« 2006年6月 | トップページ | 2006年8月 »

2006年7月

『風の谷のナウシカ』この映画を見て!

第86回『風の谷のナウシカ』
Nausika_2  今回紹介する映画は多くの人が金曜ロードショーで一度は見たことがあるだろう『風の谷のナウシカ』です。この映画はもう20年に以上前の作品にも関わらず、今見ても全然古さを感じさせない力のある作品です。私もこの映画はテレビやDVDを通して何十回と見てきましたが、見始めると最後まで必ず見てしまいます。
 ストーリーは皆さん知っているとは思いますが、「火の七日間」と呼ばれる最終戦争により高度産業文明が滅び千年余りが経過した未来を舞台に、腐海”と呼ばれる毒の森に生きる人々の姿を描いています。
 この映画は原作の漫画があり、映画と同じく宮崎駿が手がけているのですが、映画と原作は話しがだいぶ違います。映画は7巻まである原作の2巻までをコンパクトにまとめたものであり、物語の展開がかなり違います。原作は映画よりもさらに壮大なスケールで話しが進んでいき、映画とは全く違う結末を迎えます。原作を読むと映画版のストーリーは物足りなさを覚えてしまうかもしれません。
 映画版ナウシカはストーリーという点では原作に劣りますが、原作にはない魅力があります。それは映像と音楽です。ナウシカを最初に見たときは、ナウシカがメーベェに乗って空を飛び回るシーンに圧倒的な解放感を覚え、王蟲が動き回る姿に圧倒されたものでした。さらにガンシップやトルメキアの船などのメカの造形も素晴らしく、中盤から後半にかけての空中での戦闘シーンは手に汗にぎるものがありました。ラストに出てくる巨神兵のドロドロの姿も強烈なインパクトを与えてくれました。原作漫画の絵に色がつき、キャラクターたちが動き回る姿が見られるのはアニメならではの魅力です。
 また久石譲が手がける音楽も大変美しく、シンセとオーケストラを使って、ナウシカの世界観を見事に表していました。特にラストの少女の声で奏でられるレクイエムのシーンは自然と涙が出てきたものでした。
 あと声優も最近のジブリ映画のように話題先行で有名人を起用することなく、プロの声優たちを起用しており、キャラクターにあった声があてられています。特にナウシカを演じた島本須美はナウシカのイメージにぴったりあてはまっており、彼女の声なくしてナウシカはここまで人気が出たかなとさえ思います。
 ストーリーは原作に比べるととても単純なものですが、単純が故にストレートに感動できる作品に仕上がっています。最近の宮崎駿の映画はストーリーがいまいちなものが多いのですが、この映画のストーリーはラストまで一気に見せてくれる力強さと勢いがあります。
 ナウシカがなぜここまで人気があるのか、私はその一番大きな理由は完全無欠なヒロインとしてナウシカの魅力が一番大きいと思います。純粋で、優しく、力強いナウシカという女性。その姿はあまりにも現実離れをしていますが、それゆえにみんなが憧れるのだと思います。

製作年度 1984年
製作国・地域 日本
上映時間 116分
監督 宮崎駿 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 島本須美 、辻村真人 、京田尚子 、納谷悟朗 、永井一郎 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『死霊のはらわた』この映画を見て!

第85回『死霊のはらわた』
Evildead  今回紹介する映画は80年代を代表するスプラッター映画『死霊のはらわた』です。この映画は『スパイダーマン』シリーズを大ヒットさせたサム・ライミー監督のデビュー作です。低予算で作られた作品ながら、過激なスプラッター描写とサム・ライミー監督の演出の巧みさから今見ても十分楽しめる作品となっています。
 ストーリー:「アッシュ(ち5人の若者は、休日を郊外で過ごそうと、山奥にある貸別荘へとやってくる。そこで、彼らはテープ・レコーダーを発見し、テープを再生する。そのテープには死霊を解き放つ呪文が録音されていた。次々と死霊にとりつかれていくアッシュの仲間。倒すには怪物となった友達の体をバラバラにするしかないないのだが・・・。」
 この映画の見所はずばり過激なスプラッター描写です。死霊にとりつかれた友人たちの豹変した白目の醜い顔、ばらばらに切り刻まれる身体、つぶされる目玉、そしてラストの崩壊する死霊たち。低予算でありながら、ここまで気持ち悪く、それでいて迫力のあるを映像を作り上げたことに驚きます。(もちろん安っぽさはありますがね・・・)ラストはクレーアニメを利用して撮影されたそうですが、その気持ち悪さは最高です!
 またサム・ライミのパワフルなシナリオや演出も見る者を画面に釘付けにします。カメラワークは大胆で面白く、特に死霊の視点で捉えた映像は独特な緊張感と恐怖を観客に与えてくれます。また木が人間を襲うシーンも、独特な恐怖とエロティシズムに満ちています。シナリオも巧みで、死霊になった友達を倒そうと思ったら突然人間に戻ったりと、主人公が死霊に翻弄されるシーンは見応えがあります。そしてラスト。助かったと思った主人公に猛烈なスピードで襲い掛かる死霊のシーンは強烈なインパクトを残す結末でした。
 この映画は続編がさらに2本制作されていますが、だんだんコメディーホラー路線となっていき、1作目にあった恐怖や緊張感は薄れていきました。サム・ライミは今ではすっかりハリウッドのヒットメーカーとなってしまいしたが、私は彼の代表作は『スパイダーマン』ではなく、『死霊のはらわた』だと今でも思っています。ぜひまたパワフルなスプラッター映画を彼には撮ってもらいたいです。
 暑い夏、ぜひこの傑作スプラッター映画を見て、涼んでください。

製作年度 1983年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 86分
監督 サム・ライミ 
製作総指揮 ブルース・キャンベル 、ロバート・G・タパート 、サム・ライミ 
脚本 サム・ライミ 
音楽 ジョー・ロ・ドゥカ 
出演 ブルース・キャンベル 、エレン・サンドワイズ 、ベッツィ・ベイカー 、ハル・デルリッチ 、サラ・ヨーク 

| | コメント (2) | トラックバック (3)

『ドーン・オブ・ザ・デッド』この映画を見て!

