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『ミッション』この映画を見て!

第105回『ミッション』
Mission_1  今回紹介する映画は18世紀の南米を舞台に先住民に対して布教活動を行うイエスズ会の宣教師たちの生き様を描いた『ミッション』です。
 この映画は1986年のカンヌ映画祭にてグランプリに選ばれ、アカデミー賞でも撮影賞を受賞するなど高い評価を受けました。監督は『キリング・フィールド』・『シティ・オブ・ジョイ』など社会派の作品を撮ることで有名なローランド・ジョフィ。彼はドキュメンタリータッチの淡々とした描写の中でヒューマニズム溢れる人間ドラマを見せることで定評があり、この作品も南米の雄大で美しい大自然を舞台に重厚な人間ドラマが繰り広げられます。主演はアカデミー主演男優賞を受賞したことのある演技派俳優、ロバート・デ・ニーロとジェレミー・アイアンズの2人。2人の熱演がこの映画の大きな見所の一つとなっています。特にロバート・デ・ニーロは元奴隷商人で弟を殺して罪の意識に苦しむ中で宣教に加わるという役なのですが、映画の中で圧倒的な存在感がありました。
 また南米の大自然を捉えた映像の美しさも大きな見所です。さすがアカデミー撮影賞を受賞しただけあります。特にイグアスの滝のシーンはスケールの大きさに圧倒されます。
 そしてこの映画を語るときに忘れてはいけないのは音楽です。『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』で有名な作曲エンニオ・モリコーネが担当しているのですが、彼の担当した映画音楽の中でも1,2位を争う出来栄えです。彼の音楽がこの映画の格調をさらに高めています。繊細でありながら壮大で、優しく美しい音楽は胸を打つものがあります。映画の中で彼の音楽が流れてくるだけで、涙が自然とこみ上げてくるほど、映像とあっており素晴らしいの一言です。

 ストーリー:「1750年、イエズス会の神父ガブリエルはイグアスの滝の上の伝道開拓地を目指して、崖をよじ登っていた。滝の上に住むグァラニー族の人たちに布教活動をするガブリエル。
 その頃、グァラニー族を狙って、奴隷商人のメンドーザが滝の上に現れる。彼は奴隷を人間と思わないひどい扱いをしていた。しかし彼は愛する女性を弟に寝取られたことに腹を立て、弟を殺してしまう。罪の意識に苛まれ引きこもっていたメンドーサに出会ったガブリエルは彼を伝道活動へと連れて行く。メンドーサは自らに苦行を課すためにがらくたの武器を体にくくりつけて崖をよじ登る。何度も転げ落ちながら滝の上にたどりつくと、そこにはかつて彼が奴隷として狩っていたグァラニー族がいた。メンドーザは彼らに赦しを受けて、彼らと共に過ごすこととなる。そしてついには自らも宣教師となり、神に仕える身となる。
 その頃、スペインとポルトガルが激しい植民地争いを続けていた。両国の植民地拡大に乗じて勢力を拡大したイエズス会は、しだいに王権から疎まれる存在になっていた。枢機卿は滝の上の教会を放棄して、グァラニー族の人々をポルトガルに引き渡すよう迫られる。ガブリエルは枢機卿に、地上の楽園であるグァラニー族の教会の存続を認めてもらおうとするが失敗に終わる。そしてポルトガル・スペイン軍によるグァラニー族への大虐殺が始まる・・・。」

Mission2  私がこの映画を始めてみたのは大学の時でしたが、あまりにも悲劇的な結末にショックを受けたものでした。神を信じ、愛を貫こうとした者たちが次々と軍隊という力によって殺されていく場面は痛ましく、人の世の虚しさを感じてしまいました。人間の現世での欲望の前には神の愛も無力になってしまう現実に対して悲しみを覚えてしまいました。
 映画の後半、ガブリエルとメンドーザが軍隊による虐殺に対して無抵抗を貫くか、武器を持って戦うかで意見が分かれ、結局お互い自分の信念に従って別々の行動を取ります。暴力に対して非暴力て対抗するか、暴力で対抗するか、どちらが正しい行為だったのか見た後とても悩んでしまいます。映画のラスト、メンドーザはガブリエルの姿を見て、どう感じたのかが非常に気になります。
 
 また私はこの映画を見て、政治の道具として利用される宗教の醜さ・愚かさといったものを感じました。枢機卿が信徒を守るよりも勢力の維持を選択し、虐殺を容認してしまう姿は宗教の理想と現実のギャップといったものを痛感しました。

 あとこの映画を見るとき注意しないといけないことがあります。この映画では宣教師を先住民たちの見方として好意的に捉えていますが、当時の西欧の植民地化においては宣教師が大きな役割を果たしてきました。先住民の土着信仰を野蛮で未開なものとして否定し、キリスト教こそが人間が信じるに値するものだとして布教していきました。宣教師は先住民を最初は同じ人間としては見ようとせず、哀れで野蛮な獣と思っており、いかに彼らを人間にしていくかを自分たちの使命としてきました。この発想は先住民に対してとても失礼であり、傲慢な態度です。しかし当時の宣教師は自分たちの行為を疑いもしませんでした。この映画はポルトガルやスペイン国家を悪、宣教師たちを善として捉えていますが、よく考えると宣教師たちの善意も押し付けにしか過ぎず、西欧人が入植させしてこなかったら先住民はそれなりに幸せにずっと暮らしていたかもしれません。この映画を見るときはそういう視点も持つことが必要かなと思います。

 「力が正しいのならこの世に愛は必要なくなる」
 映画の中でガブリエル神父が言うこのセリフは、この映画のテーマであり、戦争や紛争が頻発する現代社会においても重い問いかけをしていると思います。

製作年度 1986年
製作国・地域 イギリス
上映時間 126分
監督 ローランド・ジョフィ 
脚本 ロバート・ボルト 
音楽 エンニオ・モリコーネ 
出演 ロバート・デ・ニーロ 、ジェレミー・アイアンズ 、レイ・マカナリー 、エイダン・クイン 、シェリー・ルンギ、リーアム・ニーソン 

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