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2006年3月

『障害者の経済学』街を捨て書を読もう!

『障害者の経済学』 著:中島隆信 東洋経済新報社
障害者の経済学

 私は障害を持つ人の支援を仕事としているのですが、今回紹介する本は私にとって興味深い内容の本でした。障害者福祉や障害者問題というと、障害を持った人が身近にいないといまいちピンとこないと思います。障害者福祉や問題というと、どうしても当事者や家族、福祉関係者以外は無関心になりがちです。日本では障害を持つ人をどうしても弱者として遠ざけがちです。そのため、どうしても一般の人は障害を持つ人が社会で生きていくうえで抱える現状や問題を知る機会がとても少ないです。テレビなどでも一部を除き、障害をもっていてもがんばる人たち等の姿は取り上げても、生々しい実態はなかなか取り上げられません。
 そんな中で、この本は脳性まひの子どもを実際に持つ経済学者が、経済学という視点から冷静に日本の障害者を取り巻く現状を分析して、一般の人に障害者をとりまく現状や問題を分かりやくすく解説しています。
 親、施設、学校は本当に障害者本人の方を向いているのか?多額の予算は障害者本人のニーズに合わせて使われているのか?子供を自立させることをためらう障害者の親、設備は立派だがニーズにこたえきれていない施設、使いづらい運賃割引制度などについて経済学の視点から冷静に分析しています。
 障害当事者や福祉関係者が読むと耳が痛い部分や違和感を感じたり、抵抗を感じる部分もあると思います。福祉というと今まで経済行為とは無関係であるという考えがありました。そのため経済という視点で福祉や障害者問題の話しが進んでいくのはとても刺激的でした。
 著者は今障害を持つ人が抱えている問題をとても綿密にリサーチしており、日本の障害者を取り巻く課題が分かりやすく整理されています。そして経済学の視点から今後の福祉のあり方や障害を持つ人の支援のあり方を考える上で大切なことがたくさん書かれています。
 ニーズを一定の制度の枠内に何とか入れ込もうとするシステムから、ニーズの多様性を尊重するシステムへどうしたら変えていけるか、この本で著者はさまざまな提案をしています
。ぜひ、障害者やその関係者、そして一般の人もこの本を読んでいろいろ考えて欲しいと思います。

序章 なぜ『障害者の経済学』なのか
第1章 障害者問題がわかりにくい理由
第2章 「転ばぬ先の杖」というルール
第3章 親は唯一の理解者か
第4章 障害者差別を考える
第5章 施設は解体すべきか
第6章 養護学校はどこへ行く
第7章 障害者は働くべきか
第8章 障害者の暮らしを考える
終章 障害者は社会を映す

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『ムーラン・ルージュ』この映画を見て!

第64回『ムーラン・ルージュ』
moulin_rouge 今回紹介する映画は私の大好きなミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』です。私はミュージカル映画は大好きで昔からよく見ていたものでした。しかし、ここ最近はこれと言ったミュージカル映画があまり制作されていなかったので、『ムーラン・ルージュ』を見たときは久しぶりの本格ミュージカル映画に興奮したものでした。
 この映画を最初に見たときは、色彩豊かで幻想的な映像美と既成曲を大胆に取り入れた音楽の美しさと躍動感、そしてバス・ラーマン監督のパワフルさと繊細さを兼ね備えた演出に圧倒されました。ここまでポップでキッチュなミュージカル映画はなかなかないと思います。
 ストーリー:「19世紀末のパリの夜を象徴するナイトクラブ“ムーラン・ルージュ”。愛を求める貧乏作家クリスチャンは、ある夜ムーラン・ルージュで高級娼婦サティーンに出会う。サティーンはムーラン・ルージュを抜け出し、本格的な役者になることを憧れていた。恋に落ちる二人。しかしクラブはそのころ経営困難で、支配人のジグラーはウースター公爵にサティーンを紹介して、クラブの経営支援をしてもらおうと考えていた。公爵はサティーンを自分の女とすることを引き換えにクラブのショーの出資を引き受ける。公爵の目を気にしながらも、愛を深める2人。しかし、そんな彼らに悲劇が訪れる・・。」
 ストーリーはとてもシンプルな悲劇のラブストーリーです。ある意味とてもべたな話なのですが、そんな話を色彩豊かで絢爛豪華な映像と20世紀を代表するポップナンバーを使用した音楽が最高に盛り上げてくれます。
 まず映像ですが、華麗な美術や衣装は見る者をうっとりさせますし、大胆なカメラーワークや短いカット割りは躍動感を映像に与えています。またミュージカルシーンでのCGを多用した幻想的な映像表現は見ていてとても楽しいです。
 音楽もエルトン・ジョンやマドンナ、デビット・ボーイなどの有名なポップスナンバーからの引用が多いのですが、ストーリーにとてもぴったりはまっています。セリフで言われると気恥ずかしくなるような愛の言葉も歌を通して伝えられるとすっと胸に入ってきます。これは音楽のなせる力だと思います。出演している役者たちの歌い方がとても上手なのも大きな驚きです。特にユアン・マクレガーの歌声は最高です!
 この映画は映像も音楽もポップで美しく、見ていて楽しく、それでいて後半はウルッときます。ミュージカル好きな人もそうでない人もとても楽しめると思いますので、ぜひ見てみてください!
制作年度 2001年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 128分
監督 バズ・ラーマン 
脚本 バズ・ラーマン 、クレイグ・ピアース 
音楽 クレイグ・アームストロング 、マリウス・デ・ヴリーズ 、スティーヴ・ヒッチコック 
出演 ニコール・キッドマン 、ユアン・マクレガー 、ジョン・レグイザモ 、ジム・ブロードベント 、リチャード・ロクスバーグ 

