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『ラブ&ポップ』この映画を見て!

第88回『ラブ&ポップ』
Lovepop  今回紹介する映画は『新世紀エヴァンゲリオン』の監督で有名な庵野秀明が初めて手がけた実写映画『ラブ&ポップ』です。この作品は村上龍原作の「ラブ&ポップ トパーズ2」を基にしており、90年代後半社会問題になった女子高校生の援助交際をテーマにしています。庵野監督はこの作品を撮るにあたって、全編デジタルカメラで撮影するという手法を取り話題になりました。
 私がこの作品を始めてみたのは7年前ですが、映画の中身はさておき、デジタルビデオで撮影された映像の持つ独特の軽やかさがとても印象に残りました。庵野監督はデジタルビデオの機動性のよさを駆使して、様々なアングルから撮影をしています。その映像を細かいカット割りでつないで見せる手法は独特な浮遊感やライブ観を観客に与えてくれます。
 ストーリー:「97年夏。高校生の裕美は仲間の知佐、奈緒、千恵子と一緒に水着を買いに渋谷へ出る。裕美はその際に店頭で見かけたトパーズの指輪がどうしても欲しくなる。所持金が足りないので、友達にも協力してもらい、中年オヤジと一緒にカラオケで歌ったり、オタクっぽい青年とレンタルビデオに行ったり、ときには危ない目にも遭いながら、援交で金をもらっていくが・・・。 」
 風俗産業や若者の文化はすぐに変わっていくので、今見るとストーリー自体は少し時代遅れのような感じを受けます。援助交際の問題は一時期マスメディアでも大きく取り上げられましたが、今はすっかり沈静化しました。その為、2006年現在見ると、そんな時代もあったんだなあという印象しかもてないかもしれません。
Lovepop2_1  またこの映画が女子高生の実態や心をどこまで捉えているかというと、おじさんから見た(想像した)女子高生といった感じしか見受けられません。
 私はこの映画を見て、女子高生の姿よりも、彼女たちに寄ってくる男たちの姿の法がとても印象に残りました。いけてない男たちの孤独やはけ口のない欲望に悲哀を感じてしまいました。女子高生を買って説教する親父、女子高生が噛んだフルーツを収集する男、自分を馬鹿にする社会を見返してやろうと高校生とデートする男、ぬいぐるみと話をする凶暴な男。この映画は援助交際をする女子高生よりも出てくる男たちの方が不健全ではないのかと思ってしまいました。
 この映画のラストは「あの素晴らしい愛をもう一度」が流れる中、女子高生4人が下水道を歩くシーンが延々と映し出されます。足が汚物にまみれながらも前に向かって進んでいく姿は、ある意味とても清清しく、都会の醜い欲望という汚物さえも肥やしにして逞しく生きていく女性の力強さとしたたかさを見ていて感じました。エンディングの歌が「あの素晴らしい愛をもう一度」というのも強烈な皮肉を感じてしまいました。純粋さを求める大人たちと、純粋さを否定し清濁併せ呑む若者たち。これは大人たちの若者への願望と、それを拒否する若者たちの姿を見事に捉えたエンディングだと私は思っています。
 この映画は主人公4人よりも脇役に出てくる役者が癖のある人たちぞろいで、見ごたえのある演技をしています。特に浅野忠信と手塚とおる、平田満の3人は強烈な印象を残します。ちなみに仲間由紀恵が主人公の友人という役で出演しており、水着姿を披露しています。
 エヴァンゲリオン完成後に制作されたということもあり、エヴァンゲリオンっぽいシーンや演出も数多く見られます。
 この映画は今見ると古臭く思われるかもしれませんが、その独特な映像表現は面白く、ストーリーも見方を変えるといろいろと考えさせられるところもあります。興味のある方はぜひ見てください。ちなみに庵野監督はこの後『式日』という実写映画をスタジオジブリで撮っており、そちらも独特な作品に仕上がっておりお奨めです。

製作年度 1998年
製作国・地域 日本
上映時間 110分
監督 庵野秀明 
製作総指揮 大月俊倫 
原作 村上龍 
脚本 薩川昭夫 
出演 三輪明日美 、希良梨 、工藤浩乃 、仲間由紀恵 、三石琴乃  、森本レオ、平田満、吹越満、モロ師岡、手塚とおる、渡辺いっけい、浅野忠信、河瀬直美

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