『宇宙戦争』映画鑑賞日記
今回紹介する映画は昨年の夏に公開されたスピルバーグ監督の異性人侵略SF映画『宇宙戦争』です。この映画は『透明人間』などの原作を手がけたH・G・ウェルズが1898年に発表した小説を基にしています。1950年代に一度映画化もされており、SFファンの間では古典的な名作です。その原作をスピルバーグがCGを駆使してリメイクするということで、私はとても期待したものでした。「スピルバーグ映画で最高の制作費!」や「原作と違うラスト!」、「日本も少しだけ登場する」などのマスコミの情報に、どのような映画になるのか興味津々でした。
異性人侵略モノというと96年に公開された『インデペンデンス・デイ』という映画がありました。この映画はアメリカの都市が異性人によって木っ端微塵に破壊される映像と人間が異星人に立ち向かう姿がスケール大きく描かれた作品でした。映画の質は大味でアメリカ万歳のストーリー展開が今ひとつですが、映像の迫力はなかなかのものでした。
異性人侵略モノという古典的なジャンルのSF映画をスピルバーグが一体どのようなアプローチをするのか、公開まであれこれ想像したものでした。徹底した秘密主義から映画のストーリーに関する情報は公開までほとんど流れてこず、それが映画へに期待を大きく膨らませました。
そして映画公開初日。期待に胸を膨らませて映画館に行ったのですが、見終わった後はがっかりしたものでした。映画の前半はかなり面白く、これは傑作かもと思っていたのですが、後半からどんどん失速し、ラストはあまりのあっけなさとご都合主義な展開にかなり失望してしまいました。
ストーリー:「湾岸労働者のレイは妻と離婚し、子どものレイチェルとロビーの3人で暮らしている。レイと子供たちの関係はあまり上手くいっていなかった。そんなある日、奇妙な稲妻が数十回も同じ場所に落ちる。レイは落雷した場所を見にいくが、その地中から巨大なマシーン・トライポッドが出現し、レーザー光線で人々を皆殺しにする。なんとか生き延びたレイは、盗んだ車にレイチェルとロビーを乗せて町を出るが・・・。」
ストーリーは宇宙戦争というタイトルの割りにスケールは小さく、異性人の侵略に逃げ惑う一家族に焦点をあてています。突然、地中から現れたトライポッドの襲撃にパニックに陥る人々の姿はとてもリアルで怖いです。特に人が灰にあるシーンと川に死体が流れてくるシーンはインパクトが強烈でした。また車をめぐって人々が争うシーンも生々しくてよかったです。映画の前半の異星人の無差別殺戮や人々の慌てふためく姿は9.11テロをイメージして撮影したそうです。突然の攻撃に慌てふためく人々の姿には911テロがアメリカにとって如何に深刻な影響を与えたのかがよく分かります。映画の前半はスピルバーグ監督の演出の上手さがとても光っており、画面に釘付けになります。
しかし、映画の中盤に農家の地下室に逃げ込んだあたりから一気に退屈な映画になっていきます。農家の地下に立てこもっていた男にレイと娘が助けられるのですが、ここからストーリーのテンポが悪くなっていきます。地下で主人公のレイが娘を守るためにある行動をとるのですが、自分勝手にしか見えず共感しずらいですし、宇宙人と遭遇するシーンも宇宙人の造形があまりにもしょぼくてがっかりさせられます。また映画のラストも原作通りであり、あまりにも突然の幕切れにがっかりさせられます。伏線も何もなく、突然あのように終わるのはどうかなと思いますし、あの終わり方にするなら、もっと終盤の展開を変えるべきだったと思います。
最近のスピルバーグの映画はラストがぐだぐだなような気がします。演出は上手くなっていると思うのですが、それに反して映画の完成度は下がってきているような気がして残念です。最近のスピルバーグは父と子の関係を描いた作品が多いのですが、そのテーマにこだわりすぎているような気がします。
この映画は映像と音響に関していえば完璧です。それだけにストーリーがしっかりしていれば、すごい作品になる可能性があったと思うので、後半の失速が非常に残念です。映画の前半の絶望的な展開でラストまで突き進んでいけば、この映画は映画史に名を残すSF映画になったと思います。
製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 114分
監督 スティーヴン・スピルバーグ
製作総指揮 ポーラ・ワグナー
原作 H・G・ウェルズ
脚本 デヴィッド・コープ 、ジョシュ・フリードマン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 トム・クルーズ 、ダコタ・ファニング 、ティム・ロビンス 、ジャスティン・チャットウィン 、ミランダ・オットー
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