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2006年8月

『マルコヴィッチの穴』この映画を見て!

第101回『マルコヴィッチの穴』
Markovich  今回紹介する映画は15分間だけ俳優ジョン・マルコヴィッチの頭に入り込むことができるという摩訶不思議な穴を見つけた人々の姿を時にコミカルに、時にシリアスに描いた『マルコヴィッチの穴』です。
 
 私はこの映画を劇場で見たときは、シュールで哲学的なストーリー、ユーモアとウエットに富んだ演出、独特な映像の雰囲気に大変虜になりました。最初は不条理なブラックコメディーかと思わせながら、中盤からどんどんシリアスになっていき、ラストは切なさを感じさせる展開はとても巧みで、観客を画面に釘付けにします。
 
 監督のスパイク・ジョーンズはこの映画がデビュー作なのですが、いきなりこのような作品を完成させるとはすごいです。もともと編集者、カメラマン、スケートボーダー、俳優などいくつもの顔を持ち、ビョークやケミカル・ブラザーズなど数々のミュージック・ビデオやNIKIのCMなどを手掛けて、そのシニカルでブラックなユーモアと独特な映像センスには人気がありました。この映画でもそんな彼独特のユーモアと映像センスが随所に光っていました。

ストーリー:「人形使いのクレイグは、ペットショップに勤める妻ロッテと貧乏な二人暮らしをしていた。ある日、彼はマンハッタンのビルの71/2階にある会社、レスター社でファイル検索の職を得る。そこで彼は美人OLのマキシンに一目惚れして、彼女を追いかけるが相手にしてもらえない。
 そんな時、会社の一室で、俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中に15分間だけ入れる穴を見つけてしまう。彼はマキシンを誘い、その穴で商売を始める。妻のロッテも穴に入るが、そこで彼女は自分が男のほうが適していると思い始める。そして、ロッテはマキシンと恋に落ちてしまい、マルコビッチの体を借りて性交渉まで行ってしまう。それに嫉妬したクレイブは妻を監禁し、妻がマルコヴィッチの中に入っているかのようにだまして、マキシンとセックスをする。
 最初、15分しかマルコヴィッチの中に入れなかったクレイブも次第に長い時間入れるようになり、ついにはマルコヴィッチを意のままにコントロールできるようになる。クレイブはマルコヴィッチを支配し、マキシンと巨万の富と名声を手に入れるが・・・。」

 この映画のストーリーは不条理で超現実的でありますが、そこで描かれているテーマはとても現実的で深く考えさせられるものがあります。
 誰しも一度は今の自分とは違う他人になりたいと願ったことがあると思います。もし自分が有名人だったら、もし自分が女だったら、人間は自我を持っているが故に、他者の自我と自分の自我を比較したり、自分が自分以外の他者になることを憧れたりします。この映画はそんな自我を持った人間故の願望を見事に表現しています。
 また理想の自分にこだわるが故に、現実の自分に絶望し、今の自分を捨て他者になりたいという屈折した願望を持つ人間たちの姿を悲哀とユーモアを交えながら描いていきます。
あと私はこの映画を見て、輪廻転生についてもいろいろ考えてしまいました。前世とか生まれ変わりとか言われますが、それは肉体という器を魂という自我が渡り歩くことなのかなと、映画を見た後に思ったりしました。

 この映画は役者の演技がとても素晴らしく、映画のタイトルとなっているジョン・マルコビッチはもちろんのこと、主役のジョン・キューザック 、キャメロン・ディアス 、キャサリン・キーナー の3人がとても役にはまっています。ジョン・キューザックは自分に自信がなく、人形を通してしか自己表現できない弱気な男を見事に演じています。またキャメロン・ディアスは一見誰か分からないほど、不細工な姿で登場して、観客を驚かせると同時に、生活に疲れた女性を巧みに演じています。キャサリン・キーナーもクールでしたたかで情熱的な女性・マキシンを大胆に演じていました。
 またブラット・ピッド、チャーリー・シーン、ショーン・ペンなど豪華有名人も特別出演しています。特にチャーリー・シーンはとても驚くような姿で登場し、笑ってしまいました。

 『マルコビッチの穴』は非常に哲学的で芸術的な作品でありながら、エンターテイメントとしても非常に面白い作品として仕上がっています。是非見てみてください!

製作年度 1999年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 112分
監督 スパイク・ジョーンズ 
製作総指揮 チャーリー・カウフマン 、マイケル・クーン 
脚本 チャーリー・カウフマン 
音楽 カーター・バーウェル 
出演 ジョン・キューザック 、キャメロン・ディアス 、キャサリン・キーナー 、ジョン・マルコビッチ、オーソン・ビーン 、メアリー・ケイ・プレイス 

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『タイタニック』この映画を見て!

第100回『タイタニック』
Taitanic  今回紹介する映画は世界中で大ブームを巻き起こしたパニック超大作『タイタニック』です。この映画は20世紀最悪の海難事故と言われた豪華客船タイタニック号の悲劇をリアルかつドラマチックに描き、数多くの観客の涙を誘いました。
 タイタニック号は2200人以上の乗員乗客を乗せてイギリスからアメリカに向かう途中、1912年4月14日の深夜に氷山にぶつかり沈没しました。1513人という死亡者を出したタイタニックの海難事故は機械文明(テクノロジー)の進歩を謳歌していた欧米人に大変なショックを与えました。
 『エイリアン2』や『ターミネーター2』の有名なジェームス・キャメロン監督は以前からタイタニック号の悲劇にとても関心があり、自分の手で映画化したいとずっと思っていたそうです。数々のヒット作を飛ばし、ついに映画化のチャンスが訪れたキャメロン監督は徹底的に史実を忠実に再現しようと細部まで徹底的にこだわって制作したそうです。実物大のタイタニック号のレプリカを作り、外観はもちろんのこと、船内の食器から家具、小物にいたるまで全て当時と同じように復元したそうです。また氷山にぶつかってから沈没にいたるまでの経過は主人公たちの行動を除き、全て実際に起こった通りに再現したそうです。キャメロンのこだわりは200億円以上という莫大な制作費と約3年という長い制作期間を費やしましたが、完成した映画は当時のタイタニック号の姿と事故の悲惨さを見事にスクリーン上に再現していました。
 
 私がこの映画を初めて見たときは、主人公2人のラブストーリーはほとんど印象に残らず、タイタニック号沈没の圧倒的な迫力に目を奪われてしまいました。船体が傾き、一度垂直になり、真っ二つになって、また垂直になって沈んでいく映像は予想を遥かに超えるインパクトがありました。またそれと同時に人間が生み出した巨大なテクノロジーが一個の氷山であっけなく崩壊していく姿に儚さを感じてしまいました。タイタニック号の沈没シーンをリアルに再現したことがこの映画の最大の功績だと私は思います。

 公開当時は主人公のジャックとローズの悲劇の恋愛ドラマに数多くの人が感動していましたが、個人的には彼らの恋愛ドラマはあまりにもベタな展開すぎて、全く興味が湧きませんでした。後半の船が沈没し始めた頃からのパニック描写の緊張感や緊迫感は手に汗握るものがあるのですが、前半の2人の姿は見ていて退屈です。そんな私は今でもDVDで見るとき、前半のドラマ部分は飛ばして見てしまいます。
 もちろん身分の違うの男女の結ばれない恋を描いたことで、単なるパニック映画にはない、メロドラマとしての魅力が生まれ、数多くの人を虜にしたのだとも思います。また身分の違う2人を主人公に設定し、階級の違う乗客たちの姿を主人公たちの目線を通して自然に見せようとした監督の演出も巧みだと思います。ただ私はどうしても監督のいかにも泣かせようという演出があざとく感じてしまい好きではありません。(そう言いながらラストシーンを見ていつも目頭が熱くなる自分がいるのですが・・。)
 私は映画の後半の沈没間際の楽団の皆で弾き続けるシーンや死を目前にした親子の姿、船長や設計士、船員達の悲哀、上流階級の人の醜さなどの人間ドラマの方が主人公たちの恋愛ドラマよりも印象に残るものがあります。
 
 私はこの映画の成功の大きな要因として、ジェームズ・ホーナー が手がけた美しく、壮大なスコアーとセリーヌ・ディオンの主題歌があったと思います。特にホーナーによるシンセとオーケストラを用いた音楽はタイタニック号のスケールの大きさや沈没時の緊迫感、主人公2人の心情をみごとに音楽で表現していました。私はケルト音楽を彷彿させるメインテーマとローズのテーマ曲が特に大好きです。またセリーヌ・ディオンの主題歌も映画のメロディーに歌詞が付けられているので、映画の雰囲気とあっており、名主題歌だと思います。

 この映画はストーリーは賛否両論ありますが、映像の美しさと迫力は誰が見ても圧倒されるものがあります。また映画の全編にわたり、キャメロン監督のこだわりと勢いが感じられ、何回見ても楽しめる映画になっています。
 個人的にはこの映画の後、新作を10年以上撮っていないキャメロン監督がついに次回作を制作し始めたということで今からとても楽しみにしています。

製作年度 1997年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 195分
監督 ジェームズ・キャメロン 
製作総指揮 レイ・サンキーニ 
脚本 ジェームズ・キャメロン 
音楽 ジェームズ・ホーナー 
出演 レオナルド・ディカプリオ 、ケイト・ウィンスレット 、ビリー・ゼイン 、キャシー・ベイツ 、フランシス・フィッシャー

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『NANA』この映画を見て!

第99回『NANA』
Nana   今回紹介する映画は昨年大ヒットした矢沢あいの少女コミックが原作の『NANA』です。私は原作を読んだことはないのですが、映画はとても楽しませてもらいました。
 ストーリーは少女マンガを原作にしているだけあって、若い女性の複雑な恋愛模様と友情をきめ細やかに描いています。かわいく天真爛漫な女性・奈々とクールでかっこいい女性ナナという対照的な2人のNANAという女性を主人公に持ってきたところがこのストーリーの面白さであり素晴らしさだと思います。特に性格・雰囲気共に対照的な2人がお互い支えあっていく友情がとても見ていて素敵だなと思いました。映画のラストも爽やかで心温まるものがありました。
 また二人が住むマンションの美術や二人の衣装もおしゃれで、可愛く、少女マンガの持つ雰囲気を見事に表現できていたと思います。
 ライブやコンサートのシーンも臨場感をよく捉えていましたし、映画で流れる歌もとてもよかったです。特に映画の中に登場するTRAPNEST(トラネス)のボーカルのレイラの歌声は美しく、聞きほれました。もちろん中島美嘉の主題歌も最高でした。
 
 私がこの映画で印象的だったのは、宮崎あおい演じる小松奈々の存在でした。天真爛漫で純粋だけど、男性から見ると付き合い難い女性・奈々を見事に表現していました。宮崎あおいの演技の上手さを改めて認識しました。
 もう一人のナナを演じた中島美嘉も見た目はクールで強気だけど、実は昔の恋人を思い続ける女性を熱演していましたが、演技自体は宮崎あおいに比べると駄目でした。しかし、本業が歌手というだけあって、歌うシーンはとても素敵でした。
 あと役者で言うと私がこの映画を見て非常に違和感を感じたのが、松田龍平演じるレンでした。どうみても彼はバンドをしているように見えないし、かっこよくもないし、演技も下手くそだし、なぜ彼を起用したのかが不思議でした。
 この映画は続編が制作されるそうですが、宮崎あおいが降板するとのことで、非常に残念です。市川由衣が奈々を演じるそうですがどうなるか心配です。ナナの恋人・レン役も松田龍平から姜暢雄へ変わるそうですが。こちらに関しては姜暢雄という役者がどんな人か分からないので何ともいえません。
 私はこの映画を見て、原作の『NANA』がとても読みたくなりました。近いうちに買って読んでみようと思います。きっと原作を読むと、映画の印象はまた変わるのでしょうね。

制作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 114分
監督 大谷健太郎 
原作 矢沢あい 
脚本 浅野妙子 、大谷健太郎 
音楽 上田禎 
出演 中島美嘉 、宮崎あおい 、成宮寛貴 、松山ケンイチ 、平岡祐太 、松田龍平

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『ノロイ』この映画を見て!

