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この映画を見て!「ゾンビ」(139分・完全版)

第21回「ゾンビ」(139分・ディレクターズ・カット版
見所:スーパーマーケットでの攻防戦とまったりとした終末観
ゾンビ 米国劇場公開版 GEORGE A ROMERO’S DAWN OF THE DEAD ZOMBIE

今回紹介する映画「ゾンビ」は私の人生において多大な影響を与えた映画です。以前、同じ監督によって制作された「ランド・オブ・ザ・デッド」を紹介しましたが、今回紹介する「ゾンビ」は彼の最高傑作です。この映画に始めて出会ったのは中学1年生の時。ホラー映画大好きだった私としては、「ゾンビ」という映画がすごいということは聞いていたので、どんなにすごい映画かレンタルして見てみることにしました。その時借りたのはアメリカ公開版だったのですが、見終わった後、衝撃を受けて言葉が出ませんでした。ゾンビが出てくる映画だけあって、グロイシーンが多くあるのですが、そのシーンに衝撃を受けたというより、その世界観に衝撃を受けました。ゾンビによって人間社会が混乱のうちに徐々に崩壊していく様子。倫理と秩序を失った人間たちが暴力と欲望むき出しで生きる姿。死んでも生きているときの記憶からかショッピングセンターに集まってくるゾンビ。ゾンビによって人間が滅ぶのでなく、人間同士が争い自滅していく姿に、虚しさと絶望を激しく感じました。
 ストーリー:「突然蘇った死者に為す術のない人間たち。じりじりとゾンビたちによって人間の生きる場所は包囲されていた。そんな中、放送局に勤めるフランシーンとスティーブンはヘリに乗ってゾンビのいない地域を目指そうとする。フランシーンはスティーブンとの子を妊娠していた。そこにSWATで働くピーターとロジャーも加わる。郊外では悠長に人間によるゾンビ狩りが行われているが、確実にゾンビによって人間は追いつめられていた。彼らは無人のショッピング・モールを見つけて、そこに居座ろうとする。店内のゾンビを死闘の末に追い払い、溢れかえる物の中で生活する。物質的には豊かだが、空虚さと絶望感漂う生活。そんな中、暴走族がショッピングモールに乱入してきて、モール内はスティーブンたち・暴走族・ゾンビの三つ巴の闘いになる。」
 この映画の最大の魅力はショッピング・モールを主人公たちが占拠するシーンです。始めて、この映画を見たときにモールを好き勝手に使って生活する彼らに憧れたものです。そして、自分もゾンビに襲われたら近くのスーパーかデパートに逃げこもうと思ったものです。この映画を見てから、ショッピング・モールに行くたびに、ゾンビに襲われたとき、どうこのモールまで逃げ、店内を占拠するかシュミレーションして遊ぶ癖があります。
 この映画ではショッピングセンターを先進国の消費快楽主義の象徴として映し出しています。死んでも生きているときの癖からショッピングモールに集まってくるゾンビ、世界が崩壊しようとしているにもかかわらず、モールに立てこもり消費を謳歌する主人公たち、通貨が意味をなさなくなっても、金品を求める暴走族。そこにはゾンビも人間も大差なく、むしろ人間の方が醜く感じてしまいます。現代社会で、メディアや企業に煽られて、強迫的にものを買うことを迫られて生きている私たちは、もしかしたらゾンビと変わらない存在なのではないかとこの映画を見るたびに思います。
 またこの映画を見るたびに「人間」と「非人間」との境界線は何かということを考えてしまいます。ゾンビになった人間を物のように扱い虐殺していく姿。仲間がゾンビに変わり果てようとして、殺すべきかどうか躊躇する姿。人間とは何かについていつも考えてしまいます。もしかしたら人間は「仲間」と「非仲間」という境界線で「人間」と「非人間」と分けているのではないかと思います。かつてのドイツでのユダヤ人虐殺。アメリカの大量破壊兵器での虐殺。人間は歴史上、仲間以外は物のように扱ってきたことが何回もあります。この映画で人間がゾンビを虐殺するシーンを見るたびに、現実で人間が人間を虐殺してきた事実を思い出してしまいます。
 (ここからネタバレがあります)
 私はこの映画を見たとき、ラストシーンにとても感銘を受けました。4人の登場人物の内、白人男性は全員死亡して、妊娠した女性と黒人のSWATだけが生き残るシーンはとても印象的でした。アメリカ社会の支配する側にいたマイノリティーは死に、社会の支配される側にいたマジョリティーだけが生き残る姿は何とも皮肉でした。もちろん、この映画のラストもハッピーエンドなのではなく、むしろ絶望感の方が大きいです。ただ絶望的な状況でも少しでも生き延びる方に可能性をかけた姿に感動しました。
ドーン・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット プレミアム・エディション 2004年に「ゾンビ」のリメイク「ドーン・オブ・ザ・デッド」が公開されました。ストーリーはショッピングモールに立てこもる所以外、大幅に違います。映像的には面白いところが見られましたが、全体的に単なるホラーアクション映画になっており、物足りませんでした。(ただ「ゾンビ」と別物と割り切ればこの映画、爽快で面白いです。)その原因としてはゾンビ対人間という構図で話しが進められて、「ゾンビ」にあった人間対人間の構図や人間に対する皮肉や絶望感があまり描かれなかったところにあると思います。またショッピングモールに立てこもる設定があまり活かされてなかったのも残念でした。

