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2005年12月

この映画を見て!「ポンヌフの恋人」

第17回「ポンヌフの恋人」
見所:ロマンティックで痛々しく、そして美しい。純度100パーセントのラブストーリー!

ポンヌフの恋人〈無修正版〉

ここ最近、純愛映画が流行しています。しかし、この映画ほど恋愛が持つエゴイズムの痛々しさ、哀しみを描いた作品はなかなかありません。私がこの映画を始めて見たのは高校の時でしたが、画面からほとばしる情熱に釘付けになったものです。それと同時に恋愛とエゴイズムの関係の生々しい描写にいろいろと考えさせらた作品でもありました。
ストーリー:「パリで最も古く美しい橋、ポンヌフ。そこの橋をねぐらにして、火を噴く大道芸人として生計を立てる天涯孤独の青年アレックス。失恋の痛手と失明の危機にさらされ、人生に絶望して、街をさまようミシェル。彼らは橋で出会い、恋に落ちる。孤独と絶望の底で出会った二人は激しい恋に身を焦がす。しかし、目の治療法が見つかり、ミシェルは突然姿を消す。絶望に陥るアレックス。ミシェルも目が治ったにも関わらず、心は虚ろなままだった。そんな二人は雪積もるポンヌフの橋の上で再会する」
 この映画、全体を通して重く暗い場面が多いのですが、それが主人公たちの鬱屈した精神を見事に表現しています。またそんな場面の中、はっとさせる印象的な場面がとても多いです。自分をふった恋人を銃で撃ち殺すミシェル、花火が上がるで橋の上で踊り狂う二人、海辺でのデート、地下鉄通路でミシェルを探すために両親が貼ったポスターを燃やすアレックス、そしてラスト雪が降り積もる中で再会する二人の姿。どのシーンも主人公たちの感情がほとばしり、見ている側にビンビン伝わってきます。音楽は全編を通してあまり流れてませんが、上手く既成曲を取り入れインパクトを残しています。特に花火のシーンでの曲の使い方は最高です。
 役者の演技も上手く、ドニ・ラヴァンは決してかっこいいという訳ではないのですが、インパクトがあります。(監督曰くドニ・ラヴァンは彼の分身だそうです)またジュリエット・ビノシュは体当たりの演技をしてます。この映画で見せるさまざまな彼女の表情はとても素敵です。
 北野武が「Dolls」という映画を撮った時に、「恋愛と暴力は似ている」という趣旨の発言をしておりますが、この映画をみるとその通りだなと思ってしまいます。恋愛ってある意味、エゴイズムとエゴイズムのぶつかり合いという面はありますよね。それがかみ合えば幸せであり、かみ合わなければ悲惨ですよね。この映画では恋愛におけるエゴイズムの問題が深く追求されています。孤独な二人がお互いの孤独を埋め合わせるために、共に過ごす場面は痛々しく、胸に迫るものがあります。恋愛とは相手のことを思いながらも、自己の欲求を相手との付き合いの中で満たすということが本質にあるということを、この映画は鋭く描いています。
 ちなみにこの映画、フランス映画でもかなり高額の予算をかけて、ポンヌフ橋を再現したセットを作り撮影をされており、完成までに何年もかかっています。制作していた会社が倒産したり、プロデューサーが交代したりと、制作はとても困難を極めたようです。DVDのメイキングにそこら辺の経緯は詳しく描かれています。興味のある方は是非見てください。ある意味、本編より面白いです。監督の強い思いに支えられて完成した力作の映画です。是非見てみてください。 映画のラストは全編重苦しいですが、重苦しさを吹き飛ばす、希望に満ちたシーンで終わります。ラスト生まれ変わった彼らを祝福してあげてください!

製作年度 1991年
製作国・地域 フランス
上映時間 125分
監督 レオス・カラックス 
製作総指揮 エルヴェ・トリュフォー 、アルベール・プレヴォスト 
脚本 レオス・カラックス 
音楽 ベンジャミン・ブリテン 
出演 ドニ・ラヴァン 、ジュリエット・ビノシュ 、クラウス=ミヒャエル・グリューバー 、ダニエル・ビュアン 、マリオン・スタレンス 

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この映画を見て!「グラン・ブルー」

第16回「グランブルー」
見所:きらめく青い海、透き通る美しい音楽、男たちのロマンあふれる物語

グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版

この映画、私が高校生の時にはまって何回も見たとっても大好きな映画です!この映画の魅力は語れば尽きることはありませんが、やはり透明感あふれる映像と音楽が一番の魅力です。この映画を見終わると心が洗われた気がします。
 この映画の監督は「レオン」や「フィフス・エレメント」で有名なリュック・ベッソン。ここ最近は制作ばかりに携わり、あまり映画を撮っていませんが、そろそろ新作を出してもらいたいものです。そしてこの映画の魅力を支える音楽はエリック・セラ。ベッソンの映画のほとんどを手がけています。
ストーリー:「小さいときに海で父を亡くしたジャックと彼の幼なじみのエンゾ。彼らは大人になりスキューバ用の道具を一切使わないフリーダイビングの選手権にすべてを賭ける生活を送っていた。二人は一番の親友でもあり、一番のライバルでもあった。どちらがより深く潜れるか競い合う日々。そんな中、ジャックに惹かれる女性ジョアンナが現れ、ジャックとジョアンナは付き合い始めるが・・・。海を愛する男たちの恋と友情のドラマ。」
 この映画はとにかく全編青の美しさに満ちています。透明感あふれる清々しい青、どこまでも深く神秘的な青と青の魅力あふれる映像が見ている人の心をうっとりとさせます。世界各地の海で撮影されたその映像の美しさは本当に格別です。また音楽がとても素晴らしく、映像の魅力をさらに引き立てています。シンセ主体の音楽なのですが、どこまでも透明で叙情とロマンに満ちあふれた音楽は聞いていて、癒されます!(この映画のサントラは名盤です!是非映画を見た方は買ってください!寝る前に聞くといいですよ!)
 役者たちもとても素晴らしく、特に主人公の親友でありライバルであるエンゾを演じるジャン・レノが最高です。負けず嫌いで、かっこよく頼れる兄貴といった感じが良く出ています。またジャックを演じるジャン=マルク・バールも海をこよなく愛し、社会を上手く渡り歩けない、純粋な心の持ち主を見事に演じています。
 ストーリー自体はとてもシンプルで、海を愛する男たちがフリーダイビングで競い合う姿を描くというものです。その中で、主人公ジャックの上手くいかない恋や海とイルカをこよなく愛する姿が描かれています。この主人公が人間社会から少しずれたところにいる人で、まるでイルカが人間の姿を借りて陸に上がってきたかのような人間です。人間でありながら、人間離れした彼の姿に、見ている人も何とも切なくもどかしい感じを受けると思います。映画の後半、ジャックに「恋を取るか、海を取るか」の選択を迫られる場面があるのですが、とても切ない場面です。
 ちなみにこの映画の主人公にはモデルとなったジャック・マイヨールという人がいます。ジャック・マイヨールは日本でダイビング中にイルカに出会ったことがきっかけで、海の魅力にはまり、フリーダイビングの世界に入っていきました。そして世界初の60メートルという記録を出し、その後、どんどん記録を伸ばし、100メートル近い記録を出していきました。その後フリーダイビングから遠ざかり、彼がこよなく愛するイルカについての本を執筆したりしてました。しかし2001年の12月23日に突然首つり自殺をして亡くなってしまいました。彼がなぜ自殺をしたかの原因は未だ不明だそうです。海とイルカを愛した彼がなぜ自殺をしたのか、もしかしたら、映画のように人間からイルカに生まれ変わりたかったのかもしれません。彼が死後、イルカに生まれ変われたことを願っています。
 私はこの映画を人魚の物語だと思ってみています。陸にあがったものの、やはり人間になりきれず、海に還っていく物語。そう思うと切ない物語ですねえ。
 是非皆さんもこの映画を見て心を洗ってください!

製作年度 1988年
製作国・地域 フランス/イタリア
上映時間 169分
監督 リュック・ベッソン 
脚本 リュック・ベッソン 、ロバート・ガーラント 
音楽 エリック・セラ 
出演 ロザンナ・アークエット 、ジャン=マルク・バール 、ジャン・レノ 、ポール・シェナー 、グリフィン・ダン 

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2005年劇場公開映画マイベスト5

 今年も残すところ後2日になりました。今年もたくさんの映画が公開されました。そこで私が特に印象に残った&満足した映画ベスト5を紹介したいと思います。

5位 「宇宙戦争」
宇宙戦争

賛否両論ありましたが、久しぶりに見応えのあるスピルバーグ作品でした。公開直前まで映画の内容について情報が流れてこなかったので、どのような作品になっているのか公開日まで自分の中で想像がふくらみ楽しみにしていました。映画自体は後半の展開がいまいちでしたが、前半から中盤までの宇宙人によって人間社会が破壊しつくされるシーンは迫力満点で楽しめました。また、終始、ごく一般的な家族の視点のみに絞って、人間社会が崩壊する様子が描かれたところが生々しいリアリティーを生み出していました。この映画は情報もなく突然の攻撃により混乱に陥ったアメリカ国内の様子をシュミレーションするような作りであり、911のテロを強く意識したものになっています。

4位 「TAKESHIS’」

TAKESHIS'

私のお気に入りの監督である北野武2年ぶりの新作であり、国内外を問わず賛否両論を巻き起こした「TAKESHIS’」。この作品は今までの武が作った映画の総決算であり、非常に私小説的な内容を持ったものでした。この作品を楽しめるかどうかは次の2点を押さえているかどうかです。1つ目は今までの彼の作品を見たことがあるかという点。2つ目はアーティストとしての「北野武」と芸人としての「ビートたけし」という人物をどれくらい知っているかという点。この2点を押さえている人が見ると、この作品はとても面白く傑作です。夢と現実が交錯する中で自分の生き方が問い直されていくというこの作品、私は大好きです。

3位 「ランド・オブ・ザ・デッド」

ランド・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット

ゾンビ映画の神様と呼ばれるジョージ・A・ロメロ監督が20年ぶりにとったゾンビ映画。物足りないところも多々ありましたが、久しぶりに劇場で上映されるロメロゾンビ映画に感激しました。さすが本家のゾンビ映画と思わせる設定や映像に、ここ最近量産されたゾンビ映画とは違う本家の意地を感じました。今までの作品が抱えていた絶望感や終末観をもっと出してほしかったですね。