第98回『ノロイ』
Noroi  今回紹介する映画はドキュメンタリータッチのジャパニーズホラー『ノロイ』です。この映画は怪奇作家の小林雅文という人物が突然消息を絶つ前に取材した「かぐたば」の呪いの取材ビデオを基に制作されています。
 この映画を私は昨年に友人と劇場で見たのですが、その時は怖さよりも制作者たちのドキュメンタリータッチの演出がとても印象に残りました。
 この映画、見た人はすぐ分かると思うのですが、全てフィクションです。出てくる主要な人物も、「かぐたば」という呪術も、怪奇現象も全て制作者たちが作り上げたものです。そんな架空の話しを制作者たちは何とか実話として見せようとあの手この手の工夫を凝らしています。例えば、有名人を登場させて偽の心霊番組や超能力番組をでっちあげたり、いかにもそれっぽい大学教授や研究者を登場させたり、ドキュメンタリー番組を見ているかのような演出をしたり、工夫しています。さらに映画に登場する架空の怪奇作家・小林雅文のホームページや彼のファンサイトまで立ち上げています。
 しかし、製作者たちの努力もむなしく、登場人物たちのオーバーな演技やあまりにも上手くまとまったストーリー、CGを使った恐怖シーンなどがとても嘘くさく、この作品がノンフィクションだとすぐに分かってしまいます。もう少し上手にだましてほしかったですし、もっと作りこんでもよかったと思います。
 ただこの映画はフィクションだと分かっていても十分楽しめます。特に様々な怪奇現象が調査が進むにつれて、一つの出来事に結びついていくストーリー展開はとても巧みで見ていて緊張感と驚きがあります。普通の映画として制作しても十分面白い内容になった気がします。
 この映画はホラー映画やテレビの心霊番組を見慣れた人にはツボを押さえた演出がはまると思いますし、この類の映画やテレビを普段見ない人は結構怖いかもしれません。ただこの映画をノンフィクションだと思い込んで見ると、途中で嘘だと分かってしまうので腹が立つかもしれません。 

製作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 115分
監督 白石晃士 
出演 松本まりか 、アンガールズ 、荒俣宏 、飯島愛 、高樹マリア 

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『機動警察パトレイバー2 the Movie』この映画を見て!

第97回『機動警察パトレイバー2 the Movie』
Patlabor2  今回紹介する映画はカルト的人気を誇るアニメ映画監督・押井守の代表作であり、現代日本における戦争状態を緻密にシュミレーションした衝撃作『機動警察パトレイバー2 the Movie』です。この映画は1993年と10年以上前に制作されていますが、2006年の今見ても映画で語られていることは決して古くなく、むしろ今日本がおかれている状況を見事に浮き彫りにしています。
 私がこの映画を始めてみたのは10年くらい前ですが、当時は東京という都市のリアルな描写と自衛隊が東京の都市を行き交う映像に強烈なインパクトを受けました。またストーリーも自衛隊が平和ボケした日本にクーデターを起こし、戦争状態を作り出すという衝撃的な内容にいろいろと考えさせられたものでした。
 ストーリー:「2002年冬。横浜ベイブリッジに謎のミサイル投下…。報道はそれが自衛隊機であることを告げるが、該当する機体は存在しなかった。これを機に続発する事件は警察と自衛隊の対立を招き、事態を重く見た政府は実戦部隊を治安出動させる。東京に戦争を再現した恐るべきテロリストを追って、第2小隊最後の出撃が始まる!」
 この映画はパトレイバーの映画というよりは、パトレイバーの設定を借りた日本の有事の際のシュミレーション映画です。現代日本でテロなどの有事の状態になった時、政府・警察・自衛隊はどのように動くのか?この映画は今の日本の防衛体制について鋭い問題提起を投げかけます。警察と自衛隊の覇権争いの醜さ、組織における上層部と現場の対立、最小限な攻撃による都市機能の混乱。この映画は戦後日本の平和の脆弱さや虚構性を暴いていきます。戦後日本人にとって当たり前の平和な状況、しかしその平和な状況とは一体何なのか?映画の中でも平和と戦争の境目の曖昧さが語られますが、テロが頻発する現代は平和と戦争状況の区別が曖昧な時代になってきています。危機意識のないままいつの間にかテロという戦争に巻き込まれる現代という時代をこの映画は見事に表現しています。
 また、この映画は平和を望みながら、閉塞した日本の状況をどこかで破壊したいという歪んだ私たちの願望をどこか刺激します。
 彼の作品では現実と虚構の曖昧さが常にテーマとして描かれますが、この作品でも情報化社会における虚構のリアルさ、戦争という現実の日本における非リアルさが伝わってきます。
 さらに、この映画は人間ドラマとしても非常に見ごたえがあります。組織の対立や権力争いに巻き込まれる個人の葛藤や苛立ち、かつては不倫関係だった柘植と南雲の苦く切ないラブストーリーなどドラマとしての完成度の高さが印象に残る作品です。
 それと、この映画を語るときに忘れてはいけないのが、緻密でリアルな東京という都市の描写です。無機質なビル街、生活臭の漂う下町やコンビニなどこの映画のもう一つの主役とも言える東京という都市を見事にアニメで再現しています。そして都市をリアルに描けば描くほど、そこに生きる人が自分の存在を非リアルに感じてしまうというアイロニー。この映画は都市という幻想の世界に生きる人々の思いを描いた作品だと思います。
 ここまで重厚で大人が見て楽しめ考えさせられるアニメ映画はなかなかありません。ぜひ多くの人に見て欲しい傑作アニメです。  

製作年度 1993年
製作国・地域 日本
上映時間 113分
監督 押井守 
原作 ヘッドギア 
脚本 伊藤和典 
音楽 川井憲次 
出演 大林隆之介 、榊原良子 、冨永みーな 、古川登志夫 、池水通洋 

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「宮崎駿」私の愛する映画監督5

第5回「宮崎駿」
Hayao  今回紹介する映画監督は日本一有名なアニメ映画の監督である宮崎駿です。私は昔から宮崎作品が大好きで、テレビでの放映があるたびに画面に釘付けになっていたものでした。私が一番好きな宮崎作品は『天空の城ラピュタ』ですが、おそらく30回以上は見ていると思います。何回見ても、観客をハラハラドキドキさせたり、感動させる映画を作ることは並大抵のことではありません。彼の手がける作品はどれも人を引き付けるだけの大きな魅力が詰まっています。
 では宮崎監督の映画の大きな魅力とは何でしょう?私にとっての宮崎作品の魅力を語りたいと思います。

①動きへのこだわり
 彼は原画・動画・レイアウトなど作画畑を長年歩んでおり、動く絵としてのアニメーションの可能性と魅力を追求してきました。そんな彼の作品は動く絵としての面白さや楽しさに常に満ちています。現実の動きとは違うアニメだからこそ出来るデフォルメされた動きの躍動感や解放感が彼の映画の大きな魅力です。
 彼が生み出すキャラクターやメカの造形は、どれも強烈なインパクトを持っていると同時に、線が丸みを帯びており親しみやすくて魅力的です。特にトトロは彼が生んだ最高のキャラクターだと思います。
 またキャラクターの描き方もリアリズムではなく、多少オーバーな表現であっても、キャラクターの感情を大胆かつ細かな表情や動きで見せようとします。ダイナミックに笑い、怒り、泣き、走り、食べ、戦うキャラクターの姿は活き活きとした魅力に満ちています。
 空間の使い方もアニメならではの特性を活かして、実写では生み出せない広がりや奥行きを感じさせてくれます。特に飛行シーンにこだわる宮崎監督だけに上下の空間の使い方が巧みで、ナウシカからハウルまでキャラクターたちが上から下に、下から上にと空間をダイナミックに移動するシーンがとても印象的です。

②色彩の美しさ
 宮崎作品の大きな特徴として透明感溢れる色彩の美しさがあります。派手でもなく、地味でもない、透明感溢れるさわやかな色の使い方は見ていて心が和みます。

③緻密な世界観の構築
 宮崎作品は常にファンタジーの要素が強い作品を作っていますが、ファンタジー作品を作る時に大切なのが世界観の構築です。非現実の世界を描くからこそ、そこにリアリティーがないと、観客はファンタジーの世界には入り込むことができません。世界中で大ヒットした『ロード・オブ・ザ・リング』の監督ピーター・ジャクソンも映画を作るときにいかにリアルな世界を作り上げるかに力を注いだそうです。そういう意味では宮崎作品はどの作品も世界観が緻密に構築されており、観客は架空の世界にすっと入り込むことができます。『ナウシカ』の風の谷や『千と千尋』の湯屋など架空の世界にも関わらず、何ともいえない現実感があります。ストーリーとは関係ない、さりげない登場人物たちの日常描写や、街や家の中などの生活観溢れる細やかな描写が映画の中の世界をぐっと観客に近いものとして感じさせてくれます。

④気持ちの良い登場人物たち
 宮崎作品は登場人物に誰一人として嫌な奴がいないというところがあります。主人公たちは常に清清しく、見ていて気持ちの良い人物ばかりです。悪役もどこか同情できるところがあったりして、人間臭くて憎めない人物ばかりです。彼の作品では善人と悪人と明確に分けて描くようなことはせず、善と悪を併せ持つ人物を常に描こうとしてます。
 またどの映画でも女性が元気がよく、存在感が強いのも宮崎作品の大きな特徴です。特に彼が描く女性は母性としての力強さと少女としての可憐さを併せ持つキャラクターを描くことが多く、彼の理想の女性像が反映されているのかなと思います。

⑤現代社会を反映したストーリー
 彼の作品は現代社会を常に反映したストーリーを描こうとします。自然破壊、若者の自立、戦争の愚かさ、人間と科学との付き合い方・・・。彼の作品が多くの人の関心を引き付ける大きな要因として、現代社会に対する問いかけがあるからだと思います。特に自然と人間というテーマは宮崎作品では何度も取り上げられており、自然の中で生きてきた人間という視点と自然を征服して生きてきた人間という視点を織り交ぜながら、人間と自然の付き合い方に対して問題提起をしており、いろいろ考えさせてくれます。

⑥久石譲の音楽
 宮崎作品を語る上で忘れてはいけないのが久石譲の音楽です。彼の音楽なしでは、宮崎作品はここまで人気を得られなかったと思います。宮崎作品における久石譲の音楽については以前、このブログで別に取り上げていますので、そちらをご覧ください。

 宮崎監督の映画は誰もが安心して見ることができますし、誰もが楽しんで見ることができます。誰もが見たことない世界で繰り広げられる人間ドラマや冒険活劇の面白さ。宮崎作品は常に人を引き付けるだけの魅力に満ちています。また新作を製作しているようですが、次はどんな作品に仕上がるのか今から楽しみにしています。


*宮崎駿監督作品
ハウルの動く城(2004)  監督、脚本 
・ コロの大さんぽ(2002)  監督、原作、脚本
・ めいとこねこバス(2002)  監督、原作、脚本
・ くじらとり(2001)  監督、脚本 
・ 千と千尋の神隠し(2001)  監督、原作、脚本
・ もののけ姫(1997)  監督、原作、脚本 
・ On Your Mark CHAGE & ASKA(1995)  監督、原作
・ 紅の豚(1992)  監督、原作、脚本
・ 魔女の宅急便(1989)  監督、脚本
・ となりのトトロ(1988)  監督、原作、脚本
天空の城ラピュタ(1986)  監督、原作、脚本
風の谷のナウシカ(1984)  監督、原作、脚本
・ 名探偵ホームズ1 青い紅玉(ルビー)の巻(1984)  監督
・ 名探偵ホームズ2 海底の財宝の巻(1984)  監督
・ ルパン三世 カリオストロの城(1979)  監督、脚本

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『スターウォーズ解体新書』街を捨て書を読もう!

