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2005年12月25日 - 2005年12月31日

この映画を見て!「ポンヌフの恋人」

第17回「ポンヌフの恋人」
見所:ロマンティックで痛々しく、そして美しい。純度100パーセントのラブストーリー!

ポンヌフの恋人〈無修正版〉

ここ最近、純愛映画が流行しています。しかし、この映画ほど恋愛が持つエゴイズムの痛々しさ、哀しみを描いた作品はなかなかありません。私がこの映画を始めて見たのは高校の時でしたが、画面からほとばしる情熱に釘付けになったものです。それと同時に恋愛とエゴイズムの関係の生々しい描写にいろいろと考えさせらた作品でもありました。
ストーリー:「パリで最も古く美しい橋、ポンヌフ。そこの橋をねぐらにして、火を噴く大道芸人として生計を立てる天涯孤独の青年アレックス。失恋の痛手と失明の危機にさらされ、人生に絶望して、街をさまようミシェル。彼らは橋で出会い、恋に落ちる。孤独と絶望の底で出会った二人は激しい恋に身を焦がす。しかし、目の治療法が見つかり、ミシェルは突然姿を消す。絶望に陥るアレックス。ミシェルも目が治ったにも関わらず、心は虚ろなままだった。そんな二人は雪積もるポンヌフの橋の上で再会する」
 この映画、全体を通して重く暗い場面が多いのですが、それが主人公たちの鬱屈した精神を見事に表現しています。またそんな場面の中、はっとさせる印象的な場面がとても多いです。自分をふった恋人を銃で撃ち殺すミシェル、花火が上がるで橋の上で踊り狂う二人、海辺でのデート、地下鉄通路でミシェルを探すために両親が貼ったポスターを燃やすアレックス、そしてラスト雪が降り積もる中で再会する二人の姿。どのシーンも主人公たちの感情がほとばしり、見ている側にビンビン伝わってきます。音楽は全編を通してあまり流れてませんが、上手く既成曲を取り入れインパクトを残しています。特に花火のシーンでの曲の使い方は最高です。
 役者の演技も上手く、ドニ・ラヴァンは決してかっこいいという訳ではないのですが、インパクトがあります。(監督曰くドニ・ラヴァンは彼の分身だそうです)またジュリエット・ビノシュは体当たりの演技をしてます。この映画で見せるさまざまな彼女の表情はとても素敵です。
 北野武が「Dolls」という映画を撮った時に、「恋愛と暴力は似ている」という趣旨の発言をしておりますが、この映画をみるとその通りだなと思ってしまいます。恋愛ってある意味、エゴイズムとエゴイズムのぶつかり合いという面はありますよね。それがかみ合えば幸せであり、かみ合わなければ悲惨ですよね。この映画では恋愛におけるエゴイズムの問題が深く追求されています。孤独な二人がお互いの孤独を埋め合わせるために、共に過ごす場面は痛々しく、胸に迫るものがあります。恋愛とは相手のことを思いながらも、自己の欲求を相手との付き合いの中で満たすということが本質にあるということを、この映画は鋭く描いています。
 ちなみにこの映画、フランス映画でもかなり高額の予算をかけて、ポンヌフ橋を再現したセットを作り撮影をされており、完成までに何年もかかっています。制作していた会社が倒産したり、プロデューサーが交代したりと、制作はとても困難を極めたようです。DVDのメイキングにそこら辺の経緯は詳しく描かれています。興味のある方は是非見てください。ある意味、本編より面白いです。監督の強い思いに支えられて完成した力作の映画です。是非見てみてください。 映画のラストは全編重苦しいですが、重苦しさを吹き飛ばす、希望に満ちたシーンで終わります。ラスト生まれ変わった彼らを祝福してあげてください!

