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この映画を見て!「誰も知らない」

第23回「誰も知らない」
見所:子どもたちの演技、セミドキュメンタリータッチの演出
誰も知らない カンヌ映画祭においても柳楽優弥さんが最優秀男優賞を史上最年少で受賞して話題になったこの映画。1988年に実際に起こった「西巣鴨子ども4人置き去り事件」を下敷きに制作された映画です。
 ストーリー:「母一人、子ども四人の母子家庭一家。彼らは住まいを転々としていた。母は水商売をして生計を立てており、子どもたちは学校も行かず、家の中にこもって生活している。家になかなかいない母に代わり、長男の明が家のリーダーとなり、家事や下の弟や妹の面倒を見ていた。ある日、母が「好きな人がいるの」と言って、家を飛び出して、子どもたち四人が置き去りにされる。明は残された子どもだけの家族とその生活を守ろうと懸命に手を尽くす。お金をもらいに父に会いに行ったり、コンビニの残り物をもらったり・・。しかし、明も同世代の友だちがほしくなり、弟や妹の世話の手を抜くようになる。そんな中、悲劇が起こる。」
 この映画は全編セミドキュメンタリーの手法で撮られており、子どもたちの日々の暮らしや表情をとても生々しく捉えることに成功しています。実際にアパートを借りて一年かけて撮影されているので、観客は四季の移り変わりの中での子どもたちの生活や心情の変化の様子を見ることができます。
 この映画の一番の見所は子どもたちの演技です。見ている間、これが演技なのか素なのかよく分からないくらい、子どもの仕草や表情がナチュラルです。その分、見ている側も子どもたちにぐっと感情移入することができます。カンヌで賞を取った柳楽優弥はもちろんのこと 、長女役の北浦愛も思春期にさしかかる少女の気持ちの揺れを巧みに演じています。また次男役の木村飛影は憎めずやんちゃな悪ガキ役を素か演技か分からないほど自然に演じています。そして次女役の清水萌々子はけなげでかわいいの一言です。
 また子どもたちを取り巻く大人たちを演じる役者も素晴らしいです。特に子どもを置き去りにする母親役のYOUはあまりにも自然すぎて、実際にこんな母親いそうだなと思わせる説得力があります。決して子どもたちのことを嫌ったり、憎んだりしているわけでなく、ただ自分の幸せへの誘惑を断ち切れなかった弱い人間の姿を巧みに演じています。子どもへの愛情ももちろんあったけれど、自分への愛情を子どもの犠牲にできない姿は見ていてつらくなります。家を出る前に「私は幸せになってはいけないの」とYOU演じる母親が長男の明に言うシーンは、母親に対する怒りと共に、悲哀を感じました。これはひとえにYOUという役者が演じたからだと思います。
 私はこの映画を見るたびに、日本アニメの傑作「火垂るの墓」を思い出して比較してしまいます。「火垂るの墓」も両親を失った子どもたちが、自分たちの力だけで生き延びる姿を描いてました。私にとって「火垂るの墓」は単なる反戦映画ではなく、子どもたちが理想郷を作ろうとして挫折していく姿を描いた作品だと思っています。大人たちを信用できない子どもたちが自分たちだけで生き延びようとして、結局崩壊させてしまうという哀しみが「火垂るの墓」には描かれています。「誰も知らない」も母に捨てられて、かわいそうな子どもたちのかわいそうな姿を描くより、子どもたちが自分たちだけでどう生き延びていくか知恵を絞る姿に力点を置いて描いています。「誰も知らない」はある意味、現代社会を舞台にした子どもたちのサバイバル映画だと思っています。
 「火垂るの墓」と違い「誰も知らない」はラスト悲劇的なことが起こりますが、子どもたちだけの共同体は崩壊しません。昔に比べて、子どもたちだけでも何とか生き延びられるようになった現代。その現代の中で、人知れず、でも逞しく生きていこうとする子どもたち。子どもとは決して大人になる前の保護すべき弱々しい存在なのではなく、完成された人間であり、ただ社会の垢にまみれていない分、荒々しい魂がむき出しになっている存在であることをこの映画は描いています。
 明日に向かってまた生きていこうとするシーンでこの映画は終わります。もちろんそのラストシーンがハッピーエンドなのかアンハッピーエンドなのかは何とも言えません。 この映画のラストをどう受け止めるか。皆さんも是非見ていただき、この子たちの未来を考えてもらえればと思います。

ちなみにこの映画の挿入曲を歌うタテタカコさんについての私が書いた紹介もあるので、良かったら見てください。

公式サイト:http://www.kore-eda.com/daremoshiranai/

製作年度 2004年
製作国・地域 日本
上映時間 141分
監督 是枝裕和 
脚本 是枝裕和 
音楽 ゴンチチ
挿入歌 タテタカコ「宝石」 
出演 柳楽優弥 、北浦愛 、木村飛影 、清水萌々子 、YOU

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コメント

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訪問と書き込みありがとうございます。
ロメロの映画、お好きなんですか?
これからもよろしくお願いします。
それと、もしよろしかったら、
リンクはらせていただけませんか?


投稿: メリシェン | 2006年1月 8日 (日) 21時51分

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