宮崎駿作品と久石譲
宮崎駿の映画の魅力の一つに音楽があります。どの作品も映像と音楽がとてもマッチしており、美しく親しみやすいメロディーは聞いていて、とても心地よいものがあります。そんな宮崎作品の音楽を全作品手がけているのが久石譲です。久石さんは『風の谷のナウシカ』から『ハウルの動く城』まで宮崎駿がジブリで監督した7作品全ての音楽を担当しています。久石さんの音楽の魅力はシンプルで押しの強いメロディーと編曲の巧みさにあります。久石さんの音楽はとてもインパクトが強いので、映像に魅力がないと音楽だけが上滑ることも多いです。しかし、宮崎作品では宮崎さんの生み出すインパクトのある映像と久石さんの生み出すインパクトの強い音楽はとても相性がいいのです。久石さんの音楽は透明感が清清しい宮崎作品の映像の素晴らしさをさらに倍増させてくれます。久石さんの音楽がなかったら、おそらく宮崎作品はここまで人気がでなかったのではないかと思うほどです。
宮崎作品の音楽の制作は大変時間をかけて丁寧に行われています。まず映画公開の半年前から1年前に、映像がない段階で作曲家が自由なイメージでイメージアルバムを作り、どういう音楽が映像に合うか監督と音楽家で話をするそうです。その後、イメージアルバムの曲を参考にしながら、サウンドトラックのためにまた作曲をしなおして、編曲をして完成させるそうです。長い期間をかけて手間隙かけて制作されているので、完成度も高くなるそうです。
では宮崎駿作品の各サントラの魅力を紹介したいと思います。もし興味が出てきたら、レンタルするなり、購入するなどして、ぜひ宮崎作品の音楽の魅力に浸ってみてください。
『風の谷のナウシカ』1984年
宮崎駿作品において初めて久石譲が音楽を手がけた作品です。この頃の久石譲はまだ無名の作曲家だったのですが、監督とプロデューサーの高畑勲の強い後押しもあり、大抜擢となりました。(当時は音楽を誰が担当するかで会社上層部と映画制作者の間で揉めに揉めたそうです。)
ナウシカの音楽の魅力は民族音楽色の強い曲やオーケストラによる壮大な曲、シンセによる打ち込みの曲といろいろな種類の曲が混在しながら、ナウシカの世界観をみごとに音で表現しているところにあります。特に映画のクライマックスのナウシカ復活のシーンで流れる「ラン・ラン・ラ・ラ~」という子どもの歌声の曲はとてもインパクトがある曲です。(ちなみにこの曲の子どもの歌声は久石譲の当時4歳の娘が歌っています。)
1986年『天空の城ラピュタ』
コンビ2作目の『ラピュタ』は名曲ぞろいで音楽の完成度がとても高いです。まずオープニングに流れる『空から降ってきた少女』。オーケストラによる壮大な雰囲気の曲がこれから始まる冒険を予感させて素晴らしいです。またパズーが吹くトランペットの曲『ハトと少年』も清清しい名曲です。また活劇場面で流れる音楽も映像の動きのタイミングときっかり合わして制作されたそうで、観客の緊張感を煽り、盛り上げてくれます。特に映画の中盤でシータをパズーが救い出すシーンで流れる曲は映像の持つスリルと緊張感そして迫力を倍増させてくれて、最高にすばらしい活劇音楽となってます。また映画の後半のラピュタに着いてから流れる音楽も壮大でありながら物悲しく、ラピュタのもつ2面性を音楽で巧みに表現していると思います。そしてラストで流れる主題歌『君をのせて』はアニメ映画の主題歌においてベスト3内に入るほどの名作です。ラピュタの音楽は宮崎&久石コンビのなかでも指折り3本に入るほどの名作です。
1988年『となりのトトロ』
コンビ3作目の『となりのトトロ』。この作品の主題歌『さんぽ』と『となりのトトロ』は小学校の音楽の教科書にも載り、今では国民的愛唱歌となっています。『トトロ』は『ナウシカ』や『ラピュタ』のようなスケールの大きな話でないので、音楽のアプローチも今までの作品とは違っており、優しさと暖かみのある親しみやすいメロディー中心の作品となっています。そんな中、久石さんらしいシンセを使用したミニマム調(同じフレーズが何度も繰り返される曲)の曲などもあり、ありきたりの子ども映画音楽みたいな感じになっていないところが、さすがだなと思います。
私が『トトロ』の中で特にお気にいりの曲は、映画の中盤でトトロやサツキとメイが傘を持って踊ると木がむくむくと伸びてくるシーンで使われる『風のとおり道』という曲です。この曲は命の持つ神秘さや壮大さ、優しさ、暖かさといったものが聞いていて感じられる名曲です。
