« 『べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章』街を捨て書を読もう! | トップページ | スタジオジブリの映画と主題歌 »

『ナイロビの蜂』この映画を見て!

第69回『ナイロビの蜂』
Nairobi  今回紹介する映画は今年度アカデミー賞でレイチェル・ワイズが助演女優賞を取った作品『ナイロビの蜂』です。この作品、日本では同時期公開の『ダヴィンチ・コード』の影に隠れてしまっていますが、とても素晴らしい作品です。冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの同名ベストセラーを、『シティ・オブ・ゴッド』で一躍有名になったフェルナンド・メイレレス監督が見事な手腕で映画化しています。『シティ・オブ・ゴッド』はブラジルのスラム街におけるギャングの盛衰と、その中でジャーナリストになることを夢見る少年の話を躍動感ある映像で見せた傑作でしたが、今回の作品も監督の持ち味が存分に発揮された映画です。
 私はこの作品を実際に映画館で見るまでは、宣伝の仕方からして、異国の地で白人たちが織り成す甘いメロドラマかと思いこんでいました。ところがいざ見てみると、非常に骨太な社会派作品であったので、びっくりしました。もちろん宣伝なので言われているように、夫婦の愛や絆が描かれている作品なのですが、それよりも夫婦がアフリカで直面する多国籍企業による搾取の生々しい現状のほうに目が奪われてしまいました。
 ストーリー:「ケニアのナイロビ。ガーデニングが趣味の英国外務省一等書記官ジャスティン。彼にはアフリカの貧困層に対して救援活動を続ける妻テッサがいた。しかし彼は妻の行動には関心を持たず、見ない振りをして、ガーデニングに熱中していた。そんなある日、テッサは救援活動中に何者かに殺されてしまう。現地の警察はよくある殺人事件の一つとして処理しようとしていた。しかし、事件に不審なものを感じたジャスティンは、自ら調査に乗り出す。やがて、彼は事件に新薬開発をめぐる国際的陰謀が絡んでいたことを知る。妻が一体アフリカの貧困層で何をしようとしていたのか懸命に探ろうとするジャスティン。しかし、そんな彼にも身の危険が迫っていた・・・。」
 この作品はラブストーリーを期待して見た人は、予想外のストーリーにかなり衝撃を受けるはずです。アフリカの貧困層の過酷な現状や、先進国が開発途上国を食い物にして利益を得ようとする姿がストレートに描かれており、非常に考えさせられる作品です。命の重さとは何か映画を見終わって考え込んでしまいました。
 見て見ぬふりをする夫と見て見ぬふりができなかった妻。妻はアフリカの貧困層の現状を変えようと戦い死んでいき、夫はそんな妻の亡き後を追う中でアフリカの厳しい現実と向き合い、妻が何をしようとしていたのか理解するようになる。この作品は妻の遺志を夫が継いで果たすまでを描く作品であり、夫が妻を理解し彼女の元に返るまでを描いた作品です。映画のラストはとても物悲しいですが、夫婦の絆が深まったという点では良かったのかもしれません。
 この作品はストーリーの素晴らしさはもちろんのこと、映像や演技においても見ごたえのある作品です。映像においては手持ちカメラによるドキュメンタリータッチの生々しい映像やアフリカの雄大な大地をロングショットで捉えた美しい映像が印象に残りました。また映像の色彩がアフリカのパートでの鮮やかな色彩とヨーロッパのパートでのくすんだ映像のコントラストが印象的でした。また現代と過去と時系列が交錯した編集の仕方も素晴らしかったです。
 また演技においては、レイチェル・ワイズがアカデミー賞を取っただけあって印象的です。『ハムナプトラ』シリーズのヒロイン役としか個人的に印象がなかった彼女がこんなに演技が上手いとは驚きました。彼女演じる妻テッサの母性と女性と両方の魅力を持ち合わせた姿がとても印象的でした。レイフ・ファインズも最初は頼りなさそうな夫でありながら、後半は妻を思いながら孤独に戦う男の葛藤を見事に演じていました。ラストの湖での全てを受け入れた彼の姿は胸にぐっときました。またストーリーとは関係ないですが、時折映るスラム街の子どもたちの笑顔もとても心に残りました。
 この映画は、ラブストーリーとしても、社会派サスペンスとしても味わいがある作品です。ラストは切なく、そして重いです。しかし見終った後、愛とは何か、命とは何かなど、いろいろと考えさせてくれる作品です。現在劇場で公開されているので、ぜひ見てみてください。

制作国 イギリス
製作年度 2005年
上映時間 128分
監督 フェルナンド・メイレレス 
原作 ジョン・ル・カレ
脚本 ジェフリー・ケイン
出演 レイフ・ファインズ 、レイチェル・ワイズ 、ユベール・クンデ 、ダニー・ヒューストン 、ビル・ナイ 

|

« 『べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章』街を捨て書を読もう! | トップページ | スタジオジブリの映画と主題歌 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