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『進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線』街を捨て書を読もう!

『進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 著:池谷裕二 朝日出版社
進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線 近年、世間では脳が注目を浴び、脳関連の本がたくさん出版されています。そんな中、今回紹介する本『進化しすぎた脳』は脳のメカニズムに関してとても分かりやすく解説されており、脳について学びたい初学者の方にうってつけの入門書となっています。
 私は昔から心とは何だろう、感情とは何だろうとずっと考えていました。なぜ私はものを考えることができるのか、どこから感情が生まれてくるのかとても不思議でした。また私が見ている世界と他者が見ている世界は本当に同じなのだろうか?、私は現実の世界をありのままに見ているのだろうかと疑問に思っていたことがありました。
 また私は小さいときからSF小説や映画が大好きだったので、ロボットやコンピュターが心を持つことは可能なのか、またもしそれらが心を持った場合に人間と非人間との境界線はどこにあるのだろうということをよく考えたものでした。
 今回紹介する本は私が小さいときから考えていたことに関して、大脳生理学の立場から
なるほどと思える解説がされており、興味深く読むことができました。私たちの脳が如何に緻密なメカニズムででありながら、柔軟性を持っているか、この本を読むとよく分かります。 また大脳のメカニズムはけっこう曖昧でいい加減なところがあることや、人間は思っている以上に無意識に支配されおり、身体と脳が如何に密接な関連を持っていることが説明される箇所は、脳に関する自分が持っているイメージが大きく変わりました。
 この本は大脳や心に興味のある初心者の方に是非読んで欲しい本です。

*内容
第1章 人間は脳の力を使いこなせていない(講義をはじめる前に
みんなの脳に対するイメージを知りたい ほか)
第2章 人間は脳の解釈から逃れられない(「心」とはなんだろう?
意識と無意識の境目にあるのは? ほか)
第3章 人間はあいまいな記憶しかもてない(「あいまい」な記憶が役に立つ!?
なかなか覚えられない脳 ほか)
第4章 人間は進化のプロセスを進化させる(神経細胞の結びつきを決めるプログラム
ウサギのように跳ねるネズミ ほか)

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『未知との遭遇』この映画を見て!

