『エクソシスト』この映画を見て!
第37回『エクソシスト』
こんな人にお奨め!「怖い映画が見たい人、オカルトに興味がある人、神の存在について考えてみたい人、人間の弱さについて考えている人」
この映画は映画史に残るホラー映画の傑作であり、知っている人も多いと思います。この映画は確かにホラー映画の代表作というだけあってショッキングなシーンも数多くあります。屋根裏の謎の音、ポルターガイスト現象、悪魔に取り憑かれ苦しむ容姿が変貌する少女、首が180度回るシーン。
しかし数多くのホラー映画が作られている今見るとそんなに怖い映画ではありません。むしろ悪魔払いを中心にした奥深い人間ドラマが展開される映画です。
この映画は悪魔払いを扱った映画でありますが、悪魔払いのシーンは最後の30分ほどです。最初の1時間はある日突然に悪魔に取り憑かれた少女とその母親の悪魔に脅える姿と自分の母を見捨てた若い神父カラスの苦悩する姿とを平行して描いていきます。そして中盤過ぎかかった頃、ようやく家族とカラス神父は出会い、悪魔の存在を確認し、悪魔払いに挑んでいきます。
映画の前半は突然原因も分からず様子がおかしくなった少女に戸惑う母親の孤独と苦悩がじっくりと描かれています。病院に行ってありとあらゆる所を診察しても異状の見つからず、どんどん様子の変わっていく娘に精神的に追いつめられていく母親の姿がとてもリアルに描かれています。救いたくても救えない苛立ちや焦り、未来に対する不安と絶望、何としても子どもを守りたい母親としての愛情。この映画は母の子に対する愛情を描いたドラマとしても1級品です。
またこの映画は人間の弱さを描いた映画でもあります。悪魔に取り憑かれた少女と並んで、この映画の主役とも言えるカラス神父は人間の弱さの象徴として描かれています。独り身の母親を見殺しにしたという苦悩にずっと苛まされるカラス神父。神父でありながら人を救うことが出来ない無力感。彼は神父としての自分にどこかコンプッレックスを持って生きています。しかし最後に悪魔と直接対決する中で、自分の弱さを悲劇的な形ではありますが克服します。この映画は自分の内面の弱さと向き合い克服するドラマとしても胸に残るものがあります。
映画のクライマックスの悪魔払いのシーンは圧巻です。描かれる時間は短いのですが、今までのドラマの積み重ねがある分、とても見入ってしまいます。映画の冒頭で出てきたメリン神父が登場し、悪魔との一騎打ちが始まります。このシーンの緊張感は凄いです。そして思いがけない形で突然打たれる終止符。それは見ているものに深い余韻を与えてくれます。
この映画が単なるホラー映画を超えた格調高い仕上がりになっているのは、ストーリーの奥深さもありますが、演出面での巧みさもあります。
暗く冷たい印象を与える映像、巧みなカメラワーク、編集の巧みさ、ドキュメンタリータッチの演出、効果的な音楽の使い方と、どれも映画の仕上がりを高めています。特にメリン神父がタクシーでやってくるシーンと何とも言えない後味を残す映画のラストシーンは印象的です。
この映画は2000年に再編集され、10分程のシーンが追加されたディレクターズ・カット版が公開されています。こちらはリーガンが蜘蛛歩きをするシーンやラストシーンに変更が加わっています。またCGによるサブリミナル映像も各所に付け加えられています。しかし、完成度で言うとオリジナルの方が優れています。30年前にこれらのシーンを付け加えなかったのは正解だったと思います。
続編も何本か制作されていますが、これらも1作目には及びません。
皆さんも是非この恐ろしくも哀しい映画を見てみてください。深い余韻が残ると思います。
製作年度 1973年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 122分
監督 ウィリアム・フリードキン
製作総指揮 ノエル・マーシャル
原作 ウィリアム・ピーター・ブラッティ
脚本 ウィリアム・ピーター・ブラッティ
音楽 マイク・オールドフィールド 、ジャック・ニッチェ
出演 エレン・バースティン 、マックス・フォン・シドー 、リー・J・コッブ 、ジェイソン・ミラー 、リンダ・ブレア
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コメント