製作年度 1991年
製作国・地域 フランス
上映時間 125分
監督 レオス・カラックス 
製作総指揮 エルヴェ・トリュフォー 、アルベール・プレヴォスト 
脚本 レオス・カラックス 
音楽 ベンジャミン・ブリテン 
出演 ドニ・ラヴァン 、ジュリエット・ビノシュ 、クラウス=ミヒャエル・グリューバー 、ダニエル・ビュアン 、マリオン・スタレンス 

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この映画を見て!「グラン・ブルー」

第16回「グランブルー」
見所:きらめく青い海、透き通る美しい音楽、男たちのロマンあふれる物語

グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版

この映画、私が高校生の時にはまって何回も見たとっても大好きな映画です!この映画の魅力は語れば尽きることはありませんが、やはり透明感あふれる映像と音楽が一番の魅力です。この映画を見終わると心が洗われた気がします。
 この映画の監督は「レオン」や「フィフス・エレメント」で有名なリュック・ベッソン。ここ最近は制作ばかりに携わり、あまり映画を撮っていませんが、そろそろ新作を出してもらいたいものです。そしてこの映画の魅力を支える音楽はエリック・セラ。ベッソンの映画のほとんどを手がけています。
ストーリー:「小さいときに海で父を亡くしたジャックと彼の幼なじみのエンゾ。彼らは大人になりスキューバ用の道具を一切使わないフリーダイビングの選手権にすべてを賭ける生活を送っていた。二人は一番の親友でもあり、一番のライバルでもあった。どちらがより深く潜れるか競い合う日々。そんな中、ジャックに惹かれる女性ジョアンナが現れ、ジャックとジョアンナは付き合い始めるが・・・。海を愛する男たちの恋と友情のドラマ。」
 この映画はとにかく全編青の美しさに満ちています。透明感あふれる清々しい青、どこまでも深く神秘的な青と青の魅力あふれる映像が見ている人の心をうっとりとさせます。世界各地の海で撮影されたその映像の美しさは本当に格別です。また音楽がとても素晴らしく、映像の魅力をさらに引き立てています。シンセ主体の音楽なのですが、どこまでも透明で叙情とロマンに満ちあふれた音楽は聞いていて、癒されます!(この映画のサントラは名盤です!是非映画を見た方は買ってください!寝る前に聞くといいですよ!)
 役者たちもとても素晴らしく、特に主人公の親友でありライバルであるエンゾを演じるジャン・レノが最高です。負けず嫌いで、かっこよく頼れる兄貴といった感じが良く出ています。またジャックを演じるジャン=マルク・バールも海をこよなく愛し、社会を上手く渡り歩けない、純粋な心の持ち主を見事に演じています。
 ストーリー自体はとてもシンプルで、海を愛する男たちがフリーダイビングで競い合う姿を描くというものです。その中で、主人公ジャックの上手くいかない恋や海とイルカをこよなく愛する姿が描かれています。この主人公が人間社会から少しずれたところにいる人で、まるでイルカが人間の姿を借りて陸に上がってきたかのような人間です。人間でありながら、人間離れした彼の姿に、見ている人も何とも切なくもどかしい感じを受けると思います。映画の後半、ジャックに「恋を取るか、海を取るか」の選択を迫られる場面があるのですが、とても切ない場面です。
 ちなみにこの映画の主人公にはモデルとなったジャック・マイヨールという人がいます。ジャック・マイヨールは日本でダイビング中にイルカに出会ったことがきっかけで、海の魅力にはまり、フリーダイビングの世界に入っていきました。そして世界初の60メートルという記録を出し、その後、どんどん記録を伸ばし、100メートル近い記録を出していきました。その後フリーダイビングから遠ざかり、彼がこよなく愛するイルカについての本を執筆したりしてました。しかし2001年の12月23日に突然首つり自殺をして亡くなってしまいました。彼がなぜ自殺をしたかの原因は未だ不明だそうです。海とイルカを愛した彼がなぜ自殺をしたのか、もしかしたら、映画のように人間からイルカに生まれ変わりたかったのかもしれません。彼が死後、イルカに生まれ変われたことを願っています。
 私はこの映画を人魚の物語だと思ってみています。陸にあがったものの、やはり人間になりきれず、海に還っていく物語。そう思うと切ない物語ですねえ。
 是非皆さんもこの映画を見て心を洗ってください!