第63回『未知との遭遇』
見所:「ラスト30分の地球外生命体との音楽を使ったコンタクトシーン!」
未知との遭遇【ファイナル・カット版】

 今回紹介する映画は私が特にお気に入りのSF映画『未知との遭遇』です。監督は数々のヒット作、話題作を手がけたハリウッドの巨匠スティーブン・スピルバーグ。ここ最近も政治サスペンス映画『ミュンヘン』がハリウッドで一大論争を巻き起こしましたのは記憶に新しいところです。
 『未知との遭遇』は彼の初期の代表作であり、彼の監督した映画でもベスト5に入る映画です。この映画は『ジョーズ』の大ヒットを受けて、彼が少年時代から暖めていた企画を基に制作された作品です。この映画では脚本も自分で手がけており、彼の思いや世界観がとても詰まった作品です。
 ストーリー:「ある日、ラコーム博士率いる調査団がメキシコの砂漠で第二次大戦時の戦闘機を発見する。それは、消失当時と変わらぬ姿で残っていた。一方アメリカのインディアナ州では、町一で停電が起こる。その原因を調べていた電気技師ロイがUFOのような光と遭遇。以来、彼はこの不思議な光にすっかり魅了され、その正体を探っていく。また彼は形の変わった枕を眺めたり、マッシュポテトをこねくり回して山を作ったり、家の中に巨大な山の模型を作るなど奇怪な行動を取るようになる。自分の頭の中に浮かんで離れない山のイメージに悩むロイ。しかし彼はある日それがワイオミング州のデビルズ・タワーという山だと気付く。彼はデビルズ・タワーに何があるのか確かめる為に一人向かう。その頃ラコームの調査団もUFOからのメッセージを受信して、UFOとのコンタクトの準備を始めていた。」
 私がこの映画を初めて見たのは小学生の時ですが、映像の美しさとスケールの大きな話しに興奮を覚えています。特にラスト30分の地球外知的生命体との音楽を使ったコンタクトシーンは目映いばかりの光溢れる映像と美しい音に圧倒されっぱなしでした。UFOのデザインも一般的に知られている円盤形UFOのデザインと違い、溢れんばかりに光輝くUFOの神秘的な美しさにとても惹かれました。また『エイリアン』などと違い、人間に友好的な地球外知的生命体と人間との遭遇というストーリーも斬新であり、とても感動しました。
 私は小さいときから宇宙人やUFOにとても興味があり、テレビでよく放映されていた矢追純一のUFO特集を食い入るように見たものでした。UFOや宇宙人は実在すると信じていた(今も信じている)私にとって『未知との遭遇』で描かれる世界は興味深く、単なるフィクションの世界とは思えない現実味を感じました。この映画を小さいときに見た後、よく夜に外を出て星が輝く空を見上げていたのを覚えています。
 この映画はもう30年近い前の作品であるにも関わらず、今見ても充分楽しめる作品です。CGもまだなかった時代にこれだけの映像表現が出来ているのは驚きですし、ジョン・ウイリアムスの五音階を用いた音楽もとても美しく印象的です。またストーリーも、前半は多くの不思議な現象が描かれ、一体何が起ころうとしているのか、謎と緊張感に満ちたストーリーが展開されていきます。しかし後半になるにつれて、話しが一つにまとまっていき、緊張感は薄らぎ、美しさと神秘さに感動するストーリーへとなっていきます。ストーリーは途中の展開の仕方が荒削りで強引なところもありますが、スピルバーグの宇宙に対する憧れや畏怖の思いがとても詰まった脚本でもあります。特に主人公であるロイとラコーム博士はスピルバーグの分身といってもいいキャラクターだと思います。またスピルバーグの演出も巧みであり、前半はサスペンスタッチの演出で見る者をハラハラドキドキさせます。そして、後半は壮大で幻想的な美しさに満ちた映像と音楽の一大スペクタクルで観客を圧倒させます。
 この映画は宇宙への夢とロマンに溢れています。この映画を見るときっと夜空を見上げたくなると思います。是非見てみてください!
 なおこの映画は3つのバージョンが存在します。まず初回劇場公開版。次に80年にUFO内の映像を追加して、ロイがおかしくなっていく様子を一部カットした特別編。特別編ではラストに映画『ピノキオ』の主題歌「星に願いを」が流れます。そして特別編のUFO内部の映像をカットして、ロイがおかしくなっていく様子を復活させ、さらに追加シーンを加えたファイナルカット版。私はこの3つのバージョン全て見たのですが、ファイナルカット版が一番お奨めです。特別編のUFO内部の映像は映画の神秘性を薄めてしまい、私はいまいちでした。 

製作年度 1977年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 135分 (特別編:133分、ファイナルカット版137分)
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
脚本 スティーヴン・スピルバーグ 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 リチャード・ドレイファス 、フランソワ・トリュフォー 、テリー・ガー 、メリンダ・ディロン 、ボブ・バラバン

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『グリーン・デスティニー』この映画を見て!

第62回『グリーン・デスティニー』
見所:「過激で美しいワイヤーアクションと中国の美しい風景を捉えた映像美、そして静謐なラブストーリー!」
グリーン・デスティニー コレクターズ・エディション 今回紹介する映画は今年度アカデミー賞監督賞を受賞したアン・リー監督の名を一躍有名にした作品『グリーン・デスティニー』です。この映画は全4巻の武侠小説「臥虎藏龍」を基に制作された映画です。「武侠小説」とは、中国に語り継がれる不思議な能力をもつ英雄伝説について書かれた小説です。原題の「臥虎藏龍」は中国の古い格言で、場所が見かけ通りでないことを意味しており、人間には誰しも見た目では分からない隠れた一面があることを指しています。
 この映画は公開当時、重力を無視して、屋根の上をぴょんぴょんと飛び回り、壁を駆け上がり、宙を舞い、水の上を滑るように渡っていく