2位 「ミリオンダラーベイビー」

ミリオンダラー・ベイビー

昨年のアカデミー賞で作品・監督・主演女優・助演男優と4部門で受賞したこの作品。クリントイースト・ウッドが監督と主演をかねていますが、円熟した演技と演出により、とても素晴らしい作品に仕上がっています。途中まではよくあるスポコンドラマみたいな展開ですが、後半の予想外の展開とラストは涙なしでは見られません。静かに抑えた口調で人生のままならなさ、人間の尊厳とは何かについて語られます。ラストの主人公の取った選択をどう捉えるか?見ている人たちに重い問題が提起されます。今年一番の人間ドラマです。

1位 「キング・コング」

kingkong 今年1番の映画はやはり「キング・コング」です。アクション・ホラー・パニック・ラブロマンス・コメディーとさまざまな要素の詰まったこの映画。この映画だけは大画面と大音響の環境で見ないと非常にもったいない映画です。 「ロード・オブ・ザ・リング」の監督が小さいときから憧れていた映画を自らの手でリメイクするということで、とても気合いが入ってます。ロード・オブ・ザ・リングの監督だけあって、映像的にはここまでやるかというくらい迫力のあるシーンの連続で驚くばかりです。ストーリーもキャラクターの心情を丁寧に描き込み、起伏に富んでいて、見ていて飽きません。映画を見たという満足感が得られる作品なので是非劇場で見てください!

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「キング・コング」2回目の鑑賞

kingkong 2回目の「キング・コング」の鑑賞に行ってきました。このブログでも以前キングコングについての紹介をしましたが、何回見ても私にとっては素晴らしい作品でした。
 2回目ということもあり、細部にわたってじっくりと鑑賞できました。映像的には何回見ても驚きの連続です。ここ最近の映画はCGの発達ということもあり、どんな映像表現も可能になっており、少々の映像では驚きませんが、この映画はCGの使い方や見せ方が上手いですね。映画のメイキングDVDが発売されおり、そちらも見たのですが、多くのシーンがニュージランドの町中(主にスタジオとスタジオ外の駐車場)で撮られていることを知り驚きました。セットも最小限で髑髏島もニューヨークもほとんどがミニチュアとCGで作り込まれています。実写との違和感のなさに技術の進歩を思いました。また役者に演技させたデータを使ったコングの表情はとてもCGとは思えません。ここら辺はロード・オブ・ザ・リングのゴラムで使った技術をより発展させていると思います。また遠近織り交ぜ、あらゆる角度からキャラクターを捉えるカメラワークはCG技術が発展したからこそできる芸当ですね。

 ストーリー的には、以前にも書いたように人間もコングも恐竜もどのキャラクターも愛情を込めて丁寧に描かれているのが伝わります。ただ丁寧に描かれすぎて話しの流れを悪くしているところもあるかなと思いました。この映画、3幕にわかれおり、1幕目の主人公たちの船旅、2幕目の髑髏島での冒険、3幕目のニューヨークでの悲劇という構成となっています。1幕目のシーンは主人公たちの心情が丁寧に描かれている反面、長すぎるかなと思います。2幕目は何も言うことありません。アンがコメディアン俳優という設定が見事活かされていて上手いなと思います。コングは思っている以上に人間臭く、そこがコングの怪獣としての魅力を減らしているような気もしますが、そこは評価の分かれるところでしょう。それにしてもコングは魅力的な男ですよね。ちょい不良で、照れ屋で、ケンカに強く、惚れた女を追いかける。一昔前の番長って感じですね。3幕目のニューヨークのシーンはジャックのアンに対する思いのシーンは不必要で、コングとヒロインとの関係にのみ絞っても良いかなとも個人的に思ったりしました。2幕目でコングとアンとの関係をあれだけ魅力的に描いていると、ジャックとアンとの今後の関係ってあまり興味わかないんですよね。あとラストの監督の言う「美女が野獣を殺した」というセリフは「おまえが連れてきたからだろう」と突っ込みを入れたくなりました。彼がいうセリフではないような気がします。(1933年の作品へのオマージュだとは知っていますが。)

 この作品、全米で2週連続1位を獲得しているものの興行的には現在のところ苦戦を強いられているようです。確かに今さらキング・コングなんてと思う人もいるとありますし、上映時間もこの手の映画としては3時間7分と長いのも不利かもしれません。私は時間の長さは全く感じませんでしたが、もう少し短くしたほうが、より多くの人を満足させることができたかなとも思います。ただ、この映画に対する監督の情熱や愛情の深さを知っているので、この映画をこれ以上尺を短くすることができなかったのもよく分かります。きっと本当はもっと長い作品にしたかったんだろうなとも思います。メイキングを見ると、本編に入っていないシーンが多く撮影されているようです。(きっと完全版DVDがでると思ってます。)だからここらへんの上映時間の判断というのはとても難しいものだと思います。
 今回もいろいろと書きましたが、この映画は本当に監督のキング・コングに対する意気込みと愛情が伝わってくる作品です。私は大好きな作品なので、この映画多くの人に見てもらいたいと思ってます。

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この映画を見て!「フィッシャー・キング」

第15回「フィッシャー・キング」
見所:グランド・セントラル・ステーションでの美しい舞踏会とニューヨークを舞台にした贖罪と奇跡の物語!

フィッシャー・キング

ストーリー:「ニューヨークで過激なトークを売りにしたDJジャック。ある日、彼がラジオで発言したコメントで、無差別殺人が起きてしまう。これを機に成功の道を歩んでいた彼は失意と無気力に襲われ、惨めな生活を送ることになる。レンタルビデオ店を経営する女性と同棲して、アルコールに浸る毎日。そんなある日、町で暴漢に襲われそうになるところをホームレスの男に助けられる。ホームレスの名はパリー。彼は現代のニューヨークでキリストが使ったとされる聖杯を探す日々を送っている。ジャックはバリーがかつて大学教授でジャックが引き起こした無差別殺人で妻を殺されたショックから、奇妙な行動に走ったことを知る。ジャックは贖罪の意識から、彼の人生を立ち直らそうと試みる。ジャックのおかげでバリーは片思いしていた女性とデートをすることもでき、現実の世界で幸せを味わうことができるようになる。しかし、バリーの中にある妻が死に自分だけが生き残ったという罪悪感は、彼が幸せになることを許そうとしなかった。そしてバリーは暴漢に襲われ、意識不明の重体になってしまう。ジャックは彼の意識が戻ることを願い、聖杯があるとバリーが言っていた屋敷に忍び込む。現代ニューヨークを舞台に友情と愛、そして奇跡の物語が描かれる。」
 この映画、ロマンティックであり、哀しくもあり、おかしくもあり、幻想的でありといろいろな要素が詰まっています。罪悪感にとらわれ、現実から逃避した主人公たちが、贖罪をして、人生をやり直していくまでを描いたこの映画。ストーリーだけを読むと、重い展開のように思いますが、笑える場面も多く、心温まる素敵な映画です。一度見ると何度でも見たくなるようなタイプの映画です。
 まずストーリーがとても良くできています。贖罪という重いテーマを内包しながら、ファンタジックかつコミカルに話しを展開させていき、最後にはしっとりと泣かせる。ストーリーが良くできているので、監督の演出や役者の演技もより冴えています。何と言っても現代のニューヨークを舞台に、キリストの聖杯伝説を絡めるいう着想が面白いです。また映画の中で主人公たちが言うセリフがとても印象的で素敵なものが多いです。特に中盤の中華料理店でのデートとその後の告白シーンで交わされるセリフは聞いていてぐっと来ます。
 次に監督の演出が上手い。この映画の監督はテリー・ギリアムという人で、代表作に「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」などがあり、最近は「ブラザーグリム」という映画を撮っています。この監督は昔から私のお気に入りで、彼の作品の中では「未来世紀ブラジル」が私の一番好きな作品です。この監督の持ち味はファンタジックでシュールな映像とシニカルで毒のあるストーリー展開です。「フィッシャー・キング」はこの監督の本来の持ち味から言うと、少し違うのですが、脚本の魅力を存分に引き出しています。まずバリーがニューヨークの町を中世のヨーロッパのように捉えるシーン。彼は他の映画でも中世の映像をよく撮っているので、この映画でも幻想的で魅力的なニューヨークの映像を撮っています。またあまり彼が撮らないロマンティックな場面もコミカルかつ愛おしく撮っています。恋って素晴らしいなと思う場面がしばしば見られます。特に映画の途中でバリーが心の中で想像するグランド・セントラル・ステーションで、駅にいる人たちが突然ワルツを踊り出すシーンのロマンティックさと美しいは格別です。またバリーの罪悪感の象徴として現れる炎を吹く赤い騎士がバリーを襲うシーンの迫力はすごいです。
 そして役者の演技がレベルが高いです!妻を失い狂気に陥ったホームレスを演じるロビン・ウィリアムス。彼は、一見コミカルに見えるけど、実は深い悲しみの底にいる主人公を巧みに演じています。元コメディアンの彼は他の映画では演技に力が入りすぎたり、客を楽しまそうと演技過剰だったりしますが、この映画は彼のコメディアンとしての才能と役者としての才能の両方が上手くかみ合っています。またジャックを演じるジェフ・ブリッジスも失意のどん底にいて、無気力と絶望に陥っている主人公を上手に演じています。また主人公たちが愛する女性を演じたマーセデス・ルールとアマンダ・プラマーの演技も魅力的です。ジャックを愛し支えようとする意地っ張りだけど、意地らしい女性を演じるマーセデス・ルール。彼女は一見逞しく、でも実は繊細で寂しがり屋な女性を見事に演じてます。またバリーが愛する不器用ですこし世間からずれた女性を演じるアマンダ・プラマーも、内向的な女性をコミカルかつ繊細に演じています。
 この映画、言葉に対する責任罪とどう向き合うか、哀しみとどう向き合うか、人間同士の信頼関係とは何か、愛とは何かと言うことが、コミカルかつハートフルに描かれています。競争社会といわれる今日この頃、他人を負かしてでも這い上がっていかないといけないような風潮があり、人間関係もクールな付き合いが増えています。しかしこの映画を見ると、ウエットに人と人がつながりあうことの大切さと愛おしさを再確認させられます。

