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2006年9月

『ソウ』映画鑑賞日記

Saw  今回紹介する映画はラストの衝撃的などんでん返しが話題になったサスペンススリラー『ソウ』です。この映画は新人監督と新人脚本家がタッグを組み、低予算・短期間で制作されたのですが、公開されると評論家にも絶賛を受け、世界中で大ヒットしました。昨年にはパート2が制作され、今年の秋に全米でパート3が公開される予定になっています。

 ストーリー:「老朽化したバスルームで対角線上に倒れていた2人の男、ゴードンとアダム。その間には頭を銃で撃ち抜いた自殺死体があった。足を鎖でつながれ身動きがとれない男たちに与えられたのは、テープレコーダー・一発の弾・タバコ・着信用携帯電話、2本の糸ノコギリ。テープレコーダーに入っていた犯人からのメッセージは『6時間以内に相手を殺すか、自分が死ぬか。』という内容だった・・・。一体誰が何の目的でこのようなことをしたのか?そして2人が選ばれた理由とは?」
 
 この映画はラストの衝撃的などんでん返しが話題になりましたが、私は昔からどんでん返しのある小説や映画が大好きだったこともあり、早い段階でこの映画の結末が予想できてしまいました。その為、他の人ほど映画のラストに衝撃を受けることができず、非常に残念でした。確かにこの映画の仕掛けに途中で全く気付かずに、あのラストを見たらかなり衝撃的です。ただ実際にあのような事を周囲に気付かれずに実行するのはかなり無理があるような気もします。
 また映画のラストのゴードンの衝撃的な行為も三池崇史監督の『オーディション』を見た後では特に目を覆うほどのシーンではありませんでした。
 
 映画の全体的な雰囲気は『セブン』に近く、かなり残酷なシーンや猟奇的なシーンも多いですし、結末の後味の悪さも『セブン』に勝るとも劣らないものがありました。ただ完成度で言うと『セブン』の方が明らかに上です。
 『ソウ』は結末に向けての伏線の張り方は巧みだと思うのですが、設定や展開、そして犯人の動機にどうしても無理があるように感じました。また人物描写も浅く、中盤の回想シーンを減らして、囚われた2人の心理描写にもっと焦点をあてたらより緊張感のある展開になったと思い残念でした。映画の脚本を担当したリー・ワネルは映画の冒頭と結末をまず思いつき、そこから脚本を書いていったそうで、中盤の展開をどうしていくか苦労したそうです。この映画は結末のどんでん返しが全てであり、話の展開や人間描写も結末に向けて強引に辻褄を合わせた感が否めません。

 私はいろいろこの映画にケチをつけていますが、最近公開されたサスペンススリラーの中では良くできた作品です。映画の途中で出てくる数々の殺人トラップも工夫が凝らされておりインパクトがありますし、伏線の張り方や謎が解明されていく後半の展開は観客を画面に釘付けにします。だからこそ、もう少し中盤の展開や心理描写が洗練されていたらと残念に思う次第です。
 
製作年度 2004年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 103分
監督 ジェームズ・ワン 
製作総指揮 ピーター・ブロック 、ジェイソン・コンスタンティン 、ステイシー・テストロ 
脚本 リー・ワネル 
音楽 チャーリー・クロウザー 、ダニー・ローナー 
出演 ケイリー・エルウィズ 、ダニー・グローヴァー 、モニカ・ポッター 、リー・ワネル 、トビン・ベル 

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『オールド・ボーイ』この映画を見て!

第115回『オールド・ボーイ』
Oldboy  今回紹介する映画は日本の同名漫画を原作に、『JSA』のパク・チャヌク監督が映画化したアクション・サスペンス映画『オールドボーイ』です。この映画は2004年カンヌ国際映画祭で審査委員長のタランティーノ監督も絶賛し、グランプリを受賞しました。この映画はハリウッドがリメイクも予定されています。
 ストーリー:「1988年、平凡なサラリーマン、オ・デスは娘の誕生日プレゼントを買って帰る途中、突然何者かに誘拐され、ある部屋に監禁される。そして15年もの歳月を経て突然解放される。誰が何の目的で自分を監禁したのか真相を突き止め復讐すべく、すぐさま彼は行動に移す。途中、彼は寿司屋で出会った美しい恋人ミドと知り合い、彼女にも犯人捜しを協力してもらうが・・・。犯人はなぜ15年間監禁し、突然解放したのか、その恐るべき理由とは?」
 私はこの映画を見たとき、最初はなぜ彼が監禁されたのかにばかり目がいき、なぜ犯人が15年間も彼を監禁していたのか気にしていなかったので、後半の予想外のどんでん返しに圧倒されました。まさかここまで用意周到に計画された復讐劇だとは・・・。映画の中盤までは監禁された主人公が犯人に復讐をする話しとばかり思っていたのに、まさか監禁後も犯人によって復讐されていたとは・・・。(正確言うと、監禁後が犯人の復讐の始まりだったとは)主人公を待ち受けるあまりにも残酷で悲劇的な結末に衝撃を受けてしまいました。それにしても口は災いの元ですね。
 
 原作が漫画ということもあり、現実離れした設定や描写もあるのですが、監督の演出や役者の演技の圧倒的なパワーに圧されて、映画を見ている間は全く気になりません。ダイナミックでリアルなアクションシーン、見ている側にも痛みが伝わってくるバイオレンス描写、観客をほっと一息させるコミカルな描写、そしてまるでポルノ映画を見るようなエロティックなシーンと見ている間一瞬足りとも飽きさせません。
 主人公のオ・デスを演じたチェ・ミンシクの演技は狂気迫るものがあります。生きた蛸を貪るように食べるシーンや金槌一本持って何人もの敵をなぎ倒していくシーン、そしてラストの犯人に懇願するシーンと彼の演技がこの映画の面白さを支えています。またユ・ジテも冷酷非道でありながら、どこか人間臭さも残る犯人を見事に演じています。
  
 この映画はバイオレンス描写がとても激しく、目を覆いたくなるようなシーンがいくつかありますので、そういう描写が苦手な人は気をつけてください。この映画の結末はとても衝撃的で後味が悪いのですが、復讐することの虚しさや愚かさといったものを強く感じます。韓国映画のパワーを感じさせる傑作アクションサスペンス映画です。ぜひご覧ください! 

製作年度 2003年
製作国・地域 韓国
上映時間 120分
監督 パク・チャヌク 
原作 土屋ガロン 、嶺岸信明 
脚本 - 
音楽 - 
出演 チェ・ミンシク 、ユ・ジテ 、カン・ヘジョン 、チ・デハン 、キム・ビョンオク 

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『呼吸』

お気に入りのCD NO.15『呼吸』 Salyu
Lily_chouchousong_1  今回紹介するCDは岩井俊二監督の異色青春映画『リリイ・シュシュのすべて』で登場した架空のアーティスト・リリイ・シュシュのアルバム『呼吸』です。『リリイ・シュシュのすべて』は地方都市を舞台に思春期の少年・少女の心の闇を鋭く描き、主人公たちのリアルな心の声が伝わってくる作品として大変話題になりました。この映画で閉塞した状況で生きる主人公たちの心の拠り所としてリリイ・シュシュという女性アーティストが登場しました。映画の中ではリリイ・シュシュの姿はほとんど登場しなかったのですが、彼女の歌が随所に挿入され、主人公たちの心の痛みや傷を優しく慰めていました。

 リリイ・シュシュは映画の企画と連動して、音楽プロデューサーの小林武史と映画監督の岩井俊二、そして新人女性ヴォーカリストのSalyuの3人がユニットを組み創り上げました。映画が公開されると同時にリリイ・シュシュ名義でアルバム『呼吸』が発売され、ユニットは解散されました。その後も女性ヴォーカリストのSalyuは音楽プロデューサーの小林武史の下で活動を続け、現在シングルを8枚、アルバムを1枚発表してしています。
*Salyu公式サイト:http://www.salyu.jp/

 アルバム『呼吸』は映画で使用されたリリイ・シュシュの歌が収められたアルバムですが、映画を見たことがなくても充分聞き応えのあるアルバムです。アルバムには9曲入っているのですが、1曲も外れの曲がなく、聴いていると歌の世界にどんどん引きずり込まれていくような感覚になります。とにかくSalyuの声が素晴らしく、優しさと寂しさと暖かさと冷たさが入り混じった彼女の透き通った歌声は一度聴くと虜になってしまします。
 また歌詞も人生の虚しさや切なさ、儚さを語りながら、なぜか聴いていると、心が浄化されて生きる力が湧いてきます。

 このアルバムは聴いている途中は寂しさと切なさで胸がいっぱいになるのですが、聴き終わるとなぜか心が救われたような気がします。このアルバムはエーテルに充たされています。ぜひ皆さんもアルバムを聴いて魂をエーテルで充たしてください。
 
1. アラベスク 
2. 愛の実験 
3. エロティック 
4. 飛行船 
5. 回復する傷 
6. 飽和 
7. 飛べない翼 
8. 共鳴(空虚な石) 
9. グライド 

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『リリイ・シュシュのすべて』この映画を見て!

第114回『リリイ・シュシュのすべて 』
Lily_chouchou_1  今回紹介する映画は地方都市に住む中学生の心の闇を鋭く描き出した異色の青春映画『リリイ・シュシュのすべて 』です。原作・脚本・監督は『スワロウテイル』で有名な岩井俊二が担当。岩井監督はインターネットの掲示板を使い、複数の投稿者になりすまして話しを書き始め、読者にも話しを書き込んでもらうという実験的なスタイルで原作を完成させました。「遺作を選べたら、これにしたい」と述べるほど、岩井監督はこの映画に深く思い入れがあるそうです。
 
 ストーリー:「田園が広がる地方都市。中学生になった蓮見雄一は同じクラスの優等生・星野修介と仲良くなる。しかし、中学2年の夏休み、2人は仲間たちと西表島へ旅行に行ってから2人の関係は崩れていく。旅行中に2度命の危険にさらされた星野は突如凶悪な人間になり、クラスの皆から恐れられるようになる。そして蓮見は星野のいじめの対象になっていく。星野のいじめに苦しむ蓮見は、唯一の慰めとなっていたカリスマ的女性アーティスト“リリイ・シュシュ”のファンサイトを立ち上げ、心情を吐露していくのだったが・・・・。」
 
 私はこの映画を劇場で公開されていたときに見たのですが、映像や音楽の美しさと裏腹にあまりにもリアルで痛々しいストーリー展開に見ていて胸がとても苦しくなりました。映画を見終わった直後はもう2度と見たくないと思っていたのですが、時間が経つとなぜかまた見たくなって何回もレンタルして見返していた自分がいました。この映画はストーリー自体はかなり現実離れしているのですが、そこで描かれる思春期の少年・少女の心情があまりにも生々しく、自分の思春期時代の心情を思い出させてしまう力があります。そのため、見ていると忘れていた自分の思春期の葛藤や苛立ちを思いだし、当時の苦しさや不安、そして当時への懐かしさで胸がいっぱいになります。
 
 この映画はイジメ・援助交際・レイプ・自殺と現代の少年・少女が抱える問題を数多く取りあげています。イジメやレイプのシーンはあまりにも生々しくて見ていて目を背けたくなるほどです。岩井監督は人間のもつ残酷さや汚さといった一面をこの映画ではかなりクローズアップして描いているので、見ていて嫌悪感を抱いてしまいます。それは映画に対する嫌悪感であると同時に、自分の中にある闇に対する嫌悪感です。この映画は思春期という自分や世界に対して一番過敏に反応する世代を主人公にして、人間のもつ救いようのない闇とその闇とどう人は向き合うのかということを徹底的に描いています。
 