ワイヤーアクションが大変話題になりました。そんなアクションシーンを担当したのが『マトリックス』のアクション監督でもあるユエン・ウーピン。彼は今までたくさんのワイヤーアクション・アクロバティックアクションを監督してきたのですが、この映画はその集大成となっています。まるでダンスを見ているかのような流麗さと静謐でありながら力強さが感じられるアクションシーンはこの映画最大の見所です。
 またアクションシーン以外も見所は多く、特にアカデミー賞で撮影賞・作曲賞を受賞した映像と音楽は静謐であり、とても美しく、この映画に詩情を与えています。映像では竹林でのアクションシーンが特に静と動のコントラストが美しく印象的です。また音楽もヨーヨー・マの哀愁を帯びたチェロの音色は聞いていてもの悲しさを感じると同時に心が落ち着きます。
 ストーリーはとてもシンプルなものです。名剣グリーン・デスティニーを巡って、男女が武術を競うという話しです。その中に許されない恋の話しなどが盛り込まれます。特にストーリーで印象的なのは主人公のリ-・ム-バイと女弟子
ユー・シュ-リンのプラトニックなラブストーリーはです。師匠と弟子という関係から、お互いの思いを告白することもできず、結婚することも出来ない2人の姿は見ていてとても切ないです。
 この映画は女性がとても勇敢で魅力的です。まだまだ社会の中で女性の地位が低い時代、習慣やしがらみなど色々なものに抑圧され、束縛されてきた女性たち。そんな女性たちがさまざまな思いを内に秘めて闘うシーンはとても印象的でした。
 映画のラストはとてもファンタジックで美しいです。しかし、私はその意味がもう一つ分かりませんでした・・・。
 役者たちの演技も素晴らしいです。特にチョウ・ユンファ 、ミシェル・ヨーの抑制された演技は逆に内面の葛藤や思いが伝わってきました。またチャン・ツィイーも可憐でありながら、激しい感情をもった女性を見事に演じていました。
 この映画以降、『英雄~HERO~』『PROMISE』などワイヤーアクションを使った中国歴史映画が作られましたが、『グリーン・デスティニー』が一番完成度が高いと思います。この映画はとても静かな雰囲気でありながら、とてもドラマティックな話しです。アクションシーンもとても美しく、キレがあります。ぜひ、一度見てみてください!

制作年度 2000年
製作国・地域 アメリカ/中国
上映時間 120分
監督 アン・リー 
製作総指揮 ジェームズ・シェイマス 、デヴィッド・リンド 
原作 ワン・ドウルー 
脚本 ワン・ホエリン 、ジェームズ・シェイマス 、ツァイ・クォジュン 
音楽 タン・ドゥン 、ヨーヨー・マ 
出演 チョウ・ユンファ 、ミシェル・ヨー 、チャン・ツィイー 、チャン・チェン 、チェン・ペイペイ

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『ブレード・ランナー~ザ・ベリー・ベスト・オブ・ヴァンゲリス』

お気に入りのCD.NO7 『ブレード・ランナー~ザ・ベリー・ベスト・オブ・ヴァンゲリス』 vangelis

 昨日、テレビで日本版『南極物語』が放映されていましたが、音楽がとても印象的でした。シンセサイザーによる透明感と躍動感あふれる音楽は南極の映像にとてもはまっていました。
 音楽を担当したのはギリシャの音楽家ヴァンゲリス。彼はシンセサイザーを巧みに操り、美と躍動感に溢れる音楽を70年代から数々発表してきました。また彼は映画のサントラも手がけており、『炎のランナー』や『ブレードランナー』での音楽はとても高い評価を受け、ファンも多いです。
 私が彼の音楽を知ったのは『ブレードランナー』を見たときでした。荒廃した近未来映像にとてもマッチした彼のシンセサウンドはとても印象に残るものでした。特にエンドタイトルに流れる曲はとても格好良くて、何度も聞いたものでした。
 また『炎のランナー』を見たときも、音楽がとても美しく印象的で、サントラを即購入したものでした。この映画はオリンピックを目指す短距離走者たちのドラマなのですが、ヴァンゲリンスの崇高で美しく生命力に溢れた音楽はドラマをとても効果的に盛り上げていました。この映画はアカデミー賞でも作品賞を獲ったのですが、音楽の力がとても大きかったと思います。
 彼の音楽の魅力は透明感溢れるシンセサウンドと躍動感に溢れたリズム、そして美しいメロディーにあります。彼の曲を聴くと、リラックスできると同時に、自分の心やイメージが広がっていくような感覚になります。
 今回紹介するCDはそんな彼の魅力が存分に味わえます。映画のサントラとして使われた曲から彼の代表作と言われるものまで、バランスよく集められています。彼に興味を持った人は是非このCDを買ってみてください。絶対損しないと思います。

1.ブレードランナー(エンド・テーマ)
2.ミッシング(メイン・テーマ)
3.子供
4.讃歌
5.チャイナ
6.タオ・オブ・ラヴ
7.南極物語
8.ブレードランナー(ラヴ・テーマ)
9.ミュティニィ・オン・バウンティ(オープニング・テーマ)
10.ミュティニィ・オン・バウンティ(クロージング・テーマ)
11.メモリーズ・オブ・グリーン
12.海辺の少女
13.五輪
14.炎のランナー

 

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『茶の味』この映画を見て!