是非、皆さんご覧ください。

製作年度 1991年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 137分
監督 テリー・ギリアム 
脚本 リチャード・ラグラヴェネーズ 
音楽 ジョージ・フェントン 
出演 ロビン・ウィリアムズ 、ジェフ・ブリッジス 、マーセデス・ルール(アカデミー助演女優賞受賞) 、アマンダ・プラマー 、キャシー・ナジミー 

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ヘッドライト・テールライト

地上の星/ヘッドライト・テールライト [Maxi]今日(2005年12月28日)NHKの人気番組「プロジェクトX」の最終回に中島みゆきが登場しました。番組の最後、生演奏の下、エンディングに流れる曲「ヘッドライト・テールライト」を披露したのですが、みゆきさんが歌う姿を見て感動しました。歌い方も丁寧で、優しく、後半になるにつれて、歌詞にのせた感情が高まっていく歌い方に胸が揺さぶられました。最後に手を振り、頭を深々と下げるみゆきさんの姿に、プロジェクトXと自分の歌を支えてくれた視聴者に対する畏敬と感謝の気持ちが伝わってきました。

そもそも、プロジェクトXの主題歌にみゆきさんが白羽の矢が立ったのは、「命の別名」という曲をプロジェクトXのプロデューサーが聴いたことがきっかけのようです。「命の別名」は「聖者の行進」という知的障害を持つ人たちが主人公のドラマの主題歌に使われた曲です。このドラマ自体は知的障害者への虐待という重いテーマを描き、世間でも賛否両論を巻き起こしました。ドラマの内容はさておき、「命の別名」という曲は傑作です。名もなき人たちの生きる苦闘と哀しみを歌い、命の別名は心だと叫ぶこの歌、みゆきさんの力強い歌声も相まって、聴いた後に重い歌詞にも関わらず、励ましと慰めを与えられる曲に仕上がっています。プロデューサーはプロジェクトXの企画・準備をしている段階から、「命の別名」の歌が頭に流れていたそうです。そしてプロデューサーは中島みゆきに曲を依頼するに当たって、次のような注文を受けたようです。「無名の人々の光を、歌にしてください」
みゆきさんはこのプロデューサーの言葉を下に「地上の星」「ヘッドライト・テールライト」という2つの名曲を世に放ちました。どちらの曲も、みゆきさんらしい詩的な喩えを使い、名もなき人たちに励ましのエールを送っています。行く先の見えない人生という旅。そんな人生という旅に自分の夢や信念を持って歩んでいく人たち。そんな人たちの時に挫けそうだが、諦めず何度でも立ち向かっていく姿に対する畏敬の念が伝わってきます。テレビや雑誌などに取り上げられる人だけがドラマチックな人生を歩んでいるわけでなく、この世に生まれてきた人間みんな、かけがえのない自分だけの人生を時に格闘し、時に涙しながらドラマチックに歩んでいます。そのことに気づかせてくれる歌詞です。だからこそ「地上の星」「ヘッドライトテールライト」の2曲はロングセラー&ミリオンセラーと、多くの人にも受け入れられた歌になったのでしょう。
 これからもみゆきさんには名もなき人たちへのエールや共感が込められた曲をかいてほしいなと思っています。

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この映画を見て!「ランド・オブ・ザ・デッド」

第14回 「ランド・オブ・ザ・デッド」
見所:久しぶりの正統派ゾンビ映画!現在の病めるアメリカの社会を揶揄した内容

ランド・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット

この映画はゾンビ映画の神様といわれているジョージ・A・ロメロ監督が20年ぶりに撮った新作のゾンビ映画です。この監督は60年代に「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」という低予算のゾンビ映画を作り、熱狂的なファンを多く生みました。ロメロはこの映画でゾンビの新たなる定義を生み出し、この後作られるゾンビ映画・ゾンビゲームに多大な影響を与えました。彼の作った定義は①頭を破壊したら死ぬ②ゾンビに噛まれたらゾンビになる③走らない、この3つです。彼はその後、70年代に「ゾンビ」、80年代に「死霊のえじき」という傑作ゾンビ映画を数々生み出しました。この監督のゾンビ映画の特徴として、徹底した人体破壊シーン、人間の内輪もめによる自滅、その当時の社会情勢への批判などがあります。どの作品も過激なスプラッターシーンがあります。特に「死霊のえじき」はすざましいの一言です。この背景にはベトナム戦争の影響も強いようです。またどの作品もゾンビによって人間が自滅するのでなく、人間同士が最後までお互いの欲望で足を引っ張り合い自滅していきます。結局、人間の敵は敵という結末です。そして、毎回その当時の社会情勢を反映したような設定やシナリオになっており、それが彼の作品の質を深めています。1作目はベトナム戦争・黒人解放運動。2作目は消費文明批判。3作目は軍事大国批判という風にアメリカの病める部分を毎回取り上げて、風刺や批判をしています。3作目から、しばらくゾンビ映画を作っていなかったのですが、満を持して、今年新作が劇場で公開されました。ここ最近、「バイオハザード」、「28日後」、「ドーン・オブ・ザ・デッド」とたくさんのゾンビ映画が公開されていましたが、どれももう一つといったものが多かったので、ついに真打ち登場といった感じでした。

 さて、20年ぶりの今回の作品。ロメロらしい作品と言えばロメロらしい作品ですし、今までのロメロが制作したゾンビ映画と違うと言えば違う作品でした。今までのゾンビ映画のような終末観や閉塞感は感じられず、ある意味、ポジティブで開放的な作品です。またゾンビもある程度、知能を持ち、道具も使え、集団で行動できるくらい進化しています。それはある意味、ゾンビと人間との境界線が近くなってきており、ゾンビ側にも感情移入できるようになっています。(ここが評価の分かれ目になると思います。)グロイシーンは多々ありますが、ホラー映画としての怖さはあまりなく、アクション中心で現在のアメリカ社会を風刺した作品に仕上がっています。

 ストーリー:「全世界がゾンビによって支配された時代。富裕層は川に囲まれた町にフェンスをはり、豊かな生活をおくっている。しかし、その裏で町の片隅に貧困層は追い込まれ、富裕層が雇った兵士たちが、ゾンビがうろつく外の世界から物資を町に届けている。しかし、ある時兵士の一部が武器を奪い、町のリーダーに金を要求する。それを阻止しようと、別の兵士を送り込み、テロを押さえ込もうとする。しかしゾンビが町に進入してパニックが起こる。」

 今回の作品は今まで一番政治的メッセージの強い作品であります。現在、アメリカで進んでいる富裕層と貧困層の2極化。アメリカの富裕層を守るためのアメリカ兵やアメリカに雇われた貧困国の兵士やテロリストたち。そして、アメリカという大国を維持するためにこき使われる発展途上の国の人々。この現在のアメリカの縮図を、高層ビルに住む富裕層、スラム街に住む貧困層、富裕層に利用される兵士やテロリスト、そして街の外のゾンビたちという関係の中で描いています。この映画はアメリカの繁栄の影に潜む、二極化の問題、アメリカと発展途上国の問題、アメリカとテロリズムの関係について鋭い問題提起をしています。途中で人間がゾンビを虐殺?するシーンがあるのですが、それは現実にアメリカがイラクで行ってきた無差別攻撃と重なるものがあります。ある意味、アメリカにとって、アメリカの利害や正義を邪魔する人間たちはゾンビのような存在にすぎないということを暗喩しているような気がして、別の意味で肌寒く感じるシーンでした。
 またこの映画の冒頭、主人公の男性が「人間もゾンビもそう変わりない」ようなセリフを言うシーンがあり印象的です。知恵をつけ仲間を守るゾンビと欲望に支配、自分のことしか考えない人間、どちらが人間らしいのかよく分かりません。映画の途中で登場人物の一人がゾンビに噛まれ、自殺するか、ゾンビになるか選択を迫られ「ゾンビになるのも悪くない」というセリフをいうシーンがあります。とても印象的なセリフで、人間性とは何か考えてしまいました。この映画でロメロがあえてゾンビを人間に近づけたのは、人間らしさとは一体何かを問題提起するためだったのかもしれません。
 彼によるとゾンビとはブルーカラー(工場労働者)階級の象徴だそうです。仕事もエリートによって作られたシステムのより多くが画一化されロボットのように働き、生活スタイルもマスコミや企業に踊らされ、自分らしさを見失い行き場を探す私たち。自分の欲望を満たすことばかり追求する私たち。ある意味、もうこの世界はゾンビに満ちているのかもしれません。

私はこの映画とても楽しかったですが、あっさり終わったのが少し残念。変にこけおどしな演出や音響は彼の映画らしくなくて、いらなかったなあ。あとテンポが良すぎて、ロメロらしいまったりした閉塞感が感じられなかったり、人間関係も、もっと描いてもよかったかなあと思います。やはり彼の最高傑作は「ゾンビ」ですね。(ゾンビは後日じっくり紹介します。)

この映画、とても奥深い内容を持ちつつ、気軽に?見られるゾンビ映画です。是非見てみてください。

公式サイト:http://www.lotd-movie.jp/top.html

製作年度 2005年
製作国・地域 アメリカ/カナダ/フランス
上映時間 93分 (DVD・ビデオは97分)
監督 ジョージ・A・ロメロ 
製作総指揮 スティーヴ・バーネット 、デニス・E・ジョーンズ 
脚本 ジョージ・A・ロメロ 
音楽 ラインホルト・ハイル 、ジョニー・クリメック 
出演 サイモン・ベイカー 、デニス・ホッパー 、アーシア・アルジェント 、ロバート・ジョイ 、ジョン・レグイザモ 