 映像と音楽はストーリーと裏腹にとても美しいのですが、それ故にストーリーの残酷さが際だっています。
 映像はデジタルビデオカメラで撮影されたそうなのですが、全体的にざらついた透明感があり、リアルでありながらどこか幻想的な映像でした。映画の随所に出てくる田園シーンの緑の美しさは格別ですし、自然光やブレを活かしたドキュメンタリータッチの映像演出もストーリーにリアルさを与えていました。
 音楽はドビュッシーのアラベスクなどが地方都市の田園風景の映像ととてもマッチしているのが印象的でした。アラベスクの透明感溢れる美しいピアノの旋律が少年・少女のどろどろした心の闇や残酷なストーリーと対照的で鮮烈な印象を与えてくれました。
Lily_chouchousong  また映画の中で主人公たちの心の拠り所としてカリスマ的女性アーティスト“リリイ・シュシュ”と言う人物が登場するのですが、彼女の歌がとても素晴らしく、救いのないストーリーに希望を与えてくれます。“リリイ・シュシュ”という歌手自体は映画の中の架空の人物で、ヴォーカルのSalyuと小林武史、岩井俊二の3人が創り上げたキャラクターなのですが、リリイ・シュシュ名義のアルバム『呼吸』が現実に1枚発表されています。(このCDは私のとてもお気に入りなので、後日に別にじっくり取りあげます。)彼女の歌はどれも優しく、暖かく、でも切なく、冷たくもあり、聴いた後は無性に寂しさを感じながら、なぜか励まされるという不思議な魅力を持っています。映画の中盤に流れる『飛べない翼』とラストに流れる『グライド』は特に映像やストーリーとマッチしており、生と死の切なさと哀しみで胸が溢れかえります。

 役者の演技も大変素晴らしく、特に援助交際をさせられる津田を演じた蒼井優は映画初出演ながら圧倒的な存在感があります。特に彼女が空を舞う凧を見上げるシーンは鳥肌が立つほど美しくも哀しいシーンです。

 この映画はとても痛い映画です。誰が見ても楽しめる映画ではありません。あまりのつらさに目を背けたくなるかもしれません。しかし、一度はまってしまうと、何回も見たくなる魅力がつまった作品でもあります。誰もが経験する思春期の心の痛みや人間の心の闇を見事に描いています。ぜひ興味のある人は一度見てください!

製作年度 2001年
製作国・地域 日本
上映時間 146分
監督 岩井俊二 
原作 岩井俊二 
脚本 岩井俊二 
音楽 小林武史 
出演 市原隼人 、忍成修吾 、蒼井優 、伊藤歩 、勝地涼 

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『紅の豚』この映画を見て!

第113回『紅の豚』
Porcorosso  今回紹介する映画は宮崎監督の個人的趣味が詰め込まれた『紅の豚』です。この映画は元々JALの国際線の機内上映の作品として、30分くらいの短編として制作されていたのですが、宮崎監督の構想が大幅に膨らみ、長編作品として途中から制作されることになりました。この映画は公開当時、日本アニメ映画の興行成績の記録を塗り替えると同時に、その年一番ヒットした邦画となりました。

Miyazaki_note  この映画は月刊「モデルグラフィックス」誌に宮崎監督が連載していたエッセイ漫画「宮崎駿の雑想ノート」の中の「飛行艇時代」を原作にしています。「宮崎駿の雑想ノート」は古今東西の珍しい戦車や戦艦などの兵器とそれを扱う人々の情熱を虚実まじえて描いており、宮崎監督のミリタリー趣味が全開で読む人をとても選ぶ漫画です。「飛行艇時代」は第一次大戦中の飛行艇に対する宮崎監督の思いが込められた作品です。宮崎監督は実家が飛行機関連会社だったこともあり、飛行機には特にこだわりがあり、映画化に当たっても飛行機の描写には随所にこだわったそうです。

 この映画は宮崎作品の中で好き嫌いが分かれる作品でありますが、私はこの作品の持つ清々しさが大好きです。空や海の青の清々しさ、飛行艇が飛ぶシーンの清々しさ、そして登場人物たちの生き様の清々しさ。この映画は見ていてスカッと晴れやかな気持ちにさせてくれます。
 この映画は他の宮崎作品のような深いテーマはないですが、格好良く生きるとはどういうことかを教えてくれる作品です。この映画に出てくる人物は皆すでに自己確立ができており、自分の生き方というものが分かっているので、迷いや不安といったものが見ていて感じられません。迷いや不安をくぐり抜けた大人たちが登場人物なので、見ていて格好良いと同時に、過去にいろいろあったんだろうなと想像することができる奥深いものがあります。

主人公が豚という設定もかなり大胆であり、普通なら豚が主人公なんてと思うのですが、この映画では豚である主人公が格好良く見えるのだから不思議です。戦争に嫌気がさし、あえて豚になる主人公の生き様に痛烈な批判精神を感じます。この映画は見た目の明るさとは裏腹に、世界大恐慌による経済の混乱とイタリアがムッソリーニ率いるファシズム政権の台頭という暗い時代が舞台となっています。ポルコがなぜ人間を捨て、豚になったのか、そこに狂気と不安の蔓延する時代に個人としてどう抗っていくか、監督の強いメッセージが込められていると思います。

 私がこの映画で一番好きなシーンはポルコが天国へ昇るように雲を通り抜け大空へ消えて行く無数の戦闘機を見たことを回想するシーンです。この回想シーンを見るたびに、ポルコの自分だけ生き残ってしまったことに対する自責の念や無数の命が散る戦争の哀しみといったものが伝わってきます。
 この映画のラストはポルコが人間に戻ったのか、豚にもどったのか曖昧なまま終わりますが、私はポルコは豚のままで居続けたのだと思います。それこそが亡くなった戦友に対する彼なりの弔いだと思うので・・・。

 あとこの映画の素晴らしさを語るときに忘れてはいけないのが音楽です。久石譲の音楽はいつものごとく素晴らしいですし、加藤登紀子の主題歌や挿入歌もとても映画とマッチしています。特に加藤登紀子の起用は宮崎監督がこの映画にこめた思いを見事に表していると思います。加藤登紀子が映画の中でパリコミューンの歌「さくらんぼの実る頃」を歌いますが、あの歌は共産主義を目指した革命家たちの歌であり、時代に対抗しようとした人たちのロマンが込められている曲です。その曲を革命家の夫を持ち、彼が獄中にいたときに結婚した加藤登紀子に歌わせたのは、かつて共産主義に傾倒していた宮崎監督の過去に対する複雑な思いが込められています。

 この映画は声優も違和感がなく、キャラクターにあっています。特にポルコを演じる森山周一郎の渋い声は聴いていて格好いいです。ちなみにフランスではポルコの声を『レオン』のジャン・レノが当てているのですが、渋い声がポルコの雰囲気にとてもあっています。DVDに収録されているので、ぜひ聴いてみてください。

 宮崎監督は個人的趣味で作った『紅の豚』に対して、制作後とても後悔したそうです。しかし、私は宮崎作品の中で一番肩の力を抜いて見られる作品であり、宮崎作品の中で一番繰り返し見ている作品です。宮崎監督はもう個人的な映画は作らないと宣言していますが、ぜひ「宮崎駿の雑想ノート」の違うエピソードを映画化して欲しいと願っています。  

製作年度 1992年
製作国・地域 日本
上映時間 91分
監督 宮崎駿 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 森山周一郎 、加藤登紀子 、桂三枝 、上條恒彦 、岡村明美 

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『魔女の宅急便』この映画を見て!

第112回『魔女の宅急便』
Kiki_2  今回紹介する映画は宮崎駿が思春期を迎えた女性の自立を描いて大ヒットした『魔女の宅急便』です。この映画はオリジナルの作品が多い宮崎監督としては珍しく、角野栄子の同名タイトルの児童文学を基に製作しています。映画は前半の展開は原作と同じなのですが、後半の展開はかなり違っており、ラストの飛行船のシーンなどは宮崎監督の全くのオリジナルです。このラストの派手な展開は冒険活劇を得意とする宮崎監督らしい展開です。ただ作品全体が少女の日常の生活や心情を丁寧に描いている分、ラストだけ突然派手な展開になるの浮いているような感じもして、どうかなとも思ったりもしますが・・・。
 この作品は本来、宮崎監督は制作に回り、新人の監督に任せる予定だったそうです。しかし、宮崎監督がこの映画に対してあまりにも思い入れが強くなり、自分で監督をすることになったようです。宮崎監督はこの映画を作るに当たって、『宮崎アニメのヒロインはトイレにも行かないような非現実的な存在だ』と周囲に言われたことが悔しくて、地に足のついた等身大の女性を描くことにこだわったそうです。この映画の途中でキキがトイレに行くシーンがあるのですが、宮崎監督がこの映画の中でも特にこだわって描いたシーンだそうです。

 この映画は若者の自立への格闘を爽やかに描いた作品であり、仕事が上手くいかず落ち込んだとき等に見ると非常に元気の出る作品です。私も仕事で親元を離れて暮らしてだいぶ時間が経つのですが、キキが見知らぬ街で一人で生活を始めるシーンを見ると、自分が一人で生活を始めたときの不安や孤独といったものを思い出してします。キキが仕事を見つけ、時に傷ついたり挫折したりしながらも、自分の理解者を見つけて支えてもらいながら前に進んでいく姿は、若者の自立とはどういうものかを見事に描いていると思います。ニートと呼ばれる人たちにもこの映画を見て、自立について考えてほしいなと思ったりします。

 私がこの映画で前から疑問に思っていたのは、なぜキキはジジがしゃべたことを理解できなくなったのかということでした。最初はキキの魔法の力が弱ったからと思ったりしたのですが、魔法が戻ったラストシーンでもキキはジジの言葉を理解できないままでした。私はキキが新しい街で自分を支えてくれる仲間を見つけ、相談相手としてジジの支えがいらなくなり、大人としてキキが自立した象徴として、ジジの言葉をキキが理解できなくなった(理解する必要がなくなった)と解釈しています。皆さんはいかがお考えでしょうか?

 この映画ではキキと絵描きの女性ウルスラの声を名探偵コナンでおなじみの高山みなみが一人二役で当てています。宮崎監督はキキの成長した姿をイメージししてウルスラというキャラクターを設定したそうです。さらに言えばパン屋のオソノさんもウルスラのさらに成長した姿をイメージして描いたそうです。そういう意味では、ウルスラやオソノさんは自立した女性の先輩としてキキを支えていく大切な役割をもったキャラクターであり、キキの将来の姿を描いているとも言えます。

 この映画はストーリーの面白さはもちろんのこと、北欧の街をイメージした美術の美しさや宮崎映画には欠かせない久石譲の清々しくちょっぴり切ない音楽、そして主人公の心情を見事に表現したユーミンの主題歌の起用など多くの魅力がつまった作品です。キキの飛翔の描写も独特の浮遊感があり、さすが飛行シーンを撮ったら右に出るものはいない宮崎監督ならではです。

 あと、私はこの映画を見るといつも気になるのが「ニシンパイ」、一体どんな味か気になります。

 優しい気持ちになりたいとき、元気になりたいとき、この映画をぜひ見てください!

製作年度 1989年
製作国・地域 日本
上映時間 112分
監督 宮崎駿 
原作 角野栄子 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 高山みなみ 、佐久間レイ 、戸田恵子 、山口勝平 、加藤治子 

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『となりのトトロ』この映画を見て!