第61回『茶の味』
見所:「田舎の美しい風景の中で展開される変な家族の物語」
taste_of_tea  今回紹介する映画『茶の味』は最近私が観た日本映画の中でも特にお気に入りの作品です。監督は『鮫肌男と桃尻女』『PARTY7』などを撮り、一躍有名になった石井克人。彼は『キル・ビル1』のアニメパートのキャラクター設定や作画を担当していることでも有名です。彼の映画の持ち味はポップでシュールな映像と独特なユーモアのセンス、切れと勢いのある演出です。しかし、今回紹介する『茶の味』は今までの石井作品とはひと味違う作品となっています。もちろんシュールな映像や独特のユーモアセンスはこの映画でも健在ですが、全体を通して、とてもほのぼのまったりとしたゆるい世界が展開されていきます。
 ストーリー:「春野家の家族は皆、他人には言えないモヤモヤを心に抱えている。内気で囲碁好きの長男、ハジメは転校生のアオイに一目ぼれする。また妹の幸子は、ときどき巨大な分身が勝手に自分の前に出現することを悩んでいた。専業主婦の母親、美子は、アニメーターに現場復帰するため奮闘中。父ノブオはそんな妻に取り残された感じの片田舎の催眠治療士。いつも自由な変人オジイ、アキラ。元カノにヒトコト言えずに、橋の上を行ったり来たりの叔父さんアヤノ。皆どこかヘンだけど愛おしい春野一家のピースな物語!」
 この映画はある家族の日常を描いた作品ですが、特に大きなドラマは展開しません。春野家の面々のありふれた日常の中での些細な出来事を淡々と描いていきます。日常の中での些細な出来事に一喜一憂する生活。そんな生活を暖かく愛おしく見つめていく作品です。
 しかし、ただ淡々とした家族の日常生活が描かれている訳ではありません。家族の日常の中に突然非日常的なエピソードが割って入ります。頭にうんこの載ったヤクザの幽霊、ロボットコスプレマニアの若者たち、川辺でダンスする男など強烈なキャラクターやエピソードが次々と出てきます。また春野家の幸子が見る巨大な自分の姿のシーンやオジイ・アキラが「山よ」を唄うシーンはとてもシュールな映像で見る者を魅了します。この映画はありふれた日常の裏に潜む非日常的な世界やありふれた人々の心の中に持っている他の誰にも説明しがたい独特な世界の存在を気付かせてくれます。
 この映画は役者たちの演技もとても魅力的です。特に浅野忠信と我修院達也の演技は印象に残ります。浅野のあまりにも自然体な演技はいつ見ても上手いなと思います。特に元カノに久しぶりに会うシーンは切なかったです。また我修院達也演ずるオジイの演技はとても強烈で一度見ると忘れられません。オジイの歌う「三角定規」は最高でした。また幸子を演じる坂野真弥もとてもかわいいく、見る者の心を和ませます。さらに脇役もとても豪華で、SMAPの草薙剛や『エヴァンゲリオン』監督の庵野秀明、寺島進、樹木希林、和久井映見などが出演しています。
 この映画は日本の田舎の美しい自然がとても綺麗に撮影されています。特に緑の色彩がとても美しく、見る者の心をいやしてくれます。また反面CGを駆使したシュールな映像やアニメの映像なども挿入され、見る者の心を刺激してくれます。音楽もまったりとしたテンポの曲で聞いていて心地よく、この映画の世界観を見事に表現しています。
 この映画を見ると、とても暖かい気持ちになれます。そして「みんな同じ空の下で、いろんなことを感じながら淡々とけなげに生きているんだなあ」という思いを抱くと思います。ぜひ、このユニークで不思議な家族のドラマを見てみてください!
 
製作年度 2003年
製作国・地域 日本
上映時間 143分
監督 石井克人 
原作 石井克人 
脚本 石井克人 
音楽 リトルテンポ 
出演 佐藤貴広 、坂野真弥 、浅野忠信 、手塚理美 、我修院達也 、三浦友和、手塚理美、土屋アンナ

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『プライベート・ライアン』この映画を見て!