第84回『ドーン・オブ・ザ・デッド』
Dawn_of_the_dead  今回紹介する映画はカルト的人気のあるジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』をリメイクした『ドーン・オブ・ザ・デッド』です。ロメロの『ゾンビ』は私の大好きな映画でもう何十回と見ていますが、何回見ても飽きることなく見られるゾンビ映画史に残る大傑作です。『ゾンビ』は突然蘇った死者によって埋め尽くされた世界の中で、無人のジョッピングセンターに立てこもった3人の人間の姿を描いた作品ですが、トム・サービニによる生々しい残酷描写とロメロ監督の人間に対するシニカルな視点、そしてショッピングセンターに立てこもるという設定がとても魅力的な作品でした。3年前に『ゾンビ』をリメイクすると聞いたとき、私はあの名作をいまさらどうリメイクするのか興味と不安を感じたものでした。映画が公開されるとすぐに劇場に見に行ったのですが、見終わった後の印象としては予想以上に面白い作品に仕上がっていると思いました。確かにロメロの『ゾンビ』に比べるとイマイチなのは仕方ないとしても、最近公開されたゾンビ映画の中ではダントツの面白さでした。
  リメイク版はショッピングセンターに立てこもるという設定を除いて、ストーリーは全く違うものに改変されています。ロメロ版は状況説明や人間関係に重点を置きゆっくりと話しが進行していくのですが、リメイク版は人間関係はあっさりと描き、テンポ良く話しが進んでいきます。またロメロ版にあった文明批判や人間に対するシニカルな視点はほとんどなく、痛快なサバイバルアクションとして一気に最後まで見させてくれます。
 ゾンビ映画ファンの間では走って襲ってくるゾンビという設定に賛否両論がありましたが、私としては走って襲ってくるのもアリかなと思いました。この映画では走ってくるゾンビという設定がロメロ版にはない緊張感を出していたと思います。ただあんな足の速いゾンビだと、かつてのゾンビにあった何とか逃げられるのではないかという余裕が人間にもてないですよね。
 私がリメイク版で特に気に入ったのは、オープニングの10分間とラストの装甲バスによる脱出シーンです。オープニングは主人公の看護師アナが突然ゾンビに襲われ街から脱出するまでを描いているのですが、突然ゾンビによって街が混乱に陥った状況がリアルに表現されていたと思います。またラストの装甲バスによる脱出シーンは圧倒的なゾンビの数による終末観と絶望感が伝わってきました。またラストのバッドエンディングもゾンビ映画ならではの結末といった感じで良かったです。
 この映画で残念だったのは残酷描写と中盤のストーリです。ゾンビ映画にも関わらず、カニバリズムのシーンがほとんどないのはもう一つでした。(その分、誰でも見られる作品になっていますが・・・)また中盤に出てくる登場人物が多く、主人公たちに感情移入ができないところがありました。もう少し登場人物を減らして、何人かに焦点を絞ったほうが、後半もっと盛りあがったと思います。あと、ラストの犬を助けに女性がガンショップに行く展開は強引というか無理を感じてしまいました。
 この映画はロメロの『ゾンビ』と別物だと思ってみれば、かなり楽しめる作品です。人間ドラマはいまいちですが、サバイバルアクションホラーとして見れば、手に汗握る2時間をすごすことができますよ。

製作年度 2004年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 98分
監督 ザック・スナイダー 
製作総指揮 アーミアン・バーンスタイン 、トーマス・A・ブリス 、デニス・E・ジョーンズ 
脚本 ジェームズ・ガン 
音楽 タイラー・ベイツ 
出演 サラ・ポーリー 、ヴィング・レイムス 、ジェイク・ウェバー 、メキー・ファイファー 、タイ・バーレル

| | コメント (6) | トラックバック (7)

『天空の城ラピュタ』この映画を見て!

