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2006年6月

『真夜中の弥次さん喜多さん 』この映画を見て!

第78回『真夜中の弥次さん喜多さん
Yazikita  今回紹介する映画は脚本家として人気のある宮藤官九郎初監督作品であり、日本映画の異色作でもある『真夜中の弥次さん喜多さん』です。この映画はしりあがり寿の原作を下に、現実と幻想が入り乱れたシュールな映像とハイテンションなストーリーが展開されていきます。
 私は始めてこの映画を見たとき、ぶっ飛んだ映像とストーリーに非常にはまってしまいました。初監督作品でこのような映画を作るとは宮藤官九郎さすが恐るべしです。シュールでポップな映像は、まるでテリー・ギリアムの映画を見ているかのような感じを受けました。また映画に随所に挟まれるギャグはどれも下らないものばかりですが、そのあまりの下らなさに私は大うけでした。この映画は常識を遥かに超えた
弥次喜多ワールドが展開されており、はまる人ははまるだろうし、生理的に受けつけない人は全く受けつけない映画です。
 ストーリー:「ヤク中の恋人・喜多八を、なんとか立ち直らせたい熱い同性愛者・弥次郎兵衛はお伊勢参りに出かけることを決める。お伊勢さんを目指し江戸を後にする2人。しかし、禁断症状に苦しむ喜多さんを連れての旅は、波乱万丈なものだった。」
 この映画のストーリーを解説することははっきり言って全くナンセンスです。この映画は感性で見るものであり、現実と非現実の間を行き来する主人公たちの姿を楽しむ映画です。この映画は空虚な現実から地に足のついた現実を目指して旅をしていく2人が、結局現実も非現実も自分の世界の一部分だと受容するお話しです。この映画は現実逃避をすることで現実と向き合い、生きる力を得るという非常に奥の深いお話だと私は思っています。全体的に下らない話しであるにも関わらず、生と死のエピソードでは、なぜか分かりませんが切ない気持ちで胸がいっぱいになりました。
 この映画の大きな見所として、豪華な役者たちの出演があります。こんなぶっ飛んだ作品によくこれだけの役者が集まったものだと関心します。特に主人公の弥次さん喜多さんを演じた長瀬智也 と中村七之助 。長瀬は熱血漢な同性愛者という役を、中村は薬物中毒者という役を見事に演じています。また脇を固める役者たちも楽しそうに演技しており、見ていて面白いです。
 この作品は何も考えずに、弥次喜多ワールドに身をゆだねることが出来れば、とても面白い映画です。好き嫌いがはっきり分かれる作品だとは思いますが、日本映画史に名を残すカルト映画だと思います。ぜひ一度見てみてください!

製作年度 2005年
製作国・地域 日本
上映時間 124分
監督 宮藤官九郎 
原作 しりあがり寿 
脚本 宮藤官九郎 
音楽 ZAZEN BOYS 
出演 長瀬智也 、中村七之助 、小池栄子 、阿部サダヲ 、柄本佑 、森下愛子、 岩松了、 板尾創路 、竹内力、 山口智充、 清水ゆみ、 ARATA、 荒川良々、中村勘九郎、 生瀬勝久 、研ナオコ、松尾スズキ、寺島進

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『ターミネーター2』この映画を見て!

第77回『ターミネーター2』
2  今回紹介する映画は公開当時大ブームになった傑作SFアクション映画『ターミネーター2』です。私は中学生の時にこの映画を映画館で見たのですがストーリーの面白さとスケールの大きなアクション、特殊効果をふんだんに利用した映像の迫力に圧倒されたのを覚えています。特に当時はまだ珍しかったCG映像を使った液体金属型ターミネーターT1000のインパクトは強烈なものでした。またストーリーも秀逸でラストは涙なしでは見れないほど感動的なものでした。ここまで映像の迫力とストーリーの面白さがかみ合ったアクション映画はなかなかないと思います。制作費に100億円以上かけたそうですが、その投資に見合う面白さになっています。私はこの映画を見てハリウッド映画の力というものを中学生ながらに感じたものでした。
 ストーリー:「 核戦争後の西暦2029年、地球では機械軍と人類の抵抗軍が戦っていた。人類の指導者ジョン・コナーの母親暗殺に失敗した機械軍は、10年後の世界に新型ターミネーターT1000を送り込み、少年時代のコナーを抹殺しようとする。一方、来るべき未来の戦争を知る唯一の人間サラ・コナーは、狂人扱いされ精神病院へ入れられていた。そんな中、未来の人類の抵抗軍から1体のターミネーターT800がジョンを守るためにやってくる。人類の未来を守るため、T1000との壮絶な戦いが始まる。
 この映画はストーリーがとてもよく出来ています。1作目では悪役だったシュワルツェネッガー扮するT800が今回は人類を守る側に回るという設定も面白いですし、感情のないロボットであるはずのT800がジョン・コナーとの交流を通して、人間の感情を学んでいくという展開も非常に面白く、ラストはほろりとさせられます。またジョン・コナーとT800との交流には父と子の絆というテーマが内包されており、子にとって父親とはどういう存在かを描いた作品としてもよく出来ていると思います。さらに1作目では逃げ惑うだけだったサラ・コナーの孤独な戦いを描くハードボイルドドラマとして見ても味わい深いものがあります。
 またアクション映画としても液体金属という完全無敵なT1000という悪役を設定したことで、明らかに不利な人類側がどうやって倒すのかというサスペンスを生み出すことに成功しています。この映画は人間ドラマがしっかり描かれているので、アクションシーンも主人公たちに感情移入しながら見ることができます。脚本がしっかりしているとアクションシーンも盛り上がるという、よいお手本の映画だと思います。またキャメロンらしくアクションシーンはどれも良い意味で派手でしつこく、観客の目を映像に釘付けにします。あと個人的に残酷なシーンはあるものの、無意味に人が殺されないという点も高く評価できます。
 続編の映画というと1作目を超えられない作品が多いのですが、この映画は見事に成功しています。この映画の後、さらに『ターミネーター3』が違う監督によって制作されましたが、ドラマとしてもアクションとしても前作を超える作品には仕上がっておらず、その上前作の結末を否定するようなラストシーンに、なぜパート3を制作したのか疑問にさえ思いました。
2s  この映画は20分ほど追加シーンを挿入した特別編もあり、1作目に出てきたマイケル・ビーン扮するカイルが登場したり、ターミネーターの頭部を切開してチップのセッティングを変えるシーンやT1000の調子が悪くなったことを示すシーンがあったりなど、より深く映画の世界を楽しむことができるようになっています。興味がある人はぜひ見てください。
 この映画は今もってハリウッドアクション映画の最高峰であり、ヒューマンドラマとしても1級です。映画のラストのT800の決断は涙なしでは見られない感動が得られます。

製作年度 1991年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 137分
監督 ジェームズ・キャメロン 
製作総指揮 ゲイル・アン・ハード 、マリオ・カサール 
脚本 ジェームズ・キャメロン 、ウィリアム・ウィッシャー 
音楽 ブラッド・フィーデル 
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー 、リンダ・ハミルトン 、エドワード・ファーロング 、ロバート・パトリック 、アール・ボーエン 

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『ジョーズ』この映画を見て!

