があるように思います。

上っ面だけの、皮相的な言説やニュースが流行る昨今、辺見氏の言説はとても気がつかされることが多いです。

投稿: てつぃ | 2006年9月18日 (月) 14時12分

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