第83回『天空の城ラピュタ』
Lapyuta  昨日テレビで放映されていた『ハウルの動く城』を久しぶりに見たのですが、宮崎駿監督だけあってそれなりに面白い作品に仕上がっていることを改めて確認しました。しかし、ここ最近の宮崎映画は以前に絵の美しさは別として、完成度や面白さは低くなっているような気がします。宮崎駿は『ハウルの動く城』の他にタイトルに城が付いている作品を2作品手がけています。1つ目は『ルパン三世 カリトオストロの城』、2つ目は『天空の城ラピュタ』です。この2作品とも完成度、面白さとも『ハウルの動く城』をはるかに超えています。
 特に私は『天空の城ラピュタ』が大好きで、3ヶ月に一度はDVDで見直しています。ラピュタは私にとって心の栄養ドリンクみたいなものであり、何度見ても最後まで画面に釘付けになってしまう映画です。冒険活劇映画はハリウッドでもたくさん制作されていますが、この映画はほど面白く、感動できる作品は他にないと思います。
 この映画はキャラクター・ストーリー・映像・音楽・演出と全てにおいて完璧であり、宮崎駿を始めとするスタッフたちの情熱とこだわりが随所に感じられます。
 宮崎映画は毎回魅力的なキャラクターが数多く登場します。特にこの映画は主人公のパズー・シータを始め、脇役のドーラ・ムスカ・ポムじいさんと出てくるキャラクター全てが魅力的です。特に脇役のドーラはいい味を出しています。ドーラは海賊の船長としての顔、母親としての顔、女としての顔など様々な顔を持っており、かっこよくもあり、優しくもあり、奥行きのあるキャラクターです。悪役のムスカも本当に冷酷で憎憎しく、冒険活劇としての物語を盛り上げてくれます。また声優も最近のジブリ映画のように話題先行でなく実力ある声優や俳優が起用されているので、キャラクターにとてもはまっているところも良いです。
 ストーリーもテンポがよくメリハリがあり、2時間近い上映時間全く飽きさせません。まず天空に浮かぶ城を目指すという設定がロマンに溢れいて素敵です。この設定自体が多くの人を虜にします。
 また少年と少女の交流や成長も情感たっぷりにしっかり描かれているので、アクションシーンもとても盛り上がりますし、見ている側も主人公たちに感情移入して、映画のストーリーに入っていくことができます。特に前半のクライマックスの要塞からの脱出シーンは、最高に盛り上がります。あのシーンを見るために何回も見てしまうほどです。ドラマがしっかりしていると、アクションも盛り上がるという良い見本だと思います。(一昨年ラピュタによく似た『スチームボーイ』という映画が制作されましたが、人間ドラマがぐだぐだで全く面白くありませんでした。)
 天空の城に着いてからは単なる冒険活劇からトーンが変わり、物悲しい展開になってきます。特にお墓に花を供えるロボット兵と木に横たわるロボット兵の残骸のシーンは、文明の栄枯盛衰を感じさせ、印象的でした。
 切ないラストシーンもこの映画の素晴らしいところです。城がどんどん空高く上っていくシーンとそれを見つめるパズーとシータの姿は何回見ても胸にジーンときます。冒険の終わることの寂しさ、時代の移り変わり、ラピュタに対する2人の思い、様々な感情が込められたラストです。この切ないラストが単なる活劇映画にはない深い余韻を与えてくれます。
 もちろん宮崎駿の映画なので、この映画も自然と文明、人類と科学という大きなテーマがこめられているのですが、そのテーマが『もののけ姫』のように全面にでることなく、それでいてさりげなくしっかり描かれているところも好感がもてます。
 この映画の魅力を語るとき、久石譲さんの音楽は外せません。彼の音楽なくして、この映画はここまでの人気を得られなかったと思います。それくらい音楽が映画とマッチしており、アクションを盛り上げ、ドラマに奥行きを与えてくれます。特に主題歌、作詞は宮崎駿監督自ら手がけているのですが、ジブリの映画の中で一番素敵な主題歌であると思います。切ないラストシーンの後に流れてくる主題歌「君をのせて」は観客を清清しい気持ちにさせてくれます。
 またこの映画は絵としての完成度もとても高いです。アクションシーンの動きも活き活きしていますし、キャラクターの表情も丁寧に描けています。また背景の美術のレベルもとても高く、ラピュタの庭園のシーンの美しさは息を呑みます。この頃のジブリはまだ作品ごとにスタッフを集めて制作していました。その為、この映画の制作時も宮崎映画にぜひ参加したいという実力派アニメーターが結集したそうで、作画のレベルは日本アニメでも最高クラスです。
 この映画は私の中では宮崎作品の中で『風の谷のナウシカ』と並んで最高傑作だと思います。夢と冒険に溢れた世界、誰だって憧れる世界ですよね。私はこの映画を見た後は必ず空を見上げてしまいます。皆さんもこの映画を見た後は空を見上げてください。何ともいえない気持ちになりますから・・・。

製作年度 1986年
製作国・地域 日本
上映時間 124分
監督 宮崎駿 
原作 宮崎駿 
脚本 宮崎駿 
音楽 久石譲 
出演 田中真弓 、横沢啓子 、初井言榮 、寺田農 、常田富士男 

| | コメント (1) | トラックバック (3)

『エクソシスト2』映画鑑賞日記

Exosist2  今回紹介する作品はオカルトホラーの金字塔『エクソシスト』の続編『エクソシスト2』です。
 『エクソシスト』は悪魔に取り憑かれた少女の変貌と悪魔を払う神父たちの格闘がとても印象的な作品でした。1作目はウィリアム・フリードキン監督の人間ドラマに焦点をあてた演出が、単なるホラー映画にはない深い味わいを与えていました。もちろんショッキングなシーンも迫力満点で、特に悪魔に取り付かれた少女の顔は強烈なものがありました。1作目は評価も高く、世界中で大ヒットを巻き起こしました。
 1作目のヒットから4年後、『エクスカリバー』や『未来惑星ザルドス』など独特な作風で知られるジョン・ブアマン監督の手によって続編が制作されました。公開時はあまりヒットもせず、評価も芳しくありませんでした。
 私もつい最近この作品がテレビで放映されたのを見たのですが、1作目に比べると確かに面白くありませんでした。まずホラー映画でありながら怖くなく、ストーリーも抽象的で難解であり、演出もいまいちでした。
 ただ全くつまらないかというと、そうでもありません。非常に面白いテーマを扱っている作品です。エンニオ・モリコーネが手がけた音楽は1作目の「チューブラベルズ」と並んで、傑作であり、「リーガンのテーマ」は一度聞くと耳から離れません。またジョン・ブアマンの独特な映像表現も妙に印象に残るものがあります。
 ストーリー:「あの恐るべき事件から4年。メリン神父の悪魔祓いにより救われたリーガンはニューヨークで平凡な学生生活を送っていた。女優の母はアイスランドへ行っており、秘書シャロンがリーガンの世話をしていた。リーガンは精神科の医師タスキンの病院に通い、カウセンリングを受けていた。そんな彼女に再び異変が起こり始める。その頃、メリン神父の死の謎を調査していたタスキン博士もリーガンの下を訪ねる。リーガンの深層心理を覗いたタスキン博士は、彼女の中にまだ悪魔がいることを知る。さらにリーガンに取り憑いている悪魔とメリン神父が40年前にアフリカで対決していたことをしる。40年前に悪魔に取り憑かれた少年に出会うため、博士はアフリカに一人飛び立つが・・・。」
 ストーリーは1作目とリンクしており、1作目で殉職したメリン神父と悪魔との関係が明らかになっていきます。1作目に比べるとストーリーは観念的であり、1回見ただけでは分かりにくいところがあります。この映画のテーマは善良であればあるほどつけいってくる悪をいかに駆逐するかということを扱っています。その設定自体はとても興味深く、考えさせられるものがあるのですが、そのテーマをうまく伝えきれていないのが残念なところです。イナゴがこの映画ではひとつの象徴として扱われているんですが、いまいち分かりにくいです。(イナゴの映像自体はとてもインパクトがあるのですが・・・。)
 メリン神父がアフリカの土着信仰の中で悪魔祓いをしていたという設定も面白く、メリン神父を異端者として扱うバチカンの神父たちとメリン神父の信仰を信じて調査するラモント博士との対立も、「信仰とはなにか」、「神とはどういう存在か」を考えさせてくれます。
 2作目は単なる駄作言うにはとても勿体無く、もう少し伝え方や見せ方が上手ければ、1作目に続いてオカルトホラーの名作になったと思うので残念です。
  