第60回『プライベート・ライアン』
見所:「冒頭30分の壮絶な上陸作戦の戦闘シーン!」
プライベート・ライアン

 私がこの映画を映画館で最初に見たときは大変衝撃を受けました。今まで見てきた戦争映画の中でこの映画ほど生々しい戦闘シーンはなかったです。まるで自分が戦場の中に放り込まれたような気分に陥りました。特に冒頭30分に及ぶオハマビーチ上陸作戦のシーンはすざましく正視出来ないほどでした。闘う準備もする間もなく撃たれて死んでいく兵士、なくなった自分の手を探す兵士、内蔵が飛び出し泣け叫ぶ兵士、そして海岸を埋め尽くす死体。この映画ほど戦争の現場の実態をリアルに描いた映画はないと思います。
  この映画の最大の見所は映像と音響です。映像の彩度を落として、まるで当時の従軍記者が撮影したような映像を見ているような雰囲気、ハンディ・カメラを使用して、ドキュメンタリータッチで撮影された映像は当時の戦闘現場を見ているような感覚を観客に与えます。また音響も素晴らしく、ドルビーデジタルサラウンドの性能を最大限に生かしています。冒頭の上陸作戦での360度さまざまな方向から飛んでくる銃弾の音、後半の市街地の闘いでの戦車の迫り来る重低音など音響も戦場のリアリズムが追求されています。この映画を見るときは是非ホームシアターをそろえて液晶やプラズマなどの大画面テレビで見ることをお奨めします。
 ストーリー:「戦闘で3人の兄を亡くしたライアン2等兵。軍上層部は兄弟全部を死なすわけにはいかないとライアンを故郷に戻すことを決める。そこでオハマビーチで過酷な闘いを生き延びたミラー大尉をリーダーに8人の特命隊が組まれる。軍上層部のこの命令に疑問をもちながらも、8人は過酷な戦況をくぐり抜けてライアンを探す。」
 ストーリーの方ですが映像や音響に比べるとあまり魅力はありません。戦地から兵士を連れ戻す任務に就いた兵士たち葛藤というドラマも生々しい戦闘シーンの前ではかすんでしまいます。また任務の途中で描かれる兵士たちのエピソードも戦争映画ではありきたりな内容です。またどこか第2次世界大戦におけるアメリカ賛美や偽善的なヒューマニズムの匂いが感じられる映画でもあります。私はこの映画のストーリー自体はあまり評価できません。
 この映画はストーリーや人間ドラマをじっくりと味あう映画でも、戦争の本質を描く映画でもなく、第2次世界大戦の生々しい戦闘シーンを疑似体験する映画です。そういう意味ではスピルバーグらしいテーマパークのアトラクション型タイプの映画です。(しかし、楽しく面白いアトラクションではありませんが・・・)この映画は戦争の悲劇を伝える反戦映画でも国の為に闘った兵士たちを哀悼し、愛国心を煽る映画でもないと私は思います。この映画はスピルバーグが今まで撮ってきた『ジュラシックパーク』や『ジョーズ』などのアトラクション型映画の延長にあり、観客が生々しい戦闘シーンを追体験することに主眼が置かれています。そういう意味ではこの映画は成功だったと思います。
 この映画以降、戦争映画における戦闘シーンの描き方は大きく変わりました。どの映画も、生々しく残酷な戦闘現場を前面に見せる手法を取るようになりました。それがいいかどうかは評価の分かれる所だと思います。しかし、この映画は戦争映画において記念碑的、また革命的な作品です。興味のある方はぜひ一度見てみてください!


製作年度 1998年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 170分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
脚本 ロバート・ロダット 、フランク・ダラボン 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 トム・ハンクス 、トム・サイズモア 、エドワード・バーンズ 、バリー・ペッパー 、アダム・ゴールドバーグ 

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『キング・コング』アカデミー賞3部門受賞おめでとう!

kingkong_dvd  昨年公開された映画で私の一番のお気に入りの『キング・コング』。何とアカデミー賞で音響賞・音響編集賞・視覚効果賞の3部門受賞を果たしました。技術部門での受賞とはいえ、昨年公開された娯楽大作映画の中では一番印象に残った作品だったのでしょう!  昨年は『スターウォーズ・エピソード3』や『宇宙戦争』・『ナルニア国物語』など数々の超大作が公開されましたが、『キング・コング』はSFXのクオリティーとストーリーの面白さでは一番だったと思います。監督の強い思い入れとこだわり、それを支えたスタッフたちの成果がアカデミー賞で評価されたのは嬉しい限りです。上映時間の長さやテンポの悪さから興行収入は思ったより伸び悩みましたが、この作品はきっと歴史に残る怪獣映画となるでしょう。まもなくDVDも発売されますし、ぜひ劇場で見逃した方はご覧ください!

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『乙女の祈り』この映画を見て!

第59回『乙女の祈り』
見所:「自分たちだけの世界を創りあげた少女たちの友情と狂気。」
Heavenlycreatures  今回紹介する映画は『ロード・オブ・ザ・リング』を監督したピーター・ジャクソンが思春期の揺れる少女たちの心情を丁寧に描き、高い評価を得た作品です。ピーター・ジャクソンというとスプラッターホラーやファンタジー映画で世界中の映画ファンを虜にした監督ですが、この映画では少女たちの繊細な心理を描くという新境地に挑んでいます。もちろん、監督の持ち味であるファンタジックな描写やグロイ描写も随所にありますし、ニュージランドの風景や幻想の世界の映像はとても美しく観客を虜にします。ストーリーも主人公たちの目線で終始語られていき、自分たちだけの世界に閉じこもっていき、狂気に至るまでの姿をとても説得力のある形で観客に伝えてくれます。
 ストーリー:「1954年のニュージランド。16歳の少女・ポーリーン・パーカーとジュリエット・ヒュームは、ストッキングにくるんだ煉瓦でポーリーンの母親を殴り殺す。その動機は『わたしたちの真実の愛』を引き裂こうとしたからだというものだった。多感な女子高生2人が自分たちの夢に溺れ、自分たちの邪魔をしようとする者を殺すまでの心理を丁寧に描いた幻想と狂気のドラマ。
 この映画は50年代ニュージーランドで実際に起こった事件を基に作られています。感受性が強く、現実よりも空想の世界にの居場所を見つける少女たち。そんな彼女たちが自分たちの空想の世界を守るために現実を排除しようとする姿は見ていて、狂気と共にどこか切なさを感じてしまいます。
 思春期の時に、現実に適応できず、本や漫画の世界にのめり込むことはよくあることです。また中高時代、いつも2人きりで行動して、2人きりの世界観を作っていた女子の姿もよく見られたものです。この映画で描かれる少女たちの姿は決して珍しいわけではありません。ただ普通の人はどこかで現実の世界と折り合いをつけるのですが、彼女たちはひたすら空想の世界に没入していってしまいます。現実をシャットアウトしてしまった少女たちの悲劇と、彼女たちの世界を理解せず、シャットアウトしてしまった周囲の者(親)たちの悲劇。この映画は現実に適応できなくなった思春期の若者たちが現実に追いつめられ、破綻するまでの心理を完璧に描いています。
 この映画は映像・音楽・脚本・演技と全てにおいてパーフェクトな映画です。動と静のコントラストが巧みなカメラワーク。彼女たちが作り出した架空の世界『ボロヴァニア王国』の幻想的でありどこか不気味な映像。多感で孤独な少女たちが周囲に追いつめられていくまでを説得力のある形で丹念に描く脚本と演出。ラスト15分の緊張感あふれる演出。主人公2人を演じる俳優たちのハイテンションで繊細な演技。この映画は見事としか言い様のないほど美しく、恐ろしく、哀しい映画です。
 ちなみに映画公開後に、この事件の主犯の一人であるジュリエットが、現在イギリスで活躍しているベストセラー作家のアン・ペリーであることが明らかになり、とても話題になりました。
 
