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『あの夏、一番静かな海。』この映画を見て!

第49回『あの夏、一番静かな海。』 北野武特集1
見所:「どこまでも静かなラブストーリー、どこまでも青く美しい海、波の音と久石譲による音楽の心地よさ」
a_scene_at_the_sea  今回紹介する映画は、北野武が始めて手がけたラブストーリーです。この映画は有名な映画評論家・淀川長治さんが「一番の傑作」と賞賛した作品です。この映画からキタノブルーといわれる映像、極端に少ないセリフ、間を大切にした編集など、北野武の映画スタイルが確立され始めます。またこの作品から久石譲が音楽を担当し始め、彼の作品で次々と印象に残る音楽を発表していきます。
 ストーリー:「主人公は聴覚障害者のカップル。ごみ収集車のアルバイトをする茂は、ごみ集積所で偶然サーフィンボードを拾ったことをきっかけに、サーフィンを始める。彼の練習する砂浜には、彼を見守る聴覚障害者のガールフレンド貴子の姿があった。茂は毎日練習を重ねて、サーフィン大会に出場するほどに上達する。
 最初、この映画を見たときは、映像・ストーリーとも徹底的に無駄なものが削ぎ落とされた演出に驚きました。この映画は最初から最後まで全て静かに進んでいきます。聞こえてくるのは波の音と久石譲の静かな音楽だけ。この静けさに最初は戸惑いますが、慣れてくるととても心地よく映像に集中できます。セリフも主人公のカップルは聾唖者なので一切なく、サーフィンに打ち込み始めた彼氏とそんな彼を浜辺でじっと見つめる彼女の姿が淡々と描かれていきます。その代わりに、主人公たちの仕草や表情がセリフの代わりになり、2人の感情や関係を伝えてきます。その繊細な表現はセリフでは伝えられない微妙な心の動きを感じることが出来ます。
 このどこまでも静かな映画は、久石譲の音楽がとても重要な役割を担っており、削ぎ落とされた映像・ストーリーに情感を与えてくれます。どこまでも透明で美しい反復音楽の調べは聞いていて心地よく、画面やストーリーの静けさを際だたせます。そしてラストシーンでメインテーマの音楽が流れた時はパブロフの条件反射のように涙が出てきます。
 この映画、北野監督らしい、コメディシーンがあります。主人公の何気ない失敗、周囲の者たちの滑稽な姿。静かな場面が続くこの映画の中で、くすっと観客を笑わかせる場面は、心を和ませてくれます。
 私はこの映画を見て、サイレント時代のチャップリンの映画に似ているなと思いました。全てを主人公の仕草や表情、周囲の状況で伝えようとするサイレント時代の映画。『あの夏、一番静かな海』の演出はサイレント映画の演出に似ており、観客をくすっと笑わかせながら、ドラマが展開していく手法はチャップリンの映画に似ていると思います。
 また私がこの映画の好きなところの一つとして、聾唖者という障害を持つ人を主人公にしながら、そのことを強調することなく、さりげなく描いているところがあります。普通の映画だと障害を持っている人を主人公にすると、その障害に焦点を当てて映画を撮るのですが、この映画は主人公の一つの属性としてしか扱いません。映画に出てくる周囲の人物たちも主人公たちの障害を特に気にすることなく接しています。このようにごく自然に障害を持った人の日常を描いた映画は少ないと思います。
 映画のラストはとても切ない終わり方をします。北野監督らしい終わり方であるのですが、人生の不条理さを見事に語っています。映画のラスト5分は映像の切なさに久石譲の音楽の効果も相まって、とても感情を揺さぶられます。私はいつもラストシーンを見るたびに自然に涙がこみ上げてきます。
 この映画はどこまでも静かで、どこまでも美しい映画です。ぜひ、この心地よい静けさに浸ってみてください。

製作年度 1991年
製作国・地域 日本
上映時間 101分
監督 北野武 
脚本 北野武 
音楽 久石譲 
出演 真木蔵人 、大島弘子 、河原さぶ 、藤原稔三 、寺島進 

 

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受信: 2006年3月11日 (土) 22時06分

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