第111回『となりのトトロ』
Tonari_no_totoro  今回紹介する映画は国民的アニメと言っても過言ではない『となりのトトロ』です。この映画はテレビでも何度でも放映されており、誰しも一度は見たことがあると思います。私も小学生の時からテレビで放映される度に欠かさず見たものでした。個人的にはスケールの大きい『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』の方が昔はお気に入りだったのですが、大学生になったくらいから『となりのトトロ』の魅力が分かってきました。

 『となりのトトロ』の大きな魅力として、身近な自然の美しさを表現したところにあります。宮崎監督が昭和30年というまだ日本が高度経済成長期に入る前を舞台にしたのも、人間と自然が調和した美しい田園風景がまだ都会近郊にも残っていたからだそうです。この映画の背景を担当したのは男鹿和雄という人なのですが、自然を正直に捉えたいという宮崎監督の意向をくみ取り、草の描き方から土や植物の色まで様々な工夫を凝らしたそうです。また時間の経過も背景で表現しようと、時間ごとに影の描き方や背景の色の彩度を変えるなどしたそうです。監督がこの映画を製作した理由の一つとして、映画を見た子どもたちが身近な自然の美しさに気づき、実際に触れに行って欲しいという思いがあったそうです。監督の子どもたちへの思いが背景の美しさには込められています。

 また、この映画の魅力として、子どもの視点で物語が進んでいくところがあります。サツキとメイという2人の姉妹を主人公に設定し、子ども時代に誰もが持つ好奇心や感性の豊かさや鋭さを見事に表現しており、大人が見ると懐かしく感じ、子どもが見るとワクワクドキドキする話しに仕上がっています。身近な場所を冒険の舞台として、大人には見えない独自の世界を創りあげる子ども時代の素晴らしさや大切さが伝わってきます。
 お母さんが病気で家にいないという設定は宮崎監督の幼少期の体験が基になっているとのことで、母親が家にいない子どもたちの寂しさや不安・苛立ちといったものを映画の中でもリアルに表現しています。私はこの映画を見るといつも家で母親の代わりをしようとするサツキの健気さが切なくて胸が締めつけられます。サツキが病院でお母さんに髪を漉いてもらう場面はサツキと母親の切ない心情が伝わってくる名シーンです。

 トトロというキャラクターは日本で一番有名なアニメキャラクターだと思いますが、映画の中では親しみやすいけど神秘的でもある存在として描かれています。監督は変に人間っぽくしたり、逆にいかにも妖怪といった感じにもしたくなかったそうで、観客が神様と思おうが、もののけと思おうが、それはかまわないと言っています。宮崎監督は日本人が昔から持っていた森に対するアミニズム信仰の象徴としてトトロを描いたそうです。森を信仰の対象として畏怖し、大切にしてきた日本人の姿をトトロという不思議な生き物を通して監督は観客に伝えたかったとのことです。

 久石譲の音楽の素晴らしさもこの映画の大きな魅力の一つです。主題歌の「さんぽ」と「となりのトトロ」はもはや童謡の定番となっていますし、映画の途中で流れる「風の通り道」はシンセによって奏でられる爽やかなメロディーがとても印象的です。

 声優陣も最近のジブリ作品のように話題性でタレントを起用するのでなく、プロの声優を起用しているので、安心して聞くことができます。またコピーライターの糸井重里氏の起用も成功しており、優しいけど、どこか頼りないお父さんを見事に声で表現しています。お父さんがサツキやメイがトトロにあったことを馬鹿にすることなく、共感するセリフを言う場面は素敵だなと思います。

 この映画は何度見ても引き込まれる魅力があります。宮崎監督の子どもや森に対する思いがつまった『となりのトトロ』。きっとこれからも多くの子どもたちに夢や希望を与えることでしょう。

 


製作年度 1988年
製作国・地域 日本
上映時間 88分
監督 宮崎駿 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 日高のり子 、坂本千夏 、糸井重里 、島本須美 、北林谷栄

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『ゲド戦記歌集』

お気に入りのCD NO.14『ゲド戦記歌集』
Gedo_song  今回紹介するCDは今年の夏に公開されたスタジオジブリの最新作『ゲド戦記』の挿入曲『テルーの唄』を歌った手嶌葵のファーストアルバムであり、映画のイメージソング集でもある『ゲド戦記歌集』です。
 映画の出来は最悪でしたが、このCDはなかなかの出来です。作詞は映画の監督も務めた宮崎吾郎が全曲手がけているのですが、どの詞もシンプルでありながら力強さや切なさといったものが表現されており、胸に訴えてくるものがあります。ある意味、映画よりもゲドの世界観を表しています。曲もアコースティックな楽器の音色や哀愁漂う素朴なメロディーが印象的で、聞いていて心が落ち着きます。そして、何といっても手島葵の歌声が素晴らしく、透明感溢れる声が私たちの疲れた心を慰めてくれます。彼女の声の魅力を上手く活かしたアルバムだと思います。
 私のお薦めは8曲目の『春の夜に』です。全体的に子守歌のような感じの優しい曲なのですが、間奏で流れるリコーダーの響きがとても印象的で、何度でも聞きたくなる曲です。また映画のエンディングでも流れる『時の歌』も命の儚さや切なさを見事に表現しています。
 彼女が今後どのような曲を歌うのか非常に楽しみです。映画はあまりお薦めできませんがCDはお薦めです、ぜひ買って聞いてみてください。

1. 数え唄 
2. 竜
3. 黄昏 
4. 別の人 
5. 旅人 
6. ナナカマド 
7. 空の終点 
8. 春の夜に 
9. テルーの唄(歌集バージョン) 
10. 時の歌(歌集バージョン) 

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『スターウォーズ エピソード2 クローンの攻撃』

Star_wars_2  今回紹介する映画はスターウォーズの歴史において最も重要な出来事であるクローン戦争を勃発を描いた『スターウォーズ エピソード2 クローンの攻撃』です。1作目から10年後の世界を描いた2作目では青年となったアナキンとアミダラの禁断の恋とパルパティーン(ダーク・シディアス)の陰謀により共和国とジェダイを崩壊に導くクローン戦争が始ままるまでが描かれます。
 私は1作目を劇場で見たときはあまりのつまらなさにがっかりさせられたので、2作目が劇場で公開される時は期待半分不安半分で見に行ったものでした。しかし、見終わったかとの印象はイマイチでした。クローン戦争というスターウォーズサガの中でも非常に大きな出来事が描かれるので、1作目よりは面白かったのですが、完成度でいうと旧3部作には遠く及ばないものでした。出来事を描くのに追われて登場人物の内面を全く描けていないストーリーや演出の稚拙さ、CGを乱用した映像のリアリティのなさ、主人公のアナキンを演じた役者の魅力のなさが非常に目立った作品でした。

 この作品はアナキンとパドメの禁断の恋が映画の前半の見せ場となるのですが、この2人の恋愛シーンがあまりにもベタすぎて失笑してしまいました。草原でいちゃつく姿や暖炉の前で葛藤する姿などはあまりにもお寒い演出でした。その割に2人が惹かれていく過程や葛藤は見ている側に何も伝わってこないし、アナキンは単なるスケベ男にしか見えないし、今回の恋愛シーンはすべてカットしてもよかったのではと思いました。
 またアナキンがダークサイドに落ちる重要な出来事として、母がタスキンレイダーに殺され、その復讐としてアナキンがタスキンレイダーを虐殺する場面もいまいちアナキンの内面の葛藤が伝わってきませんでした。
 それにしてもパドメの警護の任務に当たっていたのに、任務を放棄し、パドメを危機に晒すアナキンはジェダイとして如何なものかと思ってしました。
 
 今回の最大の見せ場であるクローン戦争はさすがの迫力でしたが、CGを多用した映像がなんかゲームの映像を見ているようでリアリティに欠けていました。特に工場でのスーパーマリオのステージみたいなシーンは見ていて退屈でした。またジェダイも意外に弱く、主要人物以外あっさり死んでいくのはショットでしたし、オビ・ワンも意外にヘタレなキャラクターだったのも残念でした。
 
 この作品は1作目ではまだあどけなくかわいい姿だったアナキンが、傲慢でスケベで思慮の足りない嫌な青年となっており、これなら将来、ダース・ベイダーになっても仕方がないかなと思うような人間として描かれているのが残念でした。

 この作品の最大の見所はヨーダの活躍です。なぜヨーダがジェダイの騎士のトップなのか、この映画を見るとよく分かります。クローン軍を陣頭に立って指揮し、いざとなればライトセーバーを機敏に振り回す姿は格好良かったです。ただあのヨーダがなぜ旧3部作であんなに老いぼれてしまったのかが不思議です。
 
 また旧3部作で人気のあるボバ・フェットの過去が描かれ、彼の父であるジャンゴ・フェットも登場したのは昔からのファンには嬉しい限りです。ただジャンゴ・フェットの最期はあっけなかったです。

 この映画の感想を一言で言うと他の人がしているゲームを見ているような感じの映画です。ルーカスが監督と脚本を降りて、他の監督や脚本家に任せたら、もっと面白い作品になったと思います。

製作年度 2002年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 142分
監督 ジョージ・ルーカス 
製作総指揮 ジョージ・ルーカス 
脚本 ジョナサン・ヘイルズ 、ジョージ・ルーカス 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 ユアン・マクレガー 、ナタリー・ポートマン 、ヘイデン・クリステンセン 、イアン・マクディアミッド 、ペルニラ・アウグスト 


 

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『バックドラフト』この映画を見て!

第110回『バックドラフト』
Back_draft  今回紹介する映画は火災に立ち向かう消防士たちの生き様を描いた『バックドラフト』です。この作品は私が中学校の時に生まれて初めて映画館で見た洋画であり、火災シーンの圧倒的な迫力と人間ドラマとしての素晴らしさに大変感銘を受けたのを今もはっきりと覚えています。この作品に出会い、私は映画館で映画を見ることの素晴らしさに目覚めたといってもいいくらい思い入れのある作品です。
 
 ストーリー:「シカゴの消防署第17分隊で働くブライアンの父。父は火災現場で殉職する。父の後を継ぐかのように消防士となったブライアンは兄スティーブンが隊長を務める17分隊に配属される。しかし、ブライアンは消防士として活躍する兄についていけない自分に葛藤し、17分隊を辞めてしまう。そんな中、バックドラフト現象を利用した連続爆破放火事件が発生する。ブライアンは放火調査員に配転して、連続爆破放火事件を調査することになる。そして調査を進める内に、政治家による消防人員整理を踏み台にした開発計画がらみの金儲けが明らかになる。そして、捜査線上に意外な犯人が浮かび上がる。」
 
 この映画のストーリーは内容が盛りだくさんです。消防士である兄弟の絆をドラマのメインとしながら、そこに親子愛や夫婦愛も盛り込み、さらに放火犯を捜すというサスペンスまで加わるという贅沢なストーリーです。これだけの内容を盛り込みながらも、話しが散漫にならず分かりやすく、感動できるストーリーに仕上がっているのは大したものです。特に火災シーンに負けずとも劣らない熱い人間ドラマは、見ている側の心も熱くさせます。特にクライマックスの火災現場での兄と弟のやり取りからエンディングまでの展開は何回見ても、涙なしでは見られません。また放火犯人を捜すサスペンス映画としても非常に緊張があり、面白く仕上がっています。ただ『羊たちの沈黙』のレクター博士のような放火魔が登場して、ブライアンが犯人像を教えてもらうシーンは笑ってしまいましたが・・・。
 
 映画の見せ場でもある火災シーンもILMの特撮が素晴らしく、劇場で見ると観客はまるで火災現場のど真ん中にいるような感覚にさせてくれます。この映画では炎を生き物のように捉えており、まるで炎が意志をもって人間に襲ってくれるように見えます。特に前半のマネキン工場の火災とラストのビル火災はすざましく、消防士の炎との命がけの闘いに手に汗握ってしまいます。この映画を見ると火災の恐ろしさと消防士という職業の大変さと素晴らしさがよく分かります。
 大阪にあるUSJにも『バックドラフト』のアトラクションがあり、映画の火災現場を再現しており、なかなかの迫力があります。数あるアトラクションの中でもお奨めです。

 またこの映画を語るとき忘れてはいけないのがハンス・ジマーの音楽です。日本では『料理の鉄人』のテーマ曲として使われていたので、聞いたことがある人は多いと思います。ハンス・ジマーの特徴であるシンセサイザーとオーケストラによるダイナミックな音楽が作品を盛り上げています。特に映画のクライマックスからエンディングにかけての音楽は秀逸で、観客の涙腺を刺激してくれます。ぜひ映画を見て気に入ったら、サントラも買ってください。落ち込んだときに聞くととても元気が出ますよ。

 この映画は消防士たちの熱い生き様が描かれており、誰が見ても感動できる作品です。ぜひ見てみてください! 