第76回『ジョーズ』
Photo_4   今回紹介する映画はサメの恐怖を描き、世界中の映画ファンを虜にした映画『ジョーズ』です。この映画はテレビで何度も放映されているので、多くの人が一度は見たことがあると思います。また映画自体見たことがないという人でもジョン・ウィリアムスが手がけた印象に残るスコアーはどこかで聞いたことがあると思います。この映画が制作されたのは1975年ですが、公開当時は一大ブームとなり、興行収入も大成功を収めました。この映画を監督したのは今やハリウッド映画界の巨匠となったスティーブン・スピルバーグ。彼は当時まだ20代で、監督として駆け出しだったのですが、自ら製作者に監督をさせて欲しいと名乗りを上げて、この大作映画の監督をつかんだそうです。彼はこの映画の成功で一躍有名になり、その後も次々と大作・ヒット作を連発しました。
 私がこの映画を初めて見たのは幼稚園のときですが、あまりの恐ろしさにトラウマになり、しばらく海で泳げなくなりました。特に海の底で人間の生首が見つかるシーンとクイントがサメに食いちぎられる場面は子どもには刺激的過ぎて、ショックを受けたものでした。しかし、怖いながらもテレビで放映される度に、手で目を覆いながら最後まで見ていたものでした。
 この映画はショッキングなシーンも多いのですが、最後まで目の離せない作品に仕上がっています。その大きな理由として、前半はサメの全体像を映し出さず観客の恐怖感をあおり、後半に全体像を明らかにさせ人間対サメのアクションドラマに観客を集中させるように映画が組み立てられている所が大きいと思います。前半はサメの恐怖に慌てふためく人々の姿をじっくり描き、後半、サメに戦いを挑む3人の男たちの姿に焦点を絞って描いていく。このストーリーの流れの上手さが観客の心をつかむのでしょう。
 スピルバーグ監督は観客を映画に集中させようと様々な工夫をしています。海面すれすれの視点の映像や海中から人の足を映し出す映像が生み出す緊張感、突然現れる人の死体や襲い掛かるサメの映像のインパクト。映画の後半の男たち3人の船の上でのドラマの面白さ、そして伏線をしっかり張った上での予想外のサメの倒し方。この映画は全編にわたりスピルバーグの巧みな演出が冴え渡っています。
 またこの映画は音楽による演出がとても効果を生んでいます。サメの登場前に流れるジョン・ウィリアムスの緊張感溢れる音楽は観客の心に何が起こるのかという身構えを起こさせます。また観客がこの音楽が鳴ったときにサメが現れるんだと思い込んでいると、突然音楽が鳴らないうちに静粛の中からサメが現れ、観客を驚かせるという演出の巧みさ。この映画はジョン・ウィリアムスの音楽がなかったら、ここまでヒットしなかったと思います。
 最近『ジョーズ』のDVDを買い、特典映像のメイキングを見たのですが、この映画の海の上での撮影は過酷で大変だったようです。サメはもちろん本物でなく、ロボットなんですが、このロボットの制作・撮影が大変だったようです。映画ではあの張りぼてのサメがあんなに怖く見えるのですから、スピルバーグの演出は大したものです。
 『ジョーズ』はこのあとシリーズ化され3本の続編が生まれました。第2作目はブロディ署長の息子たちがサメに襲われ、3作目では水族館で働く息子の下にジョーズが現れ、4作目では妻のロレインの下にサメが現われと、なぜブロディ署長一家の前ばかりサメが現れるのかと突っ込みを入れたくなるような代物ばかりでした。もちろん、どれも1作目の面白さには到底及ぶことなく、パッとしない作品ばかりでした。『ジョーズ』公開後、この続編以外にも数多くのサメ映画が公開されましたが、どれもいまいちな作品ばかりでした。しかし、レニー・ハーリンが監督した『ディープ・ブルー』という作品は知能を持ったサメという荒唐無稽な設定ながら、とても面白い作品に仕上がっていました。
 また大阪のUSJにあるジョーズのアトラクションも体験してきたのですが、映画に比べて今一つ盛り上がりに欠けてぱっとしませんでした。
 『ジョーズ』は本当に良く出来た娯楽映画だと思いますし、スピルバーグの代表作であり、傑作だと思います。夏の暑い時期にぴったりの『ジョーズ』。ぜひ見てください!

製作年度 1975年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 124分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
原作 ピーター・ベンチリー 
脚本 ピーター・ベンチリー 、カール・ゴットリーブ 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 ロイ・シャイダー 、ロバート・ショウ 、リチャード・ドレイファス 、ロレイン・ゲイリー 、カール・ゴットリーブ 

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『ゲド戦記最後の書 帰還』街を捨て書を読もう!