『スターウォーズ解体新書』 著:マサチューセッツ“スター・ウォーズ”ラボラトリー 扶桑社
Star_wars_book  今回紹介する本はスターウォーズ好きの人にお奨めのスターウォーズ研究レポート『スターウォーズ解体新書』です。この本は古本屋でたまたま見つけて買ったのですが、内容のマニアックさや著者たちの考察の細かさと大胆さがとても面白く、一気に読んでしまいました。
 1998年に出版された本なので、基本的に旧3部作に関して細かく研究されています。新3部作が公開された今となっては内容が古いところもあったり、新3部作と食い違うところもあるのですが、旧3部作の細かいところまで見事に研究されています。私もスターウォーズは大好きで何回も見ているのですが、私も知らなかったり、気づかなかった部分についても細かく考察されているので、この本を読むともう一度スターウォーズを見返したくなってしまいます。
 特に私がこの本で面白かった部分は『ジェダイの帰還』のイウォーク族はなぜ強かったのかの大胆な考察とオビ・ワンはなぜ『新たなる希望』でR2D2を知らないと答えたかに対する爆笑の考察です。また映画のほんの一瞬しか出ないキャラクターに対しても、詳しいイ解説がされており、著者たちのスターウォーズへのマニアックな愛情を感じます。
 私としてはぜひ新3部作も併せた6部作に関する研究本も出版して欲しいと思います。
 この本はスターウォーズ旧3部作が好きな人にはお奨めの解説本です。ぜひ読んでみてください。きっとスターウォーズを見返したくなりますよ!
 

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『ドッグヴィル』この映画を見て!

第96回『ドッグヴィル』
Dogville  今回紹介する映画は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の監督として有名なデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーとハリウッドを代表するアカデミー賞女優ニコール・キッドマンが手を組んだ衝撃的な問題作『ドッグヴィル』です。この映画は過激なストーリー、大胆なセット、後味の悪い結末と見所満載な映画です。カンヌ映画祭で上映された時も、あまりにも衝撃的な内容に見た人の間では賛否両論意見が分かれ、賞は獲れませんでしたが大変な話題となりました。
 この作品はだだっ広い倉庫に家や道などを表わす白線を引き、必要最小限の家具などを置くという必要最小限のセットを村に見立てて3時間全編見せるという大胆な手法を取っています。最初見たときはまるで映画のリハーサルを見ているような雰囲気で違和感を感じますが、途中からはそれも気にならなくなり、登場人物たちの行動に釘付けになります。この映画は必要最小限のセットにするとことにより、役者たちの演技に観客を集中させ、人間の醜い本質を寓話的に見せようとしたのだと思います。ただ見ている側は風景が何もなく、役者の演技と残酷なストーリーだけにずっと集中しなくてはいけないので、見終わった後はどっと疲れがでます。
 またストーリーもナレーターが登場人物の思いや状況を全て言葉で語るという大胆な方法を取っており、まるで見る小説といった感じです。
 ストーリー:「アメリカ・ロッキー山脈の村・ドッグヴィルに、ひとりの女グレースがギャングに追われて逃げ込んでくる。村人の青年トムは助けを請う美しい女性グレースを匿う。トムは彼女を村で匿うことを提案するが、村人たちは初めは彼女をいぶかしむ。そこでトムは2週間村人全員に気に入られることを条件に村に留まることを承認させる。献身的な肉体労働をこなすグレースだが、警察に手配されていることが発覚し、村人たちは激しく動揺する。そして村人たちはグレースに対して不信感を覚え、彼女を奴隷のように扱い始める。」
 私はこの映画を始めてみたときは、自分の中に潜む醜さ・愚かさを意識させらてしまい、重たい気分になったものでした。この映画のテーマは一言で表すと人間の傲慢さです。寛容さ、優しさ、哀れみという名の傲慢さ。自分より弱い立場の者に対する傲慢さ。この映画は人間の傲慢さの醜さや愚かさをこれでもかと徹底して描きます。
 この映画の舞台であるドッグヴィルの住人たちは閉鎖的で保守的な人間の集まりです。そんな村に現れた自分たちと明らかに違う異質な人間。仲間と違う人間に対する警戒感や不信感。村人たちに受け入れてもらうために、グレースはjひたすら従順に献身的に村人のお世話をしてきます。いつしか、村人の警戒心も薄れ、彼女を仲間として受け入れようとしていきますが、彼女が警察に追われている存在だと分かると村人の態度は一気に変わります。弱みを握った者と握られた者の不対等な関係。村人たちは彼女を再び自分たちとは異質な利用できる存在として奴隷のように扱いはじめます。映画の中盤から後半にかけての村人たちのグレースに対する酷い扱いは見ていて目を背けたくなります。仲間でない人間に対する非人間的な扱い。かつての奴隷制度を例に出すまでもなく、人間は自分たちの仲間とそうでない者たちとに分けて、後者に対しては非人間的な態度をとることがあります。この映画はそんな人間という生き物の傲慢さを村人の行動を通して見事に表現しています。
 また村人たちの行動を見ていると、常にみんなで話し合って物事を決めており、一見民主的な村に思えるのですが、内実は個人として責任を取りたくないだけということが話しが進むに従って明らかになります。。集団という力がなければ何も考えられない個人の愚かさと、集団主義という責任の曖昧さが個人の欲望をエスカレートさせる恐怖を見ていて強く感じさせられます。
 グレースは映画のラストで傲慢な村人に対して裁きを下します。その裁きもまたとても傲慢なものです。権力を握った者の正義と責任という名の傲慢さ。人が人を裁くということの傲慢さ。グレースに感情移入して見てきた観客にとってある意味痛快なラストではあるのですが、気に入らないもの、救いがたいものは不必要で消しても良いという結末は人間の救いのなさを表しています。その為に見終わると、あのラストシーンに痛快さを感じてしまった自分に嫌悪感を感じてしまいます。
 この映画は不快な登場人物が数多く出てくるのですが、その中でもグレースを最初救おうとしたトムは一番見ていて不快で嫌悪感を抱くキャラクターです。一見、弱い立場の味方を取りながら、実は自分の欲望(他者を救えるという傲慢な欲望)を満たしていただけの存在。彼は理想という名の欲望を他者に押し付け、上手くいかなくなると、主人公を窮地に追い込み自己保身に走るという最低な人間でした。トムは現代社会に蔓延る一見すると弱者の味方をしながら、弱者を食い物にしている似非ヒューマニストの偽善性や醜さの象徴として描かれていると思います。
 この映画はあまりにも人間なら誰しも持つ醜い一面をストレートに描いているので、不快感や嫌悪感を抱く方もいるかと思います。しかし、見た後に人間について考えさせられる映画もなかなかないと思います。ぜひ興味のある人がいたら、体調・精神状況が良いときに見てください。但し、人間不信に陥ってる方や人間を純粋に信じている方などは見ないほうが良いです。
 

製作年度 2003年
製作国・地域 デンマーク
上映時間 177分
監督 ラース・フォン・トリアー 
製作総指揮 ペーター・オールベック・イェンセン 
脚本 ラース・フォン・トリアー 
音楽 - 
出演ニコール・キッドマン 、ポール・ベタニー 、クロエ・セヴィニー 、ローレン・バコール 、パトリシア・クラークソン 

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『陽の照りながら雨の降る』

お気に入りのCD.No11.『陽の照りながら雨の降る』Cocco
Cocco  今日WOWOWで放映していたCoccoの「沖縄ゴミゼロ大作戦ワンマンライブスペシャル2006」を見ていたのですが、久しぶりにテレビで見るCocco素晴らしかったです。現在のCoccoの気持ちが見事に表現されたライブだったと思います。特に沖縄でのライブということもあり、Coccoにとってはとても思い入れの深いライブだったでしょうね。私としては大好きな『Raining』と『焼け野が原』を歌ってくれたので大満足でした。
 Coccoは何年かぶりに活動を再開し、シングルを2枚、アルバムを1枚発表していますが、今回はその中でも私が特にお気に入りの歌『陽の照りながら雨の降る』を紹介します。
 私は初めてこの歌を聴いたときは鳥肌が立ちました。歌を聴いている途中、沖縄の青い空、青い海の下で歌うCoccoの姿が思い浮かんできました。この歌はスローなバラード調の曲なのですが、美しい歌詞と沖縄民謡を彷彿させるメロディー、そしてCoccoの優しくそして力強い歌声がとても素晴らしく、深い感動に包まれる名曲です。この曲を聴くと彼女の優しさや温かさで心が洗われるような感じがします。まだ聞いたことのない人はぜひ聞いてみてください。

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『邪宗門』街を捨て書を読もう!

『邪宗門』 著:高橋和巳 朝日文芸文庫
 今回紹介する本は私が久しぶりに大きな衝撃を受けた小説『邪宗門』です。この小説は昭和初期から終戦までの20年間にわたる新興宗教団体“ひのもと救霊会”の誕生から壊滅に至るまでの歴史を壮大なスケールで描いた作品です。この作品は3部作となっており、併せて1000ページを超える超大作です。この作品はオウム真理教の事件と類似する部分があり、オウム事件の時には様々な評論家がこの作品をオウムとの比較で取り上げていたものでした。
 またこの作品に登場するひのもと救霊会はモデルとなった宗教団体があります。大本教という宗教団体で戦前に国家から不敬罪で激しく弾圧され、神殿も破壊され、多くの信者が拷問し発狂したそうです。
 ストーリー:「京都の田舎の駅に降り立った孤児・千葉潔。彼は政府によって弾圧されていた新興宗教団体“ひのもと救霊会”の信者によって助けられる。彼はひのもと救霊会の信者の下でお世話になるが、ある事件を機に救霊会を一度去ることとなる。国家権力からの激しい弾圧の下、信者たちはなんとか教団を守ろうとするが解散させらてしまう。(第1部)一度は解散にまで追い込まれたひのもと救霊会だったが、信者たちは各地に散ったものの、細々と信仰を守っていた。しかし、第二次世界戦争へと突入。信者たちも否応なく戦争に巻き込まれていく。(第2部)敗戦を迎えた日本。戦前の天皇制国家も解体され、宗教の自由も保障されるようになる。ひのもと救霊会も各地に散らばっていた信者たちが教団に再び集まり始める。そこにかつてひのもと救霊会にお世話になった千葉潔が現れ、リーダーとなり教団の建て直しを行っていく。彼の指導の下に再び力をつけるひのもと救霊会。しかし、彼は教団の再興と共に、日本国家から独立し新たなる自治国家を樹立する野望を持っていた。彼は教団を武装化し、日本国家に独立宣言を行うが・・・・。(第3部)」
 この小説は昭和初期の重苦しい雰囲気の中で話しが進んでいきます。特に国家権力によって弾圧を受ける場面や戦時中の描写などは読んでいて辛く苦しいものがあります。また宗教とはどういう存在か、革命とはどういうものかについての作者の見解が話しの随所にこめられており、いろいろ考えさせられました。特に主人公・千葉潔が無神論者でありながら、リーダーとしての才能を見込まれ教祖となっていく姿は作者の宗教観が見事に表現されていたと思います。
 重いテーマを扱っていますが、話し自体はとてもドラマチックで面白く、読み始めると次の展開が気になり、最後まで一気に読めてしまいます。特に第3部で主人公の千葉潔が国家に対して武装蜂起して革命を起こそうとする展開に度肝を抜かれつつ、どうなっていくのかワクワクしながらページをめくったものでした。革命自体はすぐに敗北してしまい、ほとんどの登場人物が悲惨な最期を迎えてしまうという壮絶なラストには圧倒されました。ユートピアを目指し戦いながら、結局崩壊していく姿は、圧倒的な力に力で立ち向かっても勝ち目はないという現実を改めて思い知らされました。
 またこの作品は数多くの人物が登場しますが、一人一人の内面を鋭く描き出しており、人間という存在について深く考えさせられます。ここまで人間の弱さと強さ、愚かさと賢さ、生きる悲しみと喜びを描いた作品は滅多にないと思います。
 この作品は最近の小説にはない重厚さと面白さがあります。そして読者に様々な問いかけをしてくる作品です。ぜひ多くの人に読んで欲しいです。