製作年度 1988年
製作国・地域 フランス/イタリア
上映時間 169分
監督 リュック・ベッソン 
脚本 リュック・ベッソン 、ロバート・ガーラント 
音楽 エリック・セラ 
出演 ロザンナ・アークエット 、ジャン=マルク・バール 、ジャン・レノ 、ポール・シェナー 、グリフィン・ダン 

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2005年劇場公開映画マイベスト5

 今年も残すところ後2日になりました。今年もたくさんの映画が公開されました。そこで私が特に印象に残った&満足した映画ベスト5を紹介したいと思います。

5位 「宇宙戦争」
宇宙戦争

賛否両論ありましたが、久しぶりに見応えのあるスピルバーグ作品でした。公開直前まで映画の内容について情報が流れてこなかったので、どのような作品になっているのか公開日まで自分の中で想像がふくらみ楽しみにしていました。映画自体は後半の展開がいまいちでしたが、前半から中盤までの宇宙人によって人間社会が破壊しつくされるシーンは迫力満点で楽しめました。また、終始、ごく一般的な家族の視点のみに絞って、人間社会が崩壊する様子が描かれたところが生々しいリアリティーを生み出していました。この映画は情報もなく突然の攻撃により混乱に陥ったアメリカ国内の様子をシュミレーションするような作りであり、911のテロを強く意識したものになっています。

4位 「TAKESHIS’」

TAKESHIS'

私のお気に入りの監督である北野武2年ぶりの新作であり、国内外を問わず賛否両論を巻き起こした「TAKESHIS’」。この作品は今までの武が作った映画の総決算であり、非常に私小説的な内容を持ったものでした。この作品を楽しめるかどうかは次の2点を押さえているかどうかです。1つ目は今までの彼の作品を見たことがあるかという点。2つ目はアーティストとしての「北野武」と芸人としての「ビートたけし」という人物をどれくらい知っているかという点。この2点を押さえている人が見ると、この作品はとても面白く傑作です。夢と現実が交錯する中で自分の生き方が問い直されていくというこの作品、私は大好きです。

3位 「ランド・オブ・ザ・デッド」

ランド・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット

ゾンビ映画の神様と呼ばれるジョージ・A・ロメロ監督が20年ぶりにとったゾンビ映画。物足りないところも多々ありましたが、久しぶりに劇場で上映されるロメロゾンビ映画に感激しました。さすが本家のゾンビ映画と思わせる設定や映像に、ここ最近量産されたゾンビ映画とは違う本家の意地を感じました。今までの作品が抱えていた絶望感や終末観をもっと出してほしかったですね。

2位 「ミリオンダラーベイビー」

ミリオンダラー・ベイビー

昨年のアカデミー賞で作品・監督・主演女優・助演男優と4部門で受賞したこの作品。クリントイースト・ウッドが監督と主演をかねていますが、円熟した演技と演出により、とても素晴らしい作品に仕上がっています。途中まではよくあるスポコンドラマみたいな展開ですが、後半の予想外の展開とラストは涙なしでは見られません。静かに抑えた口調で人生のままならなさ、人間の尊厳とは何かについて語られます。ラストの主人公の取った選択をどう捉えるか?見ている人たちに重い問題が提起されます。今年一番の人間ドラマです。

1位 「キング・コング」

kingkong 今年1番の映画はやはり「キング・コング」です。アクション・ホラー・パニック・ラブロマンス・コメディーとさまざまな要素の詰まったこの映画。この映画だけは大画面と大音響の環境で見ないと非常にもったいない映画です。 「ロード・オブ・ザ・リング」の監督が小さいときから憧れていた映画を自らの手でリメイクするということで、とても気合いが入ってます。ロード・オブ・ザ・リングの監督だけあって、映像的にはここまでやるかというくらい迫力のあるシーンの連続で驚くばかりです。ストーリーもキャラクターの心情を丁寧に描き込み、起伏に富んでいて、見ていて飽きません。映画を見たという満足感が得られる作品なので是非劇場で見てください!

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「キング・コング」2回目の鑑賞

kingkong 2回目の「キング・コング」の鑑賞に行ってきました。このブログでも以前キングコングについての紹介をしましたが、何回見ても私にとっては素晴らしい作品でした。
 2回目ということもあり、細部にわたってじっくりと鑑賞できました。映像的には何回見ても驚きの連続です。ここ最近の映画はCGの発達ということもあり、どんな映像表現も可能になっており、少々の映像では驚きませんが、この映画はCGの使い方や見せ方が上手いですね。映画のメイキングDVDが発売されおり、そちらも見たのですが、多くのシーンがニュージランドの町中(主にスタジオとスタジオ外の駐車場)で撮られていることを知り驚きました。セットも最小限で髑髏島もニューヨークもほとんどがミニチュアとCGで作り込まれています。実写との違和感のなさに技術の進歩を思いました。また役者に演技させたデータを使ったコングの表情はとてもCGとは思えません。ここら辺はロード・オブ・ザ・リングのゴラムで使った技術をより発展させていると思います。また遠近織り交ぜ、あらゆる角度からキャラクターを捉えるカメラワークはCG技術が発展したからこそできる芸当ですね。