この映画を見て!~お奨め映画紹介~」カテゴリの記事

人間ドラマ映画」カテゴリの記事

コメント

TBありがとうございます☆
物悲しい音楽と色彩豊かなアフリカが美しかったです。
テッサとジャスティンの心情には共感しきれなかったので、恋愛モノとしてはいまいちでした。
フィクションなのに妙にリアルな製薬会社の話など社会派風味付けの効いたよいサスペンス作品と感じました。

投稿: Ren | 2006年5月25日 (木) 07時20分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『ナイロビの蜂』この映画を見て!:

» ナイロビの蜂/試写会 [如意宝珠]
ナイロビの蜂 THE CONSTANT GARDENER 公式サイト→http://www.nairobi.jp/ 監督: フェルナンド・メイレレス   製作: サイモン・チャニング=ウィリアムズ  原作: ジョン・ル・カレ      脚本: ジェフリー・ケイン  撮影: セザール・シャローン  プロダクションデザイン: マーク・ティルデスリー 編集: クレア・シンプソン    音楽: アルベルト・イグレシアス 出演: レイフ・ファインズ  レイチェル・ワイズ       ユベール・クンデ  ... [続きを読む]

受信: 2006年5月24日 (水) 23時01分

» ナイロビの蜂 [とんとん亭]
「ナイロビの蜂」 2006年 英 ★★★★☆ この春、一番観たくて心待ちにしていた、作品。やっと公開です。雄大なアフリカ大陸の大自然を舞台に、夫婦の愛や不条理に立ち向かう正義感や、やりきれない思いを切ない音楽に乗せて 描いた、リアリティあふれる物語...... [続きを読む]

受信: 2006年5月25日 (木) 06時44分

» ナイロビの蜂 [Akira's VOICE]
渇いた大地から届く,深い愛のドラマ。 [続きを読む]

受信: 2006年5月25日 (木) 10時24分

» ナイロビの蜂 [ネタバレ映画館]
 まさか!テッサ(レイチェル・ワイズ)がいきなり死ぬなんて・・・ひょっとすると双子の妹が現れてジャスティン(レイフ・ファインズ)の調査を手伝うのかと思ったよ・・・ [続きを読む]

受信: 2006年5月25日 (木) 12時03分

» 情熱に救いを見出す「ナイロビの蜂」 [万歳!映画パラダイス〜京都ほろ酔い日記]
 予告編を見た段階では、ラブロマンスなのか、サスペンスなのか、あいまいな感じで、観ようか止めようか迷っていた「ナイロビの蜂」(フェルナンド・メイレレス監督)。会社の後輩に「よかったですよ」と勧められ、彼が言うならと思って、観に行ってよかった。映画会社の売....... [続きを読む]

受信: 2006年5月25日 (木) 23時50分

» ■ナイロビの蜂 [ルーピーQの活動日記]
英国外務省一等書記官のジャスティン(レイフ・ファインズ)は、ナイロビの空港からロキへ旅立つ妻テッサ(レイチェル・ワイズ)を見送った。しかし2日後に帰ってくる筈だったテッサは、車で出かけたトゥルカナ湖の南端で殺され永遠に帰らぬ人となる。警察はよくある殺人事..... [続きを読む]

受信: 2006年5月26日 (金) 00時35分

» 「ナイロビの蜂」 2006-28 [観たよ〜ん〜]
「ナイロビの蜂」を観てきました〜♪ 英国の在ナイロビ一等書記官のジャスティン(レイフ・ファインズ)は、北部の街キロへ向かう妻テッサ(レイチェル・ワイズ)を空港で見送る。2日後また会えるはずだったが、彼の元に届いたのは訃報だった。彼女の死に疑問を持ったジャスティは、彼女がアフリカで何をしようとしてたか調べ始める・・・... [続きを読む]

受信: 2006年5月26日 (金) 06時37分

» ナイロビの蜂 [色即是空日記+α]
夫婦の深いラブストーリーであり、重い社会派サスペンス。怒りを覚え、恐ろしくもあり、切なくもあり、感動の話でもある。見ている間は感動も何もなかった。ただただ圧倒されて。エンドロールが流れ出しても最後まで席を立てずに湧き上がる思いを感じていた。... [続きを読む]

受信: 2006年5月27日 (土) 00時01分

» ナイロビの蜂 [カリスマ映画論]
【映画的カリスマ指数】★★★★★  地の果て、愛と信念を胸に・・・   [続きを読む]

受信: 2006年5月29日 (月) 02時27分

» 「ナイロビの蜂」を見てきました。 [よしなしごと]
 アフリカにおける製薬会社の汚職を命を省みず暴いていく感動作と思ってナイロビの蜂を見てきました。間違ってはいなかったけど、でも、この映画のテーマってラブストーリーだったのね。そんな風には全然思って見に行かなかった・・・。... [続きを読む]

受信: 2006年5月31日 (水) 19時19分

« 『べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章』街を捨て書を読もう! | トップページ | スタジオジブリの映画と主題歌 »