製作年度 1991年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 136分
監督 ロン・ハワード 
製作総指揮 ブライアン・グレイザー 、ラファエラ・デ・ラウレンティス 
脚本 グレゴリー・ワイデン 
音楽 ハンス・ジマー 
出演 カート・ラッセル 、ウィリアム・ボールドウィン 、ロバート・デ・ニーロ 、スコット・グレン 、ジェニファー・ジェイソン・リー 

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『DEAD OR ALIVE 犯罪者』この映画を見て!

第109回『DEAD OR ALIVE 犯罪者』
Dead_or_alive  今回紹介する映画はVシネマの帝王、哀川翔と竹内力を主演に据え、驚愕のラストで見る人を圧倒した作品『DEAD OR ALIVE 犯罪者』です。監督は『妖怪大戦争』『ゼブラーマン』『着信アリ』『殺し屋1』など数々の話題作、問題作を手がける三池崇史。この作品では三池監督のアナーキーでパワフルな演出が全開しています。またバイオレンス描写の過激さが有名な三池監督の作品の中でも特に過激なシーンが多く、ウンコまみれのプールに溺れさせられたり、銃で撃たれて食べていたものがお腹からラーメンが飛び出したりと強烈であり、18歳未満の子どもは絶対に見てはいけない作品です。
 
 ストーリー:「中国マフィアとヤクザの抗争事件が多発する東京の歌舞伎町で、チャイニーズマフィアのボスが殺される。事件を追う新宿署の刑事・城島は、その裏に若き新興ギャング団の存在をかぎつける。城島は署内の圧力を振り切り、ギャング団の若きボス・龍を追跡する。龍は裏社会の頂点に立つため台湾マフィアと手を組もうと企んでいた・・・。」
 
 この映画の一番の見所は何と言ってもラスト5分です。私は初めてこの映画のラストを見たときぶっ飛びました。「そんな馬鹿な・・・」言葉をなくすラストです。ラスト5分まではハードボイルド作品ではよくある展開です。どんどん追いつめられるアウトローの主人公たち。その2人がついに対決するラスト。しかし、その対決の全く予想外なラスト。このラスト5分の展開は絶対に誰も予想できないものであり、あまりにもクレイジーな終わり方に圧倒されると思います。もし、初めてこの映画を見て、ラストのオチが途中で分かった人がいたら天才です。このラスト5分の展開はぜひ多くの人に見て欲しいです。きっと呆気にとられると思うので・・・。
 もちろんラスト5分以外にも見せ場は数多くあります。オープニングのスタイリッシュでバイオレンス描写満載のシーンが次々と細かいカット割りで映し出されるシーンは格好いいですし、中盤の刑事やマフィアの人間ドラマも丁寧に描かれており、裏社会で生きるアウトローたちの孤独や哀愁が伝わってきます。
 役者たちもここまで個性派俳優を揃えたら言うことありません。主役の2人の存在感は圧倒的で、ラストの対決はすざましいものがあります。特に一匹狼の刑事役の哀川翔は良い演技をしていたと思います。キレまくってる鶴見辰吾、麻薬を大量に吸う大杉連、変態ヤクザ組長の石橋蓮など強烈なインパクトのある演技を披露しています。
 
 この映画は良識のある人や洒落の分からない人には見ると嫌悪感しか残らないと思いますが、今まで見たことがない映画を見たい人にはお奨めです。ここまでクレイジーで、アナーキーな映画はそうありませんよ。

制作年度 1999年
製作国・地域 日本
上映時間 105分
監督 三池崇史 
脚本 龍一朗 
音楽 遠藤浩二 
出演 哀川翔 、竹内力 、石橋蓮司 、小沢仁志 、鶴見辰吾、 田口トモロヲ、大杉漣、 粕谷みちすけ、 杉田かおる、寺島進、 ダンカン、 塩田時敏 、平泉成、 本田博太郎   

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『魔界転生』この映画を見て!

第108回『魔界転生』
Makaitensei  今回紹介する映画は天草四郎役を演じた沢田研二の怪演が印象に残るオカルト時代劇『魔界転生』です。この映画は80年代に話題作を制作し続けてきた角川映画が手がけている作品なのですが、山田風太郎原作の小説を原作にしたこの映画は公開当時大変な話題になりました。監督は『バトル・ロワイヤル』や『里見八犬伝』などの娯楽作品から『家宅の人』などの文芸作品、果ては『宇宙からのメッセージ』などのSF作品まで幅広いジャンル手がけてきた深作欣二が担当。この映画では深作監督のエネルギッシュでケレン味溢れる演出がとても光っています。

 ストーリー:「時は江戸時代。幕府のキリスト教弾圧による島原の乱で殺された天草四郎は徳川幕府に復讐するために魔界から甦る。彼は怨霊を甦らせる秘術を持って、宮本武蔵、宝蔵院胤舜、豊臣家の滅亡とともに亭主に見捨てられた細川ガラシャ夫人、伊賀の霧丸、そして息子・柳生十兵衛をライバル視して病死した柳生但馬守をこの世に復活させる。天草四郎の計画を知った剣豪・柳生十兵衛はこれを迎え撃つため立ち上がる。」

 この映画のストーリーは荒唐無稽で奇想天外なもので、下手するとB級映画になってしまうような内容ですが、登場する役者たちの圧倒的な存在感と監督のパワフルな演出により、完成度の高い娯楽作品に仕上がっています。

 私は初めてこの映画を見たときは出てくる役者の豪華さとその演技の迫力に圧倒されました。特に天草四郎を演じる沢田研二は何とも言えない退廃的な妖しさと色気を醸し出していました。映画の途中で天草四郎が真田広之演じる霧丸と男同士のキスをするシーンなどは特に沢田研二の妖しい美しさが光っていました。映画のラストの自分の首を腕に抱えて笑うシーンも強烈なインパクトがありました。彼の出演がなかったら、この映画はここまで面白くならなかったと思います。
 若山富三郎演じる柳生但馬守も映画の中で圧倒的な存在感があり、彼がこの映画を引き締めたものにしています。特に映画のラストの江戸城での何人もの侍を一人で次々と斬っていく鮮やかな立ち回りと、燃えさかる炎の中での千葉真一演じる柳生十兵衛との親子対決シーンは最近の時代劇にで見られない迫力があります。この映画に登場した時にはすでに60歳を超えてるのですが、あの年でこれだけの剣捌きができるなんてただ者ではないです。
 柳生十兵衛を演じる千葉真一も大袈裟な演技が鼻につくものの、剣捌きの格好良さはさすがです。特に宮本武蔵との対決シーンと映画のラストの親子対決シーン、そして天草四郎との対決シーンはこの映画最大の見せ場です。
 他にも魔界衆を演じた佳那晃子 、緒形拳 、室田日出男の怪演やまだ初々しい真田広之の演技もとても印象的です。特に佳那晃子演ずる細川ガラシャ夫人の妖艶と狂気迫る演技は大きな見所です。緒方拳の宮本武蔵や室田日出男のエロ坊主・宝蔵院胤舜も強烈なインパクトがあります。真田広之は恋をして葛藤する青年の役を初々しく演じてました。これだけ実力派の役者が登場する映画はなかなかありません。これだけの役者を揃えた時点でこの映画の成功は約束されたようなものです。

 深作監督の演出は、登場する役者たちの魅力を引き出しつつ、パワフルなアクションシーンで数々の見せ場を作り上げ、突っ込みどころ満載のストーリーを演出で見事にカバーしています。この映画最大の見せ場である燃えさかる江戸城での対決シーンは本当にセットに火を放ち、その中で役者たちに演技をさせたそうです。その迫力は最近のCGに頼る映画にはないものがあります。
   
Makaitensei2003  この映画は2003年に窪塚洋介を主演にリメイクもされています。私はそちらは見たことがないのですが、深作版に比べて質はかなり劣っていると聞いています。出てくる役者の格が違いますし、監督の力量の差もあり、それも仕方のないことだとは思います。

 
 深作版『魔界転生』はB級テイストの映画でありながら、役者の演技と監督の演出で一度見ると忘れられないインパクトと何回も見返したくなる魅力がある作品に仕上がっています。

製作年度 1981年
製作国・地域 日本
上映時間 122分
監督 深作欣二 
原作 山田風太郎 
脚本 野上龍雄 、石川孝人 、深作欣二 
音楽 山本邦山 、菅野光亮 
出演 沢田研二 、千葉真一 、真田広之 、佳那晃子 、緒形拳 、若山富三郎、室田日出男、丹波哲郎

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辺見庸の本

 今日9月11日は丁度5年前にアメリカで同時多発テロが起きた日です。あの日を境に世界は大きく変わりました。戦争、テロ、差別、国家による個人の管理と監視の強化・・・。正義と自由と民主主義の名の下に多くの人が殺され、傷つき、自由を奪われました。日本も911以降、自衛隊をイラクに派遣し、有事法制を可決させ、集団的自衛権を行使するために憲法させ改正しようとしています。戦争の20世紀を終え、21世紀は平和の世界に向かって進むと思いきや、どんどん混迷した状況に陥っています。そんなきな臭い時代、私は辺見庸の本を読んでは、現代の社会状況に押し流されることなくどう向き合うかを自問自答しています。
 辺見庸は1944年宮城県生まれで、共同通信の記者を経て作家になりました。91年に「自動起床装置」で第105回芥川賞受賞し、「食」をキーワードに、世界の貧困地域・問題地域を取材したルポルタージュ「もの喰う人々」で大反響を巻き起こしました。その後も、ブッシュ政権やとコイズミ政権の醜い本質を暴き、ジャーナリズムの堕落を鋭く粘り強い文章で告発してきました。2004年に脳出血で倒れ、癌に見舞われるなど再帰が危ぶまれましたが、見事に復帰され、新しい論考を発表されています。
 彼の文章の最大の魅力は特定の組織や思想に頼ることなく一個人として真摯に暗い時代と向き合い発言している所にあります。彼の文章は時に過激だったり、青臭かったり、回りくどかったりしますが、自分の思いを自分なりの言葉で書き記そうとします。彼の文章は論理的には飛躍しすぎたり、破綻していたりしますが、新聞のきれい事のような社説にはない迫力と熱意が感じられます。私は彼の文章を読むと背筋がピンと伸びるような感覚を覚えます。彼の文章は時代に押し流されることなく立ち止まり、そして自分で考えて立ち向かう力を与えてくれます。
 また彼の文章は単なる社会批評の枠にとどまらない奥深さがあります。人間という生き物が持つドロドロとした闇や宿業といったものすら感じさせます。 彼は他の批評家と違い、社会のあらゆる問題を自分に引きつけて考えようとします。そして、自分の中にある弱さや愚かさにも目を向け、自分自身を厳しく問いつめていきます。自分との激しい葛藤や格闘が文章の隅々から滲みだしており、他の批評家の文章にはない生々しさがあります。
 彼の本は現代という社会の影を丹念に描くと同時に、人間という存在の闇を描いています。きな臭く不安が蔓延する時代、ぜひ彼の本を読み、自分や社会と向き合ってみてください。

