『漂流教室』街を捨て書を読もう!
『漂流教室』 著:楳図かずお 小学館文庫 今回紹介する本は日本のホラー漫画界を代表する楳図かずおの傑作SFホラー『漂流教室』です。私がこの作品を知ったのは原作よりも映画が先でした。87年に大林宣彦監督が手がけた映画版『漂流教室』を見たのは小学生の時でしたが、私は学校が突然現代から消えてしまうという設定に恐怖を覚えて、小学校に行くのが不安になったほどトラウマになった映画でした。
それから10年後の大学生になった時、古本屋で『漂流教室』の原作マンガを発見し、小学生の時に映画を見て怖がっていた自分を思い出し、原作はどんな感じなのだろうと気になり全巻買って読むことにしました。家に帰って読み始めたところ、あまりの怖さと面白さに読むのを止める事が出来ず、一気に全巻を読み通してしまいました。
小学生だけが異世界で生き残るという設定の面白さ、先の全く読めない緊迫したストーリー、目を覆いたくなるほどのハードな描写、そして環境破壊と人間の生の力強さを扱ったテーマとあらゆる面において読み応えのある作品でした。
この作品の秀逸なところは、突然、荒廃した世界に取り残された小学生たちがどうやって生き延びていくかをリアルに描いたところにあります。この作品では小学生が病気や自殺、仲間同士の殺し合い、そして謎の生物の襲来によって次々とあっけなく死んでいきます。その死の描写はとても生々しく、目をそむけたくなるようなものばかりなです。しかしあえて死というものを真正面から取り上げることで、逆に生きることの価値や尊さというものが浮かび上がってきます。死と隣り合わせの生という緊迫感がこの作品には見られます。
またこの作品では先生たちは狂ってすぐに死んでしまったり、生き残った大人が子どもを虐待したりと大人たちの弱さが浮き彫りになる場面がとても印象的でした。さらに小学生同士もすぐに助け合おうとせず、仲間割れをしたり、自己中心的な行動を取ったりします。この作品は子どもたちを美化せず、子どもがもつ残酷さや醜さもきちんと描写することで作品に現実感を与えています。
ラストはアンハッピーエンドともハッピーエンドとも取れる終わり方です。私はこのラストの希望と生命の力強さを感じたのですが、皆さまはどう思われるでしょうか?
『漂流教室』は先ほども述べたように映画化もされ、常盤貴子と窪塚洋介主演でテレビドラマにもなっています。しかし、映像化された『漂流教室』はどれも描写が甘く、原作が持つ緊張感や重さが感じられません。最近、大林監督の映画化した『漂流教室』をビデオで見たのですが、当時はあんなに怖かったのに、今見るとショボイ作品でした。確かにあのマンガを映像化するのはとても難しいと思います。まともに原作通りに映像化したら18禁の作品になってしまうでしょう。しかし、一度原作の雰囲気や描写に沿った映像化を見てみたいと私は思います。誰か作ってくれませんかねえ。個人的に『スターシップ・トゥルーパーズ』のポール・バーホーベン監督か『妖怪大戦争』の三池崇史監督あたりに手がけてほしいです。
この作品は残酷な描写も多く、誰でも気軽に読めるマンガではありません。しかし、この作品ほど読み応えがあり、読み終わった後のインパクトの強い作品はないと思います。一見すると、陰惨で重々しい作品に思えるかもしれませんが、実は愛と人間賛歌に満ちた作品です。この作品は絶望の中で自ら希望を見出していく子どもたちの姿を描いた名作です。ぜひ読んでみてください!
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