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中島みゆきとテレビドラマ

Silver  今年の秋からスタートする「Dr.コトー診療所2006」の主題歌に中島みゆきの『銀の龍の背に乗って』が前作に引き続き使用されるそうです。中島みゆきは80年代から様々なテレビドラマに歌を提供してきました。どの歌もドラマの雰囲気やテーマにあっており、ドラマの魅力をさらに高めてきました。
 特に「3年B組金八先生~卒業式前の暴力~」で使用された『世情』は挿入歌にも関わらず強烈なインパクトを放ち、大変な話題となりました。私はリアルタイムで見たわけではないのですが、機動隊が突入する場面で流れる『世情』は若者たちの心情を見事に反映しており、心にグッとくるものがありました。『世情』はこのドラマの後、様々な番組でパロディとして使用されており、この曲がいかに強烈な印象を持っていたかがよく分かります。
 また「家なき子」や「Dr.コトー診療所」の主題歌も主人公の気持ちや思いを汲み取った歌詞であると同時に、聞く人を慰め励ましてくれるだけの普遍的な力をもった歌詞でもあり、中島みゆきの詩人としての才能を改めて認識させてくれます。
 ぜひみゆきさんには今後も様々なテレビドラマに主題歌を提供してほしいと思います。 

『中島みゆきテレビドラマ提供曲一覧』
・世情-TBS系ドラマ「3年B組金八先生~卒業式前の暴力~」挿入歌(81年.)
・安寿子の靴-NHKドラマスペシャル「安寿子の靴」主題歌('84年)
・匂いガラス-NHKドラマスペシャル「匂いガラス」主題歌(86年.)
・ 雨月の使者-NHKドラマスペシャル「雨月の使者」主題歌('87年)
・浅い眠り-フジテレビ系ドラマ「親愛なる者へ」主題歌(92年.・中島本人も女医役で第2話と最終話出演。)
・空と君のあいだに-日本テレビ系ドラマ「家なき子」主題歌 ('94.年)
・旅人のうた-日本テレビ系ドラマ「家なき子2」主題歌('95年.)
・たかが愛-テレビ朝日系ドラマ「はみだし刑事情熱系」主題歌('96年.)
・愛情物語-テレビ朝日系ドラマ「はみだし刑事情熱系 PARTII」主題歌('97年.)
・糸-TBS系ドラマ「聖者の行進」主題歌('98年)、
・命の別名-TBS系ドラマ「聖者の行進」主題歌('98年.)
・ニ隻の舟-フジテレビ系ドラマ「海峡を渡るバイオリン」主題歌('05年.)
・命のリレー-フジテレビ系ドラマスペシャル「女の一代記」シリーズ主題歌('05年.)
・帰れない者たちへ-テレビ朝日系ドラマ「松本清張 けものみち」主題歌('06.年)
・銀の龍の背に乗って-フジテレビ系ドラマ「Dr.コトー診療所」「Dr.コトー診療所2006」主題歌('03年.・'06年.)

*ちなみに中島みゆきの主題歌を集めたCDとして『大銀幕』と『SINGLS2000』の二枚のベストアルバムがお奨めです。
大銀幕『大銀幕』
収録曲:
1.糸(ドラマ「聖者の行進」主題歌)
2.命の別名(ドラマ「聖者の行進」主題歌)(ALBUM VERSION)
3.たかが愛(ドラマ「はみだし刑事 情熱系」主題歌)
4.愛情物語(ドラマ「はみだし刑事 情熱系」主題歌)
5.世情(ドラマ「3年B組金八先生」挿入歌)
6.with(映画「息子」イメージソング)
7.私たちは春の中で(映画「大いなる完」主題歌)
8.眠らないで(映画「海ほうずき」エンディングテーマ)
9.二隻の舟(映画「霧の子午線」主題歌)
10.瞬きもせず(映画「学校3」主題歌)(MOVIE THEME VERSION
Singles 2000『Singles 2000』

1. 地上の星(NHK総合テレビ「プロジェクトX-挑戦者たち」主題歌)
2. ヘッドライト・テールライト(NHK総合テレビ「プロジェクトX-挑戦者たち」エンディング・テーマ)
3. 瞬きもせず(シングル・バージョン/映画「学校3」主題歌)
4. 私たちは春の中で(映画「大いなる完」主題歌)
5. 命の別名(TBS系ドラマ「聖者の行進」主題歌)
6. 糸(TBS系ドラマ「聖者の行進」主題歌)
7. 愛情物語(テレビ朝日系ドラマ「はみだし刑事情熱系PART2」主題歌)
8. 幸せ
9. たかが愛(テレビ朝日系ドラマ「はみだし刑事情熱系」主題歌)
10. 目を開けて最初に君を見たい
11. 旅人のうた(日本テレビ系ドラマ「家なき子2」主題歌)
12. SE・TSU・NA・KU・TE
13. 空と君のあいだに(日本テレビ系ドラマ「家なき子」主題歌/映画「家なき子」主題歌)
14. ファイト!(住友生命「ウィニング・ライフ」CMイメージソング)

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夜会VOL.8『問う女』

夜会VOL.8『問う女』
Tou  中島みゆきのライフワークであるコンサートでも演劇でもない独特な舞台「夜会」。その中でも、一番演劇的要素が強い作品『問う女』を紹介したいと思います。
 この作品は私はビデオ化されてから鑑賞したのですが、他の夜会に比べて、歌う場面が少なく、代わりにセリフが多用されており、演劇を見ているような感じでした。また他の夜会に比べて、省略されている部分が大きい割りに様々なテーマやメッセージがこめられており、見終わった後にいろいろ考えさせられる作品でもありました。
 ストーリー:「ラジオ局でのDJを勤める綾瀬マリア。彼女はある日ラジオの番組で自分の男を奪った女にひどい言葉を投げかけ復讐する。しかし、復讐した女は同姓同名の別人。そのことを知ったマリアは自暴自棄になり、夜の歓楽街をさまよう。そこで酔いつぶれたマリアは東南アジアから来た一人の売春婦に出会う。2万6千円という日本語しか言えない彼女との出会いがマリアの人生を大きく変えることとなる。」
 この作品のテーマはずばり「言葉」です。自分の思いや感情を整理したり、他人に分かりやすく伝えるために生み出された言葉という便利な道具。言葉は人間にとって最大の発明であり、人間らしく生きていく上で必要不可欠なもの。しかし、言葉は一歩使い方を間違えると、自分も他人も傷つてしまう恐ろしい凶器にもなってしまう。『問う女』は言葉の大切さや重みを伝えようとする作品です。
 自分を守るための道具として言葉を使ってきた主人公のマリア。彼女は他者と交流するためでなく、他者を傷つけ、拒絶するために言葉を使います。そんな彼女が言葉の通じない女性と出会ったときに気づく、言葉の価値と重み。言葉とは単なる道具ではなく、自分の心の一部。あたたかい心で投げかた言葉は人を慰め、冷たい心で投げかけた言葉は人を傷つける。この作品は普段何気なく使っている言葉というものを見直させてくれる作品です。
 この作品で使用される歌は全曲夜会のために作詞・作曲されたもので、ストーリーと密接に関連したものばかりです。今回は全体的に歌が少ないのですが、作品のラストに流れる『PAIN』という曲がとても素晴らしく、この曲が今回の夜会のテーマを見事に語っています。言葉の価値や人間の愚かさ、悲しさといったものをスケール大きく歌い上げた『PAIN』は中島みゆきの繊細だけど力強い歌声も相まって、聴いていて感動で身震いがするほどです。ぜひ多くの人に聞いて欲しい名曲です。私はこの曲を聴くためだけに何回も見直しているほどです。
 この作品はストーリーが駆け足で分かりにくかったり、話しの展開が古臭かったり、無理があるところもありますが、それを差し引いても素晴らしい作品になっています。DVDで発売もされているので、ぜひご覧になってください!
Toubook  ちなみにこの作品は中島みゆきの手により、小説化されており、舞台では省略された部分しっかり書きこまれているので、舞台をご覧になった方はそちらも読んでみてください。より中島みゆきが伝えたかったことが分かると思います。

会場:Bunkamuraシアターコクーン
1996.11.25~12.25
全24回公演

1.誰だってナイフになれる
2.エコー
3.エコー(“BERRIES”)
  (インストゥルメンタル)
4.SMILE,SMILE
5.台風情報(インストゥルメンタル)
6.エコー
7.誰だってナイフになれる
  (インストゥルメンタル)
8.RAIN
9.JBCのテーマ
10.公然の秘密
11.エコー
12.誰だってナイフになれる
13.女という商売
14.二隻の舟
15.あなたの言葉がわからない
16.血の音が聞こえる
  (インストゥルメンタル)
17.未明に(インストゥルメンタル)
18.異国の女(インストゥルメンタル)
19.JBCのテーマ
20.未明に(インストゥルメンタル)
21.PAIN
22.RAIN(インストゥルメンタル)

*ビデオ版と舞台では一部曲目が違います。
 ビデオ版では舞台のオープニングで歌われた『羊の言葉』がカットされており、逆に『異国の女』は舞台では流れません。この2曲とも夜会の曲を集めたCD『月-WINGS』、『日-WINGS』に収録されています。ちなみに『PAIN』も『月-WINGS』に収録されています。

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『アメリ』この映画を見て!

第95回『アメリ』
Ameri  今回紹介する映画は見た人を幸せにする恋愛映画『アメリ』です。この映画は公開当時フランスや日本でも大ヒットを飛ばし、アメリブームが巻き起こりました。この映画の監督は『エイリアン4』や『ロスト・チルドレン』などダークでグロテスクな映画を撮ることで有名なジャン=ピエール・ジュネが担当。今までの彼の作風とは打って変わって、お洒落でお茶目でポップな恋愛映画を作り上げました。
 私は公開当時、この映画にはまり、何回も映画館で通ってみたものでした。話し自体は別にこれといって目新しいものはなく単純なものなのですが、その描き方に独特なセンスがあり、何度見ても楽しめるだけの魅力がこの映画にはあります。
 まず独特な映像センス。全体的に彩度を落としたセピア調の色彩のノスタルジックな雰囲気と赤と緑を大胆に使用したポップ映像の融合はお洒落で美しいですし、さりげないCGの使い方もとても巧みです。カメラワークも凝っており、普通の映画では見られない構図がいくつもあり、監督の画の才能を感じることができました。また映画に登場する部屋や小物・衣装などもかわいく、見ていて欲しくなりました。特に豚のランプはお気に入りです。
Ameri_cd  ヤン・ティルセンが作曲した音楽もとても素晴らしく、映像とマッチしています。軽快なアコーディオンの音が印象的なテーマ曲に胸が締め付けられるようなセンチメンタルなピアノの曲と、映画で流れるどの曲もとても親しみやすく、どこか懐かしい感じを受けるものばかりです。私はこの映画を見て、音楽がとても気に入り、即サントラを買いました。この映画のサントラを聞くとすぐに映画に舞台となった街の風景が思い浮かぶと同時に、温かい気持ちになれます。ぜひ映画を見てはまった人はサントラCDも買ってください。絶対損しないと思います。
 続いてストーリーですが、一言で表すと、内気な女性の初恋を描いたとてもシンプルなラブストーリーです。それでいながら、登場人物たちは一癖もふた癖もある人たちばかりですし、ストーリー自体もどこか現実離れしているところもあり、普通の恋愛映画にはない独特な感じを受けます。
 ストーリー:「小さいときの家族環境現実逃避気味な女性アメリが、ある事件をきっかけに人を幸福にすうる喜びを感じ、周囲の人を幸せにしようと奮闘する。そんな中、アメリはふとした偶然で出会った青年に恋をする。彼に思いを告白したいが勇気をもてないアメリ。そんなアメリが恋を成就するまでの姿を周囲の人たちとのやりとりを交えながら描く。」
 この映画のストーリーは空想の世界に浸っていた女性が他者を幸福にすることや恋愛を通して現実の世界に居場所を見つけるというものです。アメリという女性はずっと孤独であったが故に純粋でもあったのだと私は思います。そんな彼女が他人を幸せにしようと奮闘したり、恋をする中で、人と触れ合う幸せを感じていく姿は見ていてとてもほほえましかったです。また彼女の純粋さや優しさが人の気持ちをほぐしていく場面も見ていて心地よいものを感じました。八百屋の店主に対する悪戯も遊び心があり、くすくす笑わさせてもらいました。後半、恋に落ちたアメリが彼と会いたいのに、自分に自信がなくてあと一歩のところで引いてしまう場面は見ていて切なく、彼女にがんばれと応援している自分がいました。
 この映画は主人公アメリだけでなく、周囲の人物も変わった人ばかりです。みんなどこか人間関係を上手く築けない不器用な人たちばかりなのですが、その不器用さがとても人間らしく、愛おしさを感じてしまいます。この映画は世の中にうまく馴染めない人たちに対する監督の温かい眼差しが感じられるところが私は大好きです。
 またストーリーの展開はとてもテンポが良く軽快です特にオープニングは短い時間で面白可笑しくアメリの生い立ちや周囲の人たちの姿を巧みに説明していたと思います。またファンタジックで心温まるストーリーでありながら時折生々しい場面やブラックな場面がはさまれていたりするがフランス映画らしかったです。ナレーションもエスプリが利いてました。
 この映画は見た後に誰もが幸せになれる恋愛映画です。ぜひ一度ご覧になってください。

製作年度 2001年
製作国・地域 フランス
上映時間 120分
監督 ジャン=ピエール・ジュネ 
脚本 ジャン=ピエール・ジュネ 、ギョーム・ローラン 
音楽 ヤン・ティルセン 
出演 オドレイ・トトゥ 、マチュー・カソヴィッツ 、ヨランド・モロー 、ジャメル・ドゥブーズ 、イザベル・ナンティ 

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『TAKESHIS'』この映画を見て!