『ゲド戦記最後の書 帰還』 著:ル=グウィン 訳:清水真砂子 岩波書店
Return_gedo  今回紹介する本はゲド戦記シリーズ第4弾『帰還』です。第4巻は今までのゲド戦記シリーズとだいぶ作風が違っており、子どもが読むにはテーマや内容が難しく、大人向きの作品になっています。
 ゲド戦記はアースシーという架空の世界を舞台に、魔法使いゲドの人生とゲドと出会い運命が変わっていった人たちの姿を描いた傑作ファンタジーです。第4巻は第2巻『こわれた腕輪』で登場したヒロイン・テナーとひどい火傷を全身に負った謎の少女テルーを中心に話しが進みます。
 ストーリー:「テナーがアチュアンの墓所からゲドの手によって連れ出されから約20年。テナーは一時期ゲドの師匠・オジオンの下で指導を受けていたが、女として生きる道を選び、農夫と結婚し、子どもを生み育て、現在は未亡人となっていた。そんな彼女の下に現れる体の半分にひどい火傷を負った謎の少女テルー。テルーは大人たちによって虐待され、火の中に放り込まれていた。テナーは傷ついたテルーを養女として育てることを決める。そんな折、オジオンの容態が悪いことがテナーに伝えられる。オジオンの下に向かうテナーとテルー。オジオンはテナーに看取られ亡くなる。しばらくオジオンの家に留まる2人だが、そこに生死両界をしきる扉を閉めて、全ての力を使いきったゲドが現れる。」
 この作品は前3作までにあったファンタジー色はほとんどなく、生々しい現実の世界での話しが展開されていきます。女として人生の曲がり角を向かえたテナー。魔法の力を失ったゲドの葛藤や苦しみ。虐待され体にも心にも癒えない傷を負った少女テルーの哀しみ。この作品は力を奪われた(失った)者たちが、そんな状態の自分たちをどう受容していきながら生きていくかを描いています。
 私はこの作品を最初読んだとき、登場人物たちのあまりの痛々しい姿になかなか読み進むことが出来ませんでした。アースシーの大賢人であったゲドが魔法を失い、自信をなくし、弱々しくなった姿を見るのはとてもつらいものがありました。魔法を失ったゲドの喪失感の深さに読んでいて胸が痛くなりました。また今作の影の主人公とも言えるテルー。虐待により心を閉ざした彼女の姿には幼くして癒えない傷を背負った少女の過酷な未来を思うと、胸が締め付けられました。 
 そんな痛々しい登場人物たちの中、今作の主人公であるテナーが、何とかしてゲドやテルーに生きる希望や力を与えようとする姿に私はとても感銘を受けました。テナーは夫を失い、子どもも成人し、人生の節目を迎えた女性として、これからの人生をどうしていくかを考えているところにテルーとゲドが現れます。テナーは女性として抑圧されている自分に苛立ちを感じながら、日常のささやかな生活を大切にしている人間として描かれます。テナーの日々の何気ない生活を大切にしようとする姿勢の中で、ゲドやテルーが生きる力を取り戻していく姿がとても印象的でした。『帰還』はテナーの母親としての愛、女としての愛の姿を丁寧に描いた作品です。この物語のテーマの一つとしての愛の力強さというものがあると私は思います。
 また、この作品にはフェミニズムの思想がとても色濃く反映されています。女であるテナーに対する魔法使いたちの嫉妬と蔑み、テルーに対する男たちの所有欲、そしてテナー自身が持つ女としての生き方への捉われ。この作品では抑圧されてきた女たちの悲しみと女を抑圧する男たちの愚かさや弱さというものが描かれています。この作品は女性を取り囲む抑圧からの解放と男からの自立いう作者の思いが込められいます。
 今年の夏に公開されるスタジオジブリ制作の『ゲド戦記』は3作目『さいはての島』をベースにしながら、4作目である『帰還』のテナーやテルーも登場するみたいです。いったいどういうストーリーになるのか楽しみでもあり、不安でもあります。私が特に気になるのはテルーの描写です。激しい虐待を受けて、心を閉ざした少女テルーの姿をジブリが描くことが出来るのか、かなり心配です。映画の予告編を見る限り、原作のテルーとは少し印象が違うような気がしました。
 『帰還』は前3作から比べると、スケールも小さく、淡々としたストーリーです。前3作との印象の違いに戸惑うかもしれませんが、人間の弱さや愚かさ、悲しみを丁寧に描いた傑作です。ファンタジー小説として読むより、人間の内面描写に焦点をあてた文学として読まれたほうが良いと思います。お世辞にも明るく楽しい話しとは言えませんが、最後まで読むと生きる力が湧いてくる作品です。 
 

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『ぐろぐろ』街を捨て書を読もう

『ぐろぐろ』 作:松沢呉一 ちくま文庫
Guroguro  今回紹介する本は私が大好きなライター・松沢呉一の非常識で下品なエッセイ『ぐろぐろ』です。この本は下品、下劣、下ネタなエッセイが満載です。常識や公序良俗といったものを信奉している人が読むと気持ち悪くなったり、不愉快になったりするかもしれません。しかし、常識や公序良俗を気にしない人は、げらげら笑いながらあっという間に読むことが出来ると思います。
 この本で書かれている内容はとてもここで書けるようなものではないですが、普通に生きていたら考えられないようなことが数多く書かれています。こんなお下品でお馬鹿なことをこんな真剣に考える人がいるのかと思うと、ある意味尊敬の念が湧きますし、人間という生き物の深遠さを感じさえします。
 公序良俗や常識に疑問を感じている人、下品なことが好きな人、人生にいき詰っている人はこの本を読んでみてください。グロっとさわやかな気分になれます。

・内容
連載タイトルについて
謝罪と反省
インド料理屋にて
平賀源内と屁
皮膚病図鑑
人の死と動物の死
タレ物語
尿道炎とともに生きる〔ほか〕

 

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『スターウォーズ エピソード3 シスの復讐』この映画を見て!