製作年度 1994年
製作国・地域 ニュージーランド/アメリカ
上映時間 109分
監督 ピーター・ジャクソン 
製作総指揮 ハンノ・ヒュース 
脚本 ピーター・ジャクソン 、フランシス・ウォルシュ 
音楽 ピーター・ダゼント 
出演 メラニー・リンスキー 、ケイト・ウィンスレット 、サラー・パース 、クライヴ・メリソン 、ダイアナ・ケント 

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『ミュンヘン』この映画を見て!

第58回『ミュンヘン』
見所:「暴力の連鎖の哀しみと虚しさ、そして暗殺者たちの苦悩。」
myunhen  つい先日トリノで冬季オリンピックが行われ、各国の選手が世界一を目指して競っていました。オリンピックは古代ギリシアの神ゼウスを祝う祭典としてギリシャ全土をあげて行われ、ギリシャ各地の都市国家群はたとえ戦争中であっても休戦して参加しなければなりませんでした。しかしそんなオリンピックも古代ローマ帝国にギリシアが併合されてから393年の第293回オリンピックを最後に一度幕を閉じました。しかし、1892年、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵が古代オリンピックの概念を生かし、各国から選手が集まり競技をする中で友好と平和を世界に広める祭典を行おうと呼びかけ、1896年アテネで1500年ぶり年ぶりにオリンピックが復活しました。しかし戦争や国家間の政治問題などの影響を受けて、平和との祭典というオリンピックの理念は脅かされてきました。今回紹介する映画『ミュンヘン』はオリンピックという平和の祭典がテロにより殺戮と悲劇の舞台になった事件を取りあげた実話の作品です。
 1972年ドイツのミュンヘンで行われたオリンピック。各国の選手が世界一を目指して競っている中、イスラエルの選手村にパレスチナのテロリスト黒い9月のメンバーが乱入して、人質11人取り占拠しました。黒い9月のメンバーはイスラエルに収監されているパレスチナ人の解放を求めたがイスラエルは拒否。イスラエルは事態解決にのりだそうとするが、ドイツから拒否されます。交渉の末、エジプトのカイロに脱出することで合意するのですが、これは表向きの約束で、ドイツ政府は空港でテロリストを狙撃し、人質を奪還する作戦を立てていました。しかし、テロリストの狙撃に失敗、人質は全員死亡という最悪の結末を迎えてしまいます。映画『ミュンヘン』はこの最悪の結末から物語が始まります。
 ストーリー:「1972年のミュンヘンオリンピックでのユダヤ人に対するテロ行為に対して、イスラエル政府は犠牲者数と同じ11名のパレスチナ幹部の暗殺を決定。作戦のリーダーに抜擢されたアヴナーは祖国と愛する家族のために任務を受ける。しかし、任務は過酷なもので、イスラエル政府は表向き一切関与せず、自分でターゲットを見つけ出し殺さなければいけなかった。妊娠7ヶ月の妻を残しヨーロッパに旅立つアヴナー。車輌のスペシャリストスティーヴ、後処理専門のカール、爆弾製造のロバート、文書偽造を務めるハンスの4人の仲間と合流して、ヨーロッパにいるターゲットを一人また一人と暗殺をしていく。しかし、いつしか彼らも暗殺する側だけでなく、暗殺される標的にもなっていく。次々と仲間を失うアヴナー。いつしか彼自身も暗殺の恐怖に脅えるようになる。」
 この映画は『標的は11人──モサド暗殺チームの記録』という原作を基に制作されており、 映画で描かれる暗殺事件は全て実話です。またこの映画で描かれる暗殺チーム以外にも多くのチームが結成され、テロに関わった黒い9月の関係者をイスラエル政府とその対外諜報機関「モサド」は暗殺していったそうです。しかし、このモサドによる暗殺は黒い9月側からの報復を受けることにもなり、果てしない報復という名の暴力が2者の間で繰り広げられていくことになります。