第94回『TAKESHIS'』北野武特集7
Takeshis  今回紹介する映画は昨年の秋に公開された北野武監督の最新作『TAKESHIS'』です。この映画は誰が見ても楽しめた前作の『座頭市』と打って変わって、難解で見る人を選ぶ作品に仕上がっています。
私は昨年公開されたと同時に北野武が大好きな職場の先輩と一緒に見に行ったのですが、北野ワールド全開の展開に2人とも大変はまったものでした。この映画は北野武=ビートたけしという人間をどれだけ知っているかどうかで、かなり印象が変わってきます。この映画は北野監督の内面や自伝的要素がストーリーからキャスティングそして映像に至るまで大きく反映されています。この映画はストーリーだけを追っても何の意味もなく退屈なだけです。この映画は北野武が日々感じているものを体感する映画であり、北野武=ビートたけしという人間を知るための作品です。だから北野武に興味がない人や彼の経歴をしらない人がみるとイマイチ意味が分からなかったり、面白くなかったりすると思います。
 芸能界の大スターとして多忙でリッチな生活を送っているビートたけしと、ビートたけしとそっくりなしがないコンビニ店員・北野。彼らがテレビ局で出会うところから話しは始まります。夢とも現実とも区別がつかない世界の中を彷徨う北野武=ビートたけしの姿を時系列を無視した醒めることのない夢のような展開で描き出していきます。
この映画はテレビや映画で成功した北野武=ビートたけしという存在に対する、本人なりの今までの人生の総括であり、成功したが故に持つ自己への破壊願望を投影した映画です。
 この映画は主役の北野武だけでなく、登場するほとんどの役者が何役もこなします。この映画は繰り返し同じ人を登場させることで、夢を見ているような感覚を演出すると同時に、独特な反復のリズムを映画につけようとしたのだと思います。特に岸本加世子は何回も役を変えては登場して、主人公の足を引っ張り続けるのですが、その姿は見ていてとてもイライラさせられます。きっと岸本加世子は北野武が頭が上がらない本妻や母親というような女性に対する思いが描かれているのだろうなと思いました。
 あとこの作品では美輪明宏さんを始め、タップダンサー、女形の子役など様々な芸をもった人が出てきて、芸を披露します。これらの芸人の登場シーンは北野監督の芸と芸術に対するリスペクトが伝わってきました。特にタップは実際に武自身が何年も習っており、将来的にはワンマンショーも開きたいと思っているそうです。その熱い思いがこの映画にも投影されています。
 北野作品では過激な暴力描写が有名ですが、今回も数多くの暴力描写があります。ただ他の北野作品と違って、この映画の暴力シーンは生々しさに欠けており、とても軽い感じがしました。この映画では銃撃シーンが数多くあるのですが、ラストの浜辺での撃ち合いのシーンは見ていて、なぜか痛烈なもの悲しさを感じてしまい、泣いてしまいました。ストーリー的には全く意味のない銃撃シーンでありながら、ものすごく美しく撮影されており、そのあまりの美しさが人生や死というものに対する虚しさというものを感じさせてしまい、胸にくるものがありました。
また北野監督らしく色彩にもこだわっており、この映画は赤と青を基調にした色彩がとても美しく目を引きました。古びたアパートの枠が赤や青で塗られているシーン、ピンク色のタクシー、沖縄の青い海、コンビニの緑とピンクの服。これらは映画の持つ非現実的な雰囲気をみごとに演出していました。
 この映画は意味を求める映画でなく、北野武を体感する映画です。それ故に、北野武に興味がない人にはこの映画はお奨めできません。しかし、北野武や彼の映画が好きな人ならぜひこの映画を見てください。

製作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 107分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 NAGI 
出演 ビートたけし 、京野ことみ 、岸本加世子 、大杉漣 、寺島進  、美輪明宏、六平直政、ビートきよし、津田寛治、石橋 保、國本鍾建、上田耕一、高木淳也、芦川 誠、松村邦洋、内山信二、武重 勉、木村彰吾、ゾマホン

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夜会VOL.7『2/2』

夜会VOL.7『2/2』
Photo_5  中島みゆきのライフワークであるコンサートでも演劇でもない独特な舞台「夜会」。その中でも特に私が好きな作品「2/2」を今回は紹介したいと思います。
 私はこの作品はDVDでしか見たことがないのですが、歌とストーリーが数ある夜会の中でも特に素晴らしく、何回も見ても心に響くものがあります。
 ストーリー:「出版社に勤める莉花は仕事で知り合ったアートディレクターの恋人・圭と幸せに暮らしていた。しかし、彼女は自分が気づかないうちに自分を破滅に追い込もうとするもう一人の自分の存在、二重人格に気づく。別人格になった自分が圭に危害を加えることを恐れ、彼女は仕事も捨て、逃げるようにベトナムへと旅立つ。しかし彼女はちょっとしたミスから日本に帰られなくなってします。異国の地で暮らす彼女がたどった自分の知られざる過去。彼女の中にいるもう一人の存在はなぜ生まれたのか?そして二つに別れた魂の謎とは?」
 夜会のストーリーは難解なものが多く、一度見ただけでは分からない作品が多いのですが、この作品は比較的分かりやすく、そしてとても感動できる仕上がりになっています。この作品は主人公の莉花がなぜ二重人格になったのかという謎の解明とと彼女が幸せをつかむまでの軌跡を追っています。ラスト20分で謎がいっきに明かされ、彼女が立ち直る場面は歌の素晴らしさも相まって、涙なしでは見れられません。
 この作品のテーマはずばり生まれ変わることだと思います。自分の人生を縛り付けていたものからの解放と新たなる人生への旅立ち。この作品は人間は自分らしさを取り戻すために何度でも生まれ変われる存在であるということを見事な形で描いています。 
 この作品はストーリーの素晴らしさはもちろんのこと、歌がとても素晴らしいです。この作品は使用される歌全てが夜会のために新たに書き下ろされており、ストーリーと密接に関連したものとなっています。その為、歌詞を聞けば聞くほどストーリーの奥深さを感じることができます。特にこの作品は一曲一曲の完成度がとても高く、メロディー・歌詞共に一級品です。どの曲もこの夜会から抜き出して単体で聞いても十分心に響くだけの力を持っています。特にラスト20分の歌は歌詞の美しさと中島みゆきの力強くそれでいて優しい歌声に鳥肌が立つほどです。 
Novel  この作品を基にした小説も中島みゆきが執筆しているのですが、こちらも素晴らしい仕上がりとなっており、舞台では分かりにくかった場面も詳しく書かれているので、ぜひ舞台を見た人はこの小説も読んでみて欲しいです。
 「2/2」は誰が見ても感動できるだけの力を持った作品です。ぜひ多くの人に見てもらいたいです。 

会場:Bunkamuraシアターコクーン
1995.11.26~12.25
全25回公演

01.LAST SCENE<Instrumental>
02.TOURIST
03.誰かが私を憎んでいる<Instrumental>
04.1人旅のススメ
05.拾われた猫のように
06.奇妙な音楽<Instrumental>
07.誰かが私を憎んでいる
08.NEVER CRY OVER SPILT MILK
09.奇妙な音楽<Instrumental>
10.この想いに偽りはなく
11.1人で生まれて来たのだから
12.TOURIST
13.途方に暮れて
14.ハリネズミ
15.市場は眠らない
16.TOURIST
17.拾われた猫のように<Instrumental>
18.竹の歌
19.紅い河
20.7月のジャスミン
21.自白
22.目撃者の証言
23.幸せになりなさい
24.二隻の舟
25.幸せになりなさい
26.紅い河

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『スターウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』映画鑑賞日記

Starwars  今回紹介する映画はスターウォーズサガの序章にあたる.『スターウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』です。ジョージ・ルーカスはスターウォーズを制作するに当たって、元々9部作にするつもりで構想を練っており、旧3部作のエピソード4から6まではちょうどシリーズの中間の作品になる予定でした。しかし、旧3部作以降、なかなか次のスターウォーズは制作されず、97年にやっとエピソード1から3までの制作を決定、それと同時に当初あった9部作の構想は撤回され、旧3部作と新3部作あわせて6部作でシリーズを完結させることをルーカスは公表しました。この6部作完結の発表はスターウォーズファンにはとても残念なものでした。
 さて6部作の序章として制作された『ファントム・メナス』ですが、16年ぶりのシリーズ復活に多くの人が期待を寄せたものでした。ストーリーは将来ダースベイダーとなるアナキン・スカイウォーカーの幼少期を描くというものであり、旧3部作に登場していたオビ・ワンやCー3PO、R2D2、そしてヨーダまでも登場するということで、どんなストーリー展開になっていくのか、多くのファンが公開まであれこれ想像したものでした。私もスターウォーズの新作公開に胸躍らせ楽しみにしていたものでした。
 そして99年夏についに公開され、初日に映画館に並び見たのですが、CGを多用した映像のスケールの大きさと緻密さには圧倒されたものの、キャラクターやストーリーにあまり魅力がなく、正直旧3部作に比べてあまり面白くありませんでした。
 映像は旧3部作に比べて格段に進歩して迫力があるものの、ストーリーは旧3部作にあった夢やロマンといったものを感じられず、複雑な政治の話しがメインになっており、いまいち入り込めませんでした。この映画を見て、改めてルーカスはシナリオの才能がないことを確信してしまいました。
 キャラクターの造形も今ひとつで、とくに旧3部作の登場したハン・ソロのようなタイプの人物がいないのが残念でした。悪役のダースモールはインパクト大なのですが、ラストがあっけなく、もう一つでした。また世界中のファンから大ブーイングを受けたジャージャービンクスもうるさいだけで、見ていていらいらするものがありました。
 CGを多用した映像も迫力と緻密さはあるものの、リアリティを感じさせず、CGアニメを見ているような感じでした。旧3部作は宇宙船のリアルな汚れなどが現実感を与えていたのですが、この映画はピカピカしすぎで、嘘っぽく見えてしまいました。
 ここまで散々酷評してきましたが、個人的にこの映画は嫌いでもないですし、実は何回も見直したりしています。特に私はラストのクワイ・ガン、オビ・ワンとダースモールの戦いのシーンは大好きで、このシーン見たさに何回も見直しているほどです。また旧3部作のキャラクターの過去が見られるという点でもとても興味深いです。
 この映画は他のスターウォーズ作品に比べるともうひとつですが、スターウォーズファンなら外せない作品ですし、2作目が気になるという点では序章としての役割をみごとに果たしていると思います。

製作年度 1999年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 133分
監督 ジョージ・ルーカス 
製作総指揮 ジョージ・ルーカス 
脚本 ジョージ・ルーカス 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 リーアム・ニーソン 、ユアン・マクレガー 、ナタリー・ポートマン 、ジェイク・ロイド 、イ

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『吸血鬼ゴケミドロ』この映画を見て!