第75回『スターウォーズ エピソード3 シスの逆襲』
Starwars3_1   今回紹介する映画はスターウォーズシリーズの完結編『シスの逆襲』です。この作品は6部作からなるスターウォーズシリーズの3部作目に当たる作品であり、4部作目から悪役として登場するダースベイダーの過去を描いた作品です。
 私は昔からスターウォーズの大ファンで、旧3部作(4部作目『新たなる希望』から6部作目『ジェダイの復讐』まで)は何回も見たものでした。だから、ルーカスが新3部作を発表すると聞いたときは、とても嬉しく、公開をワクワクしたものでした。旧3部作で悪役だったダースベイダーの過去を描いてきた新3部作ですが、正直1作目『ファントム・オブ・メナス』と2作目『クローンの攻撃』は個人的にとてもがっかりした作品でした。CGを多用した映像はそれなりに迫力がありますし、旧3部作よりストーリーのスケールも大きくはなっています。しかし、旧3部作にあった冒険活劇としての面白さや登場人物たちが織り成すドラマの感動やキャラクターの魅力といったものが新シリーズには感じられませんでした。スターウォーズシリーズの完結編として昨年公開された『シスの逆襲』も旧3部作に比べると質は落ちますが、新シリーズの中では一番面白く、旧3部作のファンにとっては興味のある作品でした。
 『シスの復讐』はエピソード4でオビ・ワンが語っていたクローン戦争が終結に向かい、皇帝が共和国を手中に収めて、アナキンがダークサイドに落ち、ダースベーダーとなるまでを描きます。映画の結末は多くの観客がすでに知っているので、いかにその結末に向かっていくかが注目された作品でした。
 私もどういう理由でアナキンがダースベーダーになったのかとても気になっていたので、3作目には期待していたのですが、いまいち説得力という点では欠けていたかなと思います。パドメを救おうとして皇帝の側に付きますが、いまいちアナキンの心情や葛藤が伝わってこず、あっさりダークサイドに落ちたような印象を受けて拍子抜けしました。これではアナキンが単なる力を過信した自己中心的な男にしか見えません。またパドメも1,2作目とキャラクターが変わっており、弱弱しくて違和感を感じてしまいました。ラストのパドメの死も取ってつけたような話にしか見えませんでした。
 この作品は本来なら正義を信じる者が道を踏み外してしまうという悲劇を描いたドラマチックなストーリーにも関わらず、いまいち設定を活かしきれていないような気がしました。ストーリーはいかに4作目と話しをつなげるかという事といかにファンを満足させる話しにさせるかに終始し、ドラマとしては平板なものになってしまっているのが残念です。あっさりと話しが進みすぎ、観客はキャラクターたちに感情移入が出来ず、見せ場を楽しむだけになってしまっているような気がします。ルーカスは脚本を自分で書かず、誰か他の人に任せたほうがよかったと思います。現に『帝国の逆襲』『ジェダイの復讐』では脚本家を雇って質の高いシナリオを書かせていますしね。
 映像はオープニングからCGを多用した見せ場の連続で、観客は息つく暇がなく、アクションシーンは新3部作の中では一番見ごたえがありました。前半の宇宙での戦いのスケールの大きさはさすがスターウォーズといった感じですし、ラスト30分のオビワン対アナキンとヨーダ対皇帝の対決はすごい迫力と緊張感がありました。特にアナキンとアナキンの対決の最後オビワンがアナキンに「選ばれし者だったのに」と言う悲痛なセリフはとても印象に残りました。オビワンにとって自分の弟子に裏切られたということは、さぞショックだったでしょうね。このシーンを見ると、4作目のデススターでのオビワンとダースベイダーの2度目の師弟対決の意味がまた違って見えてきますね。
 またこの映画は随所に旧3部作へと繋がるシーンが見られ、昔からのファンには嬉しかったです。宇宙船のデザインも旧3部作のデザインに近づいていますし、チューバッカーが出てきたところは嬉しかったです。またラストにエピソード4のオープニングで出てきた宇宙船やタトゥイーンのルークの家が出てきた所は感動しました。これから20年後アナキンの息子ルークが銀河共和国とアナキンを救うべく立ち上がるんだと思うと、心にぐっとくるものがありました。
 しかし、C3POやR2D2をオビワンやダースベイダーはなぜ覚えていないのかなど、旧3部作のストーリーとつながらない部分がいくらかあり、とても気になりました。またあれほど強いヨーダがなぜ急速に老けて、あんなお茶目なヨーダになってしまったのかも不思議でした。
 エピソード3は暗い話しですが、あくまで6部からなる壮大な物語の中盤ですからね、この映画を見た後は旧3部作を見返して、銀河の平和とアナキンの解放を見届けないといけませんよね。
 
制作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 141分
監督 ジョージ・ルーカス 
製作総指揮 ジョージ・ルーカス 
脚本 ジョージ・ルーカス 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 ユアン・マクレガー 、ナタリー・ポートマン 、ヘイデン・クリステンセン 、イアン・マクディアミッド 、サミュエル・L・ジャクソン 

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私の映画遍歴7「スターウォーズ」

私の映画遍歴7「スターウォーズ」スターウォーズ・トリロジー

 私が小学校のときに夢中になった映画というと『スターウォーズ旧3部作』(『新たなる希望』~『ジェダイの復讐』)があります。始めて見たのは小学校低学年の時でした。その時は、あまりの面白さとかっこよさにすぐにスターウォーズの虜になってしまいました。
 当時はルークがジェダイになる姿に大変感動するとメカのかっこよさとリアルな質感に感動し、プラモを買って作ったりしたものでした。また友達と木の棒でライトセーバー戦ごっこをしたりしたものでした。
 スターウォーズの魅力は語ると尽きることがありません。ルークの成長物語を中心としたストーリーの面白さ、キャラクターの魅力、アナログな特撮技術の素晴らしさ、ジョン・ウィリアムスのかっこいい音楽。ここまで何度見ても面白く、深くはまれる映画はなかなかありません。
 まずストーリー面では、「帝国の逆襲」と「ジェダイの復讐」(現在は「ジェダイの帰還」と改題されています。)で繰りひろげられるルークとダースベーダー(アナキン・スカイウォーカー)の父と子のドラマが印象的でした。「帝国の逆襲」のラストに明かされるダースベーダーがルークの父親だという事実は始めてみたときは衝撃を受けたものでした。そして「ジェダイの帰還」のラストで繰りひろげられる父と子の戦いと和解のシーンは子どもながらに興奮し、感動したものでした。またサイドストーリーのレイアとハン・ソロの恋物語も子どもながらにどきどきしたものでした。
 キャラの魅力に関しては、スターウォーズを語る上で外すことは出来ません。ここまでキャラに人気がある映画は他にないと思います。アウトローの魅力に溢れたハン・ソロ、Cー3POとR2-D2のロボットコンビ、毛むくじゃらのチューバッカー、そしてルークの師匠であり、宇宙一のジェダイであったヨーダ。また帝国軍側の冷酷無比な指揮官であり、ルークの父であるダースベイダーの強烈なインパクト、傍役でありながら強い印象を残すボバ・フェット。どのキャラクターもその過去や未来が気になるだけのインパクトと魅力を持っています。
 スターウォーズの魅力を語る上で特撮技術の素晴らしさを外すわけにはいけません。まだCG技術もなかった時代に、ミニチュアとマットペインティングを多用して作り上げた特撮シーンは、CGにはないリアルな質感がありました。もちろん合成技術などは確かに今見ると粗が目立ちますが、新3部作より旧3部作のほうが特撮技術の見せ方やセンスが上手いような気がします。これは当時のルーカスやクリエイターのセンスがよかったのかもしれません。特に旧3部作はメカの造形が素晴らしく、ミレニアムファルコン号やスパーデストロイヤー、XウィングのかっこよさはSF映画史に残るものです。
 あと忘れてはいけないのがジョン・ウィリアムスの音楽。20世紀FOXのロゴが出た後に鳴り響くスターウォーズのテーマ曲はスターウォーズの世界に観客を一気に誘い込みます。ブラスの勇壮な音はスターウォーズのスケールの大きさを音楽で見事に表現しています。また帝国軍のテーマ曲もとてもインパクトがあり、あの曲が流れるとダースベーダーの顔が条件反射のように頭に浮かんできます。彼の音楽なしではスターウォーズの魅力は半減していたと思います。
 スターウォーズ旧3部作は私にとっては思い入れの深い作品ですし、今見てもとても魅力のある作品です。昨年新3部作も『エピソード3』を持って完結し6部作のサーガとして完結しましたが、新3部作(『ファントム・オブ・メナス』から『シスの逆襲』)は旧3部作に比べると質がだいぶ落ちており、あまり面白くありませんでした。特撮技術はCG技術の向上と共に完成度が高くなっていますが、旧3部作にあったストーリーの面白さやキャラの魅力という点に関しては全くだめな作品でした。新3部作はあくまで旧3部作に向けての長い前置きにしか過ぎないという印象しか持ちえませんでした。新3部作はダースベイダー(アナキン・スカイウォーカー)を中心にした作品でしたが、彼に全く共感ができませんでした。これはルーカスの脚本のまずさだと思います。
 最近DVDで旧3部作のボックスセットが発売されましたが、オリジナルにCGでだいぶ手を加えており微妙でした。特に『ジェダイの帰還』のラストの大幅な変更はショックでした。ルーカスとしては今発売されている作品が完全版と位置づけているようですが、昔スターウォーズを見た世代にとって、改変されたDVD版のスターウォーズはもう一つ微妙な感じがします。今年中に映画公開当時のオリジナル版スターウォーズのDVDが発売されるようで今から楽しみです。
 スターウォーズ旧3部作は小学生の頃の私にとっては思い入れの深い作品であり、映画史に残る傑作です。