 私のお薦め作品ベスト3

3位 抵抗の3部作『永遠の不服従のために』『いま、抗暴のときに』『抵抗論―国家からの自由へ』 3冊とも講談社文庫より刊行
 9.11テロ以降の自衛隊派兵、憲法破壊、メディアと戦争の共犯、自由への抑圧に対する作者なりの抵抗のあり方を綴る。
抵抗論―国家からの自由へ いま、抗暴のときに 永遠の不服従のために
2位 『いまここに在ることの恥』 毎日新聞社
 退院後の辺見庸が語る、憲法・マスメディア・国家・自分自身。
いまここに在ることの恥

1位 『もの喰う人々』角川文庫
 「食」を通して、世界の貧困地域・問題地域を取材した衝撃のルポ。
もの食う人びと

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久石譲とCM提供曲

Curvedmusic  久石譲と言うと、宮崎駿の映画の音楽を手がけた人として有名ですが、CMでも印象的な音楽を数々提供しています。ここ最近だとサントリー「京都 福寿園 伊右衛門」のCMで流れる和のテイスト溢れる曲やカネボウ「いち髪」の『Venus』がとても印象的です、また5年前に北野武が出演していたトヨタ・カローラのCMで流れる『Summer』という曲がピアノの美しい音色と心落ち着くメロディーで大変話題になりました。この曲はもともと北野武の『菊次郎の夏』のテーマ曲だったのですが、CMで流れるようになってからカローラの曲として有名になりました。
 CMの曲は15秒から30秒という短い時間の間で如何に視聴者を引き付けることができるかが大きなポイントだと思います。そういう意味で久石さんの手がける曲は短い時間の間で視聴者に印象の残るメロディーを常に提供しており、CM曲として大変成功していると思います。
 彼のCM曲はソロアルバムに収録されており、CMでは一部しか聞けなかった曲がフルで聞くことができ、CMで聞いた時とはまた違った印象を感じる仕上がりになっていることが多いです。ぜひCMを見て、この曲いいなと思ったらアルバムを買って聞いてみてください!
 ちなみに私のお気に入りCM提供は次の3作品です。
『Summer』 トヨタ・カローラ
・『Oriental Wind』 サントリー「京都 福寿園 伊右衛門」
・『Angel Springs』サントリー山崎

○久石譲CM提供曲一覧リスト
・『SYNTAX ERROR』カネボウ化粧品「XAUAX」CMテーマ :α-BET-CITYに収録
・『MEBIUS LOVE』SCOTEHビデオ・カセット :α-BET-CITYに収録
・『THE WINTER REQUIEM』MAZDA Familia 4WD :CURVED MUSICに収録
・『WHITE SILENCE』 資生堂UVホワイト :CURVED MUSICに収録
・『OUT OF TOWN』キャノン キャノビジョン8 :CURVED MUSICに収録
・『A VIRGIN & THE PIPE-CUT MAN』東海ベスタ バイオパイプ :CURVED MUSICに収録
・『794BDH』MAZDA Familia 4WD :CURVED MUSICに収録
・『ZTD』日産 フェアレディZ :CURVED MUSICに収録
・『PUFF ADDER』小西六 コニカ望遠王 :CURVED MUSICに収録
・『A RAINBOW IN CURVED MUSIC』東洋タイア トランピオ :CURVED MUSICに収録
・『CLASSIC』サントリー クラシック :CURVED MUSICに収録
・『FLOWER MOMENT』オリンパスOM2 :CURVED MUSICに収録
・『月の砂漠の少女(歌劇"真珠採り"より)』日立マスタックス :CURVED MUSICに収録 
・『Friends』トヨタ・クラウンマジェスタ :Piano Stories IIに収録
・『Angel Springs』サントリー山崎 :Piano Stories IIに収録
・『Nostalgia』サントリー・ピュアモルトウイスキー山崎 :Nostalgia~ Piano Stories III~に収録
・『Summer』 トヨタ・カローラ(9代目) :CURVED MUSIC IIに収録
・『Asian Dream Song』 トヨタ・カローラ(9代目) :CURVED MUSIC IIに収録
・『Ballet au lait』 全国牛乳普及協会  :CURVED MUSIC IIに収録
・『Silence』 ダンロップVEURO(久石本人もCMに登場した) :CURVED MUSIC IIに収録
・『Happin' Hoppin'』キリン一番搾り生ビール :CURVED MUSIC IIに収録
・『Ikaros』  東ハト キャラメルコーン :FREEDOM PIANO STORIES 4に収録
・『Spring』 ベネッセコーポレーション「進研ゼミ」 :FREEDOM PIANO STORIES 4に収録
・『Oriental Wind』 サントリー「京都 福寿園 伊右衛門」 :FREEDOM PIANO STORIES 4に収録
・『お母さんの写真』 ハウス食品 :となりのトトロイメージアルバムに収録
・『Venus』 カネボウ「いち髪」 :Asian X.T.Cに収録
・『レリアン』レリアン

○提供曲収録CD
CURVED MUSIC POLYDOR POCH-1485 1986.09.25 \1,529(税込み)
α-BET-CITY 徳間ジャパン TKCA-30725 1985.06.25 \1,733(税込み
・PIANO STORIES II POLYDOR POCH-1604 1996.10.25 \3,059(税込み)

・NOSTALGIA PIANO STORIES III POLYDOR POCH-1731 1998.10.14 \3,059(税込み)
・CURVED MUSIC II UNIVERSAL UPCH-1216 2003.01.29 \1,300(税込み)
・FREEDOM PIANO STORIES 4 UNIVERSAL UPCI-1014 2005.01.26 \2,940(税込み)
Asian X.T.C UPCI-1051 2006.10.4  \3,059(税込み)
 

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『もののけ姫』この映画を見て!

第107回『もののけ姫』
Princess_mononoke  今回紹介する作品は公開当時に大ブームを巻き起こし、日本の興行収入の記録を塗り変えた『もののけ姫』です。監督は日本一有名なアニメ映画監督・宮崎駿。
 監督は若いときから日本を舞台にしたファンタジー映画を作りたいと考えており、1980年には『もののけ姫』の構想を練っていたそうです。
Mononokebook               この時に描かれたイメージボードは絵本『もののけ姫』として現在出版されています。映画とは全く違った内容であり、もののけはトトロみたいな姿で、ディズニーの『美女と野獣』のようなお話しになっています。興味のある人はぜひ読んでみてください。とても面白い絵本です。個人的には絵本版「もののけ姫」に忠実な映画も見てみたい気がします。
 最初の構想から約17年後、20億円近い制作費と3年近い制作期間をかけて、映画版『もののけ姫』が完成するのですが、当初の構想とは全く違う、自然と人間の対立という非常にハードなテーマの作品として完成しました。
 私はこの映画の制作を知った時、どんな作品になるのかとても楽しみにしていたものでした。中世の日本を舞台に、森の神・シシ神の首をめぐって、人間ともののけが壮絶な戦いをするいうストーリーを聞いたときは、『風の谷のナウシカ』のようなスケール大きく、アクション満載で、感動できるドラマが展開されるのだと勝手に予想していました。
 テレビや映画館で予告編が公開された時は、手や首が飛ぶシーンの激しい暴力描写が大変話題になりましたが、宮崎駿はコミック版『風の谷のナウシカ』でかなり激しい暴力を描いていたので、私としては驚きはしませんでしたが、これは今までのジブリ作品とは違うなと感じ、どのような展開になるのか期待が高まったものでした。
 公開当時は友だちと初日に長蛇の列に並んで見たのですが、映像や音楽の美しさはさすが宮崎駿作品だと思いつつ、私が予想したアクション満載の派手な作品とはかなり違う静謐な雰囲気の作品となっており戸惑ったものでした。この映画を最初見たときはあまり面白くないと評価していたのですが、映画を見終わってもこの作品のことが頭から離れず、また次の日も見に行き、また一週間後に見に行き、1ヵ月後に見に行きと、結局6回も劇場に足を運びました。おそらく私の中で一番映画館で何回も見た作品だと思います。(ちなみに二番は『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』)
 
 『もののけ姫』は『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のような派手なアクションシーンやカタルシスもなく、ストーリーも全編重苦しく、見た後の爽快感といったものはないのですが、心にずしりと残るものありました。
 人間と自然の対立と共存というテーマは映画版『風の谷のナウシカ』でも描かれていましたが、『ナウシカ』は人間は自然に歩み寄ることの大切さだという明確なメッセージがありました。しかし『もののけ姫』では人間は生きるために自然を利用していかなくてはいけない存在であり、そう簡単に自然に歩み寄れない人間の姿が描かれました。人間は長い歴史をかけて自然を支配してきました。人間が『もののけ姫』は、文明という力によって自然を自分たちの支配下に置くまでの歴史を、タタラ場とシシ神の森を舞台に簡潔に描いており、人間と自然の現在の関係性とその問題解決の難しさを見事に表現した作品です。
 自然が破壊されると人間の生存にとっても脅威になると分かりつつも、自然を支配し利用しないと生きていけない現代の人間。人間が人間らしく生きるために自然を支配し利用することを誰が止める権利があるのか?良い意味でも悪い意味でも欲深い生き物である人間が自然をどう節度をもって利用していくことができるのか?この映画が提起する問題は簡単にこうすれば解決できるというものではありません。そのため、この映画のラストも明確な解決策を打ち出せず、アシタカがタタラ場に住み、サンが森に帰るという非常に曖昧な結末になっています。
 
 私はこの映画の大きな魅力の一つに歴史の表舞台に出てこない人たちにスポットライトを当てたところがあると思います。普通の時代劇なら必ず登場する武士や農民がほととんど出てこず、蝦夷をイメージさせる主人公・アシタカを始めとして、製鉄の職人集団、牛飼い、婆娑羅など今までの時代劇に出てこなかったさまざまな人物を登場させ、日本の中世の歴史の多様性を教えてくれる作品となっています。
 またこの映画では遊女や被差別民、ハンセン病と思われる病人など社会の中で虐げられてきた人々がタタラ場という共同体の中で活き活きと活躍している姿がとても印象的でした。もののけ側から見たらタタラ場は破壊の中心にしか見えないと思いますが、社会の中で虐げられてきた人たちにとってタタラ場は救いの場であり、理想的な共同体だと思います。人間にとっての理想郷が自然にとっては脅威になってしまうという悲劇。この映画は単純にタタラ場の人が悪いとも言えず、かと言ってもののけがいっていることも悪いと言えず、明確な悪人が出てこないので、見終わって切なく重い気持ちになってしまう作品です。
 
 私はいつもこの作品を見ると、引き裂かれた状況で生きる主人公2人の哀しみに胸が苦しくなります。人間にもなりきれず、もののけにもなれないサン。サンのアシタカが好きだけど、人間を許せないという思いは見ていて辛いものがあります。またアシタカもタタラ場も好きだし、サンも好きであるが故に、何とか両者を和解させようと努めながら、結局タタラ場も森も崩壊してしまうという悲劇。映画のラストにサンがアシタカに「アシタカは好きだ。でも人間は許すことはできない」と言い、アシタカがサンに「それでもいい、私と共に生きてくれ」というシーンは切なすぎて、泣いてしまいます。

 映画のラストはコダマが一匹だけ登場します。それは一見まだ森は再生する可能性があることを示してるようにも見えますが、よく考えるとコダマがたくさんいる森に戻ることはないことを示しており、哀しい気持ちになります。

 この映画は明るく楽しい作品ではありませんが、見終わった後なぜかもう一度見たくなる作品であり、なぜか生きていくことを励まされる作品です。アシタカがタタリ神の不条理な呪いに立ち向かい、自然と人間の解決策のない課題に立ち向かう姿は、困難な状況でも自分に与えられた課題にどう立ち振る舞っていくべきかの一つのよいお手本だと思います。生きていくことの大切さと哀しみ、人間の宿業を感じさせられる作品です。

製作年度 1997年
製作国・地域 日本
上映時間 133分
監督 宮崎駿 
製作総指揮 徳間康快 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 松田洋治 、石田ゆり子 、田中裕子 、小林薫 、西村雅彦 、美輪明宏、森みつ子、森繁久弥

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中島みゆきの新アルバム『ララバイSINGER』11月発売!

