「北野武」私の愛する映画監督4
第4回「北野武」 今回紹介する映画監督は日本映画を代表する監督となった北野武です。私は『HANA-BI』が一番最初に見た北野監督作品でした。この映画は私にとって、北野監督の力量を見せつけられた作品でした。アウトローな男の美学を感じさせるストーリー、突発的に起こるバイオレンスのリアルな迫力、北野監督の独特な映像美や編集、久石譲の情感たっぷりの音楽。この監督の才能に惚れ込み、過去に撮った作品をDVDで片っ端から見ていきました。
北野武の映画の魅力は人によっていろいろあると思うのですが、私は次の5つだと思います。
①独特な映像美
彼の映画はストーリーを楽しむというより、彼の生み出した映像を楽しむという要素が強いです。どの作品もストーリー自体は大して意味がなく(良い意味で)、ストーリーを下に監督がイメージした映像の一瞬の美しさや面白さを味わうことの方に意味があります。彼の作り出す映像はどこまでも意味を否定し、夢のような感触を持っています。彼にとってストーリーよりもどんな映像をとるかに関心があるのでしょう。
彼の映像はとてもクール(かっこよく、そして冷たい)です。彼独特の青が強調された画面は「キタノブルー」と言われ、世界中の映画人を虜にしました。私も彼の青みがかった画面がとても好きです。彼は青を再生の色として捉えているようです。もしそうだとしたら、いつも主人公たちの追いつめられた生き方を描いていますが、青みがかった画面に主人公たちの人生の再生を託しているのかもしれません。ちなみに『HANAーBI』や『ソナチネ』がキタノブルーを一番堪能できる映画です。ここ最近は青以外にも赤や黄などのカラフルな色彩を強調した画作りをしており、『ドールズ』や『TAKESHIS’』など最近の作品を見ると今までの「キタノブルー」とは違う画が見られます。
②間を大切にした編集
彼の映画の編集は独特です。間を大切にした編集というか、主人公たちの何かしらのドラマが起こる前後の静かな様子もじっくりと見せてくれます。この前後の様子を見せることで、北野映画独特の静けさが生まれ、観客に不思議な余韻を与えてくれます。
また主人公たちのストーリーの途中に脈略もない断片的な話し(ギャグシーンが多いです)がよく挿入されます。主人公たちのドラマを追っていた観客は、途中で急に関係ない話しが入ってくることで、戸惑いつつも、そこでニヤリと笑ってしまいます。
③死と暴力というテーマ
彼の映画は常に死の匂いが漂います。主人公たちはどこか死にあこがれ、破滅に向かいます。彼の映画には生きることの無常観を感じてしまいます。「この世は一瞬の夢のようなもの」であると彼の映画は観客に語りかけてきます。彼にとって映画を撮るということはどこか自分の死と向き合い、生きている自分を再確認する行為なのでしょう。
また彼の映画には暴力的な描写が多いです。静けさを突然打ち破る暴力、そしてまた静けさ。彼の描く暴力はどこまでも冷たく、無機質です。彼が描く暴力とはどこもまでも突発的で不条理なものです。それは死の突発性や不条理さであり、生きることの無常さや不条理さでもあります。
④芸人ビートたけしとのギャップ
彼の映画の特徴としてテレビで見るタレントとしてのビートたけしとのギャップがあります。変なかぶり物をまとって、饒舌にしゃべりまくり、おどけて人を笑わせるビートたけし。どこまでも無口で、クールで、死と暴力を描く北野武。このギャップそのものが面白く、ビートたけし=北野武はどういう人間で何を考えているのか観客に興味を抱かせます。
⑤北野武のプライベートな側面が反映された内容
彼の映画はプライベートな側面がいろいろな所に反映されています。例えば、バイク事故後に撮られた『キッズ・リータン』に込められた北野武の思い。それは事故で死の淵を漂いながらも、生き残ってしまった彼の思いがとても反映されています。また最新作『TAKESHIS’』にはビートたけしと北野武という二つの顔を持つ彼の人生観が投影されています。
また映画の随所に彼のプライベートな趣味が反映されています。HANABIや菊次郎の夏に挿入される絵も自分で描いていますし、ここ最近の映画に登場するタップダンスのシーンも彼自身が最近タップを習っているおり、それが映画の中に反映されているそうです。
さらに役者もたけし軍団や彼がお世話になった人の息子を起用するなど、身内を大切にしています。
彼の映画は独特なスタイルを持っており、好きな人と嫌いな人に分かれるかもしれません。しかし彼の映画は一度はまると癖になり、何度でも見たくなります。もしこれから北野映画を見てみようという人がいるなら、私は『キッズ・リターン』から入ることをお奨めします。この映画はキタノブルーな映像を楽しめると同時に、ストーリーもほろ苦い青春を描き感動的です。ぜひ見てみてください。
ちなみに北野武監督が好きな人にお奨めする本が『武がたけしを殺す理由』です。この本は1991年から2003年の12年間にわたって行われた映画監督・北野武に対するインタビューをまとめており、彼がどういう思いで映画を撮っているのかよく分かります。絶対お買い得な本です。
*北野武監督作品
TAKESHIS’(2004)
座頭市(2003)
Dolls(2002)
BROTHER(2000)
菊次郎の夏(1999)
HANA-BI(1998)
キッズ・リターン(1996)
みんな~やってるか!(1995)
ソナチネ(1993)
あの夏、いちばん静かな海。(1991)
3-4x10月(1990)
その男、凶暴につき(1989)
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コメント
始めまして。ブログ見て頂いてありがとうございました。確かに武の映画はだんだんヨーロッパを意識した方向に向かっていましたね。私は『あの夏』から『HANA-BI』までの北野映画が一番好きです。それ以降はちょっと狙いすぎですね。でも『座頭市』は娯楽映画として面白かったです。
投稿: とろとろ | 2006年2月24日 (金) 22時59分
たまたま辿り着きましてコメント失礼します♪
僕も北野映画は好きで、その男凶暴につきから順にリアルタイムで見ていました。
当初不条理な暴力描写はフレンチコネクションの影響濃いなぁなんて思ったりしてました。
だんだんヨーロッパ擦れしてきて嫌気もさした時期を経て現在に至りますがasitakaさんのこの記事をみてまた見直してみたくなりました。
投稿: motti | 2006年2月24日 (金) 20時16分