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『フルメタル・ジャケット』この映画を見て!

第42回『フルメタル・ジャケット』 スタンリー・キューブリック特集5
こんな人にお奨め!「戦争とは何か知りたい人、人間が狂気に陥っていく姿を見たい人」
フルメタル・ジャケット

 今回紹介する映画は戦争の本質を見事に抉りだしたキューブリックの傑作です。最近イラクでのイギリス軍や米軍の兵士によるイラク人への虐待や虐殺が問題となっています。なぜ兵士たちがあのような非人道的な行為をしてしまうのか、この映画はその答えを明解に教えてくれます。
 この映画は全編ドキュメンタリータッチで普通の若者が殺人マシーンの兵士となり、戦場で人を殺すまでを描いてます。キューブリックらしく、映像はどこまでもクールであり、ストーリーも主人公に感情移入をさせない作りになっており、観客は観察者として終始この物語を見ていくことになります。
 ストーリー「アメリカ南カロライナの海兵隊新兵訓練所に入隊したジョーカー、カウボーイ、レナードら若者たち。彼らは鬼教官ハートマンのもとで、毎日地獄のような猛訓練が行われる。しかし、一人落ちこぼれの若者レナードは訓練についていけず、仲間の足手まといになっていた。レナードは教官や仲間にいじめられ、次第に狂っていく。そして卒業前夜に教官をライフルで撃ち殺して自殺してしまう。訓練所を卒業したジョーカーやカウボーイは戦地ベトナムへと向かう。 そしてジョーカーは市街地で地獄のような戦場を目の当たりにすることになる。」
 この映画のストーリーは2部構成となっており、最初の45分間は訓練所の様子を描き、残りの1時間はベトナムでの様子を描いています。1部では若者が兵士となるまでの姿をシニカルに描きます。鬼教官による人間性を剥奪するような卑猥で差別的な罵詈雑言の嵐。聴くに堪えないような言葉の連続に圧倒されます。過酷な訓練と規律、言葉の暴力から、次第に殺人マシーンの兵士へと変わっていく若者たちの姿は見ていてぞっとします。2部では殺人マシーンと化した兵士たちの戦場での姿を描いていきます。特に印象的なのが廃墟の中で闘うシーンです。次々と倒れる仲間たちの姿、見えない敵への恐怖、そして思いがけない敵の正体。このシーンは戦争の狂気と虚しさが見事に表現されています。
 映画のラストは兵士たちが戦場を歩くシーンにミッキーマウスマーチが流れてくるのですが、戦争の狂気を見事に表現しています。
 この映画はベトナム戦争を扱っていますが、極めて普遍的なテーマを扱った映画であり、戦争と人間の狂気というものを見事に抉りだしています。キューブリック監督はどの映画でも狂気というテーマを扱っています。監督は常に人間の狂気がもつ力や恐怖、虚しさを映画のテーマとして取り上げます。この映画でも戦争という狂気に巻き込まれた人間の狂気の虚しさや愚かさを皮肉たっぷりに描いています。しかし私はこの映画を見て、キューブリック監督は人間の狂気に対してもはやどこか諦観しているのではないかと思ったりもしました。そして、監督は人間の狂気を滑稽で愚かな人間らしさの一つとして捉え、狂っていく人間にどこか愛おしさを感じていたのではないかとすら思います。
 『フルメタル・ジャケット』はとても優れた戦争映画であり、人間の狂気という本質を描いた映画でもあります。ぜひ皆さんも見てください!

製作年度 1987年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 116分
監督 スタンリー・キューブリック 
製作総指揮 ヤン・ハーラン 
原作 グスタフ・ハスフォード 
脚本 スタンリー・キューブリック 、マイケル・ハー 、グスタフ・ハスフォード 
音楽 アビゲイル・ミード 
出演 マシュー・モディーン 、アダム・ボールドウィン 、ヴィンセント・ドノフリオ 、R・リー・アーメイ 、ドリアン・ヘアウッド 

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コメント

こんばんわ。私の記事を読んでくださりありがとうございます。『フルメタル・ジャケット』は私にとって衝撃的な作品でした。カゴメさんのサイトは時々拝見しております。カゴメさんのサイトの映画レビューを呼んでいると私と映画に嗜好があっているようですね。私もいくつかTBさせてもらいました。

投稿: アシタカ | 2006年5月24日 (水) 23時13分

検索で貴記事を発見!拝読させて頂きました。

>映画のラストは兵士たちが戦場を歩くシーンにミッキーマウスマーチが流れてくるのですが、戦争の狂気を見事に表現しています。

取り返しが効かないほどに兵器と化してしまった彼らの群像が、ゾッとするほど恐ろしかったですね。

ということで、私の記事、TBさせてくらさい。
(ブログの趣旨にそぐわないと判断された場合には、遠慮無く削除して下さいませ)

投稿: カゴメ | 2006年5月24日 (水) 16時39分

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