製作年度 1977年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 118分
監督 ジョン・ブアマン 
脚本 ウィリアム・グッドハート 
音楽 エンニオ・モリコーネ 
出演 リチャード・バートン 、リンダ・ブレア 、ルイーズ・フレッチャー 、キティ・ウィン 、ネッド・ビーティ 

| | コメント (2) | トラックバック (2)

『劇場版 NEON GENESIS EVANGELION - Air / まごころを君に』この映画を見て!

第82回『劇場版 NEON GENESIS EVANGELION - Air / まごころを君に』
Evangelion_movie_1  今回紹介する映画は10年前に一大ブームを巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の劇場版作品であり、シリーズ完結編でもある『Air / まごころを君に』です。この作品は97年に公開されたのですが、制作が遅れて春に一部未完成のまま、テレビ版のダイジェストと合わせて『DEATH & REBIRTH シト新生』として公開され、夏に改めて『Air / まごころを君に』として公開されました。映画の内容はとても過激なもので、ファンの間でも賛否両論を巻き起こしました。
 『新世紀エヴァンゲリオン』は95年に新たなるロボットアニメとしてテレビ東京で放映されました。監督は『ふしぎの海のナディア』や『トップをねらえ』で人気を誇る庵野秀明が担当しました。次々と襲ってくる正体不明の存在「使徒」や人類補完計画など謎と伏線に満ちたスケールの大きなストーリー展開と、それに反して人間関係を上手く作れない主人公たちの内面描写に力をいれた演出、そしてテレビアニメとは思えないほどクオリティの高い作画など見所の多いアニメでした。テレビシリーズは26話で完結したのですが、ラスト2話はいきなり主人公・碇シンジの内面世界の描写だけで話しが進み完結したので、放映当時大変な反響を呼びました。
 私も当時大学生だったのですが、『新世紀エヴァンゲリオン』にはまり、ビデオで何回も見直したものでした。ユダヤ教の教義から生物学、心理学、哲学の領域まで踏み込んだストーリーの面白さ、設定の細かさ、庵野さんの静と動のコントラストが巧みな演出やGAINAXの作画や構図の緻密さに大変はまったものでした。私にとって、この作品の魅力は全ての謎が明確にされないところと、庵野監督の演出と作画の上手さにあると思っています。確かにテレビ版のラストは1回見ただけではよく分からない展開ですが、何回も見直すと、見せ方が今までと違うだけで納得できる展開であることが分かります。私はあのラストで庵野監督がこの作品で一番伝えたかったことを伝えたのだと思っています。この作品は一見スケールの大きな世界を描こうとしているようにみえますが、実はものすごくスケールの小さい、一人の人間が対人恐怖症を克服して社会と向き合うまでを描いた作品なのだと思います。
 映画版はテレビの25話・26話をリメイクした作品であり、シンジの内面世界の外で一体何がおこっていたのかを補完するための作品です。そういう意味では、テレビ版とストーリーの流れはリンクしています。そういう意味で監督が言いたいことはテレビ版とそんなに変わりはないのですが、その見せ方が大変過激です。
 私が初めて劇場で見たときは、あまりにも残酷な描写が多くびっくりしてしまいました。特にエヴァ2号機とエヴァ量産機との戦いのシーンは目を覆いたくなるほど過激なものでした。またストーリー自体も主要人物のほとんどが死んでいくか狂ってしまうという悲惨なもので、あまりにも救いようのない展開に度肝を抜かれてしまいました。映画のラストはテレビ版と基本的に同じなのですが、より辛辣な終わり方であり、後味は決してよいものではありませんでした。ただこの終わり方は主人公が現実で生きることを選択したという点で私はハッピーエンドだと思っています。
 この作品は今までテレビシリーズで積み上げてきたものを全て破壊していく作品であり、エヴァの世界にはまったファンを現実世界に強引に連れ戻そうとする作品です。そういう意味でこの作品はエヴァンゲリオンに対する庵野監督なりの総決算であり、後始末的な作品であると思います。
 またこの作品は庵野監督のとても私的な体験や心の葛藤をスケール大きく描いた作品だとも思います。脆弱な自分を抱えたまま、恐れている他人とどう付き合って生きていくかの葛藤と克服までを描くことがこの映画のテーマです。監督はこの作品の後に『ラブ&ポップ』、『式日』という実写映画を撮っているのですが、この2作品はエヴァンゲリオンのラストと密接に関連している作品なので、ぜひエヴァにはまった人は見てみて欲しいです。
 またこの映画は同じ年に公開された宮崎駿の『もののけ姫』と対をなす作品となっています。『もののけ姫』は人間と自然の対立を描いた作品でしたが、その根底には自分たちとは異質な他者とどう折り合いをつけるかというテーマがありました。そういう意味では『もののけ姫』とこの映画とテーマは限りなく近いところにあります。また『もののけ姫』は公開当時のキャッチコピーが「生きろ」でこの映画は「みんな死ねばいい・・・」と正反対のものでした。しかし、両者とも描いていることはまぎれもなく生きるとはどういうことかであり、この2つの映画は限りなく離れているようで近い映画となっています。残酷描写が多いのも両者に言えることですが・・・。
 この映画はアニメとはいえ小学生が見るとトラウマになりますし、テレビシリーズを見たことがない人が見ても全く楽しめません。ただテレビ版を見たことがある人で、映画版をもし見たことない人なら(そんな人いないかもしれませんが・・・)ぜひ見てみてください。
 