第93回『吸血鬼ゴケミドロ』
Gokemidoro  今回紹介する映画はカルト的に人気を誇る日本SFホラー映画『吸血鬼ゴケミドロ』です。この映画は1968年にSF映画で老舗の東宝に対抗して、松竹が制作した宇宙人による地球侵略をおどろおどろしく描いた作品です。この映画はとても低予算で制作されており、特撮などチープで、突っ込みどころも多い作品ではあるのですが、エイリアンに侵略された男の異様な雰囲気や人間の醜さを前面に押し出したストーリー、そして後味の悪いエンディングなど見所も多く、見る者に強烈なインパクトを与えてくれます。
 ストーリー:「謎の光体の接近により墜落し、岩山に不時着した旅客機。生き残った10人の乗客と乗組員は宇宙生物ゴケミドロによって恐怖のどん底へと突き落とされる。ゴケミドロは人間に寄生し、寄生した人間を使って、他の人の血を吸って次々と殺していく。生き残った人間たちは何とか生き残ろうとするが、お互いにエゴがむき出しとなり、足を引っ張り合ってしまう・・・。」
 私がこの映画を始め見たときは、エイリアンに襲われるシーンよりも、個性的過ぎる登場人物たちの姿がとても強烈でした。夫が戦死したアメリカ人女性や爆弾で自殺しようとする男、暗殺者、欲望と権力にしがみつく政治家、宇宙人実在論を唱える科学者、危機的状況におかれた人間を観察する精神科医と、ここまで個性的な乗客ばかりの飛行機って、ある意味すごいですね。この人たちが生きようが死のうがどうでもよく、主人公たちには感情移入があまりできませんでした。それにしても極限状態におかれた人間たちの汚さや愚かさをこれでもかと徹底的に描いたストーリーは滅多になく、見ていて嫌悪感を感じてしまいました。
 特撮は空飛ぶ円盤にしても、飛行機にしても、エイリアンにしても、とてもチープなのですが、エイリアンがパックリと割れた人間の額から入り込むシーンはとても気持ち悪く、それでいてどこかいやらしくもあり、一度見ると頭から離れません。またエイリアンに侵略された高英男扮する暗殺者が他の人を襲うシーンはとても不気味で恐ろしいものがありました。
 そしてバットエンディングで有名なラストですが、私も最初に見たときは、まさかこんな結末になるとはと唖然としてしまいました。ここまで絶望的なラストのSF映画はあまり見られません。
 この映画は当時の世相を反映してか、反戦・反核というテーマが随所にこめられています。夫をベトナムでなくした戦争未亡人が「戦争はいけない」と訴えるのですが、映画の中身から浮きまくり、何か違和感を感じてしまいます。
 この映画はタランティーノ監督も大好きで『キルビル1』の模型を使った飛行機のシーンはこの映画のオープニングのシーンに対するオマージュだそうです。
 『吸血鬼ゴケミドロ』は特撮こそチープですが、日本を代表するSFホラー映画であり、一度見たら、あなたもその虜にきっと?なるでしょう。ぜひ見てみてください!

製作年度 1968年
製作国・地域 日本
上映時間 84分
監督 佐藤肇 
脚本 高久進 、小林久三 
音楽 菊池俊輔 
出演 吉田輝雄 、佐藤友美 、高橋昌也 、高英男 、金子信雄 、北村英三、 楠侑子、 加藤和夫 、西本裕行、 山本紀彦、 キャッシー・ホーラン

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『スターウォーズ エピソード6 ジェダイの帰還』この映画を見て!

第92回『スターウォーズ エピソード6 ジェダイの帰還』
Star_wars_6  前回前々回と紹介してきたスターウォーズクラシックシリーズの最後を飾る『ジェダイの帰還』を紹介したいと思います。
 この映画はスターウォーズサガの完結編ということもあり、ルークとベイダーの関係に重点が置かれ、スカイウォーカー親子2代にわたる壮大なドラマはベイダーの改心と親子の和解という形でで完結します。エピソード1から順を追ってこの映画まで見ると、この映画がアナキンの物語であったことに改めて気づきます。一度は悪に落ちた彼が、息子との出会いにより、また善を取り戻すという結末は何とも感動的です。
 この映画は前半は5作目のラストでカーボン冷凍されたハン・ソロの救出が大きな見所です。5作目のラスト、ハン・ソロがどうなるのかとても気になっていたので、彼が助け出された時にはホッとしました。ただ個人的にこの救出シーンは少し長すぎるような気がします。そしてジャバ・ザ・ハットの最後があのような形なのはとてもあっけなかったです。そういう意味ではボバもあっけなく死んでしまいましたが。スターウォーズシリーズはベイダーを除き、悪役が思ったよりもあっけなく死んでしまうような気がします。皇帝の最期など投げ落とされるというもので、銀河の皇帝の割りに何か情けなかったです。
 映画の後半はデス・スターをめぐる攻防とベイダーとルークの対決という二つのストーリーが同時進行で進むのですが、デス・スターをめぐる攻防戦は私はもう一つでした。その理由は後にも述べますが、イウォーク族の登場にあると思います。彼らの登場が緊迫したストーリーを弛緩させてしまったような気がします。 
 この映画は公開当時はヒットしたもののスターウォーズファンの間では評価は微妙でした。その大きな理由が惑星エンドアでのイウォーク族の登場にあります。スターウォーズシリーズのフィナーレを飾る作品が熊たちの戦いによって勝利に導かれるという展開にかなりブーイングが出たそうです。確かに私もエンドアでの戦いは微妙な気がします。ただし、ルーカスは5作目の『帝国の逆襲』が大人向きの作品にしあがったことが不満らしく、6作目はシナリオにも結構口を出し、イウォーク族を登場させたそうです。ルーカスはスターウォーズはファンタジーであり、子どもが見ても楽しめるものにしたかったそうです。噂によると最初のシナリオではハン・ソロも戦死する予定だったのをルーカスが嫌い、生き残るシナリオに変えたそうです。
 私もこの映画は5作目に比べると、シナリオの完成度という点では確かにイマイチだと思います。ただスターウォーズサガの完結ということで何度見ても感動してしまうのですが・・・。
 この映画は83年に公開されたものと現在DVDで見られるものでは幾つかのシーンで修正や追加がされているのですが、映画のラストの幽体となったアナキンの姿が若いアナキンの姿に改変されたシーンは見たときとても違和感を感じました。この修正は不必要だったと思います。
 この作品を見るときは是非1作目から順を追って見て行ってください。ラストはきっと感慨深いものがあると思います。

製作年度 1983年・特別編:1997年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 132分・特別編:137分
監督 リチャード・マーカンド 
製作総指揮 ジョージ・ルーカス 
脚本 ローレンス・カスダン 、ジョージ・ルーカス 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 マーク・ハミル 、ハリソン・フォード 、キャリー・フィッシャー 、アンソニー・ダニエルズ 、ビリー・ディー・ウィリアムズ 

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『スターウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』この映画を見て!

第91回『スターウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』
Star_wars_5  前回の『新たなる希望』に引き続き、スターウォーズサガの第5章目にあたる『スターウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』を紹介します。この作品はスターウォーズファンの間で一番人気が高く、シリーズ6作の中で一番大人向けの作品に仕上がっています。
 私がこの映画を一番最初に見たときは、話しが途中で終わるという展開に大変驚いたものでした。最近は『マトリックス』や『ロード・オブ・ザ・リング』・『パイレーツ・オブ・カリビアン』と話しが途中で終わるという作品も多いですが、当時はとても珍しく、この後どういう展開になるのかとても気になったものでした。
 私はスターウォーズサガの中でこの作品が一番お気に入りで、戦闘シーンの迫力と人間ドラマとしての面白さ・キャラクターの魅力という点でシリーズでも突出したものがあります。この作品の登場でスターウォーズの世界観に広がりと奥行きが出て、単なる娯楽作品以上の人気を得ることができたのだと思います。
 戦闘シーンは大規模な地上戦から宇宙空間での帝国軍からの逃走、そしてライトセーバー対決とバリエーションに富んでおり、見る者を飽きさせません。
 またストーリーも主人公の人間ドラマに重点を置き、時にコミカルに、時にシリアスに描き、ラストはとてもドラマチックな展開となり、スターウォーズシリーズの中でも最高に盛り上がります。この映画の脚本はルーカスではなく、リー・ブラケット 、ローレンス・カスダン 
というプロの脚本家が書いており、シナリオが素晴らしいです。ただルーカス自体は大人向きのシナリオが気に入らなかったらしく、6作目の『ジェダイの帰還』や新シリーズでは、かなりシナリオにも手を出していますが、はっきり言ってルーカスってシナリオの才能はないと思います。
 この映画は新しいキャラクターも数多く登場しますが、ヨーダはその中でも特にインパクトがありました。仙人を思わせるような雰囲気と東洋思想の影響を受けた発言の数々はとても魅力的でした。ただ新シリーズでのヨーダを見てしまうと5作目のヨーダはあまりにも別人で、違和感を感じてしまいました。これは新シリーズでのヨーダの描き方に問題があると思います。またスターウォーズシリーズでもベイダーに次いで人気の高いボバ・フェットが登場したのもこの作品からでしたね。
 この映画の大きな見所は3つあり、前半の惑星ホスでの反乱軍対帝国軍の雪原での戦闘シーンとハンソロとレイアのラブロマンス、そしてルークとダース・ベイダーの関係性が明らかになるラストです。
 前半のホスでの戦いは数あるスターウォーズ戦闘シーンの中でも非常に印象に残るものがあります。特に4足歩行の戦闘マシーンAT-ATは造形のユニークさでとてもインパクトがありました。ただAT-ATは造形は面白いものの、足元の弱さから実戦には不向きだと思いますが・・。
 ハン・ソロとレイアのミレニアム・ファルコン号や雲の惑星へスピンでの恋の駆け引きも見ていて面白く、映画のラストでソロが冷凍カーボンにされる時のレイアとの会話は胸にグッとくるものがありました。
 そして何といってもこの作品で一番の見所といえるラストのルークとベイダーの一騎打ちとベイダーがルークに「自分が父親」だと告白するシーン。このシーンはとても衝撃的でした。『新たなる希望』を見たときは思いもしなかった、ベイダーとルークの関係。このラストの一言でスターウォーズは単なる善と悪の戦いという物語から、父と子の複雑な関係を描く人間ドラマとしての魅力が加わったと思います。
 
製作年度 1980年・特別編:1997年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 125分・特別編:131分
監督 アーヴィン・カーシュナー 
製作総指揮 ジョージ・ルーカス 
脚本 リー・ブラケット 、ローレンス・カスダン 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 マーク・ハミル 、ハリソン・フォード 、キャリー・フィッシャー 、アンソニー・ダニエルズ 、ビリー・ディー・ウィリアムズ 

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『スターウォーズ エピソード4 新たなる希望』この映画を見て!

