『時計じかけのオレンジ』この映画を見て!
第39回『時計じかけのオレンジ』 スタンリー・キューブリック特集2
お奨めする人!「人間の暴力について考えてみたい人、クールでポップな映画が見たい人、パンクな映画が見たい人」
今回紹介する映画はキューブリック映画で一番カルト的人気のある作品『時計じかけのオレンジ』です。この映画は近未来の若者の姿を通して人間の暴力性をテーマにした映画です。公開当時はポップでアナーキーな映像、シニカルなストーリーが絶賛されたものの、過激な暴力シーンから上映禁止になる国もあったほどでした。
私がこの映画を最初に見たのは10年くらい前ですが、過激だと言われた暴力シーンは私は思ったほどではありませんでした。確かに冷酷残酷なシーンが多々ありますが、とても客観的に冷めた視点で撮られているので、見ている自分も暴力に陶酔するということはありませんでした。むしろ、ここ最近のハリウッド映画の暴力シーンの方が、見ている側を陶酔させるような描き方をして問題だと思います。暴力シーンはさておいて、映画自体はとても魅力的なもので、一気にはまってしまいました。ポップで大胆な芸術的映像、クラッシック音楽の大胆な使い方、シニカルなストーリーはさすがキューブリックと言えるものでしたし、人間の暴力性というテーマも考えさせられるものがありました。
ストーリー:「 共産主義国になった近未来のイギリス。麻薬、暴力、盗み、暴行など、悪の限りを尽くす不良グループが存在した。リーダー格のアレックスは暴力とベートベンが好きな15歳。彼は超暴力の構想を日々練っていた。彼の暴力は日に日に過激になり、遂にある盗みの最中に仲間の裏切りで捕まった。その服役中に、悪人を善人に変える「ルドビコ式心理療法」の試験台となり、暴力を嫌悪する無抵抗な人間となって釈放される。しかし、そんな彼を待っていたのは、かつて自分が暴力の対象にしていた者たちからのすさまじい報復だった。」
この映画は全編さまざまな暴力を取り上げ、人間の中に潜む暴力性について考察していきます。前半は個人が個人に犯す暴力を取り上げ、人間が本能的にもつ暴力への衝動や誘惑について考察していきます。普段は道徳や倫理というオブラートで包み隠されている人間の暴力性というものを鋭く描いています。暴力はダメだという理性の下にある暴力への激しい衝動と誘惑。映画の主人公はたまたま暴力はダメだという理性を持ち合わせていなかっただけにすぎないのではないのかと激しく観客を挑発します。
後半は国家権力が個人に犯す暴力を取り上げます。暴力を否定するために暴力を使う国家権力のおぞましさ。文明の下で行われる野蛮な行為。そこには正義や平和のために戦争をしてもよいという現代の文明化された野蛮な国々に対する痛烈な皮肉が込められています。また国家権力は社会の秩序維持の為にどこまで個人の人間性に介入することが許されているのかという倫理的な問題を観客に提起します。この問題提起はテロや犯罪の頻発する中、国家による個人への統制管理が進んでいる現代の方がむしろ論議されるべきことかもしれません。
映画のラストは賛否両論分かれると思います。嫌悪感を抱く人もいるかもしれません。しかし、この映画のラストはとてもシニカルな形で個人の尊厳について訴えかけています。
さて、この映画はストーリーだけでなく映像・音楽でも見るべきところは多いです。特に映像は今見てもとても斬新でユニークです。また映画に出てくる衣装や美術はどれも印象的です。山高帽に白のツナギに黒のブーツとステッキ。ミルクバーの猥褻な美術、広々としたレコードショップ、性器の形をした置物、ポップなデザインの建築物とその内装や家具。どれも強烈なインパクトがあります。また音楽の使い方も巧みで、暴力シーンにそぐわないような音楽を選曲して、映像のインパクトをさらに強烈にしています。
この映画は見た目の過激さだけでなく、とても奥深いテーマを内包した作品であり、何回見ても考えさせられる作品であります。一見反社会的な内容でありながら、そこで語られるのは個人の人間性の尊厳と極めてまじめなテーマです。ぜひ、みなさんも一度この作品を見てみてください!
製作年度 1971年
製作国・地域 イギリス
上映時間 137分
監督 スタンリー・キューブリック
原作 アンソニー・バージェス
脚本 スタンリー・キューブリック
音楽 ウォルター・カーロス
出演 マルコム・マクダウェル 、パトリック・マギー 、エイドリアン・コリ 、オーブリー・スミス 、マイケル・ベイツ
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コメント
こちらこそ、TB、コメントありがとうございました。時計じかけのオレンジは時代を超えたエネルギーと魅力のある映画ですよね。これを70年代に作ったとはさすがキューブリックです。
投稿: とろとろ | 2006年2月19日 (日) 15時25分
こんばんは!TBサンクスです♪
この映画いま見ても色んな意味で斬新な映画ですよねぇ。印象に残る映画であったことは確かです。
んじゃまた~。
投稿: goma | 2006年2月18日 (土) 01時02分