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『シンドラーのリスト』この映画を見て!

第74回『シンドラーのリスト』
Schndlerslist  今回紹介する映画はスティーブン・スピルバーグの渾身の作品『シンドラーのリスト』です。スピルバーグは82年に原作の映画化権を手にいれ、10年近く構想を練った後、この映画の制作に着手しました。ホロコーストを扱った白黒映画で25億円という莫大な制作費をかけた映画ということで映画会社は撮影をかなり渋ったようですが、監督は自らのギャラを返上してこの映画の制作に挑んだようです。第2次世界大戦におけるホロコーストの実態をセミドキュメンタリータッチで描いた『シンドラーのリスト』は公開されると大反響を呼びました。手持ちカメラを利用した緊迫感あふれる映像、生々しい殺戮シーンは観客にとてもインパクトを与えました。スピルバーグは今まで賞は取れない監督と言われていたのですが、この映画で念願のアカデミー賞を初めて獲ることができました。
 ストーリー:「第二次大戦下のドイツ。実業家シンドラーは軍用ホーロー器工場の経営に乗り出し、ゲットーのユダヤ人たちを働かせた。やがて彼は、ユダヤ人に対する迫害に心を動かされ、彼らを強制収容所送りから救うのだった。」
 私がこの映画を見たのは高校1年生のときでしたが、見たときは大変な衝撃を受けました。人が虫けらのようにあっけなく死んでいくシーンの連続に、人間の命というものが状況しだいで如何に軽くなるかということが分かりショックを受けました。人の命は重いと言われながら、人類の歴史の中でいかに軽く扱われてきたか(そして現在も扱われているか)という現実をこの映画を見て再認識させられました。私はこの映画を見て一番強く感じたのは命の尊さとか戦争の愚かさなどではなく、人間の狂気や暴力性というものでした。人間という生き物が持つ狂気と暴力性が剥き出しになったときの悲劇というものを強く思いました。
 この映画は映像のインパクトが強烈です。陰影のあるモノクロの映像は、当時のドキュメンタリー映像を見ているかのようです。また一部パートカラーのシーンもあるのですが、とても印象的な使われ方をされています。撮影はポーランド出身のヤヌス・カミンスキーが担当しているのですが、この映画の後、監督は彼とコンビを組み、陰影のある独特な映像スタイルを作り上げていきます。(ただ、カミンスキーの映像は娯楽映画には合わないような気がしますが。)
 ストーリーはオスカー・シンドラーが完全無欠のヒューマニストとして描かれるのでなく、酒と女とお金が好きな胡散臭い人間として描かれているところが逆に好感が持てます。根っからの善人でなく、善と悪と両方を持ち合わせた人間が葛藤しながら善に向かおうとする姿に人間の希望が描かれていると思います。ただ映画のラストはあまりにもあざとく、ヒューマニズム色が強くて、個人的にあまり好きではありません。ドキュメンタリータッチで最後まで通して欲しかったです。
 この映画はユダヤ人であるスピルバーグにとっては、自分の同胞たちの苦難の歴史を記すという非常に大きな意味があったと思います。スピルバーグにとって自分がユダヤ人であるということは大きなアイデンティティであり、映画を制作する際も常に意識しているところがあります。スピルバーグの最新作『ミュンヘン』も戦後のユダヤ民族の悲劇を描いた作品でした。
 この映画の描写に関して事実を捏造しているという批判もあります。しかし私はこの映画が描こうとしているテーマや内容に関しては見るべきものが多いと思います。残酷なシーンが数多くあり、気分が重くなる映画ではありますが、人間の狂気や暴力の悲劇というものを考えさせられます。ぜひ一度見てみてください。

製作年度 1993年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 195分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
製作総指揮 キャスリーン・ケネディ 
原作 トーマス・キニーリー 
脚本 スティーヴン・ザイリアン 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 リーアム・ニーソン 、ベン・キングズレー 、レイフ・ファインズ 、キャロライン・グッドオール 、ジョナサン・サガール 

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『ソドムの市』この映画を見て!

