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『キッズリターン』この映画を見て!

第87回『キッズリターン』北野武特集5
Kids_return  今回紹介する映画は青春映画の傑作であり、北野武監督の代表作でもある『キッズリターン』です。この映画は北野武がバイク事故で生死の淵をさまよった後に制作された映画で、北野監督の今までの映画とは作風が少し違います。北野監督の作品というと死と暴力の匂いが立ち込めた映画が多く、主人公が死んでいく作品がほとんどです。しかし、この映画は主人公が最後まで生き残ります。それも、生きることに対して何とも積極的な終わり方であり、生きることに対する肯定観に満ちています。これは他の北野作品では見られないものであり、監督の事故による影響が大きく反映されています。
 ストーリー:「シンジとマサルは落ちこぼれの高校生。授業をサボり、いつもぶらぶらしていた。先生からは落ちこぼれと馬鹿にされ、カツアゲばかりしていた。そんなある日、マサルは以前カツアゲした高校生の友人のボクサーにぼこぼこにされる。それ以来マサルはケンカに強くなろうとシンジを誘ってボクシングジムに入る。マサルほど乗り気でなかったシンジだが、ジムで認められたのはシンジの方であった。マサルはショックを受け、ジムを飛び出して、ヤクザの世界へと足を踏み入れる。それぞれの世界でめきめきと頭角を現すシンジとマサル。しかし、彼らは大人社会の醜さと彼ら自身の未熟さを思い知ることになる・・・」
 私は始めてこの映画を見たとき、心がヒリヒリする感じを覚えました。落ちこぼれの2人が何とか這いあがろうとしながら、結局上手くいかない姿は見ていて、とても切ないものがありました。
 この映画が秀逸なところは普通の青春映画にはない主人公たちの挫折していく姿が描かれるところにあると思います。背伸びして大人の世界に足を踏み入れていこうとする2人の足を引っ張る大人の世界の醜さや厳しさ。この映画は社会の醜さや厳しさがリアルに描かれているので、主人公たちが転落していく姿がとても生々しく、胸に迫るものがあります。特にシンジの足を引っ張るモロ師岡演じる林という中年ボクサーの姿は挫折した人間の悲哀と愚かさが見事に表現されていました。
 この映画は主人公2人の話とは別にサイドストーリーで漫才師を目指す2人組みの高校生や喫茶店の娘に恋する高校生の話も描かれています。漫才師を目指す2人組みは最初は馬鹿にされるものの、こつこつ努力して成功するという結末は主人公2人の結末と相反しており、とても印象に残りました。この漫才師のストーリーは北野監督の自伝的な要素も含まれているのでしょう。
 喫茶店の娘に恋する高校生はまじめに努力して結婚までするものの、結局うまくいかないという結末で、一番見ていて、切なくやるせない気持ちになりました。
 自分の人生を切り開こうとしながら、社会の壁や己の未熟さから挫折していく人たちの姿が描かれており、切なさと哀しみに満ちた作品ではありますが、映画のラストはとても清清しく希望に満ち溢れています。挫折した2人が自転車に乗りながら会話するラストシーン。「もう俺たち終わりかな・・・」というシンジの言葉に、マサルが最後に言う言葉はとても力強く、生きることへのポジティブさに満ち溢れています。私はこのラストのマサルの言葉を聞きたいがために何回もこの映画を見直すほどです。(どんな言葉かは是非実際に映画を見て確認してください。)
 
 もちろん、この映画は北野作品としての魅力にも満ち溢れています。キタノブルーといわれる北野監督ならではの青みがかった映像はとても印象的ですし、久石譲の手がける音楽もいつもながら素晴らしい仕上がりになっています。特に今回の音楽は若者の持つエネルギーや生きることの切なさや悲しみ、そして生きることへのポジティブさに満ち溢れており、映像とマッチした音楽となっています。個人的には北野作品の中でこの映画の音楽が一番好きです。
 さらに北野監督の演出も冴え渡っており、若い時に誰しもが感じる焦りや不安、孤独、愚かさを見事に映像で表現しています。特にオープニングとエンディングの校庭でぐるぐる回る自転車のショットは、主人公2人の複雑な感情を見事に表現していたと思います。
 この映画はある意味とても冷徹で残酷な青春映画です。しかし、それでいてとても温かみがあり、北野作品の中でも一番誰しもが共感しやすく、感動できる作品だと思います。私としてはぜひ多くの人にこの映画を見てもらい、最後のセリフを聞いて欲しいです。

製作年度 1996年
製作国・地域 日本
上映時間 108分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 金子賢 、安藤政信 、森本レオ 、山谷初男 、柏谷享助  、モロ師岡、寺島進、石橋凌、丘みつ子

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コメント

ソナチネさん、コメント&TBありがとうございます。本作品のラストの台詞は何回聞いてもハッとさせられますね。

投稿: とろとろ | 2009年6月28日 (日) 22時23分

はじめまして。
昨日、久々に当作品を観て感動してしまいました。
今の私の置かれている状況下では最期のセリフはあまりにも意味のある言葉です。
何回観てもいいです。
トラバ致しました。
よろしくお願いいたします。

投稿: ソナチネ | 2009年6月28日 (日) 20時14分

こんばんわ。コメントありがとうございます。この作品はほろ苦い青春ドラマの傑作だと思います。久石さんの切なくて、疾走感のある音楽もこの映画の雰囲気をよく捉えている名スコアだと思います。

投稿: アシタカ | 2006年8月 9日 (水) 22時05分

TBありがとうございます♪
私もこの作品大好きです。
若いっていいなぁって感じですね。
久石譲の音楽もすばらしかったです!

投稿: 奈緒子と次郎 | 2006年8月 7日 (月) 08時29分

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