『ソナチネ』この映画を見て!
第50回『ソナチネ』 北野武特集2
見所:「沖縄の海辺で戯れるヤクザたちのはかない姿、狂気と死の匂いが漂う映像と音楽」 今回紹介する映画『ソナチネ』は北野監督作品の中でも評価・人気共に非常に高い作品です。本作は公開当時の日本ではあまり注目されませんでしたが、イギリスで大反響を呼び、ヨーロッパで北野映画ブームを生むことになりました。
私も北野監督の作品の中で一番好きな作品は『ソナチネ』です。DVDを購入しては、半年に1回は見直しています。この映画の魅力は語ると尽きることがないのですが、静かさの中に狂気と死の匂いが漂う映像と音楽にあります。ストーリー自体はとてもシンプルで、ヤクザが抗争に巻き込まれて、破滅していく姿を描いています。ただその描き方が北野監督らしく、静かにユーモアを交えながら、淡々と無常観を感じさせる演出となっており、普通のヤクザ映画とはひと味違う作りになっています。
ストーリー:「組長から沖縄の中松組への加勢を頼まれ、手下を引き連れて現地へ赴いた。しかし、東京から助っ人が来たということで、かえって相手の組を刺激することになってしまい、状況は悪化する。かろうじて生き延びた村川らは、沖縄の人気のない海辺の家に実を隠す。しかし殺し屋が送り込まれ、手下を失う村川。そして、彼はついに破滅への道と向かうことになる。」
北野監督の映画はどれも死の匂いが漂いますが、この映画は特に死の匂いが濃厚です。映画の冒頭から「あんまり死ぬことを怖がっていると死にたくなるんだよ」というセリフが出てきます。このセリフは今回の映画のテーマを見事に表現しています。この映画は淡々とした日常の中での死の突発性や不条理を描きます。死は日常のすぐ側に横たわっていることをこの映画は浮き彫りにします。その死の描き方はある意味、とても怖いものを感じます。
また、この映画は北野作品の中でも暴力描写が過激です。その描き方はどこまでもリアルで痛みを感じるものです。日常の中で突然降りかかる暴力。ある時は暴力を振るい、ある時は暴力を振るわれる中で見えてくる日常の中の非日常。人間の闇、支配欲、死への恐怖と誘惑。彼の描く暴力は観客の抑圧されたエネルギーを発散させる目的で描かれているのでなく、あくまで非日常へ観客を誘うために描かれます。
この映画はストーリーそのものを楽しむというより、映像と音楽のコラージュを楽しむ映画です。沖縄の青い海辺で無邪気に戯れるヤクザたちの姿、そこに流れる久石譲の静かでありながら、どこか狂気を秘めた反復音楽。それは観客を静かなる死と狂気の世界に導きます。
この映画は何の意味もない映画です。あらゆる意味は否定され、不条理さと狂気だけが残る映画です。
誰でも見て楽しめる映画ではありませんが、はまると何度でも楽しめる映画です。
製作年度 1993年
製作国・地域 日本
上映時間 93分
監督 北野武
脚本 北野武
編集 北野武
音楽 久石譲
出演 ビートたけし 、国舞亜矢 、渡辺哲 、勝村政信 、寺島進
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