第73回『ソドムの市』
Sodomu 今回紹介する映画は私が今まで見てきた何百本という映画の中で一番衝撃を受けた作品です。マルキ・ド・サドの『ソドム百二十日』を原作に舞台を第二次大戦下に置き換えて映画化されたのですが、その過激な映像とストーリーは今見てもかなりのインパクトがあります。この映画は見る人をとても選びます。小中学生や倫理観や道徳観の強い人は決して見ないほうがいいですし、残酷な描写が苦手な人も見ないほうがいいかもしれません。
 ストーリー:「第2次世界大戦末期、ナチ占領下の北イタリア。ファシストで権力者の公爵・司教・大統領・判事の4人は、自分たちの快楽のために“完璧”な少年少女を街から強制的に集めてくる。秘密の館に連行された美少年・美少女は4人の権力者によって、想像を絶する地獄を体験する。地獄の門・変態地獄・糞尿地獄・血の地獄の4部構成からなる映画史に名を残す問題作。」
 この映画は全編ショッキングで異様なシーンの連続です。レイプ・スカトロ・ソドミー・SM・拷問・虐殺と反倫理的・反道徳的なシーンが次から次へと出てきます。結末も救いようがなく、絶望的です。ここまで観客に後ろめたさと嫌悪感を感じる作品はそうありません。それでいながら、この映画は見ている途中映像から目が全く離せないほど力を持っている作品でもあります。
 この映画は人間の醜さや愚かさ、残酷さを徹底して描きます。この映画を見ると、権力を握った人間たちの傲慢さや愚かさ、力を奪われた人間たちの無力さというものをとても痛感します。この映画はとても過激なシーンの連続でショックを受けますが、よくよく考えると現実の世界では、この映画で描かれている強姦や虐殺・拷問は世界のどこかでいまっも日常的に起こっています。権力に従順になってしまう人間も数多くいます。ただ多くの人はそのような現実をあえて直視しようとはしません。この映画は私たちが見ようとしないこの世界の闇をデフォルメした形で観客に突きつけてくる作品です。
 またこの映画は過激な内容に反して、政治的メッセージが強い作品です。監督のパゾリーニは共産主義者だということもあり、権力に屈した人間たちの悲劇や反権力、反体制といったメッセージがあちこちにこめられた作品でもあります。
 さらに、この映画は人間に対する諦観が感じられます。力を持つと欲望の赴くままに行動する人間という存在。人間が欲望をセーブするために生み出した宗教や道徳・倫理といったものが如何に恣意的で脆弱なものか・・・。この映画は人間という生き物の闇の部分を徹底的に追求した映画です。この映画を見ると、しょせん人間なんてこの世界で大した存在ではないということを認識できると思います。
 この映画はとても残酷な映画ですが、映像・音楽共にとても美しく、芸術的に見るべきところが多い作品でもあります。シンメトリーな構図を多用した映像は人工的な雰囲気が感じられ、人間によって完全に管理された空間での出来事であることを見事に表現しています。モリコーネの音楽もとても美しく、逆に映画のもつ異様な雰囲気を引き立てます。
 またストーリーの割りに映画に流れは淡々としており、役者のオーバーな演技が逆に見る者を冷めさせ、客観的な立場で見られる作品となっています。
 ちなみに監督のパゾリーニはこの映画の公開直後に、映画に出演した少年に悪戯をしようとして顔面を殴られ殺されてしまいました。この映画はさまざまなメッセージ性やテーマがこめられていますが、それは建前に過ぎず、ある意味、パゾリーニの性に対する抑圧された変態願望が表現されただけの映画かもしれません。
 この映画は一度見ると二度と見たくないと思う作品かもしれませんが、一度は見て損はない作品だと思います。決して単なるエログロのB級作品ではありません。ただお食事中には絶対に見てはいけませんよ。

製作年度 1975年
製作国・地域 イタリア
上映時間 118分
監督 ピエル・パオロ・パゾリーニ 
原作 マルキ・ド・サド 
脚本 ピエル・パオロ・パゾリーニ 、セルジオ・チッティ 
音楽 エンニオ・モリコーネ 
出演 パオロ・ボナチェッリ 、ジョルジオ・カタルディ 、カテリーナ・ボラット 、アルド・ヴァレッティ 、ウンベルト・P・クィナヴァル 

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『テルーの唄』

お気に入りのCD.NO9『テルーの唄』
Song_of_  今回紹介するCDは7月に公開されるスタジオジブリ最新作『ゲド戦記』の挿入曲『テルーの唄』です。この唄は萩原朔太郎の詩「こころ」にヒントを得た宮崎吾朗監督が作詞、「恋するニワトリ」や「しっぽのきもち」などで有名な谷山浩子が作曲を手がけ、18歳の新人歌手・手嶌葵が歌っています。
 私がこの曲を最初に聞いたのは『ゲド戦記』の予告編を見たときでした。透き通る歌声と、切なくてそれでいて励まされる歌詞、素朴で親しみやすいメロディーに、聞いていて涙が出そうになりました。ここまで心を揺さぶられる唄には久しぶりに出会いました。
 萩原朔太郎の「こころ」に触発された宮崎吾郎の歌詞は一つ一つの言葉が胸に染み入ります。人知れず自分の道を歩いていくことの寂しさや切なさを、美しい喩えで表現しています。聞き終わると、自分の心が洗われたような感じになります。ちなみに萩原朔太郎の『こころ』は次のような詩です。

『こころ』 萩原朔太郎

こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。

こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん。

こころは二人の旅びと
されど道づれのたえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。

 また手嶌葵の歌声がとても美しく、言葉のもつ力や魅力をさらに引き出しています。素朴であたたかく、優しい彼女の歌声は聞く人の心を落ち着かせてくれるものがあります。さすがスタジオジブリ、いつもながら素ばらしい歌手を見つけてくるものです。
 ちなみに歌のタイトルになっている『テルー』とは原作では4巻と5巻に登場する人物で、親に殺され掛け、顔にひどいやけどを負った孤独な少女です。彼女はゲドとゲドの愛した女性テナと共に暮らすのですが、3巻をベースにした映画での彼女の設定や役割がどういうものなるのか楽しみです。
 映画自体はどのような作品になるかまだ未知数ですが、唄に関しては傑作です。この唄が映画の中でどのように使用されるのか非常に楽しみです。ぜひ皆さんもこのCDを買って聞いてみてください。

ゲド戦記公式サイト:http://www.ghibli.jp/ged/

手嶌葵公式サイト:http://www.teshimaaoi.com/

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『プラトニック・アニマル―SEXの新しい快感基準』街を捨て書を読もう!