第90回『スターウォーズ エピソード4 新たなる希望』
Star_wars_4  昨日WOWOWでスターウォーズ全6作を一挙放映していてたので、私も全作品を一挙に見てしまいました。さすがに全6作を一度に見ると、この作品がスカイウォーカー親子の壮大な物語であったということが改めて分かり、ダースベイダーがルークを守ろうと皇帝を倒す場面は何ともいえない感動がありました。
 今回はそんなスターウォーズ壮大な物語のスタートとなった記念すべき第1作目(6部作の中では4作目に当たる)『新たなる希望』を紹介したいと思います。
 この映画を私が最初に見たのは小学1年生のときで、テレビで見たのですが、あまりの面白さに画面に釘付けになったのを思います。その後もテレビで放映されるたびに欠かさず見て、自分でビデオやDVDを買って、何十回と見たものでした。
 昨日WOWOWで全6作を通して見ると、1作目は意外にシンプルでこじんまりとした話しだったんだなと思いました。舞台となる星も主にタトゥーインとデス・スターだけですし、話しも敵に捕らわれた姫を助け、悪の本拠地を破壊するというとても単純なものです。新3部作は政治的な話しが絡み、舞台となる惑星も多かったのですが、旧3部作は今見るととてもシンプルな話しが多いです。しかし、シンプルな話しであるが故に、主人公たちの成長や友情・恋愛に見ている側が感情移入しやすく、感動的で手に汗握る作品に仕上がっていると思います。
 『新たなる希望』はスターウォーズ第1作ということもあり、前半は登場人物の紹介やスターウォーズの世界の説明に多くの時間が割かれいます。その紹介や説明の仕方が巧みで、見ている側のイメージを膨らませるんですよね・・・。スターウォーズの魅力の一つに映画では語られない部分にもあおれこれ観客が思いをめぐらせることが出来るだけの世界観の奥深さがあると私は思っています。そしてデス・スターに舞台が移ってからは、息つく暇もない冒険活劇が繰りひろげられ、見ている側は画面から目が離せなくなります。特にライトセーバーによる戦いとラストの宇宙船同士の戦闘は男の子にはたまらないシーンです。
 あと旧スターウォーズの魅力はストーリーもさることながら、キャラクターの造形の上手さがあると思います。パイロットを憧れる純粋だけど未熟な主人公のルーク、ニヒルだけど頼りになる男・ハンソロ、美しく熱い闘士をもった王女・レイア、この3人の関係がとても魅力的です。また悪役のダースベイダーもルックスといい、その冷酷非道な性格といい、最初見たときは強烈なインパクトと恐怖を覚えたものでした。あの悪役を生み出せたこともこの映画の成功の大きな要因でしょう。また脇役のオビワンは映画に奥行きを与え、Cー3PO、R2D2・チューバッカーもいい味を出していますよね。
 またこの映画の大きな魅力として、宇宙船の造形のかっこよさとリアルさもあります。とくにメカのさび付いた汚れは、何ともいえない現実感を与えてくれました。
 そしてこの映画の魅力を語る上で外せないのが音楽。ジョン・ウィリアムスのあの有名なテーマ曲は映画のスケールの大きさを見事に表現しています。
 この映画は新3部作の制作にあわせて、97年に特別編として「新たなる希望」というサブタイトルをつけて、4作目として位置づけられました。特別編はジャバ・ザ・ハットのシーンが追加され、他にも細かく追加シーンが挿入されました。個人的にはジャバのシーンはいらないかなと思いましたが、ルークがパイロットに憧れていることが説明されるシーンや友達との再開シーンは追加されてよかったかなと思います。
 『新たなる希望』はスターウォーズサガの出発点であり、旧3部作と新3部作をつなぐ重要な作品です。この作品はSFファンタジー映画を語る上で外せない作品であり、これからも多くの若い人に見て語り継いでもらいたい映画です。 

製作年度 1977年・特別編:97年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 オリジナル:121分・特別編:129分
監督 ジョージ・ルーカス 
脚本 ジョージ・ルーカス 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 マーク・ハミル 、ハリソン・フォード 、キャリー・フィッシャー 、アレック・ギネス 、ピーター・カッシング 

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『ドラえもん映画主題歌集』

お気に入りのCD.NO10『ドラえもん映画主題歌集』
Doraemonmovie  私は小さい時からドラえもんの映画が大好きで、毎年公開を楽しみにしていたものでした。特に初期から中期の頃の劇場版『ドラえもん』はシナリオや設定が素晴らしく、今見ても楽しめる作品が多いです。その頃の劇場版『ドラえもん』は主題歌もとても素晴らしく、今聞いても感動できる歌が多いです。特に武田鉄矢が手がけた主題歌は歌詞・曲とも美しく、胸に響くものがありました。
 今回紹介するCDは武田鉄矢が手がけた人気アニメ『ドラえもん』劇場版の主題歌を集めたものです。このCDは全曲名曲ぞろいで、聞いていると心が洗われていくような感じになります。
 何といっても武田鉄矢の歌詞がとても素晴しいです。彼の歌詞は人間賛歌に満ちており、聞いていると優しく温かい気持ちになります。『少年期』の歌詞は子どもの頃にはピンときませんでしたが、今聞くと切なさや懐かしさで胸がいっぱいになります。また『天までとどけ』を聞くと、落ち込んだ心を励ましてくれます。そして『雲がゆくのは』と『時の旅人』は聞いた後にしんみりとした気持ちで胸がいっぱいになります。
 ドラえもんの映画を知っている人も知らない人も、このCDはお奨めです。ぜひ聞いてみてください。 

1. さよならに さよなら(海援隊) 
2. 夢の人(武田鉄矢一座) 
3. 少年期(武田鉄矢) 
4. 天までとどけ(同) 
5. 雲がゆくのは(同) 
6. 時の旅人(同) 
7. 世界はグー・チョキ・パー(武田鉄矢一座) 

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『座頭市』この映画を見て!

第89回『座頭市』北野武特集6
Zatouiti  今回紹介する映画は北野武監督初の時代劇であり、第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を取った『座頭市』です。『座頭市』は勝新太郎の当たり役でかつて何本も映画化された日本を代表する時代劇です。その座頭市をビートたけしの恩人である浅草ロック座のオーナー・齋藤智恵子さんが、たけし主演で映画化したいと希望し、企画を持ち込んだそうです。北野監督は勝新とはまったく違う座頭市になっても構わないという了承を得て主演・脚本・監督を引き受けたそうです。
 ストーリー:「ある宿場町に現れた、金髪頭に朱塗りの杖を持った盲目の按摩・座頭の市。そこで知り合った野菜売りのおうめから、町民を苦しめるヤクザ・銀蔵一家の悪行の数々を聞かされる。銀蔵一家には凄腕の人斬り・服部源之助が用心棒としてついており恐れられていた。その頃、美しい旅芸人の姉妹が過去に殺された両親の復讐のために宿場町に現れる。座頭市はふとしたことから旅芸人の姉妹の復讐に手を貸すことになる。」 
 この映画のストーリー自体は特に目新しいものはなく、時代劇でよく見られる勧善懲悪モノのストーリーです。悪党に苦しめられる農民や両親の敵討ちを目指す旅芸人、病気の妻を抱えた浪人と出てくる人物やストーリーの展開は時代劇では古典的なものです。北野監督はそんな古典的なストーリーに独自のアレンジをいくつも加えて、ユニークかつ多くの人が楽しめるエンターテイメント作品に仕上げてくれました。
 この映画の大きな見所は北野武扮する座頭市の殺陣シーンとラストのタップシーンの二つです。
 まず殺陣シーンですが、とにかく目にも止まらぬ速さで次々と人が斬られていきます。その圧倒的なスピード感は今までの時代劇の殺陣シーンにはないものがあります。また座頭市が圧倒的に強く、あっけなく敵がバタバタ倒れていく姿は見ていて爽快なものがありました。ただ残念な点もあり、切った後の血しぶきや剣自体をCGで表現しているところがあり、見ていて違和感を感じました。
 次に北野監督が時代劇を撮るときに是非入れたかったと言うお祭りのシーン。賛否両論ありましたが、私は見ていて心地よく面白い表現であったと思います。(ただ少し長すぎましたが・・・)この映画は全体的にリズム感をとても大切にしており、農民が畑を耕すシーンや家を建てるシーン、雨が降るシーンなども音楽と効果音を合わせるなどユニークな表現をしていました。タップダンスはその集大成だと思います。
 この映画は時代劇としてのリアリティといったものはあまり気にせず、北野監督のイメージが優先された作りになっています。登場人物は現代語でしゃべりますし、座頭市は金髪ですし、農民の衣装はカラフルですし、ラストはタップダンスですしね。私は時代劇らしくない感覚で時代劇を語ろうとした北野監督の試みをとても気に入ってます。
 ただこの映画で残念だったのは、すこし中盤が長く感じてしまったのと、ガナルカナル・タカのギャグシーンがしつこく感じてしまいました。出来ればもう少しコンパクトにして1時間30分くらいにしたら、もっとよい作品になったと思います。
 この映画はストーリーの面白さというより、座頭市のかっこよさと、リズム感のよさを楽しむ映画です。他の北野作品にはないエンターテイメント性溢れる作品なので、誰が見ても楽しめると思います。(ただし血が苦手な人はお奨めしませんが・・・)

製作年度 2003年
製作国・地域 日本
上映時間 115分
監督 北野武 
原作 子母沢寛 
脚本 北野武 
音楽 鈴木慶一 
出演 ビートたけし 、浅野忠信 、夏川結衣 、大楠道代 、橘大五郎、 岸部一徳、 石倉三郎、柄本明、ガナルカナル・タカ、橘大五郎、大家由祐子

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『ラブ&ポップ』この映画を見て!

第88回『ラブ&ポップ』
Lovepop  今回紹介する映画は『新世紀エヴァンゲリオン』の監督で有名な庵野秀明が初めて手がけた実写映画『ラブ&ポップ』です。この作品は村上龍原作の「ラブ&ポップ トパーズ2」を基にしており、90年代後半社会問題になった女子高校生の援助交際をテーマにしています。庵野監督はこの作品を撮るにあたって、全編デジタルカメラで撮影するという手法を取り話題になりました。
 私がこの作品を始めてみたのは7年前ですが、映画の中身はさておき、デジタルビデオで撮影された映像の持つ独特の軽やかさがとても印象に残りました。庵野監督はデジタルビデオの機動性のよさを駆使して、様々なアングルから撮影をしています。その映像を細かいカット割りでつないで見せる手法は独特な浮遊感やライブ観を観客に与えてくれます。
 ストーリー:「97年夏。高校生の裕美は仲間の知佐、奈緒、千恵子と一緒に水着を買いに渋谷へ出る。裕美はその際に店頭で見かけたトパーズの指輪がどうしても欲しくなる。所持金が足りないので、友達にも協力してもらい、中年オヤジと一緒にカラオケで歌ったり、オタクっぽい青年とレンタルビデオに行ったり、ときには危ない目にも遭いながら、援交で金をもらっていくが・・・。 」
 風俗産業や若者の文化はすぐに変わっていくので、今見るとストーリー自体は少し時代遅れのような感じを受けます。援助交際の問題は一時期マスメディアでも大きく取り上げられましたが、今はすっかり沈静化しました。その為、2006年現在見ると、そんな時代もあったんだなあという印象しかもてないかもしれません。
Lovepop2_1  またこの映画が女子高生の実態や心をどこまで捉えているかというと、おじさんから見た(想像した)女子高生といった感じしか見受けられません。
 私はこの映画を見て、女子高生の姿よりも、彼女たちに寄ってくる男たちの姿の法がとても印象に残りました。いけてない男たちの孤独やはけ口のない欲望に悲哀を感じてしまいました。女子高生を買って説教する親父、女子高生が噛んだフルーツを収集する男、自分を馬鹿にする社会を見返してやろうと高校生とデートする男、ぬいぐるみと話をする凶暴な男。この映画は援助交際をする女子高生よりも出てくる男たちの方が不健全ではないのかと思ってしまいました。
 この映画のラストは「あの素晴らしい愛をもう一度」が流れる中、女子高生4人が下水道を歩くシーンが延々と映し出されます。足が汚物にまみれながらも前に向かって進んでいく姿は、ある意味とても清清しく、都会の醜い欲望という汚物さえも肥やしにして逞しく生きていく女性の力強さとしたたかさを見ていて感じました。エンディングの歌が「あの素晴らしい愛をもう一度」というのも強烈な皮肉を感じてしまいました。純粋さを求める大人たちと、純粋さを否定し清濁併せ呑む若者たち。これは大人たちの若者への願望と、それを拒否する若者たちの姿を見事に捉えたエンディングだと私は思っています。
 この映画は主人公4人よりも脇役に出てくる役者が癖のある人たちぞろいで、見ごたえのある演技をしています。特に浅野忠信と手塚とおる、平田満の3人は強烈な印象を残します。ちなみに仲間由紀恵が主人公の友人という役で出演しており、水着姿を披露しています。
 エヴァンゲリオン完成後に制作されたということもあり、エヴァンゲリオンっぽいシーンや演出も数多く見られます。
 この映画は今見ると古臭く思われるかもしれませんが、その独特な映像表現は面白く、ストーリーも見方を変えるといろいろと考えさせられるところもあります。興味のある方はぜひ見てください。ちなみに庵野監督はこの後『式日』という実写映画をスタジオジブリで撮っており、そちらも独特な作品に仕上がっておりお奨めです。

製作年度 1998年
製作国・地域 日本
上映時間 110分
監督 庵野秀明 
製作総指揮 大月俊倫 
原作 村上龍 
脚本 薩川昭夫 
出演 三輪明日美 、希良梨 、工藤浩乃 、仲間由紀恵 、三石琴乃  、森本レオ、平田満、吹越満、モロ師岡、手塚とおる、渡辺いっけい、浅野忠信、河瀬直美

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『キッズリターン』この映画を見て!

