『ナイロビの蜂』この映画を見て!
第69回『ナイロビの蜂』
今回紹介する映画は今年度アカデミー賞でレイチェル・ワイズが助演女優賞を取った作品『ナイロビの蜂』です。この作品、日本では同時期公開の『ダヴィンチ・コード』の影に隠れてしまっていますが、とても素晴らしい作品です。冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの同名ベストセラーを、『シティ・オブ・ゴッド』で一躍有名になったフェルナンド・メイレレス監督が見事な手腕で映画化しています。『シティ・オブ・ゴッド』はブラジルのスラム街におけるギャングの盛衰と、その中でジャーナリストになることを夢見る少年の話を躍動感ある映像で見せた傑作でしたが、今回の作品も監督の持ち味が存分に発揮された映画です。
私はこの作品を実際に映画館で見るまでは、宣伝の仕方からして、異国の地で白人たちが織り成す甘いメロドラマかと思いこんでいました。ところがいざ見てみると、非常に骨太な社会派作品であったので、びっくりしました。もちろん宣伝なので言われているように、夫婦の愛や絆が描かれている作品なのですが、それよりも夫婦がアフリカで直面する多国籍企業による搾取の生々しい現状のほうに目が奪われてしまいました。
ストーリー:「ケニアのナイロビ。ガーデニングが趣味の英国外務省一等書記官ジャスティン。彼にはアフリカの貧困層に対して救援活動を続ける妻テッサがいた。しかし彼は妻の行動には関心を持たず、見ない振りをして、ガーデニングに熱中していた。そんなある日、テッサは救援活動中に何者かに殺されてしまう。現地の警察はよくある殺人事件の一つとして処理しようとしていた。しかし、事件に不審なものを感じたジャスティンは、自ら調査に乗り出す。やがて、彼は事件に新薬開発をめぐる国際的陰謀が絡んでいたことを知る。妻が一体アフリカの貧困層で何をしようとしていたのか懸命に探ろうとするジャスティン。しかし、そんな彼にも身の危険が迫っていた・・・。」
この作品はラブストーリーを期待して見た人は、予想外のストーリーにかなり衝撃を受けるはずです。アフリカの貧困層の過酷な現状や、先進国が開発途上国を食い物にして利益を得ようとする姿がストレートに描かれており、非常に考えさせられる作品です。命の重さとは何か映画を見終わって考え込んでしまいました。
見て見ぬふりをする夫と見て見ぬふりができなかった妻。妻はアフリカの貧困層の現状を変えようと戦い死んでいき、夫はそんな妻の亡き後を追う中でアフリカの厳しい現実と向き合い、妻が何をしようとしていたのか理解するようになる。この作品は妻の遺志を夫が継いで果たすまでを描く作品であり、夫が妻を理解し彼女の元に返るまでを描いた作品です。映画のラストはとても物悲しいですが、夫婦の絆が深まったという点では良かったのかもしれません。
この作品はストーリーの素晴らしさはもちろんのこと、映像や演技においても見ごたえのある作品です。映像においては手持ちカメラによるドキュメンタリータッチの生々しい映像やアフリカの雄大な大地をロングショットで捉えた美しい映像が印象に残りました。また映像の色彩がアフリカのパートでの鮮やかな色彩とヨーロッパのパートでのくすんだ映像のコントラストが印象的でした。また現代と過去と時系列が交錯した編集の仕方も素晴らしかったです。
また演技においては、レイチェル・ワイズがアカデミー賞を取っただけあって印象的です。『ハムナプトラ』シリーズのヒロイン役としか個人的に印象がなかった彼女がこんなに演技が上手いとは驚きました。彼女演じる妻テッサの母性と女性と両方の魅力を持ち合わせた姿がとても印象的でした。レイフ・ファインズも最初は頼りなさそうな夫でありながら、後半は妻を思いながら孤独に戦う男の葛藤を見事に演じていました。ラストの湖での全てを受け入れた彼の姿は胸にぐっときました。またストーリーとは関係ないですが、時折映るスラム街の子どもたちの笑顔もとても心に残りました。
この映画は、ラブストーリーとしても、社会派サスペンスとしても味わいがある作品です。ラストは切なく、そして重いです。しかし見終った後、愛とは何か、命とは何かなど、いろいろと考えさせてくれる作品です。現在劇場で公開されているので、ぜひ見てみてください。
制作国 イギリス
製作年度 2005年
上映時間 128分
監督 フェルナンド・メイレレス
原作 ジョン・ル・カレ
脚本 ジェフリー・ケイン
出演 レイフ・ファインズ 、レイチェル・ワイズ 、ユベール・クンデ 、ダニー・ヒューストン 、ビル・ナイ
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コメント
TBありがとうございます☆
物悲しい音楽と色彩豊かなアフリカが美しかったです。
テッサとジャスティンの心情には共感しきれなかったので、恋愛モノとしてはいまいちでした。
フィクションなのに妙にリアルな製薬会社の話など社会派風味付けの効いたよいサスペンス作品と感じました。
投稿: Ren | 2006年5月25日 (木) 07時20分