『プラトニック・アニマル―SEXの新しい快感基準』 著:代々木忠 幻冬舎アウトロー文庫
Photo_3  今回紹介する本は過激なタイトルや表紙に反して、中身はとても真面目に性について書かれており、現代人が持つ性や生き方に対する価値観が大きく変わってしまうほど素晴らしいメッセージ性をもっています。
 性に関する本はたくさん出版されていますが、その多くはハウツーものだったり、テクニックに関する内容のものばかりです。しかし、この本はそれらの本とは全く違います。著者は元やくざで、
AV界の大御所である代々木忠。彼は自分がアダルトビデオの撮影現場で出会った女性や現場での経験を通して、性の奥深さや愛の本質について語っていきます。彼は現代人が持つ歪んだ性に対する考えに警鐘を与えると共に、個が抑圧された社会の中で性を通して自らを解放していくことの重要性を説きます。制度の中で建て前ばかりを気にする現代人。恋人と付き合うときもどうしても建て前を気にしてしまい、自らをさらけ出せない男たちや女たち。そんな現代人に対して、彼は性を通して自らをさらけ出せと訴えます。さらに愛とは自らをどこまでさらけ出すことができるかが重要になると説きます。
またこの本は性を通して自らを解放させていくための実践的な方法も書かれており、その内容は誰でもできるもので、とても参考になります。
 この本は性を通して生を語る奥深い本です。ぜひ結婚した夫婦や恋人たち、そして独身の人にもぜひ読んでほしい本です。

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『28日後』この映画を見て!

第72回『28日後』
28日後... 特別編 今回紹介する映画は『トレインスポッテイング』で有名なダニー・ボイル監督が制作した世紀末ホラー映画『28日後』です。この映画はウィルスによって崩壊した文明社会の中で生き残った人たちの姿を捉えた作品ですが、恐怖と美しいに満ちた映像とリアルなストーリー展開がとても印象的な作品です。
 ストーリー:「怒りを抑制する薬を開発中のとある霊長類研究所。ある夜、精神を冒し即効性の怒りを発するウィルスに感染している実験用チンパンジーが、侵入した動物愛護活動家たちによって解放されてしまう。その直後、活動家の一人がチンパンジーに噛まれて豹変、仲間に襲い掛かる…。28日後。交通事故で昏睡状態に陥っていたメッセンジャーのジムは、ロンドン市内の病院の集中治療室で意識を取り戻す。ベッドから起き廊下をさまようジムだったが、院内にはまったく人の気配がなかった。28日間で広まったウイルスによって感染者は凶暴化し、世界は崩壊の危機に瀕していた。ジムは、感染者の攻撃をかいくぐりながら、わずかに残された非感染者とともに安全な場所を目指すが・・・。
 この映画を見たとき一番印象的だったのは走って襲ってくる感染者たちでした。昔のゾンビ映画などはノロノロした動作で襲ってくるので、まだ逃げれる余裕があったのですが、全力疾走で人間を襲ってこられると逃げ切るのも大変で怖いですね。また前半の誰もいないロンドンの街並みも印象的でした。人の気配が全く感じられない街を一人さまよう主人公の姿は見ていて、絶望感と不安を感じました。人によって作られた街から人ほとんどいなくなるということほど、孤独と恐怖を感じさせるものはないですよね。
 また後半の人間の敵は結局人間という救いのない展開もこの手の映画ではありがちですが、個人的には面白かったです。おそらく監督は感染の恐怖というより、人間の中に潜む暴力性や怒りというものを描きたかったのだと思います。しかし、その分後半はストーリーが尻すぼみになり、感染者の襲撃シーンが少なかったのが残念ですが・・・。
 私は昔からジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』『死霊のえじき』が大好きなのですが、『28日後』は随所にロメロのゾンビ映画の影響が感じられました。荒廃した街、無人のスーパーマーケットでの買い物、軍人の愚かさとロメロのゾンビ映画を彷彿させるシーンが随所に見られ、ジョージ・A・ロメロ監督の影響の大きさを改めて思いました。
 この映画はダニーボイルらしく、この手の映画にしては映像・音楽共に美しいです。デジタルビデオによって撮影された映像は生々しさと独特な美しさがあります。また音楽も途中で挿入される「アヴェ・マリア」の曲もとても印象的でした。
 ちなみにこの映画はエンディングが何種類も存在しており、DVDには劇場公開された希望に満ちたエンディング以外に、3つのエンディングが入っています。劇場公開されたエンディングとはまた味わいの違うエンディングなので、興味のある人はぜひ購入するかレンタルするかして見てください。ちなみに私は劇場公開されたエンディングが一番好きです。
 この映画はホラー映画でありますが、そんなに怖くありませんし、追い詰められた人間の心理や業を描いたドラマとして見ても十分楽しめる作品となっています。ストーリー展開や設定の詰めの甘さなどあり、決して傑作とまでは言えませんが、見て損はない作品だと思います。

製作年度 2002年
製作国・地域 イギリス/アメリカ/オランダ
上映時間 114分
監督 ダニー・ボイル 
製作総指揮 グレッグ・カプラン 、サイモン・ファロン 
脚本 アレックス・ガーランド 
音楽 ジョン・マーフィ 
出演 キリアン・マーフィ 、ナオミ・ハリス 、クリストファー・エクルストン 、ミーガン・バーンズ 、ブレンダン・グリーソン

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『ポセイドン・アドベンチャー』この映画を見て!