1989年『魔女の宅急便』
この映画は宮崎駿作品の中で始めて大ヒットした作品です。この映画の音楽は、聞いていて軽やかで、明るくさわやかな雰囲気を持っています。地中海周辺の地域で流れているようなヨーロピアンエスニック調の曲を意識して作曲された音楽は、映画の舞台となった架空の国の雰囲気を見事に表現しています。
1992年『紅の豚』
この映画は1920年代末期のイタリアを舞台に男と女が繰りひろげる愛と冒険の物語ということで、音楽もアコースティックな音にこだわり、哀愁とロマンチシズム漂う曲が多いです。また飛行シーンで流れる曲が、浮遊感や飛翔感をみごとに音楽で表現しており、映像にとてもマッチしています。夜に洋酒を飲みながら聞きたい感じの曲が多いです。
1997年『もののけ姫』
公開当時、大ブームを巻き起こした『もののけ姫』。この映画の音楽は宮崎駿と久石譲のコンビの集大成といった感じの名作に仕上がっています。主人公の気持ちや宮崎監督の思想性を音楽で表現しようというスタンスで制作された音楽はどれも重厚で美しく、映像で表現しきれない主人公たちの思いを見事に表現しています。またこの作品では日本的なものを意識して、西洋的コード進行と違う5音階をベースに作曲したそうです。さらにこの作品の主題歌『もののけ姫』は作詞を宮崎駿が手がけ、カウンターテナーである米良美一をボーカルとして起用し、当時大変話題になりました。
私がこの作品で一番お気に入りの曲が『アシタカせつ記』という曲で、映画の中でも重要なシーンで使用されていますが、フルオーケストラによる重厚な演奏は『もののけ姫』の持つ壮大で深い世界観やアシタカの思いが見事に音で語られた名曲になっています。
2001年『千と千尋の神隠し』
日本映画史上空前の大ヒットを飛ばした『千と千尋の神隠し』。この映画ではフルオーケストラとエスニックな音を巧みに融合し、映像が持つ独特な世界観を音楽で表現しています。映画の最初と中盤のおにぎりを食べるシーン、ラストと流れるピアノによるテーマ曲はとても美しく、千尋の寂しさや切なさといった心情を音で表しています。私がこの作品で一番好きな曲は『6番目の駅』という曲で、千尋が電車に乗るシーンで使われているピアノソロによる曲です。この曲の持つ寂しさ、孤独感、物悲しさは電車に乗った千尋の気持ちを見事に語っています。
2004年『ハウルの動く城』
コンビ7作目となる『ハウルの動く城』。この作品では『人生のメリーゴーランド』というワルツの曲が、とても印象に残ります。今作品では今までと違い、メインとなる曲を一曲作り、随所に流したいという監督の要望があったそうです。その監督の要望に応えて作られた曲が『人生のメリーゴーランド』です。この曲はとても優雅で美しく、それでいて哀愁を帯びていて、映画のキャラクターやストーリーにとてもマッチしています。
私はこの作品で一番のお気に入りはラスト近くに流れるトランペットの曲です。トランペットの音色の美しさがメロディーの持つ美しさを引き立てており、胸にぐっと響いてくる曲となっています。
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コメント
トラバありがとうございますっ☆
これからも、ちょくちょく拝見させていただきますねっ!
投稿: 志保。 | 2006年5月28日 (日) 11時34分
コメントありがとうございます。宮崎作品に久石さんの音楽は欠かせませんよね。ラピュタのテーマ曲は私も大好きです。壮大なスケールの音楽に鳥肌が立ちますよね。
投稿: アシタカ | 2006年5月27日 (土) 21時37分
あたしも好きですよ
投稿: 歌音 | 2006年5月27日 (土) 21時29分
はじめまして。
素晴らしい感想ですね。
>久石さんの音楽がなかったら、おそらく宮崎作品はここまで人気がでなかったのではないかと思うほどです。
同感です。
ジブリの映画と共に、久石さんの生み出す曲も万人を魅了させますね。
アシタカセッキはすごいいいと思います。
私も着メロに入ってます。
私はラピュタの『君をのせて』のオーケストラバージョンが一番好きで、いい意味で、ゾッとしますww
投稿: may | 2006年5月27日 (土) 20時35分