『乙女の祈り』この映画を見て!
第59回『乙女の祈り』
見所:「自分たちだけの世界を創りあげた少女たちの友情と狂気。」 今回紹介する映画は『ロード・オブ・ザ・リング』を監督したピーター・ジャクソンが思春期の揺れる少女たちの心情を丁寧に描き、高い評価を得た作品です。ピーター・ジャクソンというとスプラッターホラーやファンタジー映画で世界中の映画ファンを虜にした監督ですが、この映画では少女たちの繊細な心理を描くという新境地に挑んでいます。もちろん、監督の持ち味であるファンタジックな描写やグロイ描写も随所にありますし、ニュージランドの風景や幻想の世界の映像はとても美しく観客を虜にします。ストーリーも主人公たちの目線で終始語られていき、自分たちだけの世界に閉じこもっていき、狂気に至るまでの姿をとても説得力のある形で観客に伝えてくれます。
ストーリー:「1954年のニュージランド。16歳の少女・ポーリーン・パーカーとジュリエット・ヒュームは、ストッキングにくるんだ煉瓦でポーリーンの母親を殴り殺す。その動機は『わたしたちの真実の愛』を引き裂こうとしたからだというものだった。多感な女子高生2人が自分たちの夢に溺れ、自分たちの邪魔をしようとする者を殺すまでの心理を丁寧に描いた幻想と狂気のドラマ。」
この映画は50年代ニュージーランドで実際に起こった事件を基に作られています。感受性が強く、現実よりも空想の世界にの居場所を見つける少女たち。そんな彼女たちが自分たちの空想の世界を守るために現実を排除しようとする姿は見ていて、狂気と共にどこか切なさを感じてしまいます。
思春期の時に、現実に適応できず、本や漫画の世界にのめり込むことはよくあることです。また中高時代、いつも2人きりで行動して、2人きりの世界観を作っていた女子の姿もよく見られたものです。この映画で描かれる少女たちの姿は決して珍しいわけではありません。ただ普通の人はどこかで現実の世界と折り合いをつけるのですが、彼女たちはひたすら空想の世界に没入していってしまいます。現実をシャットアウトしてしまった少女たちの悲劇と、彼女たちの世界を理解せず、シャットアウトしてしまった周囲の者(親)たちの悲劇。この映画は現実に適応できなくなった思春期の若者たちが現実に追いつめられ、破綻するまでの心理を完璧に描いています。
この映画は映像・音楽・脚本・演技と全てにおいてパーフェクトな映画です。動と静のコントラストが巧みなカメラワーク。彼女たちが作り出した架空の世界『ボロヴァニア王国』の幻想的でありどこか不気味な映像。多感で孤独な少女たちが周囲に追いつめられていくまでを説得力のある形で丹念に描く脚本と演出。ラスト15分の緊張感あふれる演出。主人公2人を演じる俳優たちのハイテンションで繊細な演技。この映画は見事としか言い様のないほど美しく、恐ろしく、哀しい映画です。
ちなみに映画公開後に、この事件の主犯の一人であるジュリエットが、現在イギリスで活躍しているベストセラー作家のアン・ペリーであることが明らかになり、とても話題になりました。
製作年度 1994年
製作国・地域 ニュージーランド/アメリカ
上映時間 109分
監督 ピーター・ジャクソン
製作総指揮 ハンノ・ヒュース
脚本 ピーター・ジャクソン 、フランシス・ウォルシュ
音楽 ピーター・ダゼント
出演 メラニー・リンスキー 、ケイト・ウィンスレット 、サラー・パース 、クライヴ・メリソン 、ダイアナ・ケント
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コメント
TBありがとうございました。アン・ペリーもことを知ったときは私も衝撃を受けました。事実は小説より面白いですね。
投稿: とろとろ | 2006年3月17日 (金) 23時28分
asitakaさん、こんにちは。TBさせていただきました。アン・ペリーのことは知らなかった!です!作家になっていたとは。ではまた!
投稿: kutsuhimo | 2006年3月17日 (金) 17時17分