製作年度 1997年
製作国・地域 日本
上映時間 87分
監督 鶴巻和哉 、庵野秀明 
原作 GAINAX 
脚本 庵野秀明 
音楽 鷺巣詩郎 
出演 緒方恵美 、林原めぐみ 、宮村優子 、三石琴乃 、立木文彦 

| | コメント (0) | トラックバック (1)

『宇宙戦争』映画鑑賞日記

War_of_the_world  今回紹介する映画は昨年の夏に公開されたスピルバーグ監督の異性人侵略SF映画『宇宙戦争』です。この映画は『透明人間』などの原作を手がけたH・G・ウェルズが1898年に発表した小説を基にしています。1950年代に一度映画化もされており、SFファンの間では古典的な名作です。その原作をスピルバーグがCGを駆使してリメイクするということで、私はとても期待したものでした。「スピルバーグ映画で最高の制作費!」や「原作と違うラスト!」、「日本も少しだけ登場する」などのマスコミの情報に、どのような映画になるのか興味津々でした。
 異性人侵略モノというと96年に公開された『インデペンデンス・デイ』という映画がありました。この映画はアメリカの都市が異性人によって木っ端微塵に破壊される映像と人間が異星人に立ち向かう姿がスケール大きく描かれた作品でした。映画の質は大味でアメリカ万歳のストーリー展開が今ひとつですが、映像の迫力はなかなかのものでした。
 異性人侵略モノという古典的なジャンルのSF映画をスピルバーグが一体どのようなアプローチをするのか、公開まであれこれ想像したものでした。徹底した秘密主義から映画のストーリーに関する情報は公開までほとんど流れてこず、それが映画へに期待を大きく膨らませました。
 そして映画公開初日。期待に胸を膨らませて映画館に行ったのですが、見終わった後はがっかりしたものでした。映画の前半はかなり面白く、これは傑作かもと思っていたのですが、後半からどんどん失速し、ラストはあまりのあっけなさとご都合主義な展開にかなり失望してしまいました。
 ストーリー:「湾岸労働者のレイは妻と離婚し、子どものレイチェルとロビーの3人で暮らしている。レイと子供たちの関係はあまり上手くいっていなかった。そんなある日、奇妙な稲妻が数十回も同じ場所に落ちる。レイは落雷した場所を見にいくが、その地中から巨大なマシーン・トライポッドが出現し、レーザー光線で人々を皆殺しにする。なんとか生き延びたレイは、盗んだ車にレイチェルとロビーを乗せて町を出るが・・・。」
 ストーリーは宇宙戦争というタイトルの割りにスケールは小さく、異性人の侵略に逃げ惑う一家族に焦点をあてています。突然、地中から現れたトライポッドの襲撃にパニックに陥る人々の姿はとてもリアルで怖いです。特に人が灰にあるシーンと川に死体が流れてくるシーンはインパクトが強烈でした。また車をめぐって人々が争うシーンも生々しくてよかったです。映画の前半の異星人の無差別殺戮や人々の慌てふためく姿は9.11テロをイメージして撮影したそうです。突然の攻撃に慌てふためく人々の姿には911テロがアメリカにとって如何に深刻な影響を与えたのかがよく分かります。映画の前半はスピルバーグ監督の演出の上手さがとても光っており、画面に釘付けになります。
 しかし、映画の中盤に農家の地下室に逃げ込んだあたりから一気に退屈な映画になっていきます。農家の地下に立てこもっていた男にレイと娘が助けられるのですが、ここからストーリーのテンポが悪くなっていきます。地下で主人公のレイが娘を守るためにある行動をとるのですが、自分勝手にしか見えず共感しずらいですし、宇宙人と遭遇するシーンも宇宙人の造形があまりにもしょぼくてがっかりさせられます。また映画のラストも原作通りであり、あまりにも突然の幕切れにがっかりさせられます。伏線も何もなく、突然あのように終わるのはどうかなと思いますし、あの終わり方にするなら、もっと終盤の展開を変えるべきだったと思います。 
 最近のスピルバーグの映画はラストがぐだぐだなような気がします。演出は上手くなっていると思うのですが、それに反して映画の完成度は下がってきているような気がして残念です。最近のスピルバーグは父と子の関係を描いた作品が多いのですが、そのテーマにこだわりすぎているような気がします。
 この映画は映像と音響に関していえば完璧です。それだけにストーリーがしっかりしていれば、すごい作品になる可能性があったと思うので、後半の失速が非常に残念です。映画の前半の絶望的な展開でラストまで突き進んでいけば、この映画は映画史に名を残すSF映画になったと思います。
 

製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 114分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
製作総指揮 ポーラ・ワグナー 
原作 H・G・ウェルズ 
脚本 デヴィッド・コープ 、ジョシュ・フリードマン 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 トム・クルーズ 、ダコタ・ファニング 、ティム・ロビンス 、ジャスティン・チャットウィン 、ミランダ・オットー 

| | コメント (0) | トラックバック (3)

