『TAKESHIS'』この映画を見て!
第94回『TAKESHIS'』北野武特集7 今回紹介する映画は昨年の秋に公開された北野武監督の最新作『TAKESHIS'』です。この映画は誰が見ても楽しめた前作の『座頭市』と打って変わって、難解で見る人を選ぶ作品に仕上がっています。
私は昨年公開されたと同時に北野武が大好きな職場の先輩と一緒に見に行ったのですが、北野ワールド全開の展開に2人とも大変はまったものでした。この映画は北野武=ビートたけしという人間をどれだけ知っているかどうかで、かなり印象が変わってきます。この映画は北野監督の内面や自伝的要素がストーリーからキャスティングそして映像に至るまで大きく反映されています。この映画はストーリーだけを追っても何の意味もなく退屈なだけです。この映画は北野武が日々感じているものを体感する映画であり、北野武=ビートたけしという人間を知るための作品です。だから北野武に興味がない人や彼の経歴をしらない人がみるとイマイチ意味が分からなかったり、面白くなかったりすると思います。
芸能界の大スターとして多忙でリッチな生活を送っているビートたけしと、ビートたけしとそっくりなしがないコンビニ店員・北野。彼らがテレビ局で出会うところから話しは始まります。夢とも現実とも区別がつかない世界の中を彷徨う北野武=ビートたけしの姿を時系列を無視した醒めることのない夢のような展開で描き出していきます。
この映画はテレビや映画で成功した北野武=ビートたけしという存在に対する、本人なりの今までの人生の総括であり、成功したが故に持つ自己への破壊願望を投影した映画です。
この映画は主役の北野武だけでなく、登場するほとんどの役者が何役もこなします。この映画は繰り返し同じ人を登場させることで、夢を見ているような感覚を演出すると同時に、独特な反復のリズムを映画につけようとしたのだと思います。特に岸本加世子は何回も役を変えては登場して、主人公の足を引っ張り続けるのですが、その姿は見ていてとてもイライラさせられます。きっと岸本加世子は北野武が頭が上がらない本妻や母親というような女性に対する思いが描かれているのだろうなと思いました。
あとこの作品では美輪明宏さんを始め、タップダンサー、女形の子役など様々な芸をもった人が出てきて、芸を披露します。これらの芸人の登場シーンは北野監督の芸と芸術に対するリスペクトが伝わってきました。特にタップは実際に武自身が何年も習っており、将来的にはワンマンショーも開きたいと思っているそうです。その熱い思いがこの映画にも投影されています。
北野作品では過激な暴力描写が有名ですが、今回も数多くの暴力描写があります。ただ他の北野作品と違って、この映画の暴力シーンは生々しさに欠けており、とても軽い感じがしました。この映画では銃撃シーンが数多くあるのですが、ラストの浜辺での撃ち合いのシーンは見ていて、なぜか痛烈なもの悲しさを感じてしまい、泣いてしまいました。ストーリー的には全く意味のない銃撃シーンでありながら、ものすごく美しく撮影されており、そのあまりの美しさが人生や死というものに対する虚しさというものを感じさせてしまい、胸にくるものがありました。
また北野監督らしく色彩にもこだわっており、この映画は赤と青を基調にした色彩がとても美しく目を引きました。古びたアパートの枠が赤や青で塗られているシーン、ピンク色のタクシー、沖縄の青い海、コンビニの緑とピンクの服。これらは映画の持つ非現実的な雰囲気をみごとに演出していました。
この映画は意味を求める映画でなく、北野武を体感する映画です。それ故に、北野武に興味がない人にはこの映画はお奨めできません。しかし、北野武や彼の映画が好きな人ならぜひこの映画を見てください。
製作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 107分
監督 北野武
脚本 北野武
音楽 NAGI
出演 ビートたけし 、京野ことみ 、岸本加世子 、大杉漣 、寺島進 、美輪明宏、六平直政、ビートきよし、津田寛治、石橋 保、國本鍾建、上田耕一、高木淳也、芦川 誠、松村邦洋、内山信二、武重 勉、木村彰吾、ゾマホン
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