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「A.I.」この映画を見て!

ai 第5回「A.I.」

見所:ジャンクフェアー、水没したニューヨーク、何ともいえないラスト

最初に言っておくと、この映画は失敗作です。しかしこの映画は退屈だとか、面白くないとか言っている訳ではありません。むしろ見所の多い映画です。
この映画の監督はスティーブン・スピルバーグ。常に話題作を提供している監督ですが、この映画も公開当時話題にもなり、賛否両論分かれた映画でもありました。(興行的には日本では成功し、アメリカでは失敗しました。)
ちなみにこの映画は本来スピルバーグではなく、スタンリー・キューブリックという監督が撮る予定でした。キューブリックは映画ファンの間では有名な監督で、代表作に「2001年宇宙の旅」や「アイズ・ワイド・シャット」などがあります。キューブリックはテーマや映像にもこだわり、何年もかけて1本の映画を撮っていく監督で、AIは彼が20年くらい前から映画化を企画していました。しかし、彼が亡くなり、キューブリックと親交があったスピルバーグが監督することになりました。
キューブリックの映画はスピルバーグの映画とはだいぶ方向性が違います。キューブリックは美しくも冷めた映像で客観的に物語を進行していきます。スピルバーグはどちらかというと観客も映画の中に巻き込んで主観的に話を進めていきます。作風の違いがある中、スピルバーグがキューブリックの企画した映画をどう撮るか、私はスピルバーグもキューブリックも好きなので、この二人の監督がコラボレーションした「A.I.」を楽しみかつ心配したものです。脚本も途中までキューブリックが作っていたストーリーボードを参考に、スピルバーグが作ったのですが、二人の作風のちぐはぐさが悪い方向に出てしまってます。

『この映画のストーリーは三部に分かれています。第一部は地球のほとんどが温暖化により水没した未来。人口増加防止のために出産制限がかけられている中、ロボットが労働力として位置づけられている社会。ある夫婦の子どもが難病にかかり、意識が戻らないままとなってしまう。その夫婦にロボット会社から愛情をインプットされた子ども型のロボットが送られる。戸惑いながらもそのロボットを自分の子どものように扱う母親。子ども型ロボット「デイビット」はAIにインプットされた愛情からか、母親の関心を引こうとする。しかし意識不明だった子どもが意識を取り戻し、家に戻ってきたときから、デイビットにとっての不幸が始まる。子どもにロボットのように扱われ、母親も子どものほうに関心が向く中、デイビットは母親の関心を引こうとする。自分が人間でないから愛されないと思うデイビットはピノキオの本を読み、青い妖精に出会えば自分も人間になれるのではという希望を持つようになる。しかし、思わぬ事故から、デイビット家族に危険を及ぼすものとされ、森に捨てられてしまう。
第二部では捨てられたデイビットが、森の中をさまよう中、青い妖精を探そうとする。しかしいらなくなったロボットを破壊するショー「ジャンクフェアー」に巻き込まれ、危うく破壊されかける。しかし何とか逃げだし、仲良くなったセックスロボット「ジゴロ・ジョー」と共に青い妖精を探して、旅をする。そして水没したニューヨークに青い妖精がいるという情報を手に入れ、ニューヨークに行くが、そこでデイビットを迎えたものは・・・。
第三部は希望が絶望へと変わり、奇跡を待ち続けたデイビットに起こるほんのわずかな奇跡が訪れる姿が描かれます。』

この映画を最初に見たときは、救いのあるようで、実は救いのないラストに何とも後味の悪い映画だなと思ったものです。またSF映画としては未来設定のつめも甘く、世界観が伝わってこないので、つまりませんでした。

この映画の一番の不満は脚本です。主人公にも共感できるようで共感できかったり、スピルバーグのマザコンぶりが全開で、いまいちのりきれなかったり、スピルバーグのヒューマニズムとキューブリックのシニシズムとのせめぎ合いで話の展開もちぐはぐだったりと粗が目立ちます。

キューブリックはこの映画を愛情を持ったA.I.型ロボットという視点から、人間の存在とは、愛という感情とは何か?をクールな視点で問いかけようとしたのだと思うのですが、スピルバーグは母親に愛されない子どもの不幸話にまとめているんですよね。しかもラストシーン、映画前半が人間の冷たさを描きながら、突如人間を褒め称えるセリフが出てきたり、ナレーターが過剰に主人公の心情を語り興醒めになってしまうんですよね。

この映画はSF映画として見ると失敗作です。しかし未来を舞台にしたピノキオの映画としてみると、けっこう面白い作品です。主人公のロボットはピノキオそのものです。まあ映画の中にはピノキオへのオマージュに満ちています。もろピノキオのパクリみたいなところもありますが・・。

そしてこの映画が問うている人間とは何か、愛とは何かいう主題(上手く映画では伝えきれていませんが)は私たちに重い問いかけを残します。

最後にシナリオはいまいちですが演出においてはさすがスピルバーグ上手いです。音楽・カメラは美しいですし、見せ場もたくさんあります。また全体的には抑えた語り口ですが、第二部の「ジャンクフェア」はここだけ違う映画を見ているかのようです。人間がロボットを破壊して満足するというえげつないシーンですが、ロボットの破壊ショーを過激にスピルバーグは演出しており、子どもが見たらトラウマになるような映像です。このシーンは単なる破壊ショーというシーンを越えて、人間の中にある差別意識や残酷さを鋭く描いています。また水没したニューヨークのシーンはなかなかの見応えです。

製作年度 2001年
製作国・地域 アメリカ
上映時間 146分
監督 スティーヴン・スピルバーグ 
製作総指揮 ヤン・ハーラン 、ウォルター・F・パークス 
原作 ブライアン・オールディス 
脚本 イアン・ワトソン 、スティーヴン・スピルバーグ 
音楽 ジョン・ウィリアムズ 
出演 ハーレイ・ジョエル・オスメント(ロボット役ということで瞬きをあるシーンを除いてしてないです。) 、フランシス・オコナー 、ジュード・ロウ(この人の演技が一番面白かったです。) 、サム・ロバーズ 、ブレンダン・グリーソン 

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