『スチームボーイ』映画鑑賞日記

Steamboy  今回紹介する映画は『AKIRA』の大友克洋が15年ぶりに発表した長編アニメ映画『スチームボーイ』です。制作期間9年、制作費24億円をかけた超大作アニメです。この映画は製作会社がなかなか決まらなかったり、シナリオがなかなか完成しなかったり、公開が延期されたりと、完成までに紆余曲折ありました。
 私は『AKIRA』が大好きだったので、大友監督がついに長編映画を制作するという話しを聞いたときはどんな作品になるのだろうとワクワクしたものでした。イギリスを舞台にスチームバンクな冒険活劇展開するというストーリーにも興味を惹かれ、映画の公開を待ちに待ったものです。しかし、待てど待てどなかなか完成せず、私も忘れかけていた頃についに公開となりました。
 公開初日に胸に期待を膨らませ映画館に行ったのですが、あまり観客も入っておらず、あの大友監督の作品なのに誰も興味がないのかなあと思いながら、映画が始まるのを待ったものでした。しかし、映画を見終わると、確かにこの内容だと観客が来ないのもしょうがないかあなと納得している自分がいました。何年も前から楽しみにしていたのに、まさかこんな微妙な作品だとは・・・。映像はさすが大友監督、制作にも時間をかけただけあって見ごたえ十分だったのですが、ストーリーがあまりにもひどすぎて、ぜんぜん映画の世界に入りこめませんでした。また声優の演技もひどく、音楽もいまいちですし、あれだけのお金と期間をかけて、まさかこんな面白くない作品になるとは思ってもいませんでした。
 ストーリー:「19世紀の英国。ある日、主人公レイの少年の元に祖父ロイドと父エディが発明した謎の球体・スチームボールが届く。その直後、アメリカのオハラ財団からやってきた怪しげな男たちがそのボールを奪おうとしたため、少年はその“スチームボール”を手に家を飛び出すのだが……。」
 この映画は制作期間が長くなりすぎて、シナリオ自体がかなり混迷していたようです。
途中から脚本家の村井さだゆきが参加して、大友監督のシナリオを整理してやっと今のシナリオになったそうです。
 この映画は派手なアクションシーンがたくさんあるにも関わらず、あまり盛り上がらない作品です。次々と出てくるメカやスチーム城が暴走するシーンなど、見せ場はたくさんあるのに、あまり盛り上がりません。ラストのロンドン破壊のシーンなど最大の見せ場に関わらず、ぐだぐだした印象しかもてません。
 この映画は人類の科学への向き合い方をテーマにしているようなのですが、そのテーマ自体が何度も取り扱われたテーマで古臭く、今さらといった感じです。またそのテーマに対して監督は明確なメッセージを主張しないので、出てくる登場人物たちの行動に共感も反発も感じることが出来ず、観客は傍観者の立場としてしか見ることが出来ません。監督はこの映画を王道の冒険活劇にしたくなかったようで、あえて主人公に感情移入させないような作りにしたそうですが、それが完全に裏目に出ていると思います。この手の冒険活劇映画は明確な悪役がいて、それにどう主人公が立ち向かっていくかが面白さのポイントなのです。それをあえて外してしまうのなら、シナリオの方向性をもっと違う方向にすべきだったと思います。
 あとこの映画はヒロインが最悪で、見ていていらいらします。特にストーリーに絡むわけでもないので、別にあの役は不必要だったのでは思います。
 またこの映画は声優陣の演技がとても下手です。特に中村嘉葎雄演ずるロイドは何を言っているのか聞き取りにくく、なぜこの人を起用したのか不思議でした。また鈴木杏も主人公の声をがんばって演じていましたが、がんばっているという印象しかもてませんでした。逆に小西真奈美は上手だったと思います。
 この映画は観客が期待したものを、悪い意味で裏切った作品です。映像はとても緻密で見所は多いにも関わらず、ストーリーのぐだぐださが足を引っ張ってしまい、とても残念な作品です。

製作年度 2004年
製作国・地域 日本
上映時間 126分
監督 大友克洋 
脚本 大友克洋 、村井さだゆき 
音楽 スティーヴ・ジャブロンスキー 
出演 鈴木杏 、小西真奈美 、中村嘉葎雄 、津嘉山正種 、児玉清 

| | コメント (2) | トラックバック (1)

『アンドロメダ・・・』この映画を見て!

第81回『アンドロメダ・・・』
Andromeda  今回紹介する映画は掘り出し物の70年代SF映画の傑作です。原作は『ジュラッシックパーク』で有名なマイケル・クライトン、監督は『サウンド・オブ・ミュージック』を手がけたロバート・ワイズ、SFXは『2001年宇宙の旅』のダグラス・トランブルという豪華なスタッフが結集しています。
 私はこの映画がテレビで放映されいるのを偶然見ていたのですが、あまりの面白さに一気に引き込まれて最後まで見てしまいました。ストーリーはシンプルでいて、それでいてスリリングです。
ストーリー:「ニューメキシコの片田舎に落下した人工衛星に未知の病原体が付着。それが原因で赤ん坊と酔っ払った老人2人を除いて、町の住民が全員死亡する。政府によって地下の研究施設に集められた4人の科学者が未知の病原体の正体と治療方法を探る・・・。」
 この映画はほとんどが地下の研究所で科学者たちが未知の病原体を研究していく過程を描きます。ありきたりの映画なら閉鎖された空間での研究シーンばかりの映画だと退屈になってしまうのですが、この映画は監督の演出が素晴らしく、見るものを飽きさせません。全編ドキュメンタリータッチで描きかれるのですが、現実感と緊張感を映画に与えています。映画のオープニングは病原体によって死滅した町を調査するところから始まるります。死体だけの無人の街のシーンは恐ろしくも見るものを一気に釘付けにします。その後は地下にある秘密研究所での科学者たちの研究シーンが延々と続きますが、病原体を追求していく過程がリアリティとサスペンスに満ちており見るものを飽きさせません。なぜ赤ん坊と酔っ払いの老人だけが生き残ったのかという謎から病原体の秘密が解明されるラストは研究過程が緻密に描かれているのでとても説得力がありました。この映画のシナリオは専門性と娯楽性と両方を見事に兼ね備えています。
 またセットや小道具も素晴らしいです。ダグラス・トランブルが手がけたセットは独特な色彩感覚と近未来的なデザインで魅力的です。またリモート・ハンドや電子顕微鏡などの研究道具も映画にリアリティを与えてくれます。
 特に激しいアクションシーンも大掛かりなスペクタクルシーンもないにも関わらず、科学者たちの研究シーンだけでここまで面白いSF映画が作れるとは大したものです。最近のCGにだけ頼ったSF映画にはないSF(サイエンス・フィクション)映画の魅力がこの映画にはあります。ぜひ見てみてください!

製作年度 1971年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 130分
監督 ロバート・ワイズ 
原作 マイケル・クライトン 
脚本 ネルソン・ギディング 
音楽 ギル・メレ 
出演 アーサー・ヒル 、デヴィッド・ウェイン 、ジェームズ・オルソン 、ケイト・リード 、ポーラ・ケリー

| | コメント (0) | トラックバック (2)

『M:i:Ⅲ』この映画を見て!

