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『ゲド戦記Ⅱ こわれた腕輪』街を捨て書を読もう!

『ゲド戦記Ⅱ こわれた腕輪』著:ル=グウィン 訳:清水真砂子 岩波書店
こわれた腕環―ゲド戦記 2 今回紹介する本はゲド戦記シリーズ第2作目『こわれた腕輪』です。第1作目『影との戦い』はゲドが魔法使いとなり、自らが闇の世界から呼び出したと影と対決をするという話でした。第1作目はゲドが過酷で孤独な冒険をしていく中で、己を見つめ成長していく姿を克明に描き出していました。
 第2作目はそんなゲドは脇役へと回り、テナー(アルハ)という少女が主人公となります。話し自体も第1作目と多少は関連性はあるものの、全く独立した話しとして読むことができます。
 第2作目は古代から存在するアチュアンの墓所とその下にある暗黒の地下迷宮が舞台になります。墓所は代々巫女の手によって守られているのですが、ある日、大巫女が亡くなり、その大巫女の生まれ変わりとして選ばれた幼き少女テナーが墓所に連れてこられます。テナーは自らの名前を奪われ、新しくアルハ(喰われし者)という名前を与えられ、死ぬまで墓所を守るべき者として生きることを強いられることになります。墓所は戒律と儀式で満ちており、時が止まったような世界。アルハはそんな世界で淡々と自らの役割を果たす生活を送っていたのですが、ある日地下迷宮に眠る秘宝「エレス・アクベの腕輪」の片割れを求めてゲドが墓所に現れた時から、彼女は自らの生き方に激しい葛藤を覚えるようになります。
 今回の物語は少女の自立への葛藤をテーマにしています。伝統や習慣に縛られ主体性を奪われた人間が自由を手に入れ主体性を取り戻すまでの内面の不安や葛藤を克明に描いていきます。自由は素晴らしいものであるものの、時に人にとって重荷になることを作者はテナーの葛藤を通して描きます。ラストのラストまでテナーは自由を手に入れることに恐怖を覚えます。自分が自分の人生の主人となることがいかに困難なことであるかを痛感させられます。物語の終盤に作者は自由について読者に次のように語りかけます。

「自由はそれをになおうとする者にとって、実に重い荷物である。勝手の分らない大きな荷物である。それは決して気楽なものではない。自由は与えられるものではなくて、選択すべきものであり、しかもその選択は、必ずしも容易なものではないのだ。」

 また今回の物語ではゲドはテナーを自由へと導く者として読者の前に現れます。ゲドは彼女を墓所の呪縛から解放させようと語りかけ、信頼関係を築いていく姿は感動的です。自立をしていくためには信頼できる他者の助けが必要であることをこの物語はテナーとゲトとの交流を通して描いていきます。

「あんたには知識がある。わたしには術がある。そしてわたしたちふたりの間には・・・・。」男は口ごもった。
「エレス・アクベの環がある。」
「そうだな。しかし、わたしはもうひとつ別のことを考えていた。信頼と呼ぼう。・・・・・そう、たしかにそう呼んでいい。
これはすばらしいものだ。おたがい、ひとりでは弱いけれど、信頼があれば、わたしたちは大丈夫だ。」
 
 第1作目はアースシーの様々な島を舞台に物語が展開され、スケールの大きい話でしたが、今回はアチュアンの墓所と地下迷宮という非常に限定された場所を舞台に物語が展開されます。前作が広い世界を転々と旅するゲドの姿を描く中で、己という存在と向き合う話しだとすれば、今作は閉鎖的な世界で、己を失ったテナーが己を取り戻し、世界の広さを知るまで描いた話しです。前作が自分探しの話しだとすれば、今作は自分探しを始めるまでの話しです。
 『こわれた腕輪』は自分を見失いかけた時に読むと、とても励まされる作品です。ぜひ、皆さまも読んでみてください!
 

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» 「ゲド戦記〜こわれた腕環〜」ル=グウィン [読書とジャンプ]
ジブリの「ゲド戦記」(感想はこちら)を見た後、読み始めました。アースシー世界では、島々の間に争いが絶えない。青年ゲドは、平和をもたらすエレス・アクベの腕環を求めてアチュアンの墓所へおもむき、暗黒の地下迷宮を守る巫女の少女アルハと出会う。〜壊れた腕環〜よ...... [続きを読む]

受信: 2006年8月 6日 (日) 17時39分

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