Yccw10030  11月22日に中島みゆき通算34枚目のアルバムが発売されることが決定されたようです。前回、前々回とは夜会の曲や過去の作品のリメイクだったので、オリジナルアルバムとしては3年ぶりになります。収録曲を見ると、華原朋美やTOKIO、工藤静香などに提供した曲もあれば、タイトルがとても印象的な曲もあり、どんな作品になっているのかとても楽しみです。まだ発売まで2ヶ月近くありますが、タイトルを見ながら、どんな歌詞で、どんなメロディかあれこれ想像して待ちたいとおもいます。特に私が気になるタイトルは「重き荷を負いて 」とアルバムタイトルとなっている「ララバイSINGER」の2曲です。中島みゆきのどんな思いがこめられたアルバムになっているのか、早く11月22日なって欲しいです!

1.桜らららら
2.ただ・愛のためにだけ
3.宙船(そらふね)
4.あのさよならにさよならを
5.Clavis ―鍵―
6.水
7.あなたでなければ
8.五月の陽ざし
9.とろ
10.お月さまほしい!
11.重き荷を負いて
12.ララバイSINGER

作詞・作曲:中島みゆき 編曲:瀬尾一三

http://www.miyuki.jp/Release/index.html

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『スターシップ・トゥルーパーズ』この映画を見て!

第106回『スターシップ・トゥルーパーズ』
Starship_troopers  今回紹介する作品は私の大好きな残酷でお馬鹿で皮肉たっぷりのSF戦争映画『スターシップ・トゥルーパーズ』です。監督は『ロボコップ』『氷の微笑』などセンセーショナルな映画を撮ることで有名なポール・ヴァーホーヴェン。彼は壮大な制作費をかけて、毎回パワフルだけど下品で残酷で皮肉たっぷりの映画を撮ることで有名です。この映画はそんな監督の特長が最大限発揮された作品です。
 この映画は劇場公開当時、賛否両論分かれました。原作の愛読者はあまりの改変ぶりに激怒し、人間の手足がばらばらに引き裂かれるなどの残酷な殺戮シーンのオンバレードに嫌悪感を抱く人も多かったのですが、ヴァーホーヴェンの強烈な毒に一度はまってしまうととても刺激的で面白く、戦争について深く考えさせられる作品です。

 私は初めてこの映画を見たときはヴァーホーヴェンの戦争に対する強烈なブラックユーモアに腹を抱えて笑ってしまいました。この映画はアメリカの軍事主義や戦争を痛烈に皮肉っており、戦争の愚かさや無意味さ、残酷さを見事に表現しています。同時期スピルバーグが『プライベート・ライアン』という戦争映画を公開しましたが、戦争を否定も肯定もしていない曖昧な作品でした。しかしこの映画は、はっきりと反戦という視点で持って制作されており、私としては好感がもてます。能天気な若者たちが戦争を通して兵士として成長していく姿は一見清清しく見えるものの、不気味なものを感じさせます。また随所に挿入される戦争賛美のCMも白々しく見ていて気持ち悪いです。この映画は一見、戦争賛美のプロパガンダ映画のように作られていますが、監督の意図は全く逆であり、戦争を徹底的にコケにした映画です。ここまでの反戦映画は滅多にないと思います。
 
 この映画の大きな見所は巨大昆虫型異生物“バグス”と人類の激しい攻防戦です。虫の造形は『ジュラッシックパーク』などの特殊効果で有名なフィル・ティペットが担当しているのですが、虫嫌いの人は正視できないほど巨大で気持ち悪い虫たちが大量に登場します。虫の軍団が兵士たちを襲うシーンは凄いの一言です。巨大な虫に成す術もなく殺される兵士たちの姿は戦争の虚しさを見事に表現しています。監督は小さいとき、ナチスがユダヤ人を虐殺する現場を目撃しており、そのトラウマから残酷な描写にはこだわるそうです。それにしてもあんな虫の軍団に歩兵だけで立ち向かうのは無理がありすぎです。戦車は爆撃機を使えと突っ込みたくなりますが、監督は意図的にそうしたのでしょうけどね。
 
 あと宇宙船の描写は妙にセット感やCGっぽさが出ていてリアリティに欠け今ひとつでした。監督は別に興味がなかったのかもしれませんが。

 役者に関してはアメリカの能天気な若者たちのイメージにぴったりはまっていたと思います。またヴァーホーヴェン映画に欠かせないマイケル・アイアンサイドの鬼軍曹役もまさに適役といった感じでした。

 ハリウッドで100億円近い制作費をかけて制作し、こんなお馬鹿でアメリカ軍事主義を批判した映画を作るとはさすがヴァーホーヴェン監督。この映画は残酷描写に耐えられ、なおかつ洒落の分かる人にお薦めの映画です。

製作年度 1997年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 128分
監督 ポール・ヴァーホーヴェン 
原作 ロバート・A・ハインライン 
脚本 エド・ニューマイヤー 
音楽 ベイジル・ポールドゥリス 
出演 キャスパー・ヴァン・ディーン 、ディナ・メイヤー 、デニース・リチャーズ 、ジェイク・ビューシイ 、ニール・パトリック・ハリス 、マイケル・アイアンサイド

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夜会VOL.6『シャングリラ』

夜会VOL.6『シャングリラ』
Syangurira  中島みゆきのライフワークであるコンサートでも演劇でもない独特な舞台「夜会」。今回は歌だけでなくドラマとしても魅力的な『シャングリラ』を紹介したいと思います。
 私はこの作品はDVDでしか見たことがないのですが、ラストに歌われる『誕生』と『生きてゆくおまえ』の中島みゆきの歌唱力と表現力に圧倒されると共に、ストーリーの悲劇的な結末に涙がこみあげてきました。
 ストーリー:「仕事を探していた美(メイ)は新聞の求人広告でメイド募集の記事に目が止まる。『住所 オン・ザ・ヒル 雇い主 美齢』そこに書かれていた雇い主は自分が幼い頃に母に眠り薬を飲ませて、自分が母になりすまして大金持ちの家の女となり、裕福な生活を過ごしている母の元親友。母は苦労の連続で、不幸な事故で亡くなってしまった。美は母の復讐のためにメイドとして美齢の館に入り込む。美は美齢に嫌がらせをして追い込んでいく。しかし、美はある日、美齢が大金持ちの男の妾に過ぎず、決して幸せな生活を送っていた訳でないことを知る。そして、残酷で悲劇的な結末が美と美齢の間に訪れる。」
 この作品はラストに衝撃的などんでん返しがあります。ラストに歌われる「生きてゆくおまえ」は10分近い大作ですが、この物語の悲劇の真相が語られます。歌で語られるあまりにも悲しく、残酷な真実。美の憎悪と復讐の果てのあまりにも悲劇的な結末。運命のいたずらという皮肉。本当の愛情とは何か?本当の幸せとは何かをこの作品の結末は見ている側に問いかけてきます。
 この作品では「誕生」という歌が大きな意味をもっています。「誕生」は生まれてきたことを祝福する歌なのですが、この作品では親子の深い愛情を伝える歌として、効果的に使用されています。
 この作品は夜会の中で起承転結がはっきりしており、ストーリーもドラマティックで分かりやすく、夜会初心者の方にもお薦めです。ぜひ見てみてください。ラストの「生きてゆくおまえは」涙なしでは見れませんよ。

会場:Bunkamuraシアターコクーン
1994.11.11~12.10
全25回公演

1. 思い出させてあげる(Instrumental
2. 怜子
3. 煙草
4.
5. 波の上
6. 南三条
7.
8. あの娘
9. 朝焼け
10. 五才の頃
11. F.O.
12. 忘れてはいけない
13. 思い出させてあげる
14. あり、か
15. 春までなんぼ(Instrumental)
16. 子守歌
17. グッバイガール
18. 黄砂に吹かれて
19. 思い出させてあげる
20. 友情
21. シャングリラ
22. 思い出させてあげる
23. 春までなんぼ
24. 波の上
25. 二隻の舟
26. 生きてゆくおまえ
27. 誕生
28. 生きてゆくおまえ
29. シャングリラ(Instrumental)

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『ライオンキング』

お気に入りのCD.No13.『ライオン・キング サウンドトラック』
Lion_king  今回紹介するCDは1994年にディズニーが制作し、世界中で大ヒットを飛ばした長編アニメ映画『ライオン・キング』のサウンドトラックです。
 『ライオン・キング』は アフリカの大平原を舞台に、ライオンの親子を主人公に、親子の愛や子どもが大人として成長しく姿をスケール大きく描いた作品です。ストーリーはディズニー映画なので見た目は勧善懲悪で明るく分かりやすい話しなのですが、シェークスピアのハムレットを参考にしたと言うだけあって、大人が見ても楽しめる奥の深い話しでもあります。
 ストーリーの面白さに加え、アフリカの大地の美しい映像や主役から脇役まで活き活きと活躍するキャクラクターたちの姿もこの映画の大きな魅力となっています。そして、ディズニー映画を語る上で外せないのが音楽の素晴らしさなのですが、この映画の音楽はディズニー映画でも屈指の完成度を誇ると仕上がりとなっており、映画の完成度をさらに高めています。
 
 音楽監督は『バック・ドラフト』や『ラストサムライ』などで有名なハンス・ジマーが担当。主題歌や挿入歌はロック界の帝王エルトン・ジョンと『美女と野獣』や『アラジン』の主題歌でアカデミー賞を獲ったティム・ライスが担当。超一流の音楽スタッフが結集して『ライオン・キング』の音楽制作され、その年のアカデミー賞で作曲賞と主題歌賞を獲得しました。
 
 ハンス・ジマーによるアフリカサウンドを巧みに取り入れたインストゥルメンタルの数々はアフリカの広大な大地をイメージさせるスケールの大きさを感じさせると同時に、主人公のドラマティックな人生と内面の葛藤を美しいメロディで表現しており、聞き応えがあります。特に映画のオープニングで流れる曲「アフリカの大地」はアフリカのリズミカルで素朴なメロディーとハリウッドのスケールの大きなメロディがたくみに融合した名曲だと思います。

 エルトン・ジョンとティム・ライスによって制作された5つの歌もコミカルなナンバーから力強く心温まるナンバーまでバラエティに富んでいます。特に主題歌である「サークル・オブ・ライフ」は生命の連鎖、親から子へと引き継がれる意志と言う今回の映画のテーマを見事に歌で表現しています。また私の大好きな「ハクナ・マタタ」は落ち込んだときに聞くと元気の出る心温まる曲です。ちなみにハクナ・マタタとはくよくよするなという意味です。
 
 この映画のサントラCDは映画を見た人なら絶対買って損はないと思います。また映画を見たことがない人でも、曲を聴くだけで心動かされるものがあると思います。ぜひ聞いてみてください。

