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『邪宗門』街を捨て書を読もう!

『邪宗門』 著:高橋和巳 朝日文芸文庫
 今回紹介する本は私が久しぶりに大きな衝撃を受けた小説『邪宗門』です。この小説は昭和初期から終戦までの20年間にわたる新興宗教団体“ひのもと救霊会”の誕生から壊滅に至るまでの歴史を壮大なスケールで描いた作品です。この作品は3部作となっており、併せて1000ページを超える超大作です。この作品はオウム真理教の事件と類似する部分があり、オウム事件の時には様々な評論家がこの作品をオウムとの比較で取り上げていたものでした。
 またこの作品に登場するひのもと救霊会はモデルとなった宗教団体があります。大本教という宗教団体で戦前に国家から不敬罪で激しく弾圧され、神殿も破壊され、多くの信者が拷問し発狂したそうです。
 ストーリー:「京都の田舎の駅に降り立った孤児・千葉潔。彼は政府によって弾圧されていた新興宗教団体“ひのもと救霊会”の信者によって助けられる。彼はひのもと救霊会の信者の下でお世話になるが、ある事件を機に救霊会を一度去ることとなる。国家権力からの激しい弾圧の下、信者たちはなんとか教団を守ろうとするが解散させらてしまう。(第1部)一度は解散にまで追い込まれたひのもと救霊会だったが、信者たちは各地に散ったものの、細々と信仰を守っていた。しかし、第二次世界戦争へと突入。信者たちも否応なく戦争に巻き込まれていく。(第2部)敗戦を迎えた日本。戦前の天皇制国家も解体され、宗教の自由も保障されるようになる。ひのもと救霊会も各地に散らばっていた信者たちが教団に再び集まり始める。そこにかつてひのもと救霊会にお世話になった千葉潔が現れ、リーダーとなり教団の建て直しを行っていく。彼の指導の下に再び力をつけるひのもと救霊会。しかし、彼は教団の再興と共に、日本国家から独立し新たなる自治国家を樹立する野望を持っていた。彼は教団を武装化し、日本国家に独立宣言を行うが・・・・。(第3部)」
 この小説は昭和初期の重苦しい雰囲気の中で話しが進んでいきます。特に国家権力によって弾圧を受ける場面や戦時中の描写などは読んでいて辛く苦しいものがあります。また宗教とはどういう存在か、革命とはどういうものかについての作者の見解が話しの随所にこめられており、いろいろ考えさせられました。特に主人公・千葉潔が無神論者でありながら、リーダーとしての才能を見込まれ教祖となっていく姿は作者の宗教観が見事に表現されていたと思います。
 重いテーマを扱っていますが、話し自体はとてもドラマチックで面白く、読み始めると次の展開が気になり、最後まで一気に読めてしまいます。特に第3部で主人公の千葉潔が国家に対して武装蜂起して革命を起こそうとする展開に度肝を抜かれつつ、どうなっていくのかワクワクしながらページをめくったものでした。革命自体はすぐに敗北してしまい、ほとんどの登場人物が悲惨な最期を迎えてしまうという壮絶なラストには圧倒されました。ユートピアを目指し戦いながら、結局崩壊していく姿は、圧倒的な力に力で立ち向かっても勝ち目はないという現実を改めて思い知らされました。
 またこの作品は数多くの人物が登場しますが、一人一人の内面を鋭く描き出しており、人間という存在について深く考えさせられます。ここまで人間の弱さと強さ、愚かさと賢さ、生きる悲しみと喜びを描いた作品は滅多にないと思います。
 この作品は最近の小説にはない重厚さと面白さがあります。そして読者に様々な問いかけをしてくる作品です。ぜひ多くの人に読んで欲しいです。

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コメント

こちらこそコメントありがとうございます。この本を読むと、近代日本の精神史に触れたような気になります。逆説の日本史も読んでみます!

投稿: アシタカ | 2006年8月19日 (土) 01時52分

時空を越えた^^;
トラックバックコメント、
ありがとうございます。

オームの時、この本のこと
話題になったのですか・・・
気づきませんでした^^;

日本の原点が、ここには
あるみたい・・・

「逆説の日本史」あたり
も読んでいただくと、見えてくるものもあるのでは^^;

投稿: M- | 2006年8月16日 (水) 23時05分

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