 ストーリー的には、以前にも書いたように人間もコングも恐竜もどのキャラクターも愛情を込めて丁寧に描かれているのが伝わります。ただ丁寧に描かれすぎて話しの流れを悪くしているところもあるかなと思いました。この映画、3幕にわかれおり、1幕目の主人公たちの船旅、2幕目の髑髏島での冒険、3幕目のニューヨークでの悲劇という構成となっています。1幕目のシーンは主人公たちの心情が丁寧に描かれている反面、長すぎるかなと思います。2幕目は何も言うことありません。アンがコメディアン俳優という設定が見事活かされていて上手いなと思います。コングは思っている以上に人間臭く、そこがコングの怪獣としての魅力を減らしているような気もしますが、そこは評価の分かれるところでしょう。それにしてもコングは魅力的な男ですよね。ちょい不良で、照れ屋で、ケンカに強く、惚れた女を追いかける。一昔前の番長って感じですね。3幕目のニューヨークのシーンはジャックのアンに対する思いのシーンは不必要で、コングとヒロインとの関係にのみ絞っても良いかなとも個人的に思ったりしました。2幕目でコングとアンとの関係をあれだけ魅力的に描いていると、ジャックとアンとの今後の関係ってあまり興味わかないんですよね。あとラストの監督の言う「美女が野獣を殺した」というセリフは「おまえが連れてきたからだろう」と突っ込みを入れたくなりました。彼がいうセリフではないような気がします。(1933年の作品へのオマージュだとは知っていますが。)

 この作品、全米で2週連続1位を獲得しているものの興行的には現在のところ苦戦を強いられているようです。確かに今さらキング・コングなんてと思う人もいるとありますし、上映時間もこの手の映画としては3時間7分と長いのも不利かもしれません。私は時間の長さは全く感じませんでしたが、もう少し短くしたほうが、より多くの人を満足させることができたかなとも思います。ただ、この映画に対する監督の情熱や愛情の深さを知っているので、この映画をこれ以上尺を短くすることができなかったのもよく分かります。きっと本当はもっと長い作品にしたかったんだろうなとも思います。メイキングを見ると、本編に入っていないシーンが多く撮影されているようです。(きっと完全版DVDがでると思ってます。)だからここらへんの上映時間の判断というのはとても難しいものだと思います。
 今回もいろいろと書きましたが、この映画は本当に監督のキング・コングに対する意気込みと愛情が伝わってくる作品です。私は大好きな作品なので、この映画多くの人に見てもらいたいと思ってます。

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この映画を見て!「フィッシャー・キング」

第15回「フィッシャー・キング」
見所:グランド・セントラル・ステーションでの美しい舞踏会とニューヨークを舞台にした贖罪と奇跡の物語!