1. サークル・オブ・ライフ(カーメン・トゥウィリー,リーボ・M.) 
2. 王様になるのが待ちきれない(ジェイソン・ウェーバー,ローワン・アトキンソン・アンド・ローラ・ウィリアムス) 
3. 準備をしておけ(ジェレミー・アイアンズ・ウィズ・ウーピー・ゴールドバーグ,チーチ・マリン・アンド・ジム・カミングス) 
4. ハクナ・マタタ(ネーサン・レイン・アンド・アーニー・サベラ・ウィズ・ジェイソン・ウェーバー・アンド・ジョセフ・ウィリアムス) 
5. 愛を感じて(ジョセフ・ウィリアムス・アンド・サリー・ドワースキー・ウィズ・ネーサン・レイン,アーニー・サベラ,クリストル・エドワーズ) 
6. アフリカの大地(インストゥルメンタル) 
7. 命をかけて...(インストゥルメンタル) 
8. 星空の下で(インストゥルメンタル) 
9. キング・オブ・プライド・ロック(インストゥルメンタル) 
10. サークル・オブ・ライフ(エルトン・ジョン) 
11. 王様になるのが待ちきれない(エルトン・ジョン) 
12. 愛を感じて(エルトン・ジョン) 

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『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体 サウンドトラックシリーズ 』

お気に入りのCD.No12.『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体 サウンドトラック』久石譲
The_universe_within_1  今回紹介するCDは1989年にNHKスペシャルとして放映された「驚異の小宇宙・人体」のサウンドトラックです。
 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体』は人間の体内で起こっているさまざまな器官の役割を、ドラマティックに実写映像とCGを駆使して紹介する番組で、今まで「身体」「脳」「遺伝子」と3シリーズ放映されてきました。
 私は小学生の時に理科の授業で初めてこの番組を見たのですが、生命の誕生を描いた第一話を見て、大変感動したのを今も覚えています。排卵から受精、胎児の成長へと至る過程がCGや実際の胎内の映像を用いながら、分かりやすく説明してくれるので、小学生ながら興味深く見ていたものでした。私はこの番組を通して生命の精巧さ感心し、命の尊さと驚異というものを感じたものでした。
 この番組はNHKの最先端撮影技術やCGが大きな見所であるのですが、もうひとつ忘れてはいけないのが音楽の素晴らしさです。
 
 音楽は宮崎駿や北野武の映画で数々の名スコアを生み出してきた久石譲が担当しているのですが、私は彼の作品の中でも『人体』はベスト5に入るほどの仕上がりだと思います。私が久石譲のファンになったきっかけも『人体』の番組を見たのがきっかけでした。番組の随所で流れるシンセを利用した美しいメロディの数々は人体の神秘や偉大さ、そして温かさを感じさせてくれます。音楽で人体内部の活動を活き活きと見事に表現しています。特に番組の最後で流れるオーケストラによるテーマソング「THE INNERS~遥かなる時間(とき)の彼方へ」は鳥肌がたつほど美しく、聞いていて心温まる名曲です。
 
 私はこの作品で久石譲という作曲家の虜になり、彼の他の作品を次々と買っては聞きまくるようになりました。ちなみに『人体』が私が初めて買った久石譲のCDでした。
 
 彼は3シリーズ全ての音楽を担当しているのですが、どのシリーズも時に激しく、時に優しく美しいメロディで人体の神秘や偉大さを表現しています。しかし、完成度は1作目の作品が最高だと思います。

 『人体』のCDは現在2枚組みで発売されています。『人体』を見たことがない人でも久石ファン、癒し系の音楽を求めている人にはお薦めです!
 ちなみにこのCDはここ最近の久石作品に見られるオーケストラ中心でなく、初期の久石作品に見られたシンセ中心の作品であることも大きな魅力だと思います。シンセによる透明感溢れる音の広がりが心地よい作品です。
 ぜひ聞いてみてください!

 *ちなみに現在は廃盤ですが、『SPECIAL ISUUE UNIVERSAL WITHIN』と言う2つのスピーカーでの3Dの音響を出すと言うアルバムがあります。私も持っていますが、目を閉じて聞くと自分の周囲360度、音があちこち動いている様に聞こえ、面白いアルバムになっています。中古で見つけたら買って聞いてみてください!
 
 

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『ゲド戦記』のヒットに関して

Gedo_2  今年の夏公開されたスタジオジブリの最新作『ゲド戦記』。その出来の悪さはこのブログでも紹介しましたが、ネットでの評価を見ると、多くの人が『ゲド戦記』に対して不満を感じ、低い評価をしています。原作者のル=グウィンもホームページでこの作品に対して批判的な感想を述べています。
 私の中ではこの作品はジブリ作品の中で一番最低の出来だと思います。と言うか、未完成状態の映画だと思います。なぜこのような出来で公開したのか不思議なくらいです。シナリオ・映像・音楽の入れ方・声優・演出の仕方、全てが雑です。言いたいことはよく分かるのですが、その伝え方がセリフに頼るのは安直と過ぎます。またアニメ映画としての面白さが全くありません。ジブリの中で誰も監督にアドバイスをする人はいなかったのでしょうか?
 明らかに出来の悪い『ゲド戦記』。しかし今も興行成績1位を『パイレーツ オブ カリビアン2』と争っており、60億円近く稼いでいるようです。映画は必ずしも中身ではなく、結局は宣伝とブランドさえあれば映画はヒットするものなのでしょうねしかし、このような出来の悪い作品が大ヒットすると、それだけ多くの人がジブリの映画に失望し、次回作で足を運ばなくなるのではないかと心配です。
 私はこの作品でジブリは大コケしたほうが将来的には良かったのではと思います。
 初期のジブリの映画はヒットこそしませんでしたが、中身的には充実した作品ばかりでした。しかし、最近は話題性や宣伝に力を入れる割に、中身が今ひとつな作品ばかりです。もちろんスタジオのスタッフの雇用を守るためにある程度の収益は必要だと思いますし、多くの人に見てもらえるような努力は必要だと思います。但し、それは中身が充実していることが大前提です。今こそジブリは中身の充実を検討して欲しいです。
 

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『ミッション』この映画を見て!

第105回『ミッション』
Mission_1  今回紹介する映画は18世紀の南米を舞台に先住民に対して布教活動を行うイエスズ会の宣教師たちの生き様を描いた『ミッション』です。
 この映画は1986年のカンヌ映画祭にてグランプリに選ばれ、アカデミー賞でも撮影賞を受賞するなど高い評価を受けました。監督は『キリング・フィールド』・『シティ・オブ・ジョイ』など社会派の作品を撮ることで有名なローランド・ジョフィ。彼はドキュメンタリータッチの淡々とした描写の中でヒューマニズム溢れる人間ドラマを見せることで定評があり、この作品も南米の雄大で美しい大自然を舞台に重厚な人間ドラマが繰り広げられます。主演はアカデミー主演男優賞を受賞したことのある演技派俳優、ロバート・デ・ニーロとジェレミー・アイアンズの2人。2人の熱演がこの映画の大きな見所の一つとなっています。特にロバート・デ・ニーロは元奴隷商人で弟を殺して罪の意識に苦しむ中で宣教に加わるという役なのですが、映画の中で圧倒的な存在感がありました。
 また南米の大自然を捉えた映像の美しさも大きな見所です。さすがアカデミー撮影賞を受賞しただけあります。特にイグアスの滝のシーンはスケールの大きさに圧倒されます。
 そしてこの映画を語るときに忘れてはいけないのは音楽です。『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』で有名な作曲エンニオ・モリコーネが担当しているのですが、彼の担当した映画音楽の中でも1,2位を争う出来栄えです。彼の音楽がこの映画の格調をさらに高めています。繊細でありながら壮大で、優しく美しい音楽は胸を打つものがあります。映画の中で彼の音楽が流れてくるだけで、涙が自然とこみ上げてくるほど、映像とあっており素晴らしいの一言です。

 ストーリー:「1750年、イエズス会の神父ガブリエルはイグアスの滝の上の伝道開拓地を目指して、崖をよじ登っていた。滝の上に住むグァラニー族の人たちに布教活動をするガブリエル。
 その頃、グァラニー族を狙って、奴隷商人のメンドーザが滝の上に現れる。彼は奴隷を人間と思わないひどい扱いをしていた。しかし彼は愛する女性を弟に寝取られたことに腹を立て、弟を殺してしまう。罪の意識に苛まれ引きこもっていたメンドーサに出会ったガブリエルは彼を伝道活動へと連れて行く。メンドーサは自らに苦行を課すためにがらくたの武器を体にくくりつけて崖をよじ登る。何度も転げ落ちながら滝の上にたどりつくと、そこにはかつて彼が奴隷として狩っていたグァラニー族がいた。メンドーザは彼らに赦しを受けて、彼らと共に過ごすこととなる。そしてついには自らも宣教師となり、神に仕える身となる。
 その頃、スペインとポルトガルが激しい植民地争いを続けていた。両国の植民地拡大に乗じて勢力を拡大したイエズス会は、しだいに王権から疎まれる存在になっていた。枢機卿は滝の上の教会を放棄して、グァラニー族の人々をポルトガルに引き渡すよう迫られる。ガブリエルは枢機卿に、地上の楽園であるグァラニー族の教会の存続を認めてもらおうとするが失敗に終わる。そしてポルトガル・スペイン軍によるグァラニー族への大虐殺が始まる・・・。」

Mission2  私がこの映画を始めてみたのは大学の時でしたが、あまりにも悲劇的な結末にショックを受けたものでした。神を信じ、愛を貫こうとした者たちが次々と軍隊という力によって殺されていく場面は痛ましく、人の世の虚しさを感じてしまいました。人間の現世での欲望の前には神の愛も無力になってしまう現実に対して悲しみを覚えてしまいました。
 映画の後半、ガブリエルとメンドーザが軍隊による虐殺に対して無抵抗を貫くか、武器を持って戦うかで意見が分かれ、結局お互い自分の信念に従って別々の行動を取ります。暴力に対して非暴力て対抗するか、暴力で対抗するか、どちらが正しい行為だったのか見た後とても悩んでしまいます。映画のラスト、メンドーザはガブリエルの姿を見て、どう感じたのかが非常に気になります。
 
 また私はこの映画を見て、政治の道具として利用される宗教の醜さ・愚かさといったものを感じました。枢機卿が信徒を守るよりも勢力の維持を選択し、虐殺を容認してしまう姿は宗教の理想と現実のギャップといったものを痛感しました。

 あとこの映画を見るとき注意しないといけないことがあります。この映画では宣教師を先住民たちの見方として好意的に捉えていますが、当時の西欧の植民地化においては宣教師が大きな役割を果たしてきました。先住民の土着信仰を野蛮で未開なものとして否定し、キリスト教こそが人間が信じるに値するものだとして布教していきました。宣教師は先住民を最初は同じ人間としては見ようとせず、哀れで野蛮な獣と思っており、いかに彼らを人間にしていくかを自分たちの使命としてきました。この発想は先住民に対してとても失礼であり、傲慢な態度です。しかし当時の宣教師は自分たちの行為を疑いもしませんでした。この映画はポルトガルやスペイン国家を悪、宣教師たちを善として捉えていますが、よく考えると宣教師たちの善意も押し付けにしか過ぎず、西欧人が入植させしてこなかったら先住民はそれなりに幸せにずっと暮らしていたかもしれません。この映画を見るときはそういう視点も持つことが必要かなと思います。

 「力が正しいのならこの世に愛は必要なくなる」
 映画の中でガブリエル神父が言うこのセリフは、この映画のテーマであり、戦争や紛争が頻発する現代社会においても重い問いかけをしていると思います。

製作年度 1986年
製作国・地域 イギリス
上映時間 126分
監督 ローランド・ジョフィ 
脚本 ロバート・ボルト 
音楽 エンニオ・モリコーネ 
出演 ロバート・デ・ニーロ 、ジェレミー・アイアンズ 、レイ・マカナリー 、エイダン・クイン 、シェリー・ルンギ、リーアム・ニーソン 

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『下妻物語』この映画を見て!