 「ゾンビ」の魅力は人間性を剥奪する人体破壊シーン、じわじわと迫ってくる終末と人間同士の自滅していく姿、政治的・思想的メッセージが込められたストーリーにあります。是非、皆さまもゾンビワールドに足を踏み入れてもらいたいなと思います。

製作年度 1978年
製作国・地域 アメリカ/イタリア
上映時間 139分(ジョージ・A・ロメロ完全版)
監督 ジョージ・A・ロメロ 
脚本 ジョージ・A・ロメロ 
音楽 ゴブリン 、ダリオ・アルジェント 
出演 デヴィッド・エムゲ 、ケン・フォリー 、スコット・H・ライニガー 、ゲイラン・ロス 、トム・サヴィーニ 

「ゾンビ」はさまざまなバージョンが存在します。現在、日本で発売されているDVDはアメリカ公開版(127分)です。他にもプロデューサーのダリオ・アンジェルトが編集と音楽を変えたバージョン(119分)とジョージ・A・ロメロが編集したバージョン(139分)などがあります。これらのバージョンは現在輸入するか、レンタルビデオ店の在庫でしか見れません。再販をお願いします!
ちなみに私は今は廃盤のディレクターズ・カット版DVDを所有しています。

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コメント

ゾンビのDVDBOX日本でも発売されましたね。値段が高いのがつらいですが、ファンなら必須アイテムですよね。
ドイツで製作されたロメロ版とアンジェルト版を足したバージョンがあるのは知っていますが、ラフカット版のことは知りませんでした。ぜひ見てみたいですね、ラフカット版。

投稿: とろとろ | 2010年5月 4日 (火) 19時18分

この映画には様々なデマがありますが、私が辿り着いた結論はさらに全ての元となったラフカット版が存在するということ。日本公開当時の雑誌にもオリジナルは3時間近いとあるように、今手に出来る全ての映像を繋いでも160分近くある。
「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」に使用された映像こそがそれであり、ゴブリンの曲未使用でカット間も長い。これがイタリアにも送られ編集された為、ドライバーゾンビの場面でアメリカ版の音楽がかすかに残っているし暴走族突入の時突撃ラッパも聞こえる訳。
これがいつか商品化されるのが、最後に残された夢なのです。
全滅版のNGラストは諦めてもね(笑)。

投稿: nao | 2010年4月19日 (月) 15時54分

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原題:DAWN OF THE DEAD監督・脚本・共同制作・編集:ジョージ・A・ [続きを読む]

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