フィッシャー・キング

ストーリー:「ニューヨークで過激なトークを売りにしたDJジャック。ある日、彼がラジオで発言したコメントで、無差別殺人が起きてしまう。これを機に成功の道を歩んでいた彼は失意と無気力に襲われ、惨めな生活を送ることになる。レンタルビデオ店を経営する女性と同棲して、アルコールに浸る毎日。そんなある日、町で暴漢に襲われそうになるところをホームレスの男に助けられる。ホームレスの名はパリー。彼は現代のニューヨークでキリストが使ったとされる聖杯を探す日々を送っている。ジャックはバリーがかつて大学教授でジャックが引き起こした無差別殺人で妻を殺されたショックから、奇妙な行動に走ったことを知る。ジャックは贖罪の意識から、彼の人生を立ち直らそうと試みる。ジャックのおかげでバリーは片思いしていた女性とデートをすることもでき、現実の世界で幸せを味わうことができるようになる。しかし、バリーの中にある妻が死に自分だけが生き残ったという罪悪感は、彼が幸せになることを許そうとしなかった。そしてバリーは暴漢に襲われ、意識不明の重体になってしまう。ジャックは彼の意識が戻ることを願い、聖杯があるとバリーが言っていた屋敷に忍び込む。現代ニューヨークを舞台に友情と愛、そして奇跡の物語が描かれる。」
 この映画、ロマンティックであり、哀しくもあり、おかしくもあり、幻想的でありといろいろな要素が詰まっています。罪悪感にとらわれ、現実から逃避した主人公たちが、贖罪をして、人生をやり直していくまでを描いたこの映画。ストーリーだけを読むと、重い展開のように思いますが、笑える場面も多く、心温まる素敵な映画です。一度見ると何度でも見たくなるようなタイプの映画です。
 まずストーリーがとても良くできています。贖罪という重いテーマを内包しながら、ファンタジックかつコミカルに話しを展開させていき、最後にはしっとりと泣かせる。ストーリーが良くできているので、監督の演出や役者の演技もより冴えています。何と言っても現代のニューヨークを舞台に、キリストの聖杯伝説を絡めるいう着想が面白いです。また映画の中で主人公たちが言うセリフがとても印象的で素敵なものが多いです。特に中盤の中華料理店でのデートとその後の告白シーンで交わされるセリフは聞いていてぐっと来ます。
 次に監督の演出が上手い。この映画の監督はテリー・ギリアムという人で、代表作に「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」などがあり、最近は「ブラザーグリム」という映画を撮っています。この監督は昔から私のお気に入りで、彼の作品の中では「未来世紀ブラジル」が私の一番好きな作品です。この監督の持ち味はファンタジックでシュールな映像とシニカルで毒のあるストーリー展開です。「フィッシャー・キング」はこの監督の本来の持ち味から言うと、少し違うのですが、脚本の魅力を存分に引き出しています。まずバリーがニューヨークの町を中世のヨーロッパのように捉えるシーン。彼は他の映画でも中世の映像をよく撮っているので、この映画でも幻想的で魅力的なニューヨークの映像を撮っています。またあまり彼が撮らないロマンティックな場面もコミカルかつ愛おしく撮っています。恋って素晴らしいなと思う場面がしばしば見られます。特に映画の途中でバリーが心の中で想像するグランド・セントラル・ステーションで、駅にいる人たちが突然ワルツを踊り出すシーンのロマンティックさと美しいは格別です。またバリーの罪悪感の象徴として現れる炎を吹く赤い騎士がバリーを襲うシーンの迫力はすごいです。
 そして役者の演技がレベルが高いです!妻を失い狂気に陥ったホームレスを演じるロビン・ウィリアムス。彼は、一見コミカルに見えるけど、実は深い悲しみの底にいる主人公を巧みに演じています。元コメディアンの彼は他の映画では演技に力が入りすぎたり、客を楽しまそうと演技過剰だったりしますが、この映画は彼のコメディアンとしての才能と役者としての才能の両方が上手くかみ合っています。またジャックを演じるジェフ・ブリッジスも失意のどん底にいて、無気力と絶望に陥っている主人公を上手に演じています。また主人公たちが愛する女性を演じたマーセデス・ルールとアマンダ・プラマーの演技も魅力的です。ジャックを愛し支えようとする意地っ張りだけど、意地らしい女性を演じるマーセデス・ルール。彼女は一見逞しく、でも実は繊細で寂しがり屋な女性を見事に演じてます。またバリーが愛する不器用ですこし世間からずれた女性を演じるアマンダ・プラマーも、内向的な女性をコミカルかつ繊細に演じています。
 この映画、言葉に対する責任罪とどう向き合うか、哀しみとどう向き合うか、人間同士の信頼関係とは何か、愛とは何かと言うことが、コミカルかつハートフルに描かれています。競争社会といわれる今日この頃、他人を負かしてでも這い上がっていかないといけないような風潮があり、人間関係もクールな付き合いが増えています。しかしこの映画を見ると、ウエットに人と人がつながりあうことの大切さと愛おしさを再確認させられます。

是非、皆さんご覧ください。

製作年度 1991年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 137分
監督 テリー・ギリアム 
脚本 リチャード・ラグラヴェネーズ 
音楽 ジョージ・フェントン 
出演 ロビン・ウィリアムズ 、ジェフ・ブリッジス 、マーセデス・ルール(アカデミー助演女優賞受賞) 、アマンダ・プラマー 、キャシー・ナジミー 

