『HANA-BI』この映画を見て!
第51回『HANA-BI』 北野武特集3
見所:「キタノブルーの美しい画像、久石譲の哀しく美しい音楽、孤独な男の美学」
今回紹介する映画『HANA-BI』は北野映画の集大成です。キタノブルーと言われる青が際だった画像、孤独な主人公、死と愛に満ちたストーリー、久石譲の叙情的な音楽と北野映画ならではの魅力が詰まっています。それでいて、今までの北野映画にはないウエットさや愛が描かれています。この映画は海外でも高く評価され、ヴェネチア映画祭でも金獅子賞を獲得しました。また日本でも金獅子賞受賞ということで、一気に北野映画に注目が集まり始めました、
私は『ソナチネ』の次にこの映画が好きなのですが、いつもラストシーンを見るたびに涙が出ます。浜辺で寄り添う夫婦、久石譲の哀切極まる音楽、そして妻のセリフ。とても静かなシーンなのですが、行き場のなくなった2人の孤独や哀しみ、そして愛が描かれ、激しく感情が揺さぶられます。このラストシーンが見たいが為に、何回もDVDで鑑賞しています。
ストーリー:「刑事として寡黙に働く西。彼は子どもを突然失い、妻も不治の病に侵されていた。同情した仲間の好意で張り込み捜査の合間を縫って見舞いにいく。だが、発砲事件が発生。快く送り出してくれた部下・西が下半身不随の身になってしまう。その後、追いつめた犯人によって部下の田中も殉職してしまう。そして西は激情のあまり犯人を殺して警察を辞めてしまう。その後、自分のせいで人生を狂わしてしまった部下やその家族に償いをしていく。しかし、その金を工面するためにヤクザに借金を重ね、やがて首が回らない状況へと陥っていく…。そして西は残された時間の少ない妻と旅に出る。 」
この映画は北野映画らしく死の匂いが立ちこめると同時に、生き残った者がどう残された時間を過ごしていくかというテーマを扱っています。次々と仲間や家族を失い、孤独になっていく主人公が自分に残された役割は何かを考え、自分のせいで犠牲になった者たちの為に償いをしていきます。主人公の不器用で誠実な人柄は見ていてとても切なくなります。
またこの映画で描かれる夫婦の愛も奥ゆかしく、とても美しいです。ほとんど言葉を交わさない2人であるのですが、何気ない仕草や表情が夫婦の人生や愛を描き出し、胸にぐっと来ます。北野監督は映像でストーリーや感情を語っていく姿勢を常に取っています。彼にとって映像が言葉そのものなんでしょう。彼の映画では暴力シーンがとても多いですが、それは孤独で不器用なな主人公にとっての言葉であり、感情表現なのかもしれません。彼の映画では言葉はほとんど削ぎ落とされます。しかし、時折、はっとする言葉が挿入され、観客に印象づけます。この映画のラスト、妻が言う二言の何気ない言葉。今まで映像によって積み重ねられた2人の姿を見てきた者には、その何気ない言葉に涙せずにはいられません。
この映画で特に印象的なのが音楽です。北野監督とは4度目のコンビになる久石譲が手がけているのですが、冷たく淡々とした映像やストーリーに感情を付けています。ストリングス中心の繊細で叙情的な音楽は、この映画が持つ哀切や孤独、愛情といったものを雄弁に物語っています。特にラストシーンは久石譲のあのメロディーが映像をぐっと盛り上げて、観客の涙を誘います。2人のコラボレーションの真骨頂がここに見られます。
また北野武監督自ら描いた挿入画もとても印象的です。色鮮やかでありながら、どこか寂しさを感じさせる彼の絵はこの映画の雰囲気によくあっています。
この映画は暴力と死に満ちていながら、暖かさと優しさを感じる映画です。ラストシーンは涙なしでは見られないと思います。あとエンドロールの後にも印象的なシーンがあるのでお見逃しなく!泣ける北野映画が見たいという方はぜひ『HANA-BI』をご覧ください!
製作年度 1997年
製作国・地域 日本
上映時間 118分
監督 北野武
脚本 北野武
音楽 久石譲
出演 ビートたけし 、岸本加世子 、大杉漣 、寺島進 、白竜
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