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『ゲド戦記最後の書 帰還』街を捨て書を読もう!

『ゲド戦記最後の書 帰還』 著:ル=グウィン 訳:清水真砂子 岩波書店
Return_gedo  今回紹介する本はゲド戦記シリーズ第4弾『帰還』です。第4巻は今までのゲド戦記シリーズとだいぶ作風が違っており、子どもが読むにはテーマや内容が難しく、大人向きの作品になっています。
 ゲド戦記はアースシーという架空の世界を舞台に、魔法使いゲドの人生とゲドと出会い運命が変わっていった人たちの姿を描いた傑作ファンタジーです。第4巻は第2巻『こわれた腕輪』で登場したヒロイン・テナーとひどい火傷を全身に負った謎の少女テルーを中心に話しが進みます。
 ストーリー:「テナーがアチュアンの墓所からゲドの手によって連れ出されから約20年。テナーは一時期ゲドの師匠・オジオンの下で指導を受けていたが、女として生きる道を選び、農夫と結婚し、子どもを生み育て、現在は未亡人となっていた。そんな彼女の下に現れる体の半分にひどい火傷を負った謎の少女テルー。テルーは大人たちによって虐待され、火の中に放り込まれていた。テナーは傷ついたテルーを養女として育てることを決める。そんな折、オジオンの容態が悪いことがテナーに伝えられる。オジオンの下に向かうテナーとテルー。オジオンはテナーに看取られ亡くなる。しばらくオジオンの家に留まる2人だが、そこに生死両界をしきる扉を閉めて、全ての力を使いきったゲドが現れる。」
 この作品は前3作までにあったファンタジー色はほとんどなく、生々しい現実の世界での話しが展開されていきます。女として人生の曲がり角を向かえたテナー。魔法の力を失ったゲドの葛藤や苦しみ。虐待され体にも心にも癒えない傷を負った少女テルーの哀しみ。この作品は力を奪われた(失った)者たちが、そんな状態の自分たちをどう受容していきながら生きていくかを描いています。
 私はこの作品を最初読んだとき、登場人物たちのあまりの痛々しい姿になかなか読み進むことが出来ませんでした。アースシーの大賢人であったゲドが魔法を失い、自信をなくし、弱々しくなった姿を見るのはとてもつらいものがありました。魔法を失ったゲドの喪失感の深さに読んでいて胸が痛くなりました。また今作の影の主人公とも言えるテルー。虐待により心を閉ざした彼女の姿には幼くして癒えない傷を背負った少女の過酷な未来を思うと、胸が締め付けられました。 
 そんな痛々しい登場人物たちの中、今作の主人公であるテナーが、何とかしてゲドやテルーに生きる希望や力を与えようとする姿に私はとても感銘を受けました。テナーは夫を失い、子どもも成人し、人生の節目を迎えた女性として、これからの人生をどうしていくかを考えているところにテルーとゲドが現れます。テナーは女性として抑圧されている自分に苛立ちを感じながら、日常のささやかな生活を大切にしている人間として描かれます。テナーの日々の何気ない生活を大切にしようとする姿勢の中で、ゲドやテルーが生きる力を取り戻していく姿がとても印象的でした。『帰還』はテナーの母親としての愛、女としての愛の姿を丁寧に描いた作品です。この物語のテーマの一つとしての愛の力強さというものがあると私は思います。
 また、この作品にはフェミニズムの思想がとても色濃く反映されています。女であるテナーに対する魔法使いたちの嫉妬と蔑み、テルーに対する男たちの所有欲、そしてテナー自身が持つ女としての生き方への捉われ。この作品では抑圧されてきた女たちの悲しみと女を抑圧する男たちの愚かさや弱さというものが描かれています。この作品は女性を取り囲む抑圧からの解放と男からの自立いう作者の思いが込められいます。
 今年の夏に公開されるスタジオジブリ制作の『ゲド戦記』は3作目『さいはての島』をベースにしながら、4作目である『帰還』のテナーやテルーも登場するみたいです。いったいどういうストーリーになるのか楽しみでもあり、不安でもあります。私が特に気になるのはテルーの描写です。激しい虐待を受けて、心を閉ざした少女テルーの姿をジブリが描くことが出来るのか、かなり心配です。映画の予告編を見る限り、原作のテルーとは少し印象が違うような気がしました。
 『帰還』は前3作から比べると、スケールも小さく、淡々としたストーリーです。前3作との印象の違いに戸惑うかもしれませんが、人間の弱さや愚かさ、悲しみを丁寧に描いた傑作です。ファンタジー小説として読むより、人間の内面描写に焦点をあてた文学として読まれたほうが良いと思います。お世辞にも明るく楽しい話しとは言えませんが、最後まで読むと生きる力が湧いてくる作品です。 
 

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コメント

こちらこそ、ありがとうございました。この原作をジブリがどう映画化するのか・・・。映画のストーリーを読むと、かなりアレンジされていますね。映画の上映時間は2時間未満だそうですが、その時間内でどうまとめるのか不安ですね・・・。
ゲド戦記は指輪やナルニアと違って映像にあまり向いていないような気がします。文章でよんでこそのゲド戦記だと思います。

投稿: アシタカ | 2006年6月30日 (金) 22時02分

TBありがとうございました。
3巻も1~2巻と比べるとちょっと雰囲気違いますが、4巻以降は全く別物、という気もしますね。
またこれをジブリが映画化するということで、期待半分不安半分・・・というよりも
思いっ切り不安だらけです(苦笑)。

相前後して、1~2巻をベースに実写ドラマ化したホールマーク版もリリースされますが、
これまた原作者激怒という代物だそうで。
なんだか受難の作品ですね(汗)。

投稿: Excalibur | 2006年6月29日 (木) 22時49分

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ゲド戦記 最後の書 帰還  ル=グウィン 岩波書店 平和と秩序を回復するため全力を出しきったゲドは、 故郷のゴント島に帰る。心身ともに衰えた初老のゲドに、 思いがけない女性との再会が待っていた。 //////////////////////////////////////////////// 黄泉での死闘直前のゴント島のエピソードから始まり、 ゲドの帰還により話が進んでいきます。 しかし最終話の主役はゲドでなく 「アチュアンの巫女... [続きを読む]

受信: 2006年6月28日 (水) 09時11分

» 『帰還』<ゲド戦記 最後の書> ル=グウィン [【徒然なるままに・・・】]
全3部作とされていた<ゲド戦記>の、18年ぶりに書かれた続編であり、完結編です。 これまでの3作品はいずれも独立したお話になっていましたが、この物語は前作『さいはての島へ』を受けておりまして、ゲドは勿論のこと、前作の主人公だったレバンネンも引き続き出てきます。 但し中心を担っているのは、第2作『こわれた指環』のヒロインだったテナーと、彼女が育てている傷を負った幼い少女の二人。このテルーと呼ばれている少女が、必要以上と思われるくらい残酷な仕打ちを受けていたという設定が、これまで<ゲド戦記>に親しん... [続きを読む]

受信: 2006年6月29日 (木) 22時44分

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