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ヘッドライト・テールライト

地上の星/ヘッドライト・テールライト [Maxi]今日(2005年12月28日)NHKの人気番組「プロジェクトX」の最終回に中島みゆきが登場しました。番組の最後、生演奏の下、エンディングに流れる曲「ヘッドライト・テールライト」を披露したのですが、みゆきさんが歌う姿を見て感動しました。歌い方も丁寧で、優しく、後半になるにつれて、歌詞にのせた感情が高まっていく歌い方に胸が揺さぶられました。最後に手を振り、頭を深々と下げるみゆきさんの姿に、プロジェクトXと自分の歌を支えてくれた視聴者に対する畏敬と感謝の気持ちが伝わってきました。

そもそも、プロジェクトXの主題歌にみゆきさんが白羽の矢が立ったのは、「命の別名」という曲をプロジェクトXのプロデューサーが聴いたことがきっかけのようです。「命の別名」は「聖者の行進」という知的障害を持つ人たちが主人公のドラマの主題歌に使われた曲です。このドラマ自体は知的障害者への虐待という重いテーマを描き、世間でも賛否両論を巻き起こしました。ドラマの内容はさておき、「命の別名」という曲は傑作です。名もなき人たちの生きる苦闘と哀しみを歌い、命の別名は心だと叫ぶこの歌、みゆきさんの力強い歌声も相まって、聴いた後に重い歌詞にも関わらず、励ましと慰めを与えられる曲に仕上がっています。プロデューサーはプロジェクトXの企画・準備をしている段階から、「命の別名」の歌が頭に流れていたそうです。そしてプロデューサーは中島みゆきに曲を依頼するに当たって、次のような注文を受けたようです。「無名の人々の光を、歌にしてください」
みゆきさんはこのプロデューサーの言葉を下に「地上の星」「ヘッドライト・テールライト」という2つの名曲を世に放ちました。どちらの曲も、みゆきさんらしい詩的な喩えを使い、名もなき人たちに励ましのエールを送っています。行く先の見えない人生という旅。そんな人生という旅に自分の夢や信念を持って歩んでいく人たち。そんな人たちの時に挫けそうだが、諦めず何度でも立ち向かっていく姿に対する畏敬の念が伝わってきます。テレビや雑誌などに取り上げられる人だけがドラマチックな人生を歩んでいるわけでなく、この世に生まれてきた人間みんな、かけがえのない自分だけの人生を時に格闘し、時に涙しながらドラマチックに歩んでいます。そのことに気づかせてくれる歌詞です。だからこそ「地上の星」「ヘッドライトテールライト」の2曲はロングセラー&ミリオンセラーと、多くの人にも受け入れられた歌になったのでしょう。
 これからもみゆきさんには名もなき人たちへのエールや共感が込められた曲をかいてほしいなと思っています。

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この映画を見て!「ランド・オブ・ザ・デッド」

第14回 「ランド・オブ・ザ・デッド」
見所:久しぶりの正統派ゾンビ映画!現在の病めるアメリカの社会を揶揄した内容

ランド・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット

この映画はゾンビ映画の神様といわれているジョージ・A・ロメロ監督が20年ぶりに撮った新作のゾンビ映画です。この監督は60年代に「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」という低予算のゾンビ映画を作り、熱狂的なファンを多く生みました。ロメロはこの映画でゾンビの新たなる定義を生み出し、この後作られるゾンビ映画・ゾンビゲームに多大な影響を与えました。彼の作った定義は①頭を破壊したら死ぬ②ゾンビに噛まれたらゾンビになる③走らない、この3つです。彼はその後、70年代に「ゾンビ」、80年代に「死霊のえじき」という傑作ゾンビ映画を数々生み出しました。この監督のゾンビ映画の特徴として、徹底した人体破壊シーン、人間の内輪もめによる自滅、その当時の社会情勢への批判などがあります。どの作品も過激なスプラッターシーンがあります。特に「死霊のえじき」はすざましいの一言です。この背景にはベトナム戦争の影響も強いようです。またどの作品もゾンビによって人間が自滅するのでなく、人間同士が最後までお互いの欲望で足を引っ張り合い自滅していきます。結局、人間の敵は敵という結末です。そして、毎回その当時の社会情勢を反映したような設定やシナリオになっており、それが彼の作品の質を深めています。1作目はベトナム戦争・黒人解放運動。2作目は消費文明批判。3作目は軍事大国批判という風にアメリカの病める部分を毎回取り上げて、風刺や批判をしています。3作目から、しばらくゾンビ映画を作っていなかったのですが、満を持して、今年新作が劇場で公開されました。ここ最近、「バイオハザード」、「28日後」、「ドーン・オブ・ザ・デッド」とたくさんのゾンビ映画が公開されていましたが、どれももう一つといったものが多かったので、ついに真打ち登場といった感じでした。

