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『シンドラーのリスト』この映画を見て!

第74回『シンドラーのリスト』
Schndlerslist  今回紹介する映画はスティーブン・スピルバーグの渾身の作品『シンドラーのリスト』です。スピルバーグは82年に原作の映画化権を手にいれ、10年近く構想を練った後、この映画の制作に着手しました。ホロコーストを扱った白黒映画で25億円という莫大な制作費をかけた映画ということで映画会社は撮影をかなり渋ったようですが、監督は自らのギャラを返上してこの映画の制作に挑んだようです。第2次世界大戦におけるホロコーストの実態をセミドキュメンタリータッチで描いた『シンドラーのリスト』は公開されると大反響を呼びました。手持ちカメラを利用した緊迫感あふれる映像、生々しい殺戮シーンは観客にとてもインパクトを与えました。スピルバーグは今まで賞は取れない監督と言われていたのですが、この映画で念願のアカデミー賞を初めて獲ることができました。
 ストーリー:「第二次大戦下のドイツ。実業家シンドラーは軍用ホーロー器工場の経営に乗り出し、ゲットーのユダヤ人たちを働かせた。やがて彼は、ユダヤ人に対する迫害に心を動かされ、彼らを強制収容所送りから救うのだった。」
 私がこの映画を見たのは高校1年生のときでしたが、見たときは大変な衝撃を受けました。人が虫けらのようにあっけなく死んでいくシーンの連続に、人間の命というものが状況しだいで如何に軽くなるかということが分かりショックを受けました。人の命は重いと言われながら、人類の歴史の中でいかに軽く扱われてきたか(そして現在も扱われているか)という現実をこの映画を見て再認識させられました。私はこの映画を見て一番強く感じたのは命の尊さとか戦争の愚かさなどではなく、人間の狂気や暴力性というものでした。人間という生き物が持つ狂気と暴力性が剥き出しになったときの悲劇というものを強く思いました。
 この映画は映像のインパクトが強烈です。陰影のあるモノクロの映像は、当時のドキュメンタリー映像を見ているかのようです。また一部パートカラーのシーンもあるのですが、とても印象的な使われ方をされています。撮影はポーランド出身のヤヌス・カミンスキーが担当しているのですが、この映画の後、監督は彼とコンビを組み、陰影のある独特な映像スタイルを作り上げていきます。(ただ、カミンスキーの映像は娯楽映画には合わないような気がしますが。)
 ストーリーはオスカー・シンドラーが完全無欠のヒューマニストとして描かれるのでなく、酒と女とお金が好きな胡散臭い人間として描かれているところが逆に好感が持てます。根っからの善人でなく、善と悪と両方を持ち合わせた人間が葛藤しながら善に向かおうとする姿に人間の希望が描かれていると思います。ただ映画のラストはあまりにもあざとく、ヒューマニズム色が強くて、個人的にあまり好きではありません。ドキュメンタリータッチで最後まで通して欲しかったです。
 この映画はユダヤ人であるスピルバーグにとっては、自分の同胞たちの苦難の歴史を記すという非常に大きな意味があったと思います。スピルバーグにとって自分がユダヤ人であるということは大きなアイデンティティであり、映画を制作する際も常に意識しているところがあります。スピルバーグの最新作『ミュンヘン』も戦後のユダヤ民族の悲劇を描いた作品でした。
 この映画の描写に関して事実を捏造しているという批判もあります。しかし私はこの映画が描こうとしているテーマや内容に関しては見るべきものが多いと思います。残酷なシーンが数多くあり、気分が重くなる映画ではありますが、人間の狂気や暴力の悲劇というものを考えさせられます。ぜひ一度見てみてください。

製作年度 1993年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 195分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
製作総指揮 キャスリーン・ケネディ 
原作 トーマス・キニーリー 
脚本 スティーヴン・ザイリアン 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 リーアム・ニーソン 、ベン・キングズレー 、レイフ・ファインズ 、キャロライン・グッドオール 、ジョナサン・サガール 

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コメント

こんばんは、お久しぶりです。「ブレード・ランナー」のときはお世話になりました。返信トラバ感謝です。

この映画は、ぼくにとって、スピルバーグの最高作品ではないかと思っています。

それでは、またよろしくです!!

投稿: David Gilmour | 2006年6月28日 (水) 23時11分

コメントありがとうございます。シンドラーという男のいかがわしさが、この映画の面白さですよね。根からの善人が良いことをするのでなく、気づいたら善いことをするようになっていたというところが良かったと思います。
この映画からスピルバーグは作風が変わりましたよね。
杉原千畝さんの話しは私も知っていますが、あの時代に日本にも正義を貫いた人がいたことを誇りに思います。

投稿: アシタカ | 2006年6月24日 (土) 23時55分

TB有り難うございました。シンドラーが正義感のある人ではなく、少し偽悪的なところが、ある意味でドラマティックでいいですね。スピルバーグの作品ではこの映画が私は一番好きです。日本にも杉原千畝さんという、数千枚のビザをユダヤ人のために発給した方がいましたね。彼こそは正義の人だったように感じます。

             異邦人より

投稿: 異邦人 | 2006年6月24日 (土) 16時39分

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全編にあふれる人間愛に涙がこぼれて仕方がなかったー。今年のアカデミー7部門を受賞した米映画「シンドラーのリスト」(スティーヴン・スピルバーグ監督作品)。奈良市角振町の映画館「シネマ・デプト友楽」では連日、大勢の観客が詰めかけている。同映画館は4月末まで予定していた上映期間を5月末までに延長する方針を決定。また奈良県内の書店では、原作の文庫本が飛ぶように売れるなど、″シンドラー・ブーム″が巻き起こっている。... [続きを読む]

受信: 2006年6月26日 (月) 22時04分

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