ゆきろさんコメントありがとうございます。私もこの映画を始めてみたとき普通のホラー映画とは違う生々しい怖さに背筋がぞっとしたものでした。
後味が悪く、見た後も脳裏から離れない怖さがありますよね。
また、単なる化け物との対決でない、人間の内面や宗教のもついやらしさみたいなものも表現されており、単なるこけおどしのホラーを超えた人間という生き物のおぞましさみたなものが感じられますよね。
投稿: とろとろ | 2010年5月 4日 (火) 19時24分
4年も前のご投稿なので、今お返事を書くのも失礼かと思ったのですが...当方、中学生(80年代終わり頃)に昼間テレビで放送されていたのを、誰もいないだだっ広い自宅で見て、実に怖い思いをした記憶があります。しかし、中学生なりに複数のストーリーが展開していることは気がついていたようです。移民らしきカラス神父の、無学で貧しく孤独な母親への痛切な想いに付け入る悪魔の手口に憤慨するよりも、作家と映画人の巧妙なプロット作りに感心したのを覚えています。怖い怖いと言いつつも、子供はよく見ていたものです。
その後22、3年の月日を経て、何故か最近ディレクターズカットで見直してしまいました。
腹の底から冷え冷えとする恐怖感が募って来て、同時に、神(純潔)と悪魔(淫猥)の相補的表象群を作り出したカトリシズムのいやらしさに対する吐き気もこみ上げて来て、中学生の時には感じなかったショックを受けました。ホラーが怖い、という部分は抜きにして、この怪物のイメージ全てに取り憑かれたような気持ちになり、3日目には発熱、嘔吐、全身の疼痛と、実際に病気にまでなってしまいました。(ただの風邪だと周りは言うのですが、私はどこかでこの映画のせいだったと思ってます。)
醜悪なものってどうして人を惹き付けるのでしょうか。自分の奇怪な妄想を誇張してイメージ化して、カタルシスを得るというのは分かるのですが...ブラッティーとフリードキンの「エクソシスト」にはそのカタルシスがありませんね。映画の3分の2を占める実録風のリーガンの診察、脳検査、母親と医者の相談のシーンなどが、リアリズムの方向を厳として指しているからでしょうか。
私、この映画を賞賛することにはやぶさかではないのですが、フィクション消費者の立場から言わせてもらうと、このホラーの不燃焼感はなんともやるせない、何とも苦しいものなのです。現実の影をそこに見た当時の観客がパニックを起こしたのも、フリードキンの冷酷非常な社会心理学ゆえの演出およびスタイルによるものだと思います。
70年代ベスト20に入るほどに優れた映画と思うものの、やはりよくない映画だと思ってしまいます。ぞっとする気持ちにここまで余裕がない状態にさせるのは、映画のすることでしょうか。
投稿: ゆきろ | 2010年4月10日 (土) 19時25分
TB・コメントありがとうございました。オーメンはエクソシストと双璧をなす70年代オカルト映画の傑作ですね。昔は分かりやすいオーメンの方が好きでした。今年、オーメンはリメイクされる見たいですよ。フリードキンはフレンチコネクションといい、エクソシストといい、傑作を取りまくってましたね。
投稿: とろとろ | 2006年2月16日 (木) 21時40分
TBありがとさんです。お返ししときます。
オカルト映画としては 『オーメン』 なんかも好きですけど、
色んな意味で 「怖い」 のは断然こっちですね。
この時代のフリードキン監督は良い作品が沢山ありますね。
投稿: fujita | 2006年2月16日 (木) 17時05分
こんばんは!
これはトラウマになるくらいな衝撃を受けた作品です。
未だに、これは怖い!と真っ先に思い浮かぶくらい強烈(笑)
どうしても、その怖さに視点がいってしまいお母さんの心の動きや神父の弱さになかなか焦点をあわせることができなかったのですが、こうして文章にしていただけると場面場面を思い出し、母の娘を思う愛情の深さや神父の心の弱さにつけこんだ悪魔の攻撃など思い出されてきました。
今度見るときはそのあたりのことも考えながら見てみたいです。また違った印象が生まれるかもしれませんね。
ではでは!
投稿: chibisaru | 2006年2月15日 (水) 18時46分