この映画を見て!「フィッシャー・キング」
第15回「フィッシャー・キング」
見所:グランド・セントラル・ステーションでの美しい舞踏会とニューヨークを舞台にした贖罪と奇跡の物語!
ストーリー:「ニューヨークで過激なトークを売りにしたDJジャック。ある日、彼がラジオで発言したコメントで、無差別殺人が起きてしまう。これを機に成功の道を歩んでいた彼は失意と無気力に襲われ、惨めな生活を送ることになる。レンタルビデオ店を経営する女性と同棲して、アルコールに浸る毎日。そんなある日、町で暴漢に襲われそうになるところをホームレスの男に助けられる。ホームレスの名はパリー。彼は現代のニューヨークでキリストが使ったとされる聖杯を探す日々を送っている。ジャックはバリーがかつて大学教授でジャックが引き起こした無差別殺人で妻を殺されたショックから、奇妙な行動に走ったことを知る。ジャックは贖罪の意識から、彼の人生を立ち直らそうと試みる。ジャックのおかげでバリーは片思いしていた女性とデートをすることもでき、現実の世界で幸せを味わうことができるようになる。しかし、バリーの中にある妻が死に自分だけが生き残ったという罪悪感は、彼が幸せになることを許そうとしなかった。そしてバリーは暴漢に襲われ、意識不明の重体になってしまう。ジャックは彼の意識が戻ることを願い、聖杯があるとバリーが言っていた屋敷に忍び込む。現代ニューヨークを舞台に友情と愛、そして奇跡の物語が描かれる。」
この映画、ロマンティックであり、哀しくもあり、おかしくもあり、幻想的でありといろいろな要素が詰まっています。罪悪感にとらわれ、現実から逃避した主人公たちが、贖罪をして、人生をやり直していくまでを描いたこの映画。ストーリーだけを読むと、重い展開のように思いますが、笑える場面も多く、心温まる素敵な映画です。一度見ると何度でも見たくなるようなタイプの映画です。
まずストーリーがとても良くできています。贖罪という重いテーマを内包しながら、ファンタジックかつコミカルに話しを展開させていき、最後にはしっとりと泣かせる。ストーリーが良くできているので、監督の演出や役者の演技もより冴えています。何と言っても現代のニューヨークを舞台に、キリストの聖杯伝説を絡めるいう着想が面白いです。また映画の中で主人公たちが言うセリフがとても印象的で素敵なものが多いです。特に中盤の中華料理店でのデートとその後の告白シーンで交わされるセリフは聞いていてぐっと来ます。
次に監督の演出が上手い。この映画の監督はテリー・ギリアムという人で、代表作に「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」などがあり、最近は「ブラザーグリム」という映画を撮っています。この監督は昔から私のお気に入りで、彼の作品の中では「未来世紀ブラジル」が私の一番好きな作品です。この監督の持ち味はファンタジックでシュールな映像とシニカルで毒のあるストーリー展開です。「フィッシャー・キング」はこの監督の本来の持ち味から言うと、少し違うのですが、脚本の魅力を存分に引き出しています。まずバリーがニューヨークの町を中世のヨーロッパのように捉えるシーン。彼は他の映画でも中世の映像をよく撮っているので、この映画でも幻想的で魅力的なニューヨークの映像を撮っています。またあまり彼が撮らないロマンティックな場面もコミカルかつ愛おしく撮っています。恋って素晴らしいなと思う場面がしばしば見られます。特に映画の途中でバリーが心の中で想像するグランド・セントラル・ステーションで、駅にいる人たちが突然ワルツを踊り出すシーンのロマンティックさと美しいは格別です。またバリーの罪悪感の象徴として現れる炎を吹く赤い騎士がバリーを襲うシーンの迫力はすごいです。
そして役者の演技がレベルが高いです!妻を失い狂気に陥ったホームレスを演じるロビン・ウィリアムス。彼は、一見コミカルに見えるけど、実は深い悲しみの底にいる主人公を巧みに演じています。元コメディアンの彼は他の映画では演技に力が入りすぎたり、客を楽しまそうと演技過剰だったりしますが、この映画は彼のコメディアンとしての才能と役者としての才能の両方が上手くかみ合っています。またジャックを演じるジェフ・ブリッジスも失意のどん底にいて、無気力と絶望に陥っている主人公を上手に演じています。また主人公たちが愛する女性を演じたマーセデス・ルールとアマンダ・プラマーの演技も魅力的です。ジャックを愛し支えようとする意地っ張りだけど、意地らしい女性を演じるマーセデス・ルール。彼女は一見逞しく、でも実は繊細で寂しがり屋な女性を見事に演じてます。またバリーが愛する不器用ですこし世間からずれた女性を演じるアマンダ・プラマーも、内向的な女性をコミカルかつ繊細に演じています。
この映画、言葉に対する責任罪とどう向き合うか、哀しみとどう向き合うか、人間同士の信頼関係とは何か、愛とは何かと言うことが、コミカルかつハートフルに描かれています。競争社会といわれる今日この頃、他人を負かしてでも這い上がっていかないといけないような風潮があり、人間関係もクールな付き合いが増えています。しかしこの映画を見ると、ウエットに人と人がつながりあうことの大切さと愛おしさを再確認させられます。
是非、皆さんご覧ください。
製作年度 1991年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 137分
監督 テリー・ギリアム
脚本 リチャード・ラグラヴェネーズ
音楽 ジョージ・フェントン
出演 ロビン・ウィリアムズ 、ジェフ・ブリッジス 、マーセデス・ルール(アカデミー助演女優賞受賞) 、アマンダ・プラマー 、キャシー・ナジミー
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