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『転生』 

転生中島みゆきのアルバム紹介No.1 『転生』 中島みゆき

 前回、お気に入りのアーティストとして紹介した中島みゆきの最新作アルバムを紹介したいと思います。今回のアルバムはデビュー30周年、通算33枚目に発表される作品ですが、とても完成度の高いアルバムになっています。このアルバムは全曲、彼女が「夜会」という舞台のために作った曲を、1曲1曲単体の作品として生まれ変わらせたものです。私の中では、このアルバム指折り5本に入る名アルバムだと思います。
 ここで少し夜会という舞台について説明します。夜会とは中島みゆきが1989年から東京のシアターコクーンで始めた無体です。言葉の実験劇場というコンセプトの下、歌詞という言葉の可能性について追求した舞台です。今まで発表したことのある曲、夜会のために書き下ろした曲などを様々なシチュエーションで歌う中で、言葉が観客にどのように受け止められるかを大切にしたこの舞台。中島みゆきが歌以外も、美術・ストーリー・演出も手がけています。私も何回か実際に見に行き、DVDで全作品見ていますが、とても刺激的で面白く感動的な作品です。ただその魅力を言葉でなかなか言えないのですが・・・。
夜会 VOL.13 24時着 0時発 今回のアルバム「転生」は昨年上演され、来年再演される「24時着、0時発」という夜会のために書き下ろされた曲を再構築して、発表しています。「24時着0時発」の夜会はとても完成度が高く、中島みゆきが夜会で今まで追求してきたことの総決算みたいな舞台でした。この夜会のテーマは今回のアルバムのタイトルでもある「転生」でした。帰るべき場所を見失った人間や鮭の苦悩を描きながら、生命の意志や輪廻転生、生きる可能性の無限性について語られていました。(DVDでも発売されているので興味のある方は是非見てください。)今までの夜会でも「生まれ変わる」ことが重要なメッセージとして取り上げられていましたが、今回の夜会はそのメッセージがダイレクトに伝わるものでした。「生まれ変わる」というメッセージは中島みゆきが今まで発表してきた歌でも、しばしば語られてきました。「時代」・「ファイト」・「誕生」などの曲は「生まれ変わる」ことの大切さを率直に語っていましたし、他の曲でも「生まれ変わりなさい」というメッセージが根底にある曲が多いです。そして今回のアルバムは全編「生まれ変わる」ことのメッセージに満ちたものです。
 このアルバムが伝えようとしているものを私なりに解説すると次のようなことです。「この世に生まれてきた多くの衆生(命)が、自分がなぜ生まれてきたのかその理由がわからないままに、懸命に生きている。生きていくこととは目的地のない旅人のようにこの世界をさまようようなもの。目的を見いだそうとしても、なかなか見いだせなかったり、夢を持って生きようとしても、夢はなかなか叶わず、さまよっている者たち。生きていくことの哀しみと儚さ。しかし限られた命の中にある無限の可能性、衆生の意志を超えたところにある生きる意志、そして果てしなく続く生命の連鎖の尊さについて歌い上げる。」
 このアルバムはある意味、宗教的な要素も多分に持ち合わせていますし、メッセージ性も強いです。しかし、どの曲も言葉が厳選されており、美しく、かつ力強い歌詞に聞き入ってしまいます。メロディーや歌い方も1曲1曲違うので、聴いていて面白いです。
 このアルバムが語ろうとしているメッセージはとても深淵で力づよいものです。聴き終わると魂が揺さぶられるような感覚になると思います。

 是非、みなさんに聴いてほしいアルバムです。

 「転生」

 http://www.yamahamusic.co.jp/nakajima/yccw10017.htm(視聴できます!)

1.遺失物預り所
2.帰れない者たちへ
3.線路の外の風景
4.メビウスの帯はねじれる
5.フォーチューン・クッキー
6.闇夜のテーブル

7.我が祖国は風の彼方
8.命のリレー(特にお薦め!)
9.ミラージュ・ホテル
10.サーモン・ダンス
11.無限・軌道

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久石譲の世界

 皆さんに質問です。サントリー緑茶「伊右衛門」、NHKスペシャル「人体」シリーズ、宮崎駿の映画、北野武の映画、これらに共通するものは何でしょう?
 答えは音楽を担当している作曲家がみんな同じだということです。その作曲家の名前は久石譲。この作曲家の名前は知らない人も多いと思いますが、日本人であれば多くの人が一度はどこかで彼の曲を聴いていると思います。彼の代表作は、多すぎてなかなか絞れません。もし挙げるとすると、宮崎駿がスタジオジブリで監督した作品の全ての音楽を彼が担当してします。「ナウシカ」から「ハウルの動く城」までの全ての曲を彼が手がけています。また北野武の映画や最近だと「男たちのYAMATO」なども手がけており、彼はおそらく日本で一番有名な映画作曲家の一人だと思います。
 そんな彼と私が出会ったのは小学校の理科の時間に見た「人体」というNHKのドキュメンタリーでした。このドキュメンタリー、当時としては画期的なCGを多用して、人体の内部を描き、とても面白く夢中になって見ていました。その時、私はバックに流れる曲のメロディーがとても美しく耳に残り、サントラを買ってもらい、家でよく聴いていました。そして、一体誰がこのような曲を書いたのだろうと気になり、調べたところ久石譲という人だということが分かり、彼のCDをその後ずっと買い集めていきました。(現在で70枚くらい彼のCDを所有してします。)
 彼の音楽の魅力を一言で言うと、シンプルでありながら力強く、美しいメロディーラインだと思います。1度聴くと、心に残る曲が多いです。特に宮崎駿の映画と久石譲の音楽は相性が良く、どの映画の曲もメロディーが印象的で、その曲を聴くだけで、映画のシーンが思い浮かぶほどです。彼の音楽なしの宮崎駿映画って想像ができません。
 また宮崎駿の映画作品以外も、彼は多くの映画やCMの曲を手がけて印象的なメロディーを残しています。CMでいうと、ここ最近だとサントリー緑茶「伊右衛門」、TOYOTAカローラの曲などが、特に印象的でした。また映画だと北野武作品での彼の音楽は宮崎作品とはまた違ったマイナーで美しい旋律の曲を残しています。(最近の作品では二人のコラボレーションはしてませんが)
 映画やCMの仕事以外も、長野パラリンピックの開会式の演出をしたり、映画監督として「カルテット」とという映画を制作したり、新日本フィルハーモニー交響楽団が結成した新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの音楽監督を務めたりしています。コンサートも毎年しており、オーケストラの時もあれば、アンサンブルの時もあり、魅力的なコンサートが多いです。私も何回かコンサートに行っていますが、聴いたことのある曲が多く、楽しみやすいです。ここ最近だと、チェロ奏者9人とピアノによるアンサンブルのコンサートa Wish to the Moon~Joe Hisaishi & 9 Cellos 2003 はとても良かったです。チェロの力強く繊細な響きが、久石メロディーを引き立ててました。(DVDにもなっているので、興味のある人は是非見てください。)また昨年大阪城西の丸公演で行われた野外コンサート「ワールドドリームオーケストラツアー」ファイナルもとても素晴らしいものでした。野外でそよ風の吹くなか、ビールを飲みながら、ラピュタやナウシカの曲を聴く時間は至福の時間でした。今年は行けなかったので、是非次回は行きたいものです。
 
 また彼はオリジナルアルバムもたくさん出しており、名盤が多いです。初期はシンセを多用してミニマム・ミュージックのアルバムを発表しており、今聴いても刺激的で面白い曲が多いです。(スタジオジブリの曲しか聴いたことのない人にはびっくりするほど前衛的で攻撃的な曲が多いです。)中期はボーカルものの作品を発表。(これは私はいまいちですが。)その後、紆余曲折の90年前半、さまざまな形式のアルバムを発表した後、ここ最近はオーケストラを中心にしたアルバムとピアノを中心にしたアンサンブル形式のアルバムを多く発表しています。特にピアノ中心のアルバム「ピアノストーリー」シリーズはメロディーも構成もいい曲が多いです。
 彼の曲は繊細でありながら力強く、シンプルなのに複雑で奥深く、攻撃的で優しい、相反するものが同居していて、聴いていて面白いです。

 是非、みなさんもテレビで彼の曲が流れるときは、じっくり耳を傾けて下さい。

 久石譲公式サイト:http://www.joehisaishi.com/home.html
 

 私の初心者にお薦めアルバムBEST5

5位 菊次郎の夏サウンドトラック:北野武監督映画のサウンドトラック。ピアノとストリングの構成で清々しく郷愁漂う曲で詰まっています。また一時期TOYOTAカローラのCMにも使われてました。

4位 天空の城タサウンドトラック:宮崎駿とのコラボレーションの音楽はどれも印象的なものが多いのですが、一つ挙げるならやはり「ラピュタ」。オープニングのオーケストラによる壮大な曲、主人公の少年が朝にトランペットで吹く曲、エンディングの「君をのせて」。どれも素敵な曲ばかりです。

3位 Piano Stories:全編ピアノソロのアルバム。もちろん演奏は久石譲。みんな知っている「ナウシカ」「トトロ」などの曲に加え、他の曲も印象的なメロディーばかり。

2位 Works2:フルオーケストラのアルバム。もののけ姫やHANABIなど映画で使用された曲を中心に構成。どれもオケの編曲が上手く、聞き入ってしまいます。ストリングスの使い方が巧みです。

1位 ENCORE:全編ピアノソロのアルバム。初心者の人はまずこのアルバムから聴いてほしいです。久石メロディーの真髄がここにあります。編曲も上手です。

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中島みゆきの世界

             中島みゆきライヴ!私が昔から好きなアーティストに中島みゆきがいます。中島みゆきの歌は多くの人がどこかで聴いたことあると思います。今年でデビュー30年になるのですが、コンスタントにヒット曲を出してきました。(70年代だと「わかれ歌」、80年代だと「悪女」、90年代だと「空と君との間に」、00年代だとNHKのプロジェクトX主題歌で使われた「地上の星」。)彼女の歌はCMやドラマの主題歌になることも多いです。ここ最近だと1月から始まる米倉涼子主演の連ドラ『松本清張 けものみち』の主題歌に彼女の歌「帰れない者たち」が起用されています。
 以前はテレビにもあまり出なかったのですが、最近は「サッポロビール」のCMや「プロジェクトX」最終回への出演と、テレビでも姿をよく見るようになりました。
 知名度ではかなり高い中島みゆきですが、しかし彼女の歌に対するイメージは「暗い」という印象を持つ人が今も多いと思います。私も知り合いに中島みゆきが好きだというと「暗いねえ」という返事が帰ってくることが多いです。
 そこで、今回は中島みゆきの歌の魅力について紹介したいと思います。