 この映画を理解するにはイスラエルとパレスチナの問題をある程度知っておいていたほうがよいと思います。日本人にとっては、パレスチナ問題は遠い国の出来事であまりピンとこないかもしれません。しかし、この問題は国際的に非常に重要なものであり、中東そして世界の平和にも現在暗い影を落としています。長い間、自国を持てず流浪の民族だったユダヤ人にとってイスラエル建国は悲願でありました。しかし、イスラエル建国の為に、長い間その土地に住んでいたアラブ人は追い出されることになりました。そして、イスラエル建国に反対する周辺アラブ諸国とイスラエルはパレスチナの土地をめぐって戦争を開始します。イスラエルは武力を持って、パレスチナ全土を征服。もともとパレスチナにすんでいたイスラム教徒やキリスト教徒は難民となってしまい、ガザや西岸地区に追いやられてしまいます。追いやられたパレスチナ人もPLO(パレスチナ解放機構)を設立。当初はイスラエル抹殺の立場をとり、武力闘争を展開してましたが、途中からパレスチナ人の民族自決権を求めるようになりました。しかし、イスラエル側の入植地拡大やパレスチナ自治区の隔離政策、テロ撲滅の名による無差別虐殺などがパレスチナ人側の反感を買い、パレスチナ側のテロも頻発して、現在も不安定な情勢下であります。
 この映画はイスラエルーパレスチナ問題という非常に複雑で深刻な政治問題を題材にしており、暴力の連鎖の虚しさと哀しみを描きます。暴力に対して暴力で応酬しても、生み出されるものは平和でなく多くの死者だけという事実をこの映画は観客に突きつけます。テロリストを殺しても殺しても次々と新たなテロリストが生み出されるという虚しい構図。この映画は911のテロ後のアメリカの報復戦争に対して痛烈な批判が込められています。それは映画のラストシーンにスピルバーグがあの建物を登場させたことからも如実です。
 またこの映画は主人公たちの暗殺に対する苦悩や葛藤が随所に描かれており、国家と個人の関係性を観客に改めて問いかけます。愛する国、民族のために暗殺を重ねる主人公たち。しかし、果てしない暴力の連鎖の中で、いつしか自分たちがやっていることが正しいことなのかどうなのか迷い始め、主人公は国家から距離を置き始めます。国家を守るための崇高な任務が実は相手側のテロ行為と何ら変わらないという虚しさに苛まされる主人公。この映画は国家の為に自分を犠牲にすることの虚しさを描きます。
 ユダヤ人であるスピルバーグは今までも『シンドラーのリスト』などユダヤ人の悲劇にまつわる映画を撮ってきてました。今回の映画もイスラエル(ユダヤ人)の悲劇を描く作品であることにかわりありませんが、イスラエル側の対応にも疑問を投げかける作品となっています。暴力の応酬は死以外何の悲劇も生まないという事実を示し、和平の道はないかと訴えかけます。そこにはユダヤという民族を愛するが故にあえて苦言を呈すスピルバーグの姿があります。
 この映画の見所は政治的なメッセージだけではありません。ざらついた画質の中で70年代の風景や雰囲気を上手く捉えた映像、暗殺シーンにおけるサスペンスタッチの演出、生々しいバイオレンス描写など見所は多く、3時間ちかい上映時間ながら一瞬足りとも退屈させません。とくに、この映画のバイオレンス描写は陰惨で生々しく見る者に嫌悪感を与えます。肉体を貫通する銃弾、飛び散る肉片、噴き出す血とスプラッターホラーも真っ青の描写が何度も出てきます。徹底したバイオレンス描写はもちろん監督の趣味が大きいと私は思うのですが、テロや暗殺という行為の残酷さと陰惨さを観客に伝えます。
 もちろん、この映画は問題点もあります。この映画はあくまでイスラエエル側の視線で語られた作品であり、イスラエルーパレスチナ問題に関して両者を公平に描いているわけではありません。この映画ではイスラエル側は悲劇の被害者であるのに対して、パレスチナ側はあくまで加害者として描かれます。現実にはイスラエル側もパレスチナ人に対して残虐なことをしてきた加害者でもあります。なぜパレスチナ人がイスラエルを攻撃するのかが、この映画ではそのことに関してはほとんど触れられません。この映画はあくまで暴力の連鎖の悲劇を描くに過ぎず、なぜ暴力の引き金が引かれたのかが描かれていないのはマイナスだと思います。
 この映画は日本人から見るとピンとこない映画化もしれませんが、アメリカの報復戦争に積極的に参加し、日本もテロの標的とされている今、この映画が問いかけるテーマは決して他人事ではないと思います、ぜひ、ご覧になってください!
 
 「ミュンヘン」公式サイト http://munich.jp/
  

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