Mi3 『M:i:Ⅲ』 
今回紹介する映画はアメリカで大人気だったテレビドラマ『スパイ大作戦』をトムクルーズ主演でリメイクした『ミッション・イン・ポッシブル』シリーズの3作目『M:i:Ⅲ』です。テレビ版『スパイ大作戦』はチームプレイを重視したストーリーで毎回楽しませくれましたが、映画版『ミッション・イン・ポッシブル』シリーズはトム・クルーズ扮するイーサン・ハントの超人的な活躍を楽しむ作品となっています。
 このシリーズの大きな特徴として毎回独自の映像スタイルで人気を集める監督を起用しているところがあります。1作目はサスペンス映画の巨匠として有名なブライアン・デパルマが監督を務め、予想外なストーリー展開とラストの度肝を抜くアクションシーンでテレビ版とは全く違う面白さを持った作品に仕上がっていました。2作目はスローモーションを多用したアクションシーンで人気が高いジョン・ウーが監督を務めたのですが、期待していた割りに完成度はもう一つでした。ジョン・ウーの演出がくどく感じ、トム・クルーズの単なるプローモーション映画になっていました。
 そして第3作目『M:i:ⅲ』ですが、この映画は監督が何回も交代しています。最初は『セブン』のデビット・フィンチャーが起用されていたのですが途中で降板し、続いて『ナーク』のジョー・カーナハンが起用されたのですが、また降板してしまいました。そして制作も遅れに遅れ、紆余曲折の末に選ばれた監督は『エイリアス』や『LOST』などの数々の人気テレビドラマを制作したJ・J・エイブラムスでした。彼は『アルマゲドン』のシナリオなどにも参加している脚本家で、独自のスタイルを持っているというよりはストーリーを重視する監督です。そんなエイブラムス監督が手がけた3作目ですが、初監督作としては見事に面白い作品に仕上がっていました。
 トムクルーズ扮するイーサン・ハントの超人的なアクションはいつもながらですが、今回はテレビドラマ版にあったチームプレイの面白さも前半から中盤にかけて描いており、スパイ映画を見ている醍醐味を感じました。またアクションシーンも現実離れをしていますが迫力満点であり、息つく暇がなく、2時間という上映時間があっという間に思えてしまう作品でした。
 ストーリー:「IMFのトップエージェントであるイーサン・ハントは現役から退き、現在は後進の指導を行いながら看護師であるジュリアと結婚をして幸福な生活を過ごしていた。しかしある日、自分の教え子のリンゼイが国際的な武器商人デイヴィアンの捕獲作戦に失敗し、拉致されてしまう。彼女を救助するためにIMFのチーム達と共にベルリンへ飛ぶが、作戦は失敗。イーサンはバチカンに飛び、デイヴィアンの捕獲に挑む・・・。」
 今回のストーリーは、監督いわくスパイのプライベート部分を描きたかったようで、前2作にはなかったプライベートなシーンが随所に挿入されます。家族とのささやかな日常の幸福と世界的な悪の組織と命がけの戦いを挑む過酷さとのギャップの中で生きている姿が描かれているシーンは、イーサンというキャラクターに深みを持たせていると思いました。  また前半のベルリンやバチカンでのチームプレイ戦は見ていて、とても手に汗握るものがありました。後半は奥さんが誘拐され、イーサンが救出に向けて戦いを挑んでいくのですが、トムの人間離れしたアクションとトムの男泣きが印象に残りました。
 それにしても、こんなに私情で一人突っ走るスパイって優秀なスパイだろうかと見終わった後、疑問に思ってしまいました。また映画の終盤にどんでん返しがあるのですが、1作目に比べて別にこれといった驚きはありませんでした。よく考えると突っ込みどころの多いストーリですが、見ている間は全くといって良いほど気になりませんでした。
 アクションシーンはどれも音響効果がすざましくて迫力満点でした。トム・クルーズのスタントなしの体張ったアクションシーンはいつもながら見ごたえ十分でした。ただ、ラストは思ったよりスケールが小さく、尻すぼみのような印象を受けました。あと、中盤の橋の上での戦いはシュワルツネッガー主演のスパイ映画『トゥルーライズ』に似ているような気がしました。(この作品の構造自体、そういえば『トゥルーライズ』にとてもよく似ていますね。)
 この映画の話題の一つとしてアカデミー賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンが悪役を演じたことがあったのですが、いまいち悪役として迫力不足でした。またこれはシナリオや演出の問題ですが、悪役がどれほどの力を持っており、どんなにひどいことをしているのかがあまり描かれていないので、ラストのアクションシーンなど盛り上がりに欠けたような気がします。またイーサンの上司役で『マトリックス』のローレンス・フィッシュバーンが出演していたのですが、あまり印象に残る役ではありませんでした。せっかくの起用なので、もっと活躍して欲しかったです。
 この映画は見終わった後、特に印象に残る映画でもありませんし、突っ込みどころも満載な映画です。しかし、見ている間は画面に釘付けになりますし、1800円払って見て損はないと思います。暑い夏にスカッとしたアクション映画をぜひ見てストレス解消してください!
製作年度 2006年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 126分
監督 J・J・エイブラムス 
製作総指揮 ストラットン・レオポルド 
原作 ブルース・ゲラー 
脚本 J・J・エイブラムス 、アレックス・カーツマン 、ロベルト・オーチー 
音楽 マイケル・ジアッキノ 
出演 トム・クルーズ 、フィリップ・シーモア・ホフマン 、ヴィング・レイムス 、マギー・Q 、ジョナサン・リス=マイヤーズ  、ローレンス・フィッシュバーン

| | コメント (0) | トラックバック (8)

『隣人13号』この映画を見て!