 さて、20年ぶりの今回の作品。ロメロらしい作品と言えばロメロらしい作品ですし、今までのロメロが制作したゾンビ映画と違うと言えば違う作品でした。今までのゾンビ映画のような終末観や閉塞感は感じられず、ある意味、ポジティブで開放的な作品です。またゾンビもある程度、知能を持ち、道具も使え、集団で行動できるくらい進化しています。それはある意味、ゾンビと人間との境界線が近くなってきており、ゾンビ側にも感情移入できるようになっています。(ここが評価の分かれ目になると思います。)グロイシーンは多々ありますが、ホラー映画としての怖さはあまりなく、アクション中心で現在のアメリカ社会を風刺した作品に仕上がっています。

 ストーリー:「全世界がゾンビによって支配された時代。富裕層は川に囲まれた町にフェンスをはり、豊かな生活をおくっている。しかし、その裏で町の片隅に貧困層は追い込まれ、富裕層が雇った兵士たちが、ゾンビがうろつく外の世界から物資を町に届けている。しかし、ある時兵士の一部が武器を奪い、町のリーダーに金を要求する。それを阻止しようと、別の兵士を送り込み、テロを押さえ込もうとする。しかしゾンビが町に進入してパニックが起こる。」

 今回の作品は今まで一番政治的メッセージの強い作品であります。現在、アメリカで進んでいる富裕層と貧困層の2極化。アメリカの富裕層を守るためのアメリカ兵やアメリカに雇われた貧困国の兵士やテロリストたち。そして、アメリカという大国を維持するためにこき使われる発展途上の国の人々。この現在のアメリカの縮図を、高層ビルに住む富裕層、スラム街に住む貧困層、富裕層に利用される兵士やテロリスト、そして街の外のゾンビたちという関係の中で描いています。この映画はアメリカの繁栄の影に潜む、二極化の問題、アメリカと発展途上国の問題、アメリカとテロリズムの関係について鋭い問題提起をしています。途中で人間がゾンビを虐殺?するシーンがあるのですが、それは現実にアメリカがイラクで行ってきた無差別攻撃と重なるものがあります。ある意味、アメリカにとって、アメリカの利害や正義を邪魔する人間たちはゾンビのような存在にすぎないということを暗喩しているような気がして、別の意味で肌寒く感じるシーンでした。
 またこの映画の冒頭、主人公の男性が「人間もゾンビもそう変わりない」ようなセリフを言うシーンがあり印象的です。知恵をつけ仲間を守るゾンビと欲望に支配、自分のことしか考えない人間、どちらが人間らしいのかよく分かりません。映画の途中で登場人物の一人がゾンビに噛まれ、自殺するか、ゾンビになるか選択を迫られ「ゾンビになるのも悪くない」というセリフをいうシーンがあります。とても印象的なセリフで、人間性とは何か考えてしまいました。この映画でロメロがあえてゾンビを人間に近づけたのは、人間らしさとは一体何かを問題提起するためだったのかもしれません。
 彼によるとゾンビとはブルーカラー(工場労働者)階級の象徴だそうです。仕事もエリートによって作られたシステムのより多くが画一化されロボットのように働き、生活スタイルもマスコミや企業に踊らされ、自分らしさを見失い行き場を探す私たち。自分の欲望を満たすことばかり追求する私たち。ある意味、もうこの世界はゾンビに満ちているのかもしれません。

私はこの映画とても楽しかったですが、あっさり終わったのが少し残念。変にこけおどしな演出や音響は彼の映画らしくなくて、いらなかったなあ。あとテンポが良すぎて、ロメロらしいまったりした閉塞感が感じられなかったり、人間関係も、もっと描いてもよかったかなあと思います。やはり彼の最高傑作は「ゾンビ」ですね。(ゾンビは後日じっくり紹介します。)

