街を捨て書を読もう!「指輪物語」
『指輪物語』 全7巻
「旅の仲間」 上・下
「二つの塔」 上・下
「王の帰還」 上・下
「追補編」
作:J・R・R・トルーキン 訳:瀬田貞二・田中明子 評論社
今回紹介する本は映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの原作本であり、その後出てくるファンタジー小説やドラクエなどのロールプレイングゲームにも多大な影響を与えました。世界中に熱狂的なファンのいる「指輪物語」です。「指輪物語」は『ホビットの冒険』という話しの続編として書かれた本です。「ホビットの冒険」は「指輪物語」にも出てくるビルボ・バギンズが魔法使いガンダルフとドワーフ13人を引き連れて「はなれ山」に冒険に行くという話しです。はなれ山でビルボは指輪所持者のゴラム(ゴクリ)と出会い、彼の指輪を奪います。「指輪物語」はビルボがゴラムから取った指輪を巡るお話です。「ロード・オブ・ザ・リング」の所でも書きましたが、「指輪物語」は単なる冒険物語やファンタジー小説とは一線を画します。その理由として、物語の構造と設定の細かさがあります。まず普通の冒険ものやファンタジーものと違い、この物語は後ろ向きな暗い物語です。指輪を手に入れるのではなく、捨てに行くために旅をするというところからして、暗い話しです。またこの物語は様々な種族が去り、人間中心の歴史が到来するまでの一つの時代の終焉を描いた話しでもあります。
ストーリーは「ロード・オブ・ザ・リング」を見られた方はよく知っていると思いますが、中つ国であまり目立つことのなかった種族ホビットを中心に様々な種族が力を合わせて、悪の王サウロンの復活を阻止するために闘っていくという話しです。さまざまな登場人物たちが希望と絶望、強さと弱さ、善と悪との間で激しく葛藤します。様々な苦難に遭遇しながら、仲間を思いやり、与えられた使命を果たしていく姿は胸を打ちます。物語のクライマックス、フロドが指輪を投げ込もうとする場面はとても印象的です。映画と原作では少しクライマックスの展開が違います。原作の方が、人間たちの無力さや弱さが強調されています。
基本的に映画と本のストーリーは最初から最後まで大体同じです。(二つの塔のアラゴルンの話しだけは映画は大幅に脚色されてますが・・。)本で大切なところはほとんど映画で映像化されています。ただ原作の方が指輪を捨てに行くまでのプロローグと指輪を捨ててからのエピローグに大変多くのページを費やしてます。サルマンのエピソードも映画と原作は全く違います。そして指輪戦争後のホビットたちがホビット庄に戻った後に原作では事件がおき、それを通してホビットたちの成長ぶりがじっくりと描かれてます。
原作の方が、より細かく中つ国の歴史が描かれています。それはまるで歴史書を読んでいるかのような感じで、この物語の背景にある中つ国の壮大な歴史が伺え、指輪を巡って起こっていることの意味がよく分かります。
また話しの合間に詩もたくさん挿入されおり、素敵な詩が多く、緊張感のある物語をほっと一息させてくれます。
登場人物たちの性格も映画と原作はだいぶ違っています。特にアラゴルンやファラミア、デネソールなどゴンドールに関係する人間は印象が違います。原作はアラゴルンは最初から自分の王の役割意識してます。ファラミアは清廉潔白な人間で、最初からフロドやサムを丁寧に扱います。デネソールも映画みたいに狂った人間でなく、もっと高貴で気高く威厳に満ちています。映画は人間の弱さをかなり強調した作りになっています。
指輪物語の話しは神話性と寓話性に富んでいて、読者がいろいろ考えたり、想像する余地があります。だから何回読んでも飽きることなく楽しめます。ただ最初はずっと指輪の歴史的背景やホビットの歴史が語られたりするので退屈かもしれません。しかし、そこを乗り切ると、もう読むのを止められなくなると思います。是非、みなさんも中つ国の世界に踏み入れてください。
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