『シュナの旅』街を捨て書を読もう!
『シュナの旅』 著:宮崎駿 徳間書店アニメージュ文庫
今回紹介する本は『風の谷にナウシカ』や『ハウルの動く城』など数々の名作アニメを監督した宮崎駿が80年代に書いた絵物語です。この作品はとても地味な作品で、知っている人も少ないと思いますが、宮崎駿のエッセンスが詰まった傑作です。
『シュナの旅』はチベットの民話「犬になった王子」に感銘を受けた宮崎駿が、映画化しようとしたものの制作できず、変わりに絵物語として出版された作品です。ストーリーはとてもシンプルで地味なものですが、読み終わったあと、深い感動に包まれます。
ストーリー:「作物の育たない貧しい国の王子シュナは、大地に豊饒をもたらすという金色の種を求め、西へと旅に出る。つらい旅の途中、人間を売り買いする町で商品として売られている姉妹と出会う。彼女らを助けた後、ひとりでたどり着いた「神人の土地」で、金色の種を見つけるが、それと引き換えに彼は記憶を失ってしまう・・・。」
この作品は荒廃した世界の中で、何とか生き延びようとする人間たちの勇気とたくましさを描いた作品です。そして、どんな絶望の中でも常に希望は存在し、その希望に向かって困難な状況に立ち向かっていく人間の美しさや崇高さを描いた作品でもあります。
主人公の少年は『もののけ姫』のアシタカのような青年であり、ヒロインのテアはナウシカやシータのようなたくましい少女です。この2人が絶望的な世界で何とか生き延びようと立ち向かう姿は読んでいて、胸を打つものがあります。物語は前半は荒廃した世界の過酷な現実に直面した青年シュナの孤独な戦いを描き、後半はシュナの手により奴隷から解放されたテアのシュナへの献身的な愛が描かれます。物語の後半のテアのシュナへの献身的な愛と、それによって自分を取り戻していくシュナの姿は読んでいてとても感動的です。
またこの作品は水彩画で全編描かれているのですが、とても美しい色彩です。また描かれる世界も荒廃した世界でありながら、魅力的でもあります。特に物語中盤の神人の土地の絵は、宮崎駿のイメージの豊かさに圧倒されると思います。さらに『もののけ姫』で登場したヤックルそっくりの動物も登場します。
私はこの作品を読むと今度スタジオジブリで映画化される『ゲド戦記』の原作に宮崎駿がかなり影響を受けていることがよく分かります。ストーリーの展開も主人公の設定も、その世界観もどこか『ゲド戦記』を思い出させるものがあります。もし、この作品が気に入ったなら『ゲド戦記』も読んで欲しいと思います。
この作品は地味な作品ですが、宮崎駿らしさがとても詰まった作品です。『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』が好きな人は買って損はないと思いますよ!
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