 私が彼女と出会ったのは小学5年生の時からでした。上級生の卒業式で彼女の「時代」という曲が歌われ、その歌詞を聴いたとき、その歌詞の内容にとても惹かれました。
 「時代」という曲は彼女の代表作であり、みなさんもよく知っていると思います。この歌の魅力はその歌詞の普遍性とスケールの大きさ、力強さにあります。どんなに挫折し傷ついても、果てしなく続く時間という存在が流れの中では、繰り返しおこることであり、だからこそ生まれ変わることもやり直すこともできるというメッセージをもつこの曲。彼女の人生観や世界観が濃縮された曲だと思います。
 「時代」という曲から彼女の歌を知った私は中学に入った頃から、意識して彼女のアルバムを集め始めます。それから今日に至るまで、彼女のアルバムが出るたびに買いそろえては中島みゆきワールドに浸っています。またコンサートや90年から彼女が言葉の実験劇場というコンセプトで始めた夜会にも何回か通っています。夜会は特に面白い舞台で、中島みゆきの魅力が詰まっています。ここ最近はとてもチケットの入手が困難なのですが、今年はゲットすることができたので、とても楽しみです。(夜会については後日また詳細に紹介したいと思っています。)
 私にとって彼女の歌の魅力は、歌詞とその歌い方にあります。
 彼女は何百曲という作品を作っていますが、様々なタイプの曲があります。失恋を扱ったもの、独り身の女性の生き方を扱ったもの、マイノリティの哀しみを扱ったもの、社会批判を扱ったもの、人間が生きることの意味を扱ったものなど幅広い内容の曲があります。暗い曲もありますが、コミカルな曲やスケールの大きな曲、癒される曲、生きることへの力強いメッセージに溢れた曲も数多くあります。
 彼女のつくる歌詞は私小説のようなもの、ストーリー性溢れるもの、神のような視点から人間の生き方を語っているものなどあり、その幅広さは魅力です。また日本語の選び方・使い方、ものごとの喩え方も巧みで、何を伝えようとしているのか聴きいる曲が多いです。普段使わない日本語が出てきて意味を考えたり、音声として聴いた言葉と歌詞カードで文字として見る言葉が違っており、意味の多重性があったりと、聴けば聴くほど味のある曲が多いです。

 彼女の80年前半までの曲は確かに暗い歌詞が多いのです。しかし、よく聴くと、とても励まされたり、慰められたりします。落ち込んでもうだめだと思った先に見える光というか、絶望をくぐり抜けたからこそつかめる希望というものを感じることができます。彼女の歌詞は失恋を通して、自己のエゴイズムや受けた傷と徹底的に向き合おうとする内容が多いです。向き合いたくない自分と向き合うからこそ、見えてくる自分の感情や姿を知ることで、逆に縛られていたものから解放され、先に進むことができるということでしょうか。
 
 彼女が作る多くの曲の根底には、名もなき弱い人間への励ましと許し、そして生きることの哀しみとかけがえのなさに満ちあふれています。悩んでいるときやしんどいときに彼女の曲を聴くと、いろいろあるけど生きていこうという気になります。彼女の歌の持つ包容力はとても大きいです。彼女の歌には仏教のおおらかさ、キリスト教のような愛と許しの力があります。

 今後も中島みゆきの魅力については随時紹介していきたいと思っています。お楽しみに。 

 私のお奨め中島みゆきの曲 ベスト10(本当は10以上ありますが・・・。)

10位 「糸」 :結婚式で歌える中島みゆきの曲です。最近、ミスチルの桜井さんもカバーしてます。)
9位 「瞬きもせず」:山田洋次監督「学校3」の主題歌。歌詞がとてもいいです!
8位 「空と君との間に」:安達祐実主演の「家なき子」主題歌。「君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる」というフレーズ。究極のラブソングだと思います。
7位 「地上の星」& 6位 「ヘッドライト・テールライト」:プロジェクトX主題歌のこの2曲名もなき人たちへの暖かい応援歌。
5位 「ファイト」:落ち込んだり、挫折したりしたときは是非、この曲を!
4位 「誕生」:生きていると出会いや哀しみもある。しかしそれもあなたが生まれてきたから経験できたこと。中島みゆきがあなたが生まれてきたことを祝福してくれます
3位 「わかれうた」:中島みゆきの代表作であり、失恋の歌ナンバー1
2位 「命のリレー」:人が生きることの意味をスケールの大きい歌詞で歌い上げます。
今年11月に放映された「女の一代記」主題歌

1位 「時代」:中島みゆきの全てが詰まった曲。時間の中を旅する人間への応援歌

☆中島みゆきお奨めベストアルバム「大吟醸」

中島みゆき

 このCDを聴くと、中島みゆきのさまざまな世界の一端を知ることができます。代表作・名曲ぞろいでお買い得です。

1.空と君のあいだに
2.悪女
3.あした
4.最後の女神
5.浅い眠り
6.ルージュ
7.誕生
8.時代
9.わかれうた
10.ひとり上手
11.慟哭
12.狼になりたい
13.旅人のうた
14.ファイト!

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私の愛する映画監督2「ジェームスキャメロン」

第2回「ジェームス・キャメロン」

 私が中学・高校時代に好きだった監督の一人にジェームス・キャメロンがいます。彼はターミネーターシリーズやタイタニックなど数々のヒット作を送り出して来ているの、知っている人も多いと思います。
 キャメロン映画の魅力を上げると、力強い女性たち・VFXを巧みに使った迫力ある映像・たたみかけるような展開と心を揺さぶる感動を併せもつシナリオ・見せ場の見せ方の上手さなどです。
 彼はB級映画の巨匠ロジャー・コーマンの下で美術や特殊効果などを担当しながら、現場で映画の作り方のノウハウを覚えた人であります。そのため、自分で映画を撮るときも、現場の統率をうまくこなして、自分の撮りたい映画を撮ってきた人です。デビュー作は「殺人魚フライングキラー」というB級作品ですが、彼の名を一躍有名にしたのは「ターミネーター」です。「ターミネーター」は低予算でありながら、タイムトラベルをうまく利用したシナリオ・低予算でありながら見せ方の工夫で、成功を収めました。その後は「エイリアン2」の監督に抜擢され、大ヒットをとばし、その後次々とSFXを利用した大作を作り上げていきます。
 彼の映画のおもしろさはまずSFXの使い方の巧みさがあります。どの映画もこれみよがしなSFXというより、まずシナリオがしっかり作られています。そのシナリオに基づいて、監督の中で作りたい画のイメージをしっかり持っているので、そのイメージをどう具体的映像として見せるか考え、うまくSFXを取り入れています。(最近の監督だとピーター・ジャクソンがSFXの使い方が巧みだなと思います。)
 次にストーリーテラーとしての巧みさがあると思います。どの映画もストーリー展開の仕方が上手で、話しの前半でしっかり観客に主人公への感情移入をしてもらい、後半のドラマティックかつ緊張感あふれる展開で観客が我を忘れて映画の中に入り込めるような作りになっています。「タイタニック」にしろ「エイリアン2」(完全版)にしろ、主人公の心情が丁寧に描き込まれているので、後半の盛り上がりに観客も盛り上がれるんですよね。
 あと力強い女性像も彼の映画の魅力ですよね。どの映画でも女性は男と対等に渡り合うたくましい存在として描かれています。彼の映画は一般社会における女性の立場の向上と進出という時代の変化を感じるとることができますよね。

 タイタニック以降、ドキュメンタリー映画など撮っていますが、娯楽映画をもう何年も撮っていません。次回作に日本のコミック「銃夢」を原作に「バトル・エンジェル・アリタ」 という作品を撮る予定だそうです。近未来の荒廃した都市を舞台に主人公のサイボークの女性が生きる意味を探し出すというストーリーだそうですが、どんな作品になるかいまから楽しみです。

私のお奨めジェームス・キャメロンBEST5

タイタニック

5位「タイタニック」

世界中で大ヒットした「タイタニック」。ジェームス・キャメロンの魅力が詰まった映画ですねえ。力強い女性・迫力に満ちた映像・たたみかけるようなストーリー展開と全編見所満載です。ただ個人的に、メインのストーリーであるラブストーリーより、バンドメンバーなど脇役の人のドラマやスペクタクルな映像に惹かれたものです。
 

エイリアン2 完全版

4位「エイリアン2」(完全版)

続編で成功した映画って少ないと思うのですが、この映画は見事な続編映画です。1作目と路線を変更したのが良かったのでしょうね。シナリオがとても良く、後半のこれでもかと続く緊張感あふれるストーリー展開は何度見ても手に汗握ります。特に完全版は主人公リプリーの心情が丹念に描き込まれているので、後半の主人公の行動の理由がより深く理解できると思います。それにしても最後の母性対母性の対決はすごいですねえ。男の出る幕はなしです。

ターミネーター〈特別編〉

3位・2位「ターミネーター1&2」

ターミネーターシリーズ(3作目は除く)はとても良くできたSFアクション映画です。タイムトラベルものとしては矛盾点もありますが、勢いと情熱にあふれた映画だと思います。1作目と2作目のつなげ方もうまく、見せ場も、その見せ方も迫力があり面白いですし、何よりストーリーが、面白く感動的ですよね。未来を変えようとする人間・ロボットたちの姿を見ると熱い思いになります。だからこそあの3作目は作るべき作品ではなかったと思ってます。

アビス<完全版> プレミアム・エディション

1位「アビス」(完全版)

この映画、あまりヒットしませんでしたが、私は1番お気に入りのキャメロン作品です。深海を舞台にしたSFパニック作品ですが、映像・ストーリー共に見応えがあります。特にストーリーはタイタニックよりも私はこの映画の方が感情を揺さぶられます。海底基地からの脱出、謎の生命体との遭遇というストーリーの中で、夫婦愛や反核・人類の平和などについて語られていきます。全編海底の中なので映像的にはとても息苦しいシーンが続きますが、後半の主人公である夫婦のやりとりは心を熱くするものがあります。