第79回『隣人13号』
13  今回紹介する映画は現在の日本映画界で大人気の役者・中村獅童が出演したサイコホラー『隣人13号』です。井上三太の同名人気コミックを完全映画化したこの作品、完成度はもう一つですが、とても見ごたえのある作品に仕上がっています。監督はミュージックビデオを数々手がけてきた井上靖雄。この作品で映画監督デビューをした井上監督ですが、初監督作品とは思えないほど、素晴らしい仕上がりとなっています。
 ストーリー:「小学校時代に赤井トールというクラスメートに陰惨ないじめ受けていた村崎十三。そんな彼は自分の中に暴力的な13号という別人格を持つようになる。そして10年後、復讐を決意した十三は、赤井の住むアパートに部屋を借り、赤井の勤める建築会社に潜り込む。そして十三の中に潜んでいた13号の人格がどんどん暴走し始める。」
 この作品はとても陰湿で重苦しい雰囲気に包まれています。小学生時代のいじめの描写は生々しく痛々しいですし、隣人13号の暴力描写は目を背けたくなるほど激しいものがあります。この映画で映し出される暴力はどれも観客の不快感を煽るようなものばかりです。また暴力描写以外も、生理的嫌悪感を覚える描写が多く、好き嫌いがはっきり分かれる映画です。
 ストーリーは13号に支配される村崎十三の葛藤みたいなものをもっと丁寧に描いた方が良かったのではと思いました。 また中盤少し間延びしてしまっている所があったので、もう少しコンパクトな展開にしてもよかったのではと思いました。ラストの展開は唐突で分かりにくいところもありましたが、赤井の謝罪により、十三の傷ついた心が癒されたことを示しているのだと思います。
 この映画の一番の見所は役者たちの演技です。まず13号を演じた
中村獅童。彼の切れっぷりはすざましく、ラストの刀を持って相手を襲うシーンは迫力満点です。『いま会いに行きます』で彼が見せた繊細な演技とはまた違った一面が見られます。また小栗旬も二重人格に苦しむ村崎十三という難しい役を上手く演じていました。彼の怯えた顔と獅童の狂気じみた顔のコントラストが絶妙でした。また、かつて村崎をいじめた赤井を演じた新井浩文も嫌な奴をとても好演していました。また赤井の妻役を演じたPUFFYの吉村由美も予想以上に演技が上手く、はまり役でした。
 この映画は誰でも楽しめる映画ではありませんが、怖い映画が好きな人なら一度は見て損はないと思いますよ。

製作年度 2004年
製作国・地域 日本
上映時間 115分
監督 井上靖雄 
製作総指揮 木幡久美 、宮下昌幸 
原作 井上三太 
脚本 門肇 
音楽 北里玲二 
出演 中村獅童 、小栗旬 、新井浩文 、吉村由美 、石井智也

| | コメント (0) | トラックバック (9)

『漂流教室』街を捨て書を読もう!

『漂流教室』 著:楳図かずお 小学館文庫
Hyouryu  今回紹介する本は日本のホラー漫画界を代表する楳図かずおの傑作SFホラー『漂流教室』です。私がこの作品を知ったのは原作よりも映画が先でした。87年に大林宣彦監督が手がけた映画版『漂流教室』を見たのは小学生の時でしたが、私は学校が突然現代から消えてしまうという設定に恐怖を覚えて、小学校に行くのが不安になったほどトラウマになった映画でした。
 それから10年後の大学生になった時、古本屋で『漂流教室』の原作マンガを発見し、小学生の時に映画を見て怖がっていた自分を思い出し、原作はどんな感じなのだろうと気になり全巻買って読むことにしました。家に帰って読み始めたところ、あまりの怖さと面白さに読むのを止める事が出来ず、一気に全巻を読み通してしまいました。
 小学生だけが異世界で生き残るという設定の面白さ、先の全く読めない緊迫したストーリー、目を覆いたくなるほどのハードな描写、そして環境破壊と人間の生の力強さを扱ったテーマとあらゆる面において読み応えのある作品でした。
 この作品の秀逸なところは、突然、荒廃した世界に取り残された小学生たちがどうやって生き延びていくかをリアルに描いたところにあります。この作品では小学生が病気や自殺、仲間同士の殺し合い、そして謎の生物の襲来によって次々とあっけなく死んでいきます。その死の描写はとても生々しく、目をそむけたくなるようなものばかりなです。しかしあえて死というものを真正面から取り上げることで、逆に生きることの価値や尊さというものが浮かび上がってきます。死と隣り合わせの生という緊迫感がこの作品には見られます。
 またこの作品では先生たちは狂ってすぐに死んでしまったり、生き残った大人が子どもを虐待したりと大人たちの弱さが浮き彫りになる場面がとても印象的でした。さらに小学生同士もすぐに助け合おうとせず、仲間割れをしたり、自己中心的な行動を取ったりします。この作品は子どもたちを美化せず、子どもがもつ残酷さや醜さもきちんと描写することで作品に現実感を与えています。
 ラストはアンハッピーエンドともハッピーエンドとも取れる終わり方です。私はこのラストの希望と生命の力強さを感じたのですが、皆さまはどう思われるでしょうか?
 『漂流教室』は先ほども述べたように映画化もされ、常盤貴子と窪塚洋介主演でテレビドラマにもなっています。しかし、映像化された『漂流教室』はどれも描写が甘く、原作が持つ緊張感や重さが感じられません。最近、大林監督の映画化した『漂流教室』をビデオで見たのですが、当時はあんなに怖かったのに、今見るとショボイ作品でした。確かにあのマンガを映像化するのはとても難しいと思います。まともに原作通りに映像化したら18禁の作品になってしまうでしょう。しかし、一度原作の雰囲気や描写に沿った映像化を見てみたいと私は思います。誰か作ってくれませんかねえ。個人的に『スターシップ・トゥルーパーズ』のポール・バーホーベン監督か『妖怪大戦争』の三池崇史監督あたりに手がけてほしいです。
 この作品は残酷な描写も多く、誰でも気軽に読めるマンガではありません。しかし、この作品ほど読み応えがあり、読み終わった後のインパクトの強い作品はないと思います。一見すると、陰惨で重々しい作品に思えるかもしれませんが、実は愛と人間賛歌に満ちた作品です。この作品は絶望の中で自ら希望を見出していく子どもたちの姿を描いた名作です。ぜひ読んでみてください!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年6月 | トップページ | 2006年8月 »