第71回『ポセイドン・アドベンチャー』
Poseidon  今回紹介する映画はパニック映画の傑作であり、明日から公開される超大作『ポセイドン』のオリジナルに当たる作品です。この作品は72年公開当時に大ヒットを飛ばし、その後、ハリウッドでパニック映画がブームとなりました。この映画の後数々のパニック映画がハリウッドで制作されましたが、設定の面白さとシナリオの素晴らしさでこの映画を超える作品は『タワーリングインフェルノ』を除いてないと思います。
 ストーリー:「ニューイヤーズ・イブの夜、米国豪華客船ポセイドン号は、1400人を乗せてアテネに向かっていた。しかし、その時海底地震が発生し、数分後船は大津波にのまれて転覆、天地が逆転した船内からの脱出にスコット牧師を始めとした10人の男女が挑む。」
 この映画を私が最初に見たのは幼稚園の時でした。テレビで放映されているのを家族と共に見ていたのですが、。非常に強いインパクトを残しました。ひっくり返った船のセット、逃げる人を次々と襲う困難、自らの命を犠牲にして仲間を助けようとする人たちの姿など小さいとき食い入るように見ていたのを覚えています。スコット牧師のラストの行動にとても衝撃を受け、自分が同じ立場ならあのようなことが出来るか、子どもながらに悩んだものでした。さらにこの映画を見終わった後はしばらく船恐怖症にもなってしまい、本気で船に乗るのが嫌でたまりませんでした。(『ジョーズ』を見た後も、しばらく海恐怖症になりましたが・・)小学生の時など、用事でフェリーに乗るときに、船底に近いとこにいたほうがいいのではとか、沈んだら船尾に向かわないとと本気で考えていたものでした。私にとって『ポセイドン・アドベンチャー』は小さいときからとても思い入れの深い作品でした。
 『ポセイドン・アドベンチャー』がリメイクされることを知り、久しぶりにDVDを買って見直してみたのですが、今見ても十分面白い映画でした。まだCGや特殊技術が発達していない時代に、ここまで迫力のある映像が撮られていたことに、改めて見て驚きました。特に船の天地が逆転するシーンの迫力は今見てもすごいものがあります。撮影するときはスタントの人は大変だったと思います。またDVDの特典映像を見ると、役者たちがスタントなしで実際の危険なシーンも演じていたようで、撮影は過酷だったそうです。ストーリーも無駄なシーンが一切なく、アクションシーンの中に濃厚な人間ドラマが展開されており、シナリオの上手さに感心しました。脱出する10人一人一人の個性が丁寧に描きこまれ、ストーリーに反映されているので、見る側も登場人物に感情移入がしやすいです。またストーリーの背景には旧約聖書に記されるモーゼがエジプトからユダヤの民を脱出させる話しがベースにあり、単なるパニック映画にはない奥深さがあります。特にベル婦人がスコット牧師を助けるために水の中に飛び込むシーンと、スコット牧師のラストのシーンは人間ドラマとして最高の見せ場であり、涙なしでは見られません。この映画を改めて見ると、最近の超大作映画が映像の迫力の割りに中身が薄いなと思いました。
 一昔前の作品ではありますが、この作品は完成度の高い娯楽映画であり、今見ても楽しめるものとなっています。リメイク版『ポセイドン』が公開された今、オリジナルの『ポセイドン・アドベンチャー』もぜひ見てみてください!

製作国・地域 アメリカ
上映時間 117分
監督 ロナルド・ニーム 
原作 ポール・ギャリコ 
脚本 スターリング・シリファント 、ウェンデル・メイズ 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 ジーン・ハックマン 、アーネスト・ボーグナイン 、レッド・バトンズ 、キャロル・リンレー 、ロディ・マクドウォール

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『嫌われ松子の一生』この映画を見て!

第70回『嫌われ松子の一生』
Memory_of_matuko  今回紹介する映画は現在劇場で公開され話題の『嫌われ松子の一生』です。この映画は中谷美紀の体当たりとも言える熱演と『下妻物語』の監督・中島哲也のキッチュでポップな演出が大きな見所となっています。
 ストーリー:「昭和22年・福岡県大野島生まれの川尻松子は、お姫様みたいに幸せな人生に憧れていた。しかし、20代で教師をクビになり、そこから人生は暗転直下、壮絶な不幸の連続にまみれた波乱万丈の人生を送ることになる。ろくでもない男たちと付き合い、風俗嬢になり、ヒモを殺害して刑務所へ送られ、やくざと恋に落ちる松子。幸せを求めながらどんどん泥沼にはまる松子の人生を明るくポジティブに、時に切なく描く。」
 私は最初はあまり興味がなかったのですが、見てきた人の周囲の評判が良く、どんな映画か気になり、先日見てきました。この映画の感想を一言で言うなら、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のストーリーと『ムーランルージュ』の映像や演出を足して2で割ったような感じの印象を私は受けました。(この2作を見たことがある人は分かると思います。)
 終始テンションの高い演出と役者の演技に、カラフルでポップな映像、ミュージカルシーンの音楽の面白さに圧倒されました。暗く救いのない主人公の人生を、どこまで明るくポジティブに捉えていく監督の手腕は素晴らしく、見終わった後、主人公の不器用な生き方にどこか清清しいものさえ感じました。特にミュージカルシーンの演出やセンスのよさは今までの日本映画では見られなかったほど、出来のよいものでした。あと個人的に、監督の片平なぎさを出したお遊びのシーンや時折挟まれるブラックユーモアな演出がツボにはまって笑ってしまいました。ただ後半ストーリーの流れや演出が少しもたつき、テンポが悪くなったのが個人的に残念でした。後20分くらい後半が短ければ、より傑作になったと思います。
 この映画の主人公・松子を演じた中谷美紀は体当たりの熱演をしています。不器用で愚かだけど、妙にポジティブな女性という難しい役どころを演じきったものです。ここまで幅広い演技が出来るとは思っていなかったので、正直びっくりしました。ただ如何にも「私がんばって演技していますよ」という印象も時折受けることがありました。また脇を固める役者もとても豪華で、見ていて楽しめました。とくに宮藤官九朗と黒沢あすかの演技がとても印象的でした。また思わぬ役どころで出る片平なぎさの姿には笑ってしまいました。
 この映画の主人公・松子の人生は一見すると不幸で救いようのない人生に思えますが、私はけっして彼女の人生は不幸なだけで意味がないものではなかったのだろうなと思います。本当に自分のことを気にしてくれる友人や愛人とも出会えましたし、彼女の人生に共感してくれる甥も現れました。この映画は絶望を描きながら、常に希望も描いています。どん底まで落ちていき、もうだめだと何度も思いながらも、希望を求めて生き延びていこうとする松子の姿に人間の生への欲求というものを感じました。人間の愚かさや醜さ、たくましさに切なさと言ったものをデフォルメした形で見事に描いていると思います。
 私はこの映画は今年の邦画ベスト3に入るほどの力作だと思っています。まだ見ていない人はぜひ劇場で見ることをお奨めします!

製作年度 2006年
製作国・地域 日本
上映時間 130分
監督 中島哲也 
原作 山田宗樹 
脚本 中島哲也 
音楽 ガブリエル・ロベルト 、渋谷毅 
出演 中谷美紀 、瑛太 、伊勢谷友介 、香川照之 、市川実日子、黒沢あすか、柄本明、AI、劇団ひとり、ゴリ、宮藤官九朗、片平なぎさ、土屋アンナ

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