この映画、とても奥深い内容を持ちつつ、気軽に?見られるゾンビ映画です。是非見てみてください。

公式サイト:http://www.lotd-movie.jp/top.html

製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ/カナダ/フランス
上映時間 93分 (DVD・ビデオは97分)
監督 ジョージ・A・ロメロ 
製作総指揮 スティーヴ・バーネット 、デニス・E・ジョーンズ 
脚本 ジョージ・A・ロメロ 
音楽 ラインホルト・ハイル 、ジョニー・クリメック 
出演 サイモン・ベイカー 、デニス・ホッパー 、アーシア・アルジェント 、ロバート・ジョイ 、ジョン・レグイザモ 

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『転生』 

転生中島みゆきのアルバム紹介No.1 『転生』 中島みゆき

 前回、お気に入りのアーティストとして紹介した中島みゆきの最新作アルバムを紹介したいと思います。今回のアルバムはデビュー30周年、通算33枚目に発表される作品ですが、とても完成度の高いアルバムになっています。このアルバムは全曲、彼女が「夜会」という舞台のために作った曲を、1曲1曲単体の作品として生まれ変わらせたものです。私の中では、このアルバム指折り5本に入る名アルバムだと思います。
 ここで少し夜会という舞台について説明します。夜会とは中島みゆきが1989年から東京のシアターコクーンで始めた無体です。言葉の実験劇場というコンセプトの下、歌詞という言葉の可能性について追求した舞台です。今まで発表したことのある曲、夜会のために書き下ろした曲などを様々なシチュエーションで歌う中で、言葉が観客にどのように受け止められるかを大切にしたこの舞台。中島みゆきが歌以外も、美術・ストーリー・演出も手がけています。私も何回か実際に見に行き、DVDで全作品見ていますが、とても刺激的で面白く感動的な作品です。ただその魅力を言葉でなかなか言えないのですが・・・。
夜会 VOL.13 24時着 0時発 今回のアルバム「転生」は昨年上演され、来年再演される「24時着、0時発」という夜会のために書き下ろされた曲を再構築して、発表しています。「24時着0時発」の夜会はとても完成度が高く、中島みゆきが夜会で今まで追求してきたことの総決算みたいな舞台でした。この夜会のテーマは今回のアルバムのタイトルでもある「転生」でした。帰るべき場所を見失った人間や鮭の苦悩を描きながら、生命の意志や輪廻転生、生きる可能性の無限性について語られていました。(DVDでも発売されているので興味のある方は是非見てください。)今までの夜会でも「生まれ変わる」ことが重要なメッセージとして取り上げられていましたが、今回の夜会はそのメッセージがダイレクトに伝わるものでした。「生まれ変わる」というメッセージは中島みゆきが今まで発表してきた歌でも、しばしば語られてきました。「時代」・「ファイト」・「誕生」などの曲は「生まれ変わる」ことの大切さを率直に語っていましたし、他の曲でも「生まれ変わりなさい」というメッセージが根底にある曲が多いです。そして今回のアルバムは全編「生まれ変わる」ことのメッセージに満ちたものです。
 このアルバムが伝えようとしているものを私なりに解説すると次のようなことです。「この世に生まれてきた多くの衆生(命)が、自分がなぜ生まれてきたのかその理由がわからないままに、懸命に生きている。生きていくこととは目的地のない旅人のようにこの世界をさまようようなもの。目的を見いだそうとしても、なかなか見いだせなかったり、夢を持って生きようとしても、夢はなかなか叶わず、さまよっている者たち。生きていくことの哀しみと儚さ。しかし限られた命の中にある無限の可能性、衆生の意志を超えたところにある生きる意志、そして果てしなく続く生命の連鎖の尊さについて歌い上げる。」
 このアルバムはある意味、宗教的な要素も多分に持ち合わせていますし、メッセージ性も強いです。しかし、どの曲も言葉が厳選されており、美しく、かつ力強い歌詞に聞き入ってしまいます。メロディーや歌い方も1曲1曲違うので、聴いていて面白いです。
 このアルバムが語ろうとしているメッセージはとても深淵で力づよいものです。聴き終わると魂が揺さぶられるような感覚になると思います。

 是非、みなさんに聴いてほしいアルバムです。

 「転生」

 http://www.yamahamusic.co.jp/nakajima/yccw10017.htm(視聴できます!)

1.遺失物預り所
2.帰れない者たちへ
3.線路の外の風景
4.メビウスの帯はねじれる
5.フォーチューン・クッキー
6.闇夜のテーブル

7.我が祖国は風の彼方
8.命のリレー(特にお薦め!)
9.ミラージュ・ホテル
10.サーモン・ダンス
11.無限・軌道

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