この映画を見て!「ランド・オブ・ザ・デッド」
第14回 「ランド・オブ・ザ・デッド」
見所:久しぶりの正統派ゾンビ映画!現在の病めるアメリカの社会を揶揄した内容
この映画はゾンビ映画の神様といわれているジョージ・A・ロメロ監督が20年ぶりに撮った新作のゾンビ映画です。この監督は60年代に「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」という低予算のゾンビ映画を作り、熱狂的なファンを多く生みました。ロメロはこの映画でゾンビの新たなる定義を生み出し、この後作られるゾンビ映画・ゾンビゲームに多大な影響を与えました。彼の作った定義は①頭を破壊したら死ぬ②ゾンビに噛まれたらゾンビになる③走らない、この3つです。彼はその後、70年代に「ゾンビ」、80年代に「死霊のえじき」という傑作ゾンビ映画を数々生み出しました。この監督のゾンビ映画の特徴として、徹底した人体破壊シーン、人間の内輪もめによる自滅、その当時の社会情勢への批判などがあります。どの作品も過激なスプラッターシーンがあります。特に「死霊のえじき」はすざましいの一言です。この背景にはベトナム戦争の影響も強いようです。またどの作品もゾンビによって人間が自滅するのでなく、人間同士が最後までお互いの欲望で足を引っ張り合い自滅していきます。結局、人間の敵は敵という結末です。そして、毎回その当時の社会情勢を反映したような設定やシナリオになっており、それが彼の作品の質を深めています。1作目はベトナム戦争・黒人解放運動。2作目は消費文明批判。3作目は軍事大国批判という風にアメリカの病める部分を毎回取り上げて、風刺や批判をしています。3作目から、しばらくゾンビ映画を作っていなかったのですが、満を持して、今年新作が劇場で公開されました。ここ最近、「バイオハザード」、「28日後」、「ドーン・オブ・ザ・デッド」とたくさんのゾンビ映画が公開されていましたが、どれももう一つといったものが多かったので、ついに真打ち登場といった感じでした。
さて、20年ぶりの今回の作品。ロメロらしい作品と言えばロメロらしい作品ですし、今までのロメロが制作したゾンビ映画と違うと言えば違う作品でした。今までのゾンビ映画のような終末観や閉塞感は感じられず、ある意味、ポジティブで開放的な作品です。またゾンビもある程度、知能を持ち、道具も使え、集団で行動できるくらい進化しています。それはある意味、ゾンビと人間との境界線が近くなってきており、ゾンビ側にも感情移入できるようになっています。(ここが評価の分かれ目になると思います。)グロイシーンは多々ありますが、ホラー映画としての怖さはあまりなく、アクション中心で現在のアメリカ社会を風刺した作品に仕上がっています。
ストーリー:「全世界がゾンビによって支配された時代。富裕層は川に囲まれた町にフェンスをはり、豊かな生活をおくっている。しかし、その裏で町の片隅に貧困層は追い込まれ、富裕層が雇った兵士たちが、ゾンビがうろつく外の世界から物資を町に届けている。しかし、ある時兵士の一部が武器を奪い、町のリーダーに金を要求する。それを阻止しようと、別の兵士を送り込み、テロを押さえ込もうとする。しかしゾンビが町に進入してパニックが起こる。」
今回の作品は今まで一番政治的メッセージの強い作品であります。現在、アメリカで進んでいる富裕層と貧困層の2極化。アメリカの富裕層を守るためのアメリカ兵やアメリカに雇われた貧困国の兵士やテロリストたち。そして、アメリカという大国を維持するためにこき使われる発展途上の国の人々。この現在のアメリカの縮図を、高層ビルに住む富裕層、スラム街に住む貧困層、富裕層に利用される兵士やテロリスト、そして街の外のゾンビたちという関係の中で描いています。この映画はアメリカの繁栄の影に潜む、二極化の問題、アメリカと発展途上国の問題、アメリカとテロリズムの関係について鋭い問題提起をしています。途中で人間がゾンビを虐殺?するシーンがあるのですが、それは現実にアメリカがイラクで行ってきた無差別攻撃と重なるものがあります。ある意味、アメリカにとって、アメリカの利害や正義を邪魔する人間たちはゾンビのような存在にすぎないということを暗喩しているような気がして、別の意味で肌寒く感じるシーンでした。
またこの映画の冒頭、主人公の男性が「人間もゾンビもそう変わりない」ようなセリフを言うシーンがあり印象的です。知恵をつけ仲間を守るゾンビと欲望に支配、自分のことしか考えない人間、どちらが人間らしいのかよく分かりません。映画の途中で登場人物の一人がゾンビに噛まれ、自殺するか、ゾンビになるか選択を迫られ「ゾンビになるのも悪くない」というセリフをいうシーンがあります。とても印象的なセリフで、人間性とは何か考えてしまいました。この映画でロメロがあえてゾンビを人間に近づけたのは、人間らしさとは一体何かを問題提起するためだったのかもしれません。
彼によるとゾンビとはブルーカラー(工場労働者)階級の象徴だそうです。仕事もエリートによって作られたシステムのより多くが画一化されロボットのように働き、生活スタイルもマスコミや企業に踊らされ、自分らしさを見失い行き場を探す私たち。自分の欲望を満たすことばかり追求する私たち。ある意味、もうこの世界はゾンビに満ちているのかもしれません。
私はこの映画とても楽しかったですが、あっさり終わったのが少し残念。変にこけおどしな演出や音響は彼の映画らしくなくて、いらなかったなあ。あとテンポが良すぎて、ロメロらしいまったりした閉塞感が感じられなかったり、人間関係も、もっと描いてもよかったかなあと思います。やはり彼の最高傑作は「ゾンビ」ですね。(ゾンビは後日じっくり紹介します。)
この映画、とても奥深い内容を持ちつつ、気軽に?見られるゾンビ映画です。是非見てみてください。
公式サイト:http://www.lotd-movie.jp/top.html
製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ/カナダ/フランス
上映時間 93分 (DVD・ビデオは97分)
監督 ジョージ・A・ロメロ
製作総指揮 スティーヴ・バーネット 、デニス・E・ジョーンズ
脚本 ジョージ・A・ロメロ
音楽 ラインホルト・ハイル 、ジョニー・クリメック
出演 サイモン・ベイカー 、デニス・ホッパー 、アーシア・アルジェント 、ロバート・ジョイ 、ジョン・レグイザモ
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コメント
TB&コメント感謝であります。
自分も、コケ脅しは らしくないよロメさん…とは思いましたが、彼なりの「イマ風」な演出だと思えば微笑ましくもあります。(^^; 自分的には、このぐらいの予算規模、このぐらいのリキの入れ具合でいいので、2年に1本ぐらいゾンビ映画を作って欲しいですねえ。
「ゾンビ」の記事、楽しみにお待ちしております!今後ともよろしくお願いします!
投稿: ロジャー・デマルコ | 2005年12月29日 (木) 16時20分