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『バリーリンドン』この映画を見て!

第40回『バリー・リンドン』 スタンリー・キューブリック特集3
こんな人にお奨め!「18世紀ヨーロッパに興味のある人、コスチューム劇が好きな人、人生とは何か考えている人」
バリー リンドン

 今回紹介する映画は鬼才キューブリック監督が作った歴史映画『バリー・リンドン』です。この映画はキューブリックの作品の中では知名度は低いですが、隠れた名作です。日本を代表する黒澤明監督がこの映画を見て大変感激して、キューブリックに賞賛の手紙を書いたほどです。
 『バリー・リンドン』はもともとキューブリック監督が長年構想していたナポレオンを題材にした映画を撮ろうと準備していた矢先に制作中止となり、代わりに制作された映画です。
 この映画の一番の見所は徹底した18世紀ヨーロッパの再現です。文化、衣装、生活様式の細部に至るまで全てが緻密に再現されており、観客を18世紀にタイムスリップさせます。特に当時の室内の自然な光を再現にはこだわっており、蝋燭の光だけで撮影できるカメラレンズを開発したそうです。映像の美しさはまるで動く絵画を見ているかのようです。
 私がこの映画を始めて見たのは大学の時でしたが、その時はもうひとつピンときませんでした。映像の美しさにはため息が出ましたが、ストーリーは淡々と進んで、淡々と終わっていくのでもう一つストーリーに入り込んでいけませんでした。また主人公も他のキューブリック映画のように強烈な印象や魅力がありませんでした。この映画は私には合わないかなと思っていたのですが、最近DVDを買って見直すと昔見た時には気づかなかったこの映画の魅力に気づき、とてもはまってしまいました。
 ストーリー:「18世紀のアイルランド。バリーは貧しい農民の母子家庭に生まれた。ある日、恋愛のいざこざで決闘することになるが、何とか相手を射殺して逃げることができる。しかし逃げる途中にイギリス軍隊に入隊する。しかし、戦争に嫌気のさしたバリーはイギリス軍から逃亡するが、プロセイン軍に捕まってしまい、プロセイン軍のスパイをさせられることになる。しかし、スパイする
シュバリエがアイルランド人だったこともあり、バリーは彼の側につき、彼と共にヨーロッパ中でイカサマ賭博師として大儲けする。そんな中ベルギーの宮殿で名門リンドン家の夫人と出会い、彼女の心を射止めて、結婚することになる。そして莫大な冨と名声を得たバリーだったが、そこから彼の人生は大きく転落していくことになる。」
 この映画のストーリーは2部構成になっており、第1部はバリーが結婚して名声を得るまで、第2部はバリーが没落していくまでを描きます。この映画は他の映画と大きく違ってナレーションがバリーにこれから起こることを先に伝えます。観客はこの後、バリーの身に何が起こるのかをあらかじめ知った上で見てきます。
 それはキューブリック監督が観客に主人公へ感情移入させず、主人公を見つめる観察者として見るように仕向けているように思えます。この映画は主人公に感情移入する映画でなく、主人公の人生を覗き見する映画です。
 またこの映画の主人公は他の映画と違って魅力がありません。はっきり言って、とても嫌な奴です。明確な意志を持って人生を切り開いていくのでなく、ずる賢く日和見主義的に振る舞って人生をやり過ごしていくので、見ていてとても共感しにくいです。しかし考えてみたら、あの当時に現実的に農民が貴族まで上りつめようとしたら、バリーのごとく振る舞うしかないのだろうなとも思います。
 さらにこの映画はバリーの視点を通して戦争の愚かさ・虚しさや貴族の堕落した姿を痛烈に批判しています。横一列に並び銃を構えて敵に向かってゆっくり歩いていき、撃たれて死んでいく兵士たち。形式ばった戦争で無意味に死んでいく兵士たちの姿は戦争の本質を抉りだしています。また貴族の称号を得るために貴族のスタイルや生活習慣を身につけようとするバリーの姿はどこか虚しいです。この映画は貴族社会の習慣や風習をじっくりと描く中で、貴族社会の差別性、形式主義に対する痛烈な皮肉を訴えかけます。
 この映画は見終わった後、人生の栄枯盛衰や無常観を強く感じます。ラストシーンに出てくる「美しき者も、醜いものも今はあの世」という文章は、この映画のテーマを見事に語っていると思います。バリーはあまり共感できる主人公ではないのですが、見終わった後はなぜかバリーにとても悲哀を感じて共感しまいます。それはバリーの人生の栄枯盛衰に人生の無常観を感じてしまうからかもしれません。
 この映画は隠れた名作です。3時間以上の大作ですが、見終わった後に人生とは何か考えさせられると思いますよ。ぜひ見てみてください!

製作年度 1975年
製作国・地域 イギリス
上映時間 186分
監督 スタンリー・キューブリック 
製作総指揮 ヤン・ハーラン 
原作 ウィリアム・メイクピース・サッカレー 
脚本 スタンリー・キューブリック 
音楽 レナード・ローゼンマン 
出演 ライアン・オニール 、マリサ・ベレンソン 、パトリック・マギー 、スティーヴン・バーコフ 、マーレイ・メルヴィン 

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