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『マルコヴィッチの穴』この映画を見て!

第101回『マルコヴィッチの穴』
Markovich  今回紹介する映画は15分間だけ俳優ジョン・マルコヴィッチの頭に入り込むことができるという摩訶不思議な穴を見つけた人々の姿を時にコミカルに、時にシリアスに描いた『マルコヴィッチの穴』です。
 
 私はこの映画を劇場で見たときは、シュールで哲学的なストーリー、ユーモアとウエットに富んだ演出、独特な映像の雰囲気に大変虜になりました。最初は不条理なブラックコメディーかと思わせながら、中盤からどんどんシリアスになっていき、ラストは切なさを感じさせる展開はとても巧みで、観客を画面に釘付けにします。
 
 監督のスパイク・ジョーンズはこの映画がデビュー作なのですが、いきなりこのような作品を完成させるとはすごいです。もともと編集者、カメラマン、スケートボーダー、俳優などいくつもの顔を持ち、ビョークやケミカル・ブラザーズなど数々のミュージック・ビデオやNIKIのCMなどを手掛けて、そのシニカルでブラックなユーモアと独特な映像センスには人気がありました。この映画でもそんな彼独特のユーモアと映像センスが随所に光っていました。

ストーリー:「人形使いのクレイグは、ペットショップに勤める妻ロッテと貧乏な二人暮らしをしていた。ある日、彼はマンハッタンのビルの71/2階にある会社、レスター社でファイル検索の職を得る。そこで彼は美人OLのマキシンに一目惚れして、彼女を追いかけるが相手にしてもらえない。
 そんな時、会社の一室で、俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中に15分間だけ入れる穴を見つけてしまう。彼はマキシンを誘い、その穴で商売を始める。妻のロッテも穴に入るが、そこで彼女は自分が男のほうが適していると思い始める。そして、ロッテはマキシンと恋に落ちてしまい、マルコビッチの体を借りて性交渉まで行ってしまう。それに嫉妬したクレイブは妻を監禁し、妻がマルコヴィッチの中に入っているかのようにだまして、マキシンとセックスをする。
 最初、15分しかマルコヴィッチの中に入れなかったクレイブも次第に長い時間入れるようになり、ついにはマルコヴィッチを意のままにコントロールできるようになる。クレイブはマルコヴィッチを支配し、マキシンと巨万の富と名声を手に入れるが・・・。」

 この映画のストーリーは不条理で超現実的でありますが、そこで描かれているテーマはとても現実的で深く考えさせられるものがあります。
 誰しも一度は今の自分とは違う他人になりたいと願ったことがあると思います。もし自分が有名人だったら、もし自分が女だったら、人間は自我を持っているが故に、他者の自我と自分の自我を比較したり、自分が自分以外の他者になることを憧れたりします。この映画はそんな自我を持った人間故の願望を見事に表現しています。
 また理想の自分にこだわるが故に、現実の自分に絶望し、今の自分を捨て他者になりたいという屈折した願望を持つ人間たちの姿を悲哀とユーモアを交えながら描いていきます。
あと私はこの映画を見て、輪廻転生についてもいろいろ考えてしまいました。前世とか生まれ変わりとか言われますが、それは肉体という器を魂という自我が渡り歩くことなのかなと、映画を見た後に思ったりしました。

 この映画は役者の演技がとても素晴らしく、映画のタイトルとなっているジョン・マルコビッチはもちろんのこと、主役のジョン・キューザック 、キャメロン・ディアス 、キャサリン・キーナー の3人がとても役にはまっています。ジョン・キューザックは自分に自信がなく、人形を通してしか自己表現できない弱気な男を見事に演じています。またキャメロン・ディアスは一見誰か分からないほど、不細工な姿で登場して、観客を驚かせると同時に、生活に疲れた女性を巧みに演じています。キャサリン・キーナーもクールでしたたかで情熱的な女性・マキシンを大胆に演じていました。
 またブラット・ピッド、チャーリー・シーン、ショーン・ペンなど豪華有名人も特別出演しています。特にチャーリー・シーンはとても驚くような姿で登場し、笑ってしまいました。

 『マルコビッチの穴』は非常に哲学的で芸術的な作品でありながら、エンターテイメントとしても非常に面白い作品として仕上がっています。是非見てみてください!

製作年度 1999年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 112分
監督 スパイク・ジョーンズ 
製作総指揮 チャーリー・カウフマン 、マイケル・クーン 
脚本 チャーリー・カウフマン 
音楽 カーター・バーウェル 
出演 ジョン・キューザック 、キャメロン・ディアス 、キャサリン・キーナー 、ジョン・マルコビッチ、オーソン・ビーン 、メアリー・ケイ・プレイス 

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