第87回『キッズリターン』北野武特集5
Kids_return  今回紹介する映画は青春映画の傑作であり、北野武監督の代表作でもある『キッズリターン』です。この映画は北野武がバイク事故で生死の淵をさまよった後に制作された映画で、北野監督の今までの映画とは作風が少し違います。北野監督の作品というと死と暴力の匂いが立ち込めた映画が多く、主人公が死んでいく作品がほとんどです。しかし、この映画は主人公が最後まで生き残ります。それも、生きることに対して何とも積極的な終わり方であり、生きることに対する肯定観に満ちています。これは他の北野作品では見られないものであり、監督の事故による影響が大きく反映されています。
 ストーリー:「シンジとマサルは落ちこぼれの高校生。授業をサボり、いつもぶらぶらしていた。先生からは落ちこぼれと馬鹿にされ、カツアゲばかりしていた。そんなある日、マサルは以前カツアゲした高校生の友人のボクサーにぼこぼこにされる。それ以来マサルはケンカに強くなろうとシンジを誘ってボクシングジムに入る。マサルほど乗り気でなかったシンジだが、ジムで認められたのはシンジの方であった。マサルはショックを受け、ジムを飛び出して、ヤクザの世界へと足を踏み入れる。それぞれの世界でめきめきと頭角を現すシンジとマサル。しかし、彼らは大人社会の醜さと彼ら自身の未熟さを思い知ることになる・・・」
 私は始めてこの映画を見たとき、心がヒリヒリする感じを覚えました。落ちこぼれの2人が何とか這いあがろうとしながら、結局上手くいかない姿は見ていて、とても切ないものがありました。
 この映画が秀逸なところは普通の青春映画にはない主人公たちの挫折していく姿が描かれるところにあると思います。背伸びして大人の世界に足を踏み入れていこうとする2人の足を引っ張る大人の世界の醜さや厳しさ。この映画は社会の醜さや厳しさがリアルに描かれているので、主人公たちが転落していく姿がとても生々しく、胸に迫るものがあります。特にシンジの足を引っ張るモロ師岡演じる林という中年ボクサーの姿は挫折した人間の悲哀と愚かさが見事に表現されていました。
 この映画は主人公2人の話とは別にサイドストーリーで漫才師を目指す2人組みの高校生や喫茶店の娘に恋する高校生の話も描かれています。漫才師を目指す2人組みは最初は馬鹿にされるものの、こつこつ努力して成功するという結末は主人公2人の結末と相反しており、とても印象に残りました。この漫才師のストーリーは北野監督の自伝的な要素も含まれているのでしょう。
 喫茶店の娘に恋する高校生はまじめに努力して結婚までするものの、結局うまくいかないという結末で、一番見ていて、切なくやるせない気持ちになりました。
 自分の人生を切り開こうとしながら、社会の壁や己の未熟さから挫折していく人たちの姿が描かれており、切なさと哀しみに満ちた作品ではありますが、映画のラストはとても清清しく希望に満ち溢れています。挫折した2人が自転車に乗りながら会話するラストシーン。「もう俺たち終わりかな・・・」というシンジの言葉に、マサルが最後に言う言葉はとても力強く、生きることへのポジティブさに満ち溢れています。私はこのラストのマサルの言葉を聞きたいがために何回もこの映画を見直すほどです。(どんな言葉かは是非実際に映画を見て確認してください。)
 
 もちろん、この映画は北野作品としての魅力にも満ち溢れています。キタノブルーといわれる北野監督ならではの青みがかった映像はとても印象的ですし、久石譲の手がける音楽もいつもながら素晴らしい仕上がりになっています。特に今回の音楽は若者の持つエネルギーや生きることの切なさや悲しみ、そして生きることへのポジティブさに満ち溢れており、映像とマッチした音楽となっています。個人的には北野作品の中でこの映画の音楽が一番好きです。
 さらに北野監督の演出も冴え渡っており、若い時に誰しもが感じる焦りや不安、孤独、愚かさを見事に映像で表現しています。特にオープニングとエンディングの校庭でぐるぐる回る自転車のショットは、主人公2人の複雑な感情を見事に表現していたと思います。
 この映画はある意味とても冷徹で残酷な青春映画です。しかし、それでいてとても温かみがあり、北野作品の中でも一番誰しもが共感しやすく、感動できる作品だと思います。私としてはぜひ多くの人にこの映画を見てもらい、最後のセリフを聞いて欲しいです。

製作年度 1996年
製作国・地域 日本
上映時間 108分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 金子賢 、安藤政信 、森本レオ 、山谷初男 、柏谷享助  、モロ師岡、寺島進、石橋凌、丘みつ子

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『ゲド戦記』映画鑑賞日記

Gedo_1  宮崎駿の息子が監督を務めたことや豪華な声優陣で話題のスタジオジブリの最新作『ゲド戦記』がついに今週公開となりました。『ゲド戦記』は『指輪物語』『ナルニア国物語』と並んで世界三大ファンタジー小説の一つといわれている作品であり、世界中に熱狂的なファンのいる作品です。私も原作は4巻まで読んだのですが、緻密に設定された世界観、登場人物たちの細やかな心理描写、作者の思想性が反映された味わいのある文章に大とてもはまりました。その作品をスタジオジブリが手がけるということで、制作が発表された時は私は大変注目したものでした。ただ監督が今までアニメ映画を手がけたことがない宮崎駿の息子である宮崎吾郎が手がけるということにかなり不安も覚えたものでした。予告編を見ると原作の3巻『さいはての島』をベースにしながらも、1巻や4巻の話しも混ざっているようで、どんなストーリーになるのかも心配になったものでした。ただスタジオジブリが手がけているし、主題歌もよかったので、原作と違ってもそれなりに面白い作品になると思っていました。
 そして、実際に劇場に足を運び、映画を見てきたのですが、あまりの出来の悪さに失望してしまいました。映画を見る前にネットでの評価を見るとかなり否定的な感想が多いので心配はしていたのですが、まさにその通りでした。映像・ストーリー・音楽・声優どれも全く駄目で、唯一予告編で流れているテーマソングだけが良い作品でした。
 映像はスタジオジブリが手がけたとは思えないほど作画が雑であり、構図や見せ方も下手くそで、淡々とした描写ばかりで、見ていて全くわくわくしません。またラストのクモの描写はただ気持ちが悪いだけで、見ていて不快でした。映像面では宮崎駿が描いた絵物語『シュナの旅』をかなり参考にしているのですが、なぜ『ゲド戦記』の映画なのに、関係ない作品を参考にしたのか疑問です。ただ単に監督の中で『ゲド戦記』の世界がイメージできなかっただけのような気がして、手抜きな感じがします。『シュナの旅』自体はいいさくひんなのに、こんな中途半端な形で利用されたのが残念です。
 ストーリーは原作とは全く違っています。壮大で奥行きのある原作の話しを、こじんまりとした薄っぺらい話しに改悪しています。生と死や人間の二面性など、現代人にとって考えさせられるテーマを扱ってはいるのですが、そのテーマの描き方が非常に幼稚です。露骨にテーマやメッセージを登場人物たちにセリフで言わせるのですが、ストーリーの展開が幼稚なので、そのようなセリフが上滑りして心に響いてきませんでした。
 また原作を読んだことのない人には舞台となるアースシーという世界がどのような世界なのか、なぜ主人公たちが2つの名前をもっているのかとか、テナーとハイタカの関係、テルーはなぜ○○○だったのか全くわからないと思います。説明すべきところを説明せず、話しが進んでいくので、多くの人が映画に入り込めないと思います。また主人公であるアレンの心理描写がとても中途半端であり、まったく感情移入ができません。彼がなぜ王である父を殺したのか、映画をみてもよく分かりませんでした。また悪役もジブリの作品では普通どこか共感出るところがあったり、魅力があったりするのですが、この映画の悪役は本当に嫌な奴という感じしかしませんでした。
 声優もなぜここまで有名な俳優を起用したのか分かりませんでした。主人公たちみんな単調な口調でしゃべっているので、見ていて眠くなってきました。一番良かったのはクモを演じた田中裕子でした。逆に一番駄目だったのは岡田准一 と手嶌葵の主役2人でした。ゲドを演じた菅原文太は悪くないのですが、原作のゲドとイメージが違うので私はいまひとつでした。あと予告編では大々的に取り上げられていた役者たちが映画の中ではほんの少ししかセリフがなく、なぜこんな役に大物俳優を起用したのか疑問に思いました。最近のアニメ映画では声優でない人が声をあてることが多いですが、いまいちな場合が多いです。アニメを見るときに声をあのタレントがしているから見に行こうって、そんなにみんな思わないような気がします。それよりも役にぴったり合う声優さんに演じて欲しいものです。
 音楽も主題歌は別として印象に残る曲が一つもありませんでしたし、音楽の入れ方がメリハリがなく、ずっと流れていて凡庸な感じを受けました。また『テルーの唄』もせっかく良い歌なのに、あそこまで淡々とした映像の中でただ延々と流れていると今ひとつでした。挿入歌の使い方が下手くそな感じを受けました。 
 今回の映画化は原作者であるル=グウィン自ら宮崎駿に監督して欲しいと言ってオファーしてきたそうですが、きっとこの映画を見たら原作者もがっかりすることでしょう。この映画はベネチア映画祭にも出品するそうですが、こんな作品を出品していいのかと思ってしまいます。この映画は原作を読んでいる人にはそのあまりの出来の悪い改ざんに腹が立つと思いますし、原作を知らない人にはどんな話しなのか全く分からないと思います。監督やプロデューサーが考えるメッセージやテーマを伝えるために原作の中身をここまで変えるのだったら、全くオリジナルのシナリオですればよかったと思います。おそらく監督やプロデューサーはこの映画にそんなに愛着がなかったのだと思います。私の大好きな『ロード・オブ・ザ・リング』も原作をかなり改変していましたが、原作への愛着と敬意が感じられました。しかし、『ゲド戦記』にはそれが感じられません。
 はっきり言って、この作品は原作とは全く別物です。だから原作を知らない人はこの映画をみて、原作もこんなものかと判断しないでください。原作はもっと面白く、もっと奥が深く、もっと味わいがあります。
 この映画はテレビや雑誌などのメディアでは大変持ち上げられていますが、作品の質はかなり悪いです。ただファンタジー映画ブームに乗っかって、話題性だけで宮崎駿の息子に監督させただけの安直な作品にしか思いません。このような作品をスタジオジブリが作ってしまったことに正直ショックを受けました。なぜ素人の監督にこのような大作をまかせたのか、プロデューサーの見識を疑います。
 この映画を見るなら原作をかって読んだほうがいいと思いますし、別に無理に映画館で見る必要はないと思います。

製作年度 2006年
製作国・地域 日本
上映時間 115分
監督 宮崎吾朗 
原作 アーシュラ・K・ル=グウィン 
脚本 宮崎吾朗 、丹羽圭子 
音楽 寺嶋民哉 
出演 菅原文太 岡田准一 、手嶌葵 、田中裕子 、小林薫 、夏川結衣 

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