『めぐりあう時間たち』この映画を見て!
第27回『めぐりあう時間たち』
・こんな人にお奨め!「自分の人生に何かしら満たされない漠然とした不安や不満を抱えている女性の方」
この映画は「ダロウェイ夫人」という1冊の本を中心に、3つの時代(1920年代・1950年代・2000年代)でそれぞれ生きる3人の女性の1日を描いた作品です。私はこの映画を劇場で見たのですが、最初見たときは3つの時代の女性の話しが交互に同時進行で語られている中で描き出される時代を超えた女性の孤独と哀しい生き様に胸を打たれたのを覚えます。
ストーリー:「まず1920年代。「ダロウェイ婦人」を書いた女性作家ヴァージニア・ウルフ。彼女は心の病から田舎に夫と引っ越してきた。優しいが、彼女の生き方を決して理解してくれない夫。彼女は田舎暮らしを嫌い、都会に戻りたいと願っていた。彼女は次第に精神的に追い込まれていく。次に1950年代。「ダロウェイ婦人」を読む主婦ローラ。彼女は夫との間に一人息子がいる。彼女は優しいが鈍感な夫との生活にどこか苛立ちや孤独を感じていた。そして夫の誕生日、彼女はある決断をする。最後に2001年。出版社に勤めるクラリッサは恋人の詩人リチャードが有名な賞を受賞したのでパーティを開こうとしている。しかしリチャードはエイズに冒されており、自分の人生に絶望していた。彼を献身的に支える彼女だが、悲劇が訪れる。3つの時代の女性が抱える孤独と苛立ち。女性が一人の人間として生きる姿を描く。」
この映画は時代こそ違え、自分の人生に孤独や寂しさを抱えながらも、一人の女性として、一人の人間として自分らしく生きていこうと葛藤している女性たちの姿を描いています。その葛藤は見ていてとても胸が苦しくなります。いつも人生において受け身にならざるえない女性たちの苛立ち。人間として生まれてきたのに、どこか自分の人生に手応えを感じられない孤独感。映画では女性たちの苛立ちや孤独感が痛いほど伝わってきます。
時代や社会が要請する女性像に縛られ、役割を演じないといけない女性たちが、自分の人生を手に入れることがどんなに困難であるか、この映画を見て男性である私は改めて痛感しました。
この映画は死の匂いが全編漂っています。死への恐怖・おびえ、死への憧れ、死の悲しみ。生きる屍のような生き方をせざるえない人間たちが、生を味あうために死への誘惑にかられる姿は見ていてとても痛々しく、考えさせられるものがあります。生きるために一度死なないといけない人間たち。そこには人生の闇と不条理を感じざるおえません。
またこの映画では、同性愛をほのめかすキスシーンが各年代ごとに挿入されます。2001年のパートではクラリッサは同性愛者で好きな女性と同居していると言う設定ではっきりと同性愛が描かれています。この映画がなぜ同性愛のシーンを入れたのか、私なりに考えたのですが、そこには女性の気持ちを共感できるのは男性ではなく、同じ女性であることを言いたかったのかなと思います。
この映画の見所は各時代の女性たちを演じた女優たちの演技です。ニコール・キッドマン 、ジュリアン・ムーア 、メリル・ストリープという現代のハリウッドを代表する女優たちが演じているのですが、観客を映画に引き込む素晴らしい演技をしています。特にヴァージニア・ウルフを演じたニコール・キッドマンの演技は見ていて狂気迫るものがあります。特に彼女が田舎から逃げようと駅で列車を待っているときに夫が迎えに来るシーンの演技は素晴らしいので是非皆さんも見てみてください。
3つの時代の3人の女性の1日の話しというシナリオはとても複雑であるのですが、編集・演出がとても巧みで上手に各時代の場面を切り替えながら観客に話しを見せてくれます。そのおかげで観客は3人の女性が時代を超えて共通して抱える孤独や哀しみに共感しやすくなっています。さらに現代音楽家フィリップ・グラスのもの悲しい反復音楽がいつの時代も変わらない女性の孤独と哀しみを見事に表現しており、この3つの時代の話しを1つの大きな話しにまとめあげています。
この映画は明るく楽しい映画ではありませんが、人生とはどういうものか考えるにはとてもいいきっかけを与えてくれる映画です。ぜひご覧ください。
・受賞歴:アカデミー主演女優賞(ニコール・キッドマン)、ベルリン映画祭銀熊賞女優賞(ニコール・キッドマン 、ジュリアン・ムーア 、メリル・ストリープ)、ゴールデングローブ作品賞・主演女優賞(ニコール・キッドマン)、他多数の映画賞受賞
製作年度 2002年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 115分
監督 スティーヴン・ダルドリー
製作総指揮 マーク・ハッファム
原作 マイケル・カニンガム
脚本 デヴィッド・ヘア
音楽 フィリップ・グラス
出演 ニコール・キッドマン 、ジュリアン・ムーア 、メリル・ストリープ 、スティーヴン・ディレイン 、ミランダ・リチャードソン
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コメント
コメント&TBありがとうございました。確かにこの映画は何かを伝えようとしているのに、それがなかなか伝わってこないもどかしさはありますよね。私も最初劇場で見たときは心にずしりとしたものが残りつつ、それが何か言葉にできなくてDVDを購入して何回も見直しました。この映画は見れば見るほどいろいろな発見があり、考えさせられるものがあります。
死の匂いが充満するこの映画、私は詩人のリチャードの自殺するシーンでいつも胸がいっぱいになってしまいます。母に捨てられそうになった彼の孤独と絶望、そして母の抱えていた自分への絶望と孤独。お互い分かり合えないままの二人は見ていてつらいものがありました。
リチャードにしろヴァージニアにしろ、死ぬことでしか自分の生の尊厳を守ることができなかった哀しい存在だといつも思います。
ではまた私のサイトも遊びに来てください。
投稿: とろとろ | 2006年2月11日 (土) 17時27分
こんにちは。
この映画を見て一番感じたことは、「何かを伝えようとしているはずだ」でした。
それなのに、私の心には届いてくるものが見えてこない苛立ちが募るばかりだったんです。
こちらの記事を読ませていただいてなんとなくぼんやりと理解できたような気がします。(笑)
私には彼女達を理解できなかったのかもしれません。私自身死にたいと思ったことも発作的に自殺しかけたこともありますが、踏みとどまったのは死への誘惑よりも生への執着の方が強かったからなのでしょう。
見ていて辛くて仕方がありませんでした。
何故ちゃんと向きあって話をしないの?わかってくれるまで話そうとしないの?ともどかしくて仕方がなかった・・・
なんだかまとまりがなくなってきてしまいました(苦笑
駅でのニコールの演技は素晴しかったですね。
あそこが一番印象に残っています。
こちらからもTBさせていただきました♪
投稿: chibisaru | 2006年2月11日 (土) 16時02分