街を捨て書を読もう「はだしのゲン」
「はだしのゲン」 作:中沢啓治 汐文社
昨年は戦後60周年ということで、マスメディアでも日本が関わっていた戦争について様々な特集が組まれていました。テレビや映画でも戦争を題材にしたドラマが制作されて、話題になりました。 その多くは、日本の一般市民が戦争に巻き込まれ、命や人生を犠牲にしていく姿が描かれたものでした。ほんの60年前まで日本は多くの国を相手に戦争をして、自国民はもちろんのこと、他国民にも多大な犠牲を強いてきました。戦争そのものは60年前に終止符を打たれたものの、その傷は今も多くの人々の人生を苦しめ、外交や政治においても大きな影響を与えています。
多くの人々の中で戦争が遠い過去の記憶となる中、私がお薦めしたい本が「はだしのゲン」です。この本は広島の原爆投下による悲劇の中でたくましく生き抜いていく人々の姿を描いた漫画です。この本ほど戦争により一般市民の人生が翻弄されたかが分かる本は他にありません。また日本人を戦争の被害者の立場としてのみ描いているのでなく、加害者としての立場も描いているところも、注目すべき所です。
この漫画の大きな特徴として広島の原爆投下後の市内の様子を生々しく描いているところがあります。その描写は凄惨を極めて、見る人に衝撃を与えます。私の祖母も広島市内で原爆に遭って、兄弟を亡くしております。私は小さいときから祖母に原爆後の広島市内の様子を聞かされていたので、「はだしのゲン」を読んだとき、祖母の話と同じような描写が出てきたので食い入るように読んだものです。広島の原爆では何万人の人が亡くなり、放射能の後遺症で苦しんできました。私の母も祖母が原爆にあってから2年後に生まれたのですが、血液の病気に小さいときからかかっており、放射能との関連性も考えられています。そして現在も核兵器は世界中に存在して、人類を滅亡の危機へと追いやっています。イラク戦争でも劣化ウラン弾という核兵器が使われ、放射能の影響で米軍の兵士やイラク市民に影響が出ているようです。核の恐怖は決して過去の話ではないのです。
またこの漫画はただ戦争や原爆の悲劇を伝えているわけでなく、戦後の復興の中で、原爆の後遺症と貧困にあえぎながらたくましく生き抜いていく若者の成長を描いた青春ドラマとしても見応えのあるものとなっています。戦争は決して終戦と共に終わったのではなく、戦後の復興の中でも人々の人生に大きな影響を与えたことが、この漫画を読むとよく分かります。
この漫画は一部の人からは自虐史観の本だと思われるかもしれません。確かに作者の政治思想が声高に叫ばれている箇所もあります。そこに関しては賛否両論があるかと思います。しかし、この本が持つ力は大きなものがあります。主人公たちの姿を通して、どんな苦難の中でも生きていくことの素晴らしさと大切さを教えてくれます。そして読み終わった後、読者に生きていくエネルギーを与えてくれます。
私の祖母も原爆でその後の人生が大きく狂ったようです。兄を亡くし、好きな人とも結婚できなくなったそうです。その後の人生観も変わったようです。戦争は決して個人に幸せを与えてくれません。今、戦争に関する論議が活発ですが、戦争をどう回避していくか考えていく必要があります。
戦後60年以上を迎えた今こそ、この本を読み、戦争とは何か考えてもらえればと思います。
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