第104回『下妻物語』
Simotuma  今回紹介する映画は田園風景が広がる美しい茨城県下妻市を舞台に深田恭子が演じるロリータと土屋アンナが演じるヤンキーの友情をコミカルに描いた『下妻物語』です。監督は『嫌われ松子の一生』でも絶賛を浴びた中島哲也。この映画でも彼のキッチュでポップな演出が大きな魅力の一つとなっています。
 私はこの映画をテレビで見たのですが、斬新な映像表現とコミカルでテンポの良いストーリー展開にとてもはまってしまいました。まさかこんなに面白い作品だとは見る前は思ってもいなかったので、良い意味で期待を裏切った作品でした。ストーリー自体は冒頭にも挙げたようにとてもシンプルで、世の中からはみ出した少女2人の友情を描いたものです。別にこれと言って大きなドラマが起こるわけもないのですが、監督の見せ方がとても上手なので映画の話しにぐいぐいと引き込まれていきます。単なるおバカなコメディタッチの映画と最初思わせながら、結構ジーンと来る場面もあり、後味も爽やかで見て損のない映画です。
 『嫌われ松子の一生』でもそうでしたが、監督のカラフルでポップでアニメチックな映像表現が随所に見られ、観客を楽しませてくれます。また途中で挿入されるアメコミ調のアニメもとても面白かったです。 
 また随所に見られる監督の遊び心満載の演出がとても面白く、尼崎のジャージネタや田舎のジャスコ(よくジャスコはOKしたなと思います)、ベルサーチのバッタモンネタ、など大笑いしてしまいました。
主人公2人の生い立ちを多くのカットを使用してコミカルにテンポよく見せるシーンも観客を笑わせながらも主人公の背景がみごとに伝わる演出だったと思います。

 役者も主役2人はもちろんのこと、適材適所というか、出演している人全て役にぴったり当てはまっていました。まずロリータを演じた深田恭子ですが、現実離れしたマイペースな役が本人の普段のイメージにも近く、とてもあっていました。土屋アンナのヤンキー姿も如何にも田舎の熱血ヤンキーといった感じを出しており、とてもはまっていました。脇役も個性的な人ばかりで、特に宮迫博之 、岡田義徳、荒川良々、阿部サダヲは特に強烈なインパクトがありました。
 この映画は軽い映画に見えて、結構グっとくるセリフも多く、「人間は大きな幸せを前にすると、急に臆病になる。幸せを勝ち取ることは、不幸に耐えることより勇気が要る」 というセリフはとても印象に残りました。
 また主人公2人がロリーターにヤンキーと一見世の中から外れたダメ人間に見えながら、実は自分というものをしっかり持った強く逞しい人間であり、彼らの生き方を見るととても励まされるものがあります。2人の友情が単なる馴れ合いでなく、自立した女性同士の付き合いであるところも清清しく、見ていて気持ちが良いです。
 この映画は時代に流されずに我が道を行く自立した少女たちの青春と友情を見事に描いた傑作です。ぜひ多くの人に見て欲しいです。

製作年度 2004年
製作国・地域 日本
上映時間 102分
監督 中島哲也 
原作 嶽本野ばら 
脚本 中島哲也 
音楽 菅野よう子 
出演 深田恭子 、土屋アンナ 、宮迫博之 、篠原涼子 、阿部サダヲ、  岡田義徳、小池栄子、荒川良々、 樹木希林 

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『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』この映画を見て!

第103回『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』
Monty_pythons  今回紹介する映画はカルト的に人気を誇る英国のコメディ集団「モンティ・パイソン」が制作したブラックコメディ満載の作品『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』です。
 モンティ・パイソンは70年~80年代半ばにイギリスを中心に映画・テレビ等で活躍した作家兼俳優の男性6人からなるコメディ・グループです。6人ともイギリスの名門大学出身であり、グレアム・チャップマン 、ジョン・クリーズ 、エリック・アイドルはケンブリッジ大学出身、マイケル・パリン 、テリー・ギリアム  、テリー・ジョーンズはオックスフォード大学出身です。モンティ・パイソンはBBCの企画で集められた6人のメンバーが深夜のコメディ番組「空飛ぶモンティ・パイソン」を手がけたことが結成の始まりだそうです。「空飛ぶモンティ・パイソン」はイギリスの若者の間で人気を博し、45話のテレビシリーズ、映画4本を制作するまでになったそうです。1989年にメンバーのグレアム・チャップマンが亡くなってしまったため、今回紹介する映画がモンティ・パイソンの最後の作品となっています。

 私がモンティ・パイソンを知ったのはテリー・ギリアムの作品からです。テリー・ギリアムは『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』などの監督で有名であり、イマジネーション溢れる個性的な映像表現に多くのファンがいます。私も昔からギリアム作品のファンであり、彼が昔モンティ・パイソンのメンバーだったことから、モンティ・パイソンの作品もほとんど鑑賞してました。私がはじめてモンティ・パイソンの作品を見た時は、世の中のタブーを破るブラックユーモアの数々に衝撃を受けたものでした。しかし次第に彼らの作品の強烈な毒が病みつきになり、はまったものでした。
 
 今回紹介する『人生狂騒曲』も彼らの強烈な毒に満ち溢れた映画であり、人間の誕生から死までの人生の意味?をブラックユーモア満載に綴っていきます。この映画は1つの短編「クリムゾン―老人は荒野をめざす―」と「出産」・「成長」・「戦争」・「中年」・「臓器移植」・「晩年」・「死」と7つのエピソードで構成されています。どのエピソードも宗教・戦争・セックス・臓器移植・嘔吐などタブーとされていることを題材に挙げて、人間の生々しい欲望や愚かさ、人生の不条理さや無意味さを描いていきます。
 
 この映画は面白いエピソードもあれば、いまいちなエピソードもあるのですが、私が特に好きなエピソードは冒頭の短編「クリムゾン―老人は荒野をめざす―」と『出産』、『臓器移植』、『晩年』の本編3つです。
 「クリムゾン―老人は荒野をめざす―」はテリー・ギリアムが監督しているのですが、彼らしい独特の映像表現に満ちていますし、ストーリーも高齢化社会を迎えた現代日本にぴったりの内容です。
 『出産』ではカトリックの避妊禁止を皮肉った歌「すべての精子は神聖なり」を子どもから老人まで100人近い人数でミュージカルとして踊り歌う場面があるのですが、こんな下らない歌をまじめに歌い踊る姿に腹を抱えて笑うことができます。『臓器移植』は血が噴き出すホラー映画顔負けのスプラッター演出がとても強烈ですし、『晩年』の超デブのクレオソート氏がレストランでゲロを吐きまくるだけというエピソードは辺り一面ゲロまみれになる映像が圧巻の一言です。(食事中に絶対見てはいけません!)

 この映画はエロ・グロ・ナンセンスに満ちた下品な映画であり、誰が見ても楽しめるコメディ映画ではありませんが、はまる人ははまると思います。人生の意味で悩んでいる人はぜひこの映画を見てください。悩みなんて吹っ飛びますよ!

製作年度 1983年
製作国・地域 イギリス
上映時間 107分
監督 テリー・ギリアム 、テリー・ジョーンズ 
脚本 モンティ・パイソン 
音楽 ジョン・デュプレ 
出演 グレアム・チャップマン 、ジョン・クリーズ 、エリック・アイドル 、マイケル・パリン 、テリー・ギリアム  、テリー・ジョーンズ

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『タイタス』この映画を見て!

第102回『タイタス』
Titus  今回紹介する映画はシェークスピアの作品の中で最も衝撃的なストーリーと言われている『タイタス・アンドロニカス』を映画化した『タイタス』です。『タイタス・アンドロニカス』は古代ローマを舞台にローマの武将タイタスと、長男を生贄にされたゴート族の女王タモラが血で血を洗う復讐合戦を繰り広げるという暗いストーリーで、謀略・暗殺・レイプ・手や首の切断・カニバリズムと次から次へと残酷で暴力的なシーンが出てくる陰惨な作品です。暴力の連鎖と人間の狂気や醜さ、愚かさをこれでもかと描いており、爽快感はほとんどなく結末も悲劇的で後味のとても悪い作品です。その為、今までもあまり舞台化や映画化もされてきませんでした。そんな難しい作品を監督したのは舞台版『ライオン・キング』の演出を手がけたジュリー・テイモアです。彼女は映画初監督だそうですが、演劇の技法を取り入れたり、現代と古代ローマをシンクロさせるなど、大胆に映像化しています。出演者もアンソニー・ホプキンス 、ジェシカ・ラングとアカデミー賞を受賞したこともあるベテラン俳優を主役に揃え、脇役も演技派の役者で固めています。美術や衣装もとても素晴らしく、美術はフェリーニの作品で有名なダンテ・フレッティ、衣装は『時計じかけのオレンジ』などキューブリック作品で有名なミレーナ・カノネロが担当しています。
 ストーリー:「ゴート族との戦いで勝利をおさめローマへ凱旋した武将タイタス。人質の女王タモラは3人息子がいたが、タイタスに死んだローマ兵に対する生贄として長男を殺されてしまう。タモラは皇帝を誘惑して妃となり殺された長男の復讐を誓う。タイタスの息子に無実の罪を着せて死刑にさせ、タイタスの娘を自分の息子たちにレイプさせて、手と舌を切り落とす。タイタス自体も息子の処刑をやめさせるために片腕を切り落とす。タモラはタイタスは追い詰めていくが、タイタスもタモラによって追い詰められたことを知り、世にも恐ろしい復讐に出る。」
 私は映画館で公開当時にこの作品を見たのですが、重苦しく残酷なストーリー展開に衝撃を受けると同時に、映像の奇抜さや美しさに魅了されたものでした。この作品は古代ローマを舞台にした復讐劇なのですが、監督はこの作品を暴力が蔓延する現代社会と重ねあわせて描こうとしています。その為、映画のオープニングは現代から始まり、古代ローマもバイクや車が走ったり、テレビゲームやコーラが出てきたりします。また映画の冒頭にはファシズムを思わせるような描写もあります。この作品はいつの時代にも変わらない人間のもつ暴力性や文明の成熟に伴う退廃性といったものを見事に描きだしています。またこの作品は人種差別の問題にも踏み込んでいます。この作品で一番の悪人であった黒人のアローンという存在はとても複雑な役所で、彼がなぜ信仰を捨て、悪に走るようになり、最後は子どもを命を捨ててまで守ろうとしたのか、いろいろと考えさせるものがありました。
 
 この作品で一番残酷で美しい場面は沼地に立つラヴィ二アのシーンです。タモラの息子にレイプされた上、手と舌を切断され、両手に枝を突き刺されて、沼地に一人ぽつんと立つ姿は見たくないけど、目が離せない強烈なシーンでした。
 また映画のラストもあまりの残酷さに目を覆いたくなるようなシーンではありますが、復讐にとりつかれた人間の愚かさや醜さが見事に表現されていました。(ただ食事中にみると気分が悪くなるので気をつけてください。)
 
 映画の完成度でいうと、もうひとつのところもあります。安っぽいCG映像が出てきたり、ストーリーの展開が中盤間延びしていたり、ルーシャスの孫の設定を上手く活かせてなかったり・・・。しかし、初監督作品でここまで大胆で意欲的な作品を完成させたのは素晴らしいと思います。
 この映画は見る人をとても選びますし、決して後味の良い作品ではありませんが、人間のもつ醜さや暴力性をここまで描いた作品にはなかなかお目にかかれないと思います。ぜひ興味のある人は見てください!

製作年度 1999年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 162分
監督 ジュリー・テイモア 
原作 ウィリアム・シェイクスピア 
脚本 ジュリー・テイモア 
音楽 エリオット・ゴールデンサール 
出演 アンソニー・ホプキンス 、ジェシカ・ラング 、ジョナサン・リス=マイヤーズ 、アラン・カミング 、コルム・フィオール 

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