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この映画を見て!「シザーハンズ」

第14回「シザーハンズ」
見所:悲しく切ないストーリー、キッチュな映像、ジョニー・ディップの目

シザーハンズ〈特別編〉

前回紹介したギルバート・グレイプに引き続き、ジョニー・ディップの主演作の紹介です。この映画はクリスマスにぴったりの切ないラブストーリーです。監督がティム・バートンという人で、今年ジョニー・ディップ主演で「チャーリーとチョコレート工場」という映画を作っており、この映画も同じコンビで作られた映画です。
 ティム・バートンは私の好きな映画監督の一人であり、代表作に「バットマン」や「マーズ・アタック」「スリーピー・ホロウ」などがあります。この監督の持ち味は、B級SF、ホラー映画やおとぎ話の世界のような映像とマイノリティなキャラクターに焦点を当てた、ダークで切ないストーリーです。(最近の映画はそんな彼の持ち味が発揮されてませんが。)

この映画は監督の持ち味が最大限発揮された映画です。

ストーリー:「丘の上の発明家の屋敷に一人住んでいるエドワード。彼は発明家によって作られた人造人間。しかし、発明家はエドワードが完成する前に死んでしまい、彼の手は仮に付けられたハサミのままだった。丘の上で何年も暮らしていたが、ある日、ふもとの町の化粧品販売の女性によって、丘を降りて、町で暮らすことになる。彼は最初、好奇な目で見られるがハサミの手を利用して植木や散髪を行い、町の人気者になる。そして一人の女性に恋をしてしまう。しかし、彼は手がハサミであるが故に、彼女抱きしめることができない。そんな中、ある事件から彼は町の住人から嫌われ、恐れられる。そして、彼は町を追い出されることになる。」

 この映画、とても切なく、悲しく、残酷で美しいおとぎ話です。オープニングの20世紀フォックスのタイトルロゴから一気におとぎ話の世界に引き込まれます。まず主人公のエドワードが手がハサミの人造人間というところが面白いアイデアだなと思います。手がハサミであるという設定がこの映画のストーリーをとても面白いものにしています。またエドワードと彼が恋をするキムとの関係の描写も彼の手がハサミであるが故にロマンティックで切なく、見るものを引きつけます。
 ラブストーリーとしてもこの映画は素晴らしいのですが、それだけでなく人間への痛烈な風刺が込められています。主人公が純粋で美しい人造人間であればあるほど、周りの人間たちが最初は彼をちやほやし、持ち上げながら、途中から手の平を返したように冷たくあしらう姿は見ていてつらくなります。それは主人公がただ単にかわいそうだからつらくなるだけでなく、自分の中にもあるマジョリティ(多数派)のマイノリティ(少数派)に対する偽善性や差別意識を暴かれているような気がして見ていてつらくなります。(名作と呼ばれるおとぎ話にはどこか人間の本性を暴くようなメッセージが込められているものです。)

 映像的にも見所満載です。まずこの映画が、美術が秀逸です。丘の上の屋敷のゴシックホラー映画調の雰囲気でありながら、どこか人間的暖かみをもったユニークな構造の美術、それと対照的にカラフルで美しく整然としているけれど、どこか冷たく非人間的な感じのする町など、美術がこの映画のストーリーや雰囲気をうまく伝えています。またエドワードが氷で彫像を作るシーンなどロマンティックな映像も、見ていてうっとりとします。
 衣装やヘアスタイルもユニークで面白く、おとぎ話のような世界観をうまく表現しています。
 音楽もティムバートン監督映画には欠かせないダニーエルフマンが、幻想的で美しくもの悲しいスコアを聴かせてくれて、映画を盛り上げてくれます。
 そして、この映画を魅力的にしている最大の要因はジョニーディップの演技です。特に彼の目が最高です。彼の透き通った、どこか憂いを帯びた目を通して、エドワードの孤独やさびしさなどがじんじん伝わってきます。

 もうすぐクリスマスですが、是非皆さんこの哀しく美しいおとぎ話をご覧ください。

製作年度 1990年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 98分
監督 ティム・バートン 
製作総指揮 リチャード・ハシモト 
脚本 キャロライン・トンプソン 
音楽 ダニー・エルフマン 
出演 ジョニー・デップ 、ウィノナ・ライダー 、ダイアン・ウィースト 、アンソニー・マイケル・ホール 、キャシー・ベイカー 

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この映画を見て!「ギルバート・グレイプ」

第13回「ギルバート・グレイプ」
見所:ジョニー・ディップ、レオナルド・ディカプリオの演技と静謐で詩的な映像

ギルバート・グレイプ

この映画、私が高校の時に劇場でみて、とても印象に残った映画で、久しぶりにDVDで再見したのですが、改めて素晴らしい映画だと再確認しました。

ストーリー:「アメリカのエンドーラという小さな田舎町。その街で食料品店に勤めながら、家族と暮らす主人公のギルバート・グレイプ。彼は家族を守るために、自分の人生を捧げている。彼の父は家で自殺をして、母はそのショックで過食症になり、体重が250キロになり家に引きこもっている。弟アニーは知的障害をもち、まもなく18歳になろうとしている。ギルバートの生活は家族を支えることで精一杯の毎日だった。
 そんなある日、アメリカをトレーラーハウスで移動して暮らしている一団が街を通りがかり、そのトレーラーの1台が故障して、しばらく町の外れに滞在することになる。そのトレーラーに乗っていた女性ベッキーと出会うギルバート。彼は彼女の自由な生き方に憧れ、恋に落ちる。彼は始めて家族を守る自分以外の自分を見つけるが、家族から離れることもできず、悶々とした日を送る。しかし、彼の家族に大きな転機が訪れる。」

 ストーリーはとても地味ではありますが、とても心に深く響くものがあります。周囲の環境で自分の人生を思う通りに生きられない人にとって、この映画はとても共感できるものがあると思います。家族を守るために、自分の人生を捧げる主人公の姿は見ていて、とても切なくなります。こういう境遇の人は、たくさんいると思うのですが、私もかつてそういう生き方をしていたので、見ていて胸苦しくなる場面が多かったです。自分の人生あきらめているけど、どこかであきらめきれなかったり、家族を時にうっとうしくおもいながら、家族を愛しているが故に見捨てることもできない、揺れ動く気持ちを暖かな眼差しで捉えている映画です。(ここから少しネタバレです)だからこそ、この映画のラスト、主人公が新たな人生に向かっていくシーンはとても爽やかな心晴れる気持ちになりました。
 この映画の見所はジョニー・ディップ、レオナルド・ディカプリオの演技です。まず主人公のギルバートを演じるジョニー・ディップ。この映画の彼の演技は素敵です。、主人公の優しさが故の哀しみ、苛立ちがとても伝わってきます。また知的障害をもつアニーを演じたレオナルド・ディカプリオ。彼はこの映画で若くしてアカデミー賞の候補にもなったのですが、とても上手です。知的障害を持つ人の姿をナチュラルに演じています。おそらく彼の出演作の中で一番いい演技をしています。また他の出演者たちも素敵な演技をしています。特に250キロ体重がある母親役を演じた人は、かつて肥満を苦にして5年間外出恐怖症になった経験のある人だそうで、リアリティーのある演技をしています。
 映像もとても美しいです。主人公をとりまく自然の風景をとても美しく捉えています。少し離れたところから主人公たちの姿やドラマを捉えるシーンが多いのですが、それが優しく厳かな雰囲気を映画に与えています。

 家族愛と、家族を愛するが故の苦しみや哀しみ、そして生きる希望が伝わってくる素敵な映画です。是非、見てみてください。

製作年度 1993年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 117分
監督 ラッセ・ハルストレム 
製作総指揮 ラッセ・ハルストレム 、アラン・C・ブロンクィスト 
原作 ピーター・ヘッジズ 
脚本 ピーター・ヘッジズ 
音楽 アラン・パーカー 、ビョルン・イシュファルト 
出演 ジョニー・デップ 、ジュリエット・ルイス 、メアリー・スティーンバージェン 、レオナルド・ディカプリオ 、ダーレン・ケイツ 

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「ピーター・ジャクソン」私の愛する映画監督

第1回「ピーター・ジャクソン」
 ここ最近、私が特に次回作が楽しみな映画監督といえばピーター・ジャクソンです。(ここからはピーター・ジャクソンのことをPJと略して書きますね。)一昔前は「ブレインデッド」というホラー映画マニアの間で人気を博したゾンビ映画の監督して有名だったPJ。ここ最近は「ロード・オブ・ザ・リング3部作」、「キングコング」と超大作を監督して観客・批評家受けもよいメガヒットを連発しています。
 私がPJの映画と初めて出会ったのは「ロード・オブ・ザ・リング」でした。この映画はファンタジー小説のバイブルとも言われる「指輪物語」を元に作られた映画ですが、最初この映画を見たとき、指輪物語の世界観をここまで表現できるのかと舌をまいたものです。ファンタジー映画は大好きななので、今までもいろいろ見ていたのですが、この映画の出来の良さ、おもしろさは他の映画と比べものにならず、誰がこんな映画作ったのかと気になったものでした。(「ロード・オブ・ザ・リング」のすばらしさついては後日また紹介します)そしてピーター・ジャクソンという監督を知り、過去の作品を見ていきました。するとどれも傑作ばかり。特にホラー映画が昔から好きだった私には、彼の映画はどれも満足のいくものばかり。一気にお気に入りの監督になりました。
 私の中でPJの映画はどれも見終わった後の満足感がとても大きいです。彼の映画はどれも観客が期待しているもの以上のものを見せてくれるんですよね。ブレインデッドのラストやキングコングの髑髏島のシーン、ロード・オブ・ザ・リングの戦闘シーンなど演出的にここまでやるかという時があり、見ている人はその迫力に圧倒されるんですよね。VFXの使い方もこれ見よがしでなく、まずドラマがあってのVFXなので、客は映画に感情移入しやすいんでよね。時々、見ていて話しの進め方もべたなときもあるんですが、べたなことを小細工なしにストレートに見せてくれて、逆に感動したりするんですよね。また彼の映画は、見せ方に勢いがあるんですよね。だから少々の粗も見逃してしまうというか許してしまうというか・・。編集のリズムがいいというか、見せ方がうまいというか、勢いに押し切られて、観客も見入ってしまうんですよね。
 さらに彼の映画は見ていると、映画愛を感じるんですよね。「キングコング」も「ロード・オブ・ザ・リング」も「ブレインデッド」も、どの映画も彼の思いや情熱が画面からひしひしと伝わってくるんですよね。だから見ている人も、映画の世界に入り込みやすいとおもうんですよね。
 彼はニュージーランドで生まれ、小さいときから映画好きで8ミリカメラを持って、映画を撮っていた映画少年だったそうです。特にキング・コングがお気に入りで、自分でも模型を作り怪獣映画を撮っていたそうです。そして、友達と自主制作のホラー映画やF映画を作り、楽しんでいたようです。カメラの機材から小道具、特殊メイク、ミニチュア、撮影、編集と自分で何もかもこなしていたそうです。(その経験があるからこそ、大作映画を作るときでも細かいところまでスタッフに指示を出すことができ、自分のイメージする映画を作ることができたようです。)そして自主制作で撮った「バッドテイスト」というSF映画を劇場公開するとヒットして、本格的に映画監督の道に入っていったそうです。彼は小さいときから映画好きで、いま自分が撮りたいと思った映画を楽しんで作っているからこそ、見ている側も楽しいんでしょうね。

彼は今一番注目のヒットフィルムメーカーだと思います。

私のお奨めピーター・ジャクソン作品BEST5

バッド・テイスト

5位 バッドテイスト:彼の最初の作品。チープながらもキラリと光るセンスとグロさ。この映画が彼の出発点です。話しは地球人を食料として使おうとする宇宙人を秘密工作員がやっつけるというものです。何年もかけて自主制作で作った映画で、映像的には安ぽっさが漂うのですが、見せ方がとてもうまいので、最後まで楽しく見られます。カメラワークや編集、特殊効果など自主制作とは思えません。PJの演出のうまさが感じられる一品です。ただし、グロイのがダメな人は全く受け付けないと思います。全編悪趣味な映像のオンパレードです。

乙女の祈り4位 乙女の祈り:実話を元にした映画。感受性の強い思春期の女性2人が自分たちだけの想像の世界にのめり込み、自分たちの世界を壊そうとする母親を殺していまう。何とも後味の悪い映画でありますが、主人公たちが殺人を犯すまでの心理的過程をとても丁寧に捉えています。また2人が作り上げていく想像の世界をファンタジックに描く手腕はさすがPJ。

ブレインデッド

1位 ブレインデッド:これを超えるスプラッターはもうでないでしょう。マザコンの男がゾンビ化した母を守ろうとするが、どんどん裏目に出て周囲の人がゾンビ化していき、すざましいクライマックスを迎える。ラスト30分は笑うしかないくらいすごいです。とてもすごいスプラッターシーンの連続ですが、見終わった後はとても爽やかな気分になれる。そんな映画ってあまりないと思います。グロい映像も大丈夫という人は是非見てください。

king_kong位 キング・コング:彼の長年の思いが詰まった力作。この映画を見れば他の怪獣映画はもういらないでしょう。それくらいすごい怪獣映画です。監督の長年の思いと愛がつまった傑作です。3時間という超大作ですが、全編見所満載で、息つく暇がありません。とくにスカル島でのキング・コング対V-REXの死闘は凄いです。このシーンを見るだけ、1800円払う価値あります。

1位ロード・オブ・ザ・リング3部作:映画史に残るファンタジー大作。ストーリー・映像・音楽・役者、全て最高!あの長大な原作をよくここまでまとめあげたものです。あの世界観を映像で蘇らせただけで満点です。これから見る方は劇場未公開シーンを加えたぜひスペシャルエクステンデッド・エディションシリーズを見てください!

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!「キング・コング」(2005年版)この映画を見て!

第12回「キング・コング」

見所:最初から最後まで全て。映像・ストーリー・音楽・俳優(コングや恐竜も含めて)すべてが最高!

king_konng2  今年も終わりが近づいてきましたが、今年度最高に満足できる映画に出会いました。それは今日から公開の「キング・コング」。今年は「宇宙戦争」「スターウォーズ」「ハリーポッター」など注目の大作が次々と公開されました。どれもそれなりにおもしろく満足できる映画ではありますが、「キング・コング」はこれらの映画と比べものにならないほど内容も濃く面白く満足できる超大作です。ここ最近のハリウッドの大作映画というとお金もかけ、CGも多用して映像・音響ではインパクトがあっても、なんか物足りない映画が多かったのですが、この映画は違います。映像・音響のすごさはもちろんのこと、ストーリーやキャラクターがとてもすばらしいです.1800円払って映画館で見て絶対後悔しない映画です。

 今回の「キング・コング」は2度目のリメイクです。初めて制作されたのは1933年アメリカで制作され、大ヒットしました。当時としては革新的な映像の数々に多くの人が熱狂して、後の多くの映画人にもインパクトを与えました。そして1976年にも1度リメイクされています。1933年のバージョンを現代に置き換え、かなり内容をアレンジして作られ、それなりにヒットしたのですが、映画の評価としては1933年に作られたオリジナルの方が優れているという意見が多かったようです。そして2005年、映像・音響技術も進歩した今、1933年の「キング・コング」に忠実なリメイクが作られました。

 「キング・コング」の2度目のリメイクを制作・監督したのは「ロード・オブ・ザ・リング3部作」を監督したピーター・ジャクソン。私の大好きな映画監督で、今一番勢いのある監督だと思います。ピーター・ジャクソンはキング・コングは小さいときから1番好きな映画だったようで、ずっといつか自分の手で作りたいと思っていたようです。本当は「ロード・オブ・ザ・リング」の前にこの映画を撮る予定だったそうですが、企画が中止され、先に「ロード・オブ・ザ・リング」を制作したそうです。監督にとって思い入れの深い今回の「キング・コング」。スタッフはほとんど「ロード・オブ・ザ・リング」のスタッフであり、役者も演技派で固めています。ストーリーは1933年版に限りなく忠実で、その中身をよりパワーアップさせているという感じです。
ストーリー:「1933年不況下のニューヨーク。冒険映画で一山当てようとした映画監督が新人の女優をつれて、船で誰もいったことがない島を目指す。その島の名は髑髏島。島を見つけた映画スタッフはその島に降りる。その島は太古から生きている巨大で凶暴な生き物たちが生息しており、特にコングと呼ばれる巨大な獣は島の住人に畏れられていた。女優がコングにさらわれ、映画スタッフが救出に向かう。映画スタッフに次々と訪れる危機、いつの間にかコングと女優の間に生まれる恋愛感情。しかしコングが映画スタッフに捕らえられ、NYに連れてこられたとき、悲劇が訪れる。コングという獣が人間の女性に恋をしていく様子と人間のエゴイズムと残酷さを、壮大な冒険活劇の中で描く」

 この映画はどこをとっても見所満載です。まず監督の見せ方がとてもうまいです。さすが「ロード・オブ・ザ・リング」の監督だけあって、キングコングを始め、俳優や恐竜たちなどのキャラクターの描き方が丁寧かつ魅力たっぷりに描かれているので、見てて映画の中に感情移入してやすいです。また話しのメリハリのつけかた、大胆で繊細なカメラワーク、過剰なまでにサービス満点のアクションシーンの盛り上げ方など、どれも巧みです。3時間ある長い映画ですが、だれることなく気づけばもう終わってしまったと感じる映画です。

 映像・音響に関しても完璧です。終始驚きの映像の連続です。中盤の島での恐竜対人間、キングコング対恐竜の戦いのシーンは本当にすごいです。これでもかと言わんばかりの迫力ある映像に打ちのめされると思います。これだけインパクトのある映像はなかなかないです。(ターミネーター2の液体人間やジュラッシックパークの恐竜を初めて見たときくらいのインパクトです。)
 特に主役のキング・コングの動きや表情はまるで実在している生き物かのようにダイナミックかつ繊細な姿が描かれています。恋に落ちてからのコングの表情(目)の演技を見るだけで彼の思いがびしびし伝わってきて、後半の展開切なくなってきます。
 それ以外にも中盤に出てくる恐竜や虫たちの造形、1933年のNYの街並みの忠実な再現とNYでのコングの暴走シーンと見所満載です。

 また役者も「リング」のナオミ・ワッツ、「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディ、そして「スクール・オブ・ロック」のジャック・ブラックと芸達者なひとばかり。みんなこの映画の中のキャラクターを楽しそうに演じています。

 今年も「ハリーポッター」、「SAYURI」、「男たちの大和」などたくさんのお正月映画が封切られていますが「キング・コング」、今年度一押しの映画です。是非映画館で見てください!!

公式サイト:http://www.kk-movie.jp/top.html

製作年度 2005年
製作国・地域 ニュージーランド/アメリカ
上映時間 186分
監督 ピーター・ジャクソン 
脚本 ピーター・ジャクソン 、フラン・ウォルシュ 、フィリッパ・ボウエン 
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード 
出演 ナオミ・ワッツ 、ジャック・ブラック 、エイドリアン・ブロディ 、アンディ・サーキス 、ジェイミー・ベル 

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この映画を見て!「プリシラ」

第11回「プリシラ」

プリシラ

見所:ドラッグクィーンの生き様と華麗な衣装

この映画は私にとって、栄養ドリンクのような存在で、疲れたときや落ち込んだときによく見ています。この映画、3人のドラッグクィーン(女装のゲイ)がショーに参加するためにオーストラリアの広大な砂漠の中をバスで旅するというシンプルなお話です。

ドラッグクィーンって何?という人のために少し解説します。ドラッグクィーンとは華美な女装をした男性同性愛者のことです。期限は1700年頃までにさかのぼります。当時は西洋では女性が舞台に上がることが許されなかったために、男性が女性の役を演じていました。(日本の歌舞伎の女形みたいなものです。)そんな彼らが身につけていたドレスが裾の長いドレスだったそうです。そんな服を着る役者もDrags(引きずる)role(役)と呼ばれ、そこからDragと呼ばれるようになったそうです。そんな彼らが20世紀にはいるとフロアショーなどに出るようになり、1920年代のドイツでのパーティで今日知られている派手な服を着た人たちが現れ、1930年代のパリの夜の街に入り込んでいったそうです。1960年代からはミュージックシーンでも見られるようになったそうです。

ストーリー:「派手で華美な女装をして、アバやビレッジピープルなどの歌を口パクで歌うショーをしている3人のドラッグクィーン。彼らはオーストラリアの砂漠の中にあるリゾートホテルでのショーに参加するために中古バスを借りて、旅に出る。個性の強い3人は旅の途中で喧嘩をしたり、田舎町で偏見や差別にあったり、道中で出会った男性と恋に落ちたりと波乱万丈の珍道中。そんな笑いあり、涙ありのストーリーの中で浮かび上がる、ドラッグクィーンとして生きる苦悩やつらさ、そしてドラッグクィーンとしての夢や誇り。差別や偏見に傷つきながらも、めげることなく自分らしく生きていこうとする彼ら3人の姿を描く。」

この映画の見所は、衣装です。次から次に出てくる華麗で派手な衣装にみんな目を奪われると思います。(アカデミー賞衣装デザイン賞受賞)どこまでも広がる青空と砂漠と彼らの派手な衣装のコントラストはとても美しいです。

また映画の中で流れる曲は70年代のディスコクラッシックと呼ばれるような曲が多く選ばれており、どれも名ナンバーで素晴らしいです。映画の中で流れるこれらの曲を聴くだけで、元気になれます。
 

映画の中で流れる曲は以下の通りです。

1.愛はかげろうのように(シャーリーン)
2.ゴー・ウェスト(ヴィレッジ・ピープル)
3.ビリー・ドント・ビー・ア・ヒーロー(ペイパー・レイス)
4.マイ・ベイビー・ラウズ・ラヴィン(ホワイト・ブレインズ)
5.アイ・ラヴ・ザ・ナイトライフ(オリジナル・ヴァージョン)(アリシア・ブリッジズ)
6.キャント・ヘルプ・ラヴィン・ザット・マン(トラディ・リチャーズ)
7.恋のサヴァイヴァル(グロリア・ゲイナー)
8.ファイン・ロマンス(レナ・ホーン)
9.シェイク・ユア・グルーヴ・シング(オリジナル・ヴァージョン)(ビーチズ&ハーブ)
10.イフ・ザ・サン・ドント・シャイン(パティ・ペイジ)
11.ファイナリー(7″チョイス・ミックス)(シー・シー・ベニストン)
12.テイク・ア・レター・マリア(R.B.グリーヴス)
13.ママ・ミア(アバ)
14.セイヴ・ザ・ベスト・フォー・ラスト(ヴァネッサ・ウィリアムス)
15.アイ・ラヴ・ザ・ナイトライフ(リアル・ラビーノ 7″ミックス)(アリシア・ブリッジズ)
16.ゴー・ウェスト(オリジナル 12″ミックス)(ヴィレッジ・ピープル)
17.恋のサヴァイヴァル(1993フィル・ケルシー・クラシック 12″ミックス)(グロリア・ゲイナー)
18.シェイク・ユア・グルーヴ・シング(オリジナル 12″ミックス)(ビーチズ&ハーブ)
19.アイ・ラヴ・ザ・ナイトライフ(フィリップス・ダミアン・エクステンディッド・ヴォックス)(アリシア・ブリッジズ)

あと、この映画の主役3人を演じている俳優たちがとても魅力的です。 まず名優テレンス・スタンプ。60年代から活躍している俳優で「テレオマ」や「コレクター」などの作品が有名ですが、この映画では一番年長で、酸いも甘いも様々な人生体験をしてきたドラッグクィーンの生き様を貫禄ある演技で見せてくれます。続いてヒューゴ・ウィーヴィング。彼は最近「マトリックス」のスミス役や「ロード・オブ・ザ・リング」のエルフの王など大作映画に引っ張りだこですが、この映画では子持ちの父親であるドラッグクィーンの苦悩や葛藤をとてもうまく演じています。最後にガイ・ピアース。「メメント」などで有名ですが、この映画で夢と希望にあふれ、まだ人生を知らない若いドラッグクィーンを好演してます。

この映画、ドラッグクィーンの生き様を描く映画ということで、見るのを躊躇する人もいるかもしれませんが、主人公たちのめげないを見ると、とても元気がでます。是非、疲れたとき落ち込んだときに見てください!とてもハッピーな気持ちになりますよ。

製作年度 1994年
製作国・地域 オーストラリア
上映時間 103分
監督 ステファン・エリオット 
脚本 ステファン・エリオット 
音楽 ガイ・グロス 
出演 テレンス・スタンプ 、ヒューゴ・ウィーヴィング 、ガイ・ピアース 、ビル・ハンター 、サラ・チャドウィック

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この映画を見て!『マグノリア』

第10回『マグノリア』マグノリア<DTS EDITION>

見所:あっと驚くラスト!

この映画は私の特にお気に入りの映画の一つです。上映時間は187分とかなり長いのですが、流麗なカメラワーク・テンポのいい編集と出演者たちの濃厚な演技に目を奪われ、見始めるとあっという間に過ぎていきます。そして誰もが予想しないラストの展開。これにはきっとみんなびっくりしてしまうでしょう!

ストーリー:「ロサンゼルス郊外で生活する9人の男女。生活環境も違い、職業も違う彼らだが、一つだけ共通していることがある。それは人間関係の悩み。愛する者の死、親子の不和・軋轢など人間関係に伴う孤独や怒り・悲しみ・後悔を抱えながら日々の生活を送る彼ら。そんなある日、彼ら一人一人の人間関係の問題が一気に彼らの前に立ちはだかる。そんな彼らに訪れた信じられないような予想外の出来事。それは彼らの悩みを日常から押し流し、新たなる日常へと誘う。」

この映画は見終わった後、賛否両論分かれると思います。その理由はラストの予想外な展開です。このラストの展開はきっと予想できないと思います。しかし、ラストの展開への伏線はプロローグに挿入される本編とは一見無関係な3つのエピソードに込められています。だから最初のプロローグはしっかり見ておいてください。なぜ監督はラストをこのような展開にしたのか、そこをどう受け止めるかで、この映画の印象は変わります。

この映画のテーマは人間関係の修復と再構築です。この映画に出てくる人たちは人間関係で大きくつまずいている人たちです。親のこと、子供のこと、愛する人のこと、みんなどこかうまくいかず、いらいらして毎日を過ごしている。そんな登場人物たちのいらだちや不安をこの映画はたっぷりと描いています。そんな登場人物たちのいらだちや不安が最高潮に達したときに起こる信じられない出来事。それは社会(日常)でさまざまな人間と交わり、そして悩む者たちが、社会の外から訪れるふいの出来事によって癒されるという構図です。このような構図の背景にはキリスト教における人間と神の関係というものが背景にあるように思えます。具体的に言うと社会で生きる人間の悩みを世界に存在する神が癒すという構図です。この映画のラストの展開はただみんなを驚かせるためにこういう展開にしたのではなく、神の奇跡の前で人間同士が許しあう姿を描いているのだと思います。

ところでこの映画の見所はラストの展開だけではありません。まず出演者たちの演技にも注目です。特にトム・クルーズ。彼の出演する映画では彼の演技に注目するより、彼のスター性に注目がいきやすいのですが、この映画で彼の演技に注目するはずです。おそらく出演作で一番いい演技をしていると思います。(この映画でアカデミー賞にもノミネートされています)また他にも演技のうまい役者揃いなので見応え抜群です。次にバックに流れる挿入歌、これもとてもいいです。アメリカのアーティスト、エイミー・マンが作詞・作曲して歌っているのですが、とても映画にあっています。特に映画の途中で流れ、登場人物たちが歌う「WiseUp」という曲はとてもいいです。(この映画自体エイミーマンの歌詞をモチーフに作っていったそうです)

是非皆さん、冬の長い夜、この映画を見てみてください。ラスト笑顔がこぼれます。この世界は生きるに値することがあることを感じます。

公式サイト:http://www.herald.co.jp/official/magnolia/index.shtml

製作年度 1999年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 187分
監督 ポール・トーマス・アンダーソン 
脚本 ポール・トーマス・アンダーソン 
音楽 ジョン・ブライオン 
出演 ジェレミー・ブラックマン 、トム・クルーズ 、メリンダ・ディロン 、フィリップ・ベイカー・ホール 、フィリップ・シーモア・ホフマン 

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街を捨て書を読もう!「ソクラテスの弁明」

『ソクラテスの弁明』 作:プラトン 岩波文庫

最近、ギリシャの哲学者ソクラテスの「ソクラテスの弁明」という本を読んでいます。私とソクラテスとの出会いは長く、高校の時でした。林竹二という哲学者がソクラテスの「無知の知」について解説してある本を読んで、自分の無知を自覚することが人間の最大の知恵であるということが書いてあり、衝撃をうけました。たくさんの知識を得ることが賢いことだと思い続けていた私の人間観を見事にひっくり返してくれました。
 ソクラテスがいう無知とは「善」に関する知識であり、世俗的なものでなく自分が本当に満足できる何を求めているのかを人間は知らないと言うことです。世俗的な知識をいくらもっていても、それはただのもの知りにすぎず、本当の知者ではない。ソクラテスは多くの人間がドクサ(一般的通念)に縛られ、みんながいいと言うなら自分にとってもいいというふうに思いこみ生きることを、「善を見失って生きていること」として批判します。知るという行為は自分の知っていること、思いこんでいることを徹底的に吟味して、本当に生きていくために必要なものかを追い求める作業です。
 ソクラテスは生前、アテネの市民と問答をして、相手の善に関する無知を暴いていきます。その行為は多くのアテネ市民の反感を買い、告訴され、死刑になります。ソクラテスは裁判で無罪になることもできたのですが、自分の信念を主張し、貫き、自ら死刑を受け入れます。

「ソクラテスの弁明」はソクラテスが裁判で語ったことが弟子のプラトンによって記述されています。ソクラテスはこの裁判で自分の信念を明確に語っています。神により与えられた使命を貫く姿、告発した者たちに冷静かつ非妥協的に反論していく姿は、本当の知を持った人間の生き方というものを教えてくれます。そしてより善く生きるということの意味というものを読む者に問いかけてきます。

この本を私は読むたびに、自分の思い上がりを正し、自分を謙虚にかつ、自分らしく生きていこうという気になるんですね。知識をたくさん持っているということは生きるうえでの技術は多く持っているといえるかもしれませんが、所詮それだけのこと。自分が自分らしく生きるために本当に必要な知識を考え、自分の無知を知り、無知であるが故に自分を知ろうと絶えずしていこうという姿勢をこの本は教